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サムライ・エイジア  作者: 七陣
インターミッション4
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トゥルー・ストレングス♯1

 惑星ヤマトの衛星軌道上、ポイント56-0X3-22G-あ。ここにネオ・アマクニ社コロニーがある。

 イクサ・フレーム用ハンガー。外装を完全に排除した状態のイクサ・フレーム〈グランドエイジア〉があった。ユイ・コチョウは片手を上げ、勝手知ったる台所(ダイドコロ)めいてアマクニでも我が物顔に振る舞うジトー整備主任に呼びかけた。

 

「ジトー=サン、オーヴァーホールの進捗は?」

「外装つければ九割ってところだろう。新型エンジンは?」 

 

 ジトーの問いかけにコチョウは首を振った。


「結局間に合いそうにない。〈剛-47〉を上回るエンジンは出来なかった。インディーズメーカーの泣き所よな」

「まあ仕方ねえわさ。今ある花札(フダ)で喧嘩するしかねえよ」


 コチョウがジトーの持つ点検用タブレットをいじり、新たな〈グランドエイジア〉の完成図をホログラム投影してみせた。

 

「〈グランドエイジア〉ver.1.2……ver.2じゃないのはエンジンを換えてないからか、艦長(キャプテン)?」

「冷却効率を上げて関節を変えて……エネルギーバイパスも変えたから、試算パラメータでは出力も5%ほど向上したのだったか?」

「ああ。その代わり装甲値が4%、継戦時間が7%減った」

「そこらへんは良し悪しよ(のう)


 どこかを増やせばどこかが減る。物理法則に従うものである以上、完璧なイクサ・フレームなどないのだ。

 ましてや今回のオーヴァーホール並びにマイナーチェンジは急ピッチで進めたものだ。多少の無理は承知の上である。

 

「オヤッサン、キャプテン、こっちも出来ましたぜ」

「仕上がりは完璧だね、兄貴」

「二人共大儀(ゴクロウサマ)だ。あとでアメチャンをやろう」

「ヨシ! お前ら寝ていいぞ。あとシャワーくらい浴びろよ」

「「ハーイ」」


 疲れた声の整備助手、ジスケとヨサクにねぎらいの言葉をかけて、コチョウとジトーは彼らが来た方向へ向かった。

 

 1ダースのイクサ・フレーム用ロングカタナ。刀身の小乱れの波紋や鎬の柾目も新しいそのカタナは、大ぶりで肉厚、重量感のあるエンジュ工房製〈チカラマル〉だ。刀身と柄、そして透海鼠(スケルトンナマコ)鍔を未完成(バラ)で注文したため(そちらの方がやはり安い)、彼らはその組立を行なっていたのだ。勿論他にも助手として、殆ど不眠不休で働いていたのである。


 彼らだけではない。〈グランドエイジア〉とサスガ・ナガレの決戦のために、コチョウは実際ネオ・アマクニ社の全員に無理を強いていた。

 

「ナガレ=サンにそろそろ試乗させたいんだけどよ、アイツ、何やってンだ?」

「朝から晩までシミュレータ三昧よ。特別製のな。で、一億点の壁が乗り越えられないそうだ」

「精が出るねェ」

「生き延びるためにあれも必死なのだよ。我らもあれを生き延びさせることに必死なように」


 コチョウはそう言って自嘲に唇を歪めた。

 

「今更にして思う……若い者を戦争に加担させている。恥ずべきことだ(のう)

「それを自覚しておくのは悪いことじゃないだろう、艦長」


 ジトーが無煙電子タバコを吸いながら言った。


「それに、始めたのはアンタだが、選んだのはナガレ=サンだ。その選択は、今更変えられん」

「全くだよ、ジトー=サン」


 今更変わらぬし、変えられぬ。退くことも出来なかった。

 

 考えればナガレもコチョウも似たようなものだ。彼女が幼い頃、目の前で父が死んだ。

 多分その時、幼いコチョウは悟ったのだという気がする。自分はこの先、人並みの幸福とは無縁に生きるのだということを。


 ナガレの道も最早変えられぬし、退けぬ。彼の目近で友が死に、師が死んだ。その復讐のために何人もの人間が巻き込まれたし、命を落とした者もある。そして、実際に手にかけた命もある。


 復讐の対象が今や世界規模の大罪人であろうと、ナガレが殺人に手を染めたという事実は揺るがない。

 コチョウもまた、何人もの敵を直接的あるいは間接的に葬ってきたのだ。

 

 ただ、その選択と結果――因果(インガ)を、自分以外の何物にも委ねるつもりはなかった。


「人は運命の奴隷ではない。必ずしも、という但し書きがつくがな」


 笑いを含ませてコチョウが言った。


「ま、結局のところ何をしたいか、だな。アンタは闇の技術が世界に拡散するのを防ぎたい。ナガレ=サンは友達や師匠(センセイ)の仇を討ちたい。イノノベとかいうジジイをブッ倒すことで叶う願いだろう。違うか?」

「その通りだよ。何がしたくて何が出来るか、それを考え生きてきた。その結果として、ナガレもわたしもここにいるのだ。ジトー=サン、オヌシもだしジスケ=サンとヨサク=サンもだ」

「俺のやりたいことなんて機械いじりくらいだよ。アンタとツテがあって、人より面白い経験が出来そうだからついてきた。それだけさ」

「わたしも、人が見ることが出来ないものを色々見たよ」


 コチョウは言った。その結果、引き換えに色々なものを失ったが、後悔はしていなかった。今のところは。

 いつか失ったものを後悔し、涙を流す日が来るのかも知れない。だが、少なくとも今はそのときではあるまい。

 

 ナガレのことを考えた。彼は決して弱音を吐かない。サムライに限らず、ヤマト男子は頑なに弱さの吐露を恥とするところがある。コチョウが思うに、ヤマト男子は――いや、多くの人々は――そのあたりを履き違えている。それは強さとは別のものだ。弱さを隠しただけでは、克服したとは言えない。

 そして弱さと向かい合い、それを克服しなければ、真の強さは手に入れられない。

 勿論口で言うほど容易いことでは決してあり得ない。弱さを隠すことを選ぶ方がずっと容易かろう。

 

 コチョウは決断した。

 

「ナガレの顔を見に行く」

インターミッションはまだ続くんだ

悔しいけど仕方ないんだ

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