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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第8話「ラプソディ・イン・カウヴェ・シティ」
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15 朱色の雨

〈レヴェラー〉の周囲を飛び回る〈ヴァーミリオン・レイン〉は、付かず離れずの機動を繰り返している。攻めると見せかけて引き、引くと見せかけて攻める。ただ、対空火砲が激しい!


「やっぱり近づけない、ユキ=クン!」

『ていうか何でタネガシマを持っていかなかった、ヨシノ!』

「だってすぐ決着がつくと思ってたからー!」

『そういうところだからな!』


 ヨシノは離れた場所で待機しているサナダ・ユキヒロと言い交わす。

 

〈ヴァーミリオン・レイン〉は短期決戦型イクサ・フレームである。その最大出力はあらゆる騎種の中でも最大級だ。その分、継戦能力という点ではどうしても他に譲らざるを得ない。

 イクサ・フレーム戦ならば、それでもヨシノならば鼻歌交じりで十分クリア出来るミッションであろう。しかし50騎近いイクサ・フレームを屠ってきたヨシノも、対艦戦は未経験だった。しかも、単騎!

 

「てゆーか! このれ……れ?」

『〈レヴェラー〉』

「そうそれ! イクサ・フレームだって聞いてたのにこんなの聞いてない!」

『まあ、それはね』 

「カーレン=サンは先行して叩いて来いって言ったけどー! 無理ありすぎよねー!」

『……その割には楽しそうだな!』 


 ムベナルカナ! 実際ヨシノは楽しい。この半年、イクサのチャンスに恵まれなかったのだ。強敵に巡り合えば胸は高鳴るのは、普遍的サムライ本能である。なかんずく、若手最強のドライバーと呼び声高いヨシノにとっては。

 

 接近チャンス! 円弧軌道を意識しながら、すれ違いざまに対空機銃群へ〈ヴァーミリオン・レイン〉もまた機銃を薙ぐように撃ち込んだ。BRATATATTATAT! 既にいくらかダメージを受けていた機銃群のいくつかから火の手が上がり爆発四散! 〈ヴァーミリオン・レイン〉は離脱する。

 

「わー、焼け石に水って感じー?」


 ヨシノの口調こそ軽いが、状況は芳しくなかった。いくつか破壊しても針鼠めいた機銃は、ちっとも勢いが衰えが見えないのだ。ヨシノをユキヒロが戒めた。


『逸るなよヨシノ。お前の悪い癖だ。焦らず少しずつ削っていけ。そうすれば』

「うんわかってる!」


 ヨシノはユキヒロの言葉を遮った。ドライバーでないユキヒロのアドヴァイスが鬱陶しくなることは、しばしばある。しかし、彼の言葉通りに従って生き延びたことも少なくないのだ。


 二人共、援軍は当てにしなかった。同盟を組んでいる電子海賊〈フェニックス〉のドライバーが基地内で活動に勤しんでいるらしいが、そちらがどうなっているかは連絡もない。だからいないものと見なしていた。


 ヨシノは何度もヒット&アウェイを繰り返す。

 

(イヤ)ァーッ!」

 

 カタナを揮う! 〈レヴェラー〉機銃破壊! 即離脱! BRATATATAT! 銃弾が掠めてゆく! 回避!

 

(イヤ)ァーッ!」

 

 十字槍で刺す! 〈レヴェラー〉機銃破壊! 即離脱! BRATATATAT! 銃弾が掠めてゆく! 回避!

 

(イヤ)ァーッ!」

 

 機銃発射! 〈レヴェラー〉機銃破壊! 即離脱! BRATATATAT! 銃弾が掠めてゆく! 回避!


「!」


 ヨシノのニューロンを電流めいた予感が奔った。正面から太い柱めいたものが揮われた。それは〈レヴェラー〉の腕だ! ビュウン! 慌てて下降機動に移った〈ヴァーミリオン・レイン〉の頭上を、重質量物体が通り過ぎてゆく。間一髪ビトウィン・ア・ヘアー

 

『アブナイ! 気をつけろヨシノ!』

「アアッ! 今のチャンスで腕斬れた!」


 ユキヒロの叱咤をヨシノは聞き流した。〈レヴェラー〉の腕部は長距離砲の砲身であるだけでなく、無数の機銃が生え出ていた。

 

「腕を斬ればでっかい胴体に近づける。胴体に近づければ……」

『まだだ。〈エーテル・カタナ〉は温存しろ』


 それこそわかっていることだとヨシノは思った。〈エーテル・カタナ〉は強力無比なる必殺技。だからこそ容易には撃てない。

 また、〈ヴァーミリオン・レイン〉は付かず離れずの距離を保った。

 

 その時、(BLAM)! (BLAM)! (BLAM)! 〈レヴェラー〉の機銃が次々と破壊されてゆく。

 

「……ユキ=クン?」

『基地側だ』


 カメラが望遠モードで基地の方を拡大する。基地はその障壁を〈レヴェラー〉の砲撃によって破壊され、内部が半ば露出した状態にある。

 その中から、二騎のイクサ・フレームが膝射姿勢で援護射撃を行なっていた。一騎は〈エイマスMk-Ⅱ〉。もう一騎は黒鋼のイクサ・フレーム――〈グランドエイジア〉という名前だったはずだ。(BLAM)! (BLAM)! (BLAM)


