物語は唐突に進む第四話
三人で協会に行ってみると思っていたよりも人はいなかった。相変わらずイヴちゃんは自分の手を握ったまま。中に入ると強制的に手が離れ、視界が切り替わる。自分は思わず辺りをキョロキョロ見渡して突然なくなった手の温もりを見つめながら呆然としてしまった。
「どうかされましか」
心配そうな男性の声が隣から聞こえた。隣を見ると思った以上に近くに造形が整った男性がやはり心配そうに自分を見下ろしていた。自分はまじまじとこちらを見ている男性にほんの少し警戒して一歩離れようと。離れようと……。
付いてくる。一歩離れたら一歩迫ってきて。二歩離れたら二歩迫ってくる。なんだこいつは。
「どうか、されましたか?」
ニッコリと笑ってにじり寄ってくる。くっ、コイツ。やりおる。しかし、自分は顔を逸らして中へと進む。こんな手にはのるものか。受付の人に近寄って、登録したい旨を伝えると隣と自分の顔を交互に見ながら困惑したような表情を見せた。自分は受付カウンターに身を乗り出して、ワガママな子供に言い聞かせるように受付嬢に言葉を伝えた。
「登録、したいんですけど。聞こえてます?」
「は、はい。承りました……」
ソッと顔を逸らしながら受付嬢は請け負ってくれた。自分はそのままカウンターに乗り出したままの状態を維持する。隣や後ろは見ない。見ないし、反応しないし、答えない。
「お待たせしました」
受付嬢が不安げな表情で自分の目の前にトレーを置いた。トレーの中には小さな金属版が置かれている。自分は手を伸ばして金属板を取ろうとすると一瞬で消えてしまった。思わずその場に固まってしまったがすぐに再起動して受付嬢を見る。
「左手首をご覧ください」
言われた通り、左手首に視線を移すと先程までトレーに置かれていた金属板が左手首に埋め込まれていた。人の体にこんな健康に悪そうなものを取り付けるなんて。そう思ったが、ゲームをしている時点で体に悪いこと間違いなしなので気にしいないことにする。
きちんと協会に所属できたのであればここに用事などない。
受付嬢に一言お礼を告げてさっさと建物の中から出て行く。視界に変な人物がいたり、何かブンブンと周りはうるさいが気のせいに違いない。きっとそうに違いない、と思い込み周りの音はシャットアウト。
外の景色は先程と変わりない。
しかし、周りを見渡して見るものの、どこにもイヴちゃんとヴィンジーさんの姿はどこにもなかった。そのうち来るだろう、と思って近くのベンチみたいなものに座る。目の前は噴水と近くには花壇があって色とりどりの花。この街の住人と思わしき人たちがちらほらと 視界に入る。
空を見上げてみる真っ青な晴天が紫と黒で揺れていた。光が反射するような幻想的な色。視界の端には崖の上が見えた。
『お待たせしました』
ぽん、と目の前に文字が表示される。視界を下に下げ るが、目の前には居ない。隣を見るとにっこりと笑ったイヴちゃんが居た。自分は首を傾げて待ってないことを伝える。
『なら良かったです』
ホッと息を吐き出したような仕草をしながらイヴちゃんは ベンチの背もたれにもたれかけた。
その時だった。
【パーティーメッセージ】
ヴィンジーが※※※エリアへ転移しました。
パーティーメンバーも移動します。
『え?』
「え?」
文字と声が被さって目の前にはカウントダウンと書かれた数字が段々と小さくなって。0になった瞬間ちょっとした浮遊感と視界がぐにゃりと曲がって混ざって。
次に視界に入ってきたのは、オロオロしたヴィンジーさんと、不気味な木が笑って左右に揺れている不思議な光景だった。