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茜の覚悟

 第三十八話


「ふぅ、お腹いっぱぁーい! これから大迷宮行くの?」

「あぁそのつもりだ」


 セリスが朝ご飯を食べ終わりこれからのことを話していると茜さんが机をバンッ!と叩き立ち上がった。その顔は青ざめている。


「うそ、でしょ?」

「どうしたんだ?」

「大迷宮って、空の大迷宮のことでしょ?」

「そうだ」

「絶対ダメ!!」


 茜は必死にソウタに迫りながらそう言うが、ソウタは何故茜が今まで見たことがないぐらいの勢いで迫って来ているのかがわからなかった。


「茜さんがダメだって言っても俺達は行くぞ」

「いや、行かないで...」

「なら理由を言ってくれ」

「ここに来て一ヶ月ぐらい経った頃に一度だけ冒険者の人に誘われて行ったことがあるの」


 そこまで聞いてみんなはだいたいの予想がついた。おそらく茜のことを誘った冒険者は死んでしまったのだろう、と。


「最初はね、上手いこと倒せてたの。でもいきなり強い敵が出てきて私以外みんな死んじゃって、最後の一人も私のこと庇って...」

「もう言わなくて大丈夫。私達は強いし、もし危なくなってもソウタが守ってくれるよ」

「そうですよ」


 セリスとメイは茜の言葉を遮り優しく抱きしめた。


「...うん、でもね、本当に強かったの」

「大丈夫、ソウタならそこらへんの敵に負けない」

「ソウタ君ってそんなに強いの?」

「はい! 魔王軍の幹部を相手に無傷で追い払うほどですよ!」

「え!? ちょっと、ソウタ君ステータス見せて!!」

「は? なんでだよ、ってお前、バカ! 服の中に手を入れるな!」

「何してるの!?」


 さっきまで大人しくなっていた茜は普段のように元気になり、ソウタの服の中に手を入れステータスペーパーを探し始めた。


 だがソウタがそんな所に隠してるはずもないので見つからず、セリスに引っペがされてしまった。


「もう! どこに隠してるの! 私のは全部見たくせに!」

「ソウタ!!茜のなにを全部見たの!!」

「ステータスだよ! それ以外何も見てねぇよ!」

「それ以外見てないだなんて...私のことは興味ないのね...」

「ソウタってば酷いよ!」

「めんどくせぇよお前ら!!」


 そう言うと茜さんとセリスは楽しそうに笑っている。本当にこの二人は仲が良くなるのが早すぎる。


 そう思いながらメイにステータスペーパーを渡すと目を見開いて驚いている。


「そ、ソウタ君って限界突破使えるの!?」

「ん使えるのが普通なんじゃないのか?」

「普通じゃないよ! 限界突破を使えるのは普通、勇者か魔人族の幹部以上ぐらいだよ!」

「へぇー」

「そうなんだ」

「私も使えますよ!」

「ていうか、俺は一応勇者だぞ?」

「え? わっ! 本当だ!」


 ソウタとセリスは適当に返事をしているがメイは自分も使えますよ!とアピールしている。


「え、もしかして、セリスちゃんも?」

「もちろん使えるよ」

「あははぁ、使えないのは私だけかぁ、あははは」


 なんで茜さんは落ち込んでいるんだろう? この世界の人間は自分は普通だ、だから限界突破なんてできない。とか思っているのだろう。そんなことを思っていればもちろん使えるはずもない。


 なので、茜さんもそんなことを考えなければ限界突破を使えるようになるはずだ。使えない奴はただ覚悟が無いだけだろう。


 そのことを茜さんに言うと「屁理屈だけど、ありがとね」と言われた。


「とりあえず早く大迷宮に行こうぜ」

「そうだね」

「私の力見せてやります!」

「危なくなったら逃げようね?」


 茜さんがいつになく弱気になっているのが少し、いや、すごく気になる。


「茜さんらしくないぞ、もっと元気だせよ。俺にもよく言ってただろ?」

「そうだけど...」

「茜らしくないよ! そんなんじゃ本当に誰か死んじゃうよ?」

「...そうだよね」

「茜さん、はっきり言うぞ?」

「何?」

「気持ちを今すぐに切り変えられないなら置いていく。これからの旅もだ」

「っ!?」


 俺がそう言うのに驚いたのはメイだけだった。セリスと茜さんはなんとなくわかっていたみたいだった。


「ちょ、ソウタさん! それはいくらなんでも...」

「ならこのまま連れて行って茜さんを守るために誰かを犠牲にするのか?」

「それは、茜さんが邪魔だって言いたいんですか?もしそうなら、いくらソウタさんでも本気で怒りますよ」

「怒ってくれてもいいぜ? 俺の気は変わらないがな」

「メイちゃん、ありがと。もういいよ」

「何がいいんですか!」


 メイは茜に怒鳴るが悲しそうな顔をするだけで何も言おうとしない。自分がお荷物になることがわかっているからだろう。


 だがセリスは落ち着いた様子で茜と目を合わし聞いた。


「茜はそんなことで私達と離れるの? せっかくソウタにも会えたのに?」

「いいんだよ、もう...」

「そうやって自分にウソつくの?」

「ウソなんかついてな...」

「本当のこと言って。じゃないともう私達は離れ離れになっちゃうよ」

「.....」


 茜は迷った。自分がこの人達と一緒にいて、何か出来ることがあるだろうか? いや、無いだろう。戦い方もまだまだ初心者の私ではいるだけで足でまといになるに違いない。だから、もう...