『この距離からの狙撃だって……?』


 ユキヒロは困惑を口調に表した。〈レヴェラー〉のいる海上から岸まで、相当な距離がある。肉眼では米粒ほどにも姿を視認できないだろう。そんな距離だ。しかも二騎の得物はスナイパー仕様ですらないタネガシマライフルである。それが、着実に機銃群に着弾させ、着々と破壊していた。(BLAM)! (BLAM)! (BLAM)


× × × ×


 その騎体は、とナガレはコチョウへ訊いた。

 

「〈レヴェラー〉を倒せるのか?」

『倒せる。攻撃が届けば、だが』

「じゃあ話は早い」

 

 まずナガレは抱えていたままの〈ガリンペイロ〉胴体を投げ出し、ヨモギと共に格納庫庫に散らばる銃器を集めた。

 

「狙撃用の器具はないが……ま、シャー・ナッシング!」


 認証強制変更済みタネガシマライフルを手にした〈グランドエイジア〉は膝射姿勢を取り、銃口を海上の〈レヴェラー〉に向けた。

「〈フェニックス〉の方で補正頼む」

『了解した。それにしてもオヌシ、悪知恵が働くようになった(のう)

「ジュスガハラの経験が生きたってことだな」


 ジャミングブリザードが吹き荒れる狙撃戦は、ナガレのイクサにとって有益なものとなった。


『なァ、ナガレ=サン、本当に当たるのか……? アタシ、狙撃なんてやったことねーぞ?』

「俺より〈グランドエイジア〉を信じてくれよ」


 不安そうなヨモギをなだめる。ヨモギの乗る〈エイマスMk-Ⅱ〉には〈グランドエイジア〉の狙撃演算が〈フェニックス〉経由で送られているはずだ(〈グランドエイジア〉の電脳はまだ大分オネムなようだが、〈フェニックス〉の処理能力を用いることでどうにか使い物にはなるようだった)。


〈レヴェラー〉の機銃を潰すのに、〈ヴァーミリオン・レイン〉は大分手間取っていた。どうもタネガシマを持っていないらしい。それなら、こちらで機銃を潰してやろう。それがナガレの案だった。部外者であるコージローは既に口を挟むことを諦めている。


『やるっきゃないんだろ、やるよ!』

「その意気だ、ヨシ!」


 共に膝射姿勢を取った二騎がトリガーを引き、タネガシマライフルの銃口から重金属弾がゆるゆると螺旋を描いて放たれた。(BLAM)! 吸い込まれるように〈レヴェラー〉機銃へ着弾、破壊! 火の手が上がる!


『マジで当たった……!』

『どういう処理能力してるんだ……!?』


 ヨモギとコージローが驚愕に言葉をなくす。ナガレが叱咤するように声を上げた。

 

「一発当たっただけだ。次々と撃っていけ!」

 

 

 × × × × × ×

 

 (BLAM)! (BLAM)! (BLAM)! 打ち砕かれてゆく〈レヴェラー〉の機銃! 火の手が次々と上がり、黒々とした煙が〈レヴェラー〉を包んでゆくように見えた。(BLAM)! (BLAM) (BLAM)! 機銃が数を減らす。必然、途切れる弾幕。

 

 その好機を、ヨシノは見逃さない。対空砲火の切れ目――思わず莞爾(ニッコリ)

 

「行っちゃいますよぉーーーーーッ!!」

 

〈ヴァーミリオン・レイン〉のスラスターが最大出力! 突っ込む! ねじ込む! ねじ入れる! 甲板上! まだ機銃が残る!


(イヤ)ァーッ!」


 ダッシュ! 斬! 斬! 斬! 斬って斬って斬りまくる! ダッシュは止まらぬ! 目指すは艦橋たる胴体!

 

「〈エーテル・カタナ〉! 起動!」

 

 十字槍を肩部装甲にマウントし、カタナを両手持ち、そして柄の延長ギミックを作動。柄尻からケーブルが伸び、それを右肘部コネクタに接続。

 鍔と連動してカタナの刀身が、ドラゴンの(アギト)めいて割れる。その割れた刀身の間に朱色の光が灯り、刀身を包む。朱色の光の刀身、その長さは本来の刀身の倍近くにまで至っていた。これぞ、〈ヴァーミリオン・レイン〉の必殺武器〈エーテル・カタナ〉!

 

「――勢彌(セイヤ)ァーーーーーッ!!」

 

 それを真っ向から振り下ろす。光の太刀は朱色の残光を濃厚に散らしながら、豆腐でも斬るような容易さで艦橋を斬断した。


 ヨシノは光の太刀を縦横無尽に揮う。〈レヴェラー〉がバラバラになり沈んでゆくのと、カタナの光が消え失せるのはほぼ同時。

 

 雨が降った。朱色の、光の雨だった。このイクサ・フレームを開発した者ですら何故起こるのかわからぬまま世を去ったというこの現象は、その名の由来だった。その中を掻い潜って〈ヴァーミリオン・レイン〉が飛翔した。〈レヴェラー〉は壮絶に爆発四散した。

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