「茜さん、しょーもないこと考えてないで本心を言ってくれ。その考え事のせいで死ぬかもしれないから言ってるんだ」

「...ははっ、こんな私の気持ちなんてわからないでしょうね」

「そうだな」

「即答なんだね...」


 あぁ、自分は何をやっているんだ。早く私が答えないとソウタ君達が大迷宮に行けない。こんなことで邪魔するなんて、私ってダメだなぁ。早く断ろう。


 そう思い、答えようとした時にソウタからのまさかの言葉をもらった。


「茜さんらしくないぞ。いつもの気楽で能天気で図々しいけど優しくてみんなのことを守れる茜さんが俺は好きなんだ。だからさっさと答えてくれよ」

「で、でも私は邪魔なんじゃ...」

「今のそんなネガティブオーラ出してる人を邪魔と思わない人なんていないと思うぞ」


 それが原因で置いていくって言ったの?と茜は思った。


 自分が考えていた心配事とはまったくの無関係だったのでつい笑ってしまった。


「覚悟は決めたか?」

「うん」

「もう後戻りは許さないぞ?」

「うん!」

「これからの旅は怪我をするかもしれないぞ?」

「ソウタ君が守ってくれるんでしょ?」

「ははっ! やっといつもの茜さんに戻ったな?なら行こうか」

「「うん!」」「はい!」


 そして俺達はようやく空の大迷宮に行くことになった。


 それから各自準備を済まし、宿から外へ出て大迷宮へ行く途中に昨日の屋台のおじさんに出会った。


 そのおじさんはソウタの薬指を見て早くも気付いたようだったので近付き、小声で話をする。


「兄ちゃんおめでとう! OKもったんだな!」

「あぁ、アドバイスありがとな」

「おうよ! で、もう抱いたのか?」

「ば、バカ!そんなこと道のど真ん中で言えるか////!!」

「兄ちゃん、もしかしてその反応...抱いて...」

「.............ないよ」

「...まぁ、がんばれや! 死ぬ前に一度は体験しておくんだぞ? 絶対に後悔するからな!」

「余計なお世話だよ!」


 とっさに大声を出してしまったので今の会話が聞かれていないか焦り、セリス達の方を見るが聞こえていないようだった。


「がんばりな兄ちゃん。子供ができたら顔見せてくれや」

「わかったからもうその手の話はやめてくれ...」


 おじさんは面白そうに笑い、ソウタの背中を叩いて、「ほら、さっさと戻りな」と言われてしまった。


「何話してたの?」

「まぁ、色々だ」

「ふーん?」


 セリスは興味がなさそうに言っているが本当は気になっているようだ。だから教えることにした。


「あの人の屋台でメイのチョーカーを買ったんだ。それから指輪を買う話をしたらアドバイスもくれたんだよ」

「どんなアドバイス?」

「絶対に噛むなよって言われた。ちゃんと噛まなかっただろ?」

「でもどもってたよ?」

「そうですねぇ、顔を真っ赤にしながらの告白、なかなかのウブですねぇ」

「ま! ソウタ君は童貞だもんねぇ?」

「おい、茜さん、俺をバカにしたな? 童貞じゃなかったらどうする?」

「え? 童貞じゃないの?」


 まさかセリスにまで言われるとは...俺はそんなに童貞臭がするのだろうか?


「...どっちでもいいだろ」

「そうだよセリスちゃん。男の子はね、こういうことに敏感なの。だからそっとしておいてあげましょ」

「そうだね」

「...童貞って決めつけるな」

「へぇー? ならしたことあるの? 彼女もいたことないくせに?」

「...ソウタ、最低だね」

「女の敵ですね」

「わかったよ! 俺は童貞だ! これでいいだろ!」

「「「...」」」


 みんなから冷たい目で見られたので開き直って言うと無視された。代わりに街の人達にいっぱい見られた。その目はかわいそうな子を見る眼差しだったり、捕食者の眼差しだったり様々な眼差しを向けられた。


「俺、もうこの街来ない...」

「そんなこと言わないで! さぁ大迷宮へレッツゴー!」

「「おぉー!」」「...おー」


 明らかにテンションが下がってしまったソウタを慰めながら大迷宮を目指す一行でした。




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