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アヤカシ探偵社。

作者: おかP

小説、と言うより漫画原作的に書いています。短編25~32P、或いはアニメ30分物として読んでください

今は昔、九州は備前の国鍋島藩にとある有名な化け猫騒動があった。表向きは鍋島氏と先代龍造寺にまつわる確執による事件となっているが、真の顛末はこうである。

長崎よりやって来た支那(中国)の商人はその美貌と容姿で藩主・光茂にたいそう気に入られていた。字名を「珀眉」と言う。輝くばかりの銀髪、白磁の如く透き通る肌、ギリシャ彫刻の様な妖艶な体躯。特に眉は珀金に煌めき、その名の由来でもあった。珀眉は光茂を籠絡、藩政を思うままに陰で操っていた。珀眉の事を怪しんだ家臣・龍造寺又七郎は悪事を阻止しようとするが、逆に計略に嵌まり生命を落とす。又七郎と恋仲にあった光茂の娘・鶴姫は又七郎の死に悲嘆、後を追い自害する。鶴姫の愛描「安寿」は主人の仇を果たす為、鶴姫に化けて夜な夜な城内に出没し光茂を悩ませた。安寿は老猫で尾が二又に分かれた物の怪であったのだ。光茂は重臣・小森半左衛門に命じ安寿を追い詰めるが、強力な神通力の安寿を仕留める事はできなかった。悪行を阻止され業を煮やした珀眉は自ら正体を晒し、安寿に決戦を挑む。珀眉の正体もまた九本の尾がある妖怪であった。戦いは七日七晩続いたが、決着は着かず安寿は片方の尾の大半を失い、珀眉は九つの尾の内一本を咬みきられ支那に逃げ帰った。安寿も深手を追い、主人の怨みを果たすことができた為か何処かへ消えていった。この名勝負に日本国内の妖怪達は狂喜した。それほど支那から来た妖怪は畏れられていたのである。


時は流れ、現代。京都府長岡京市のとある新興住宅街。綺麗に整備され、道幅も広い。ある瀟洒な一軒の家の前に少女の姿があった。身長は1m前後、髪は金髪のボブカットで猫耳を着け、コスプレなのかメイド風の黒基調のエプロンドレス。大振りの黒縁の丸眼鏡を架け、袈裟懸けにパンダの顔に見立てたポシェットを提げている。大きな黒色リボン・タイ、パンクなローファーは市松模様の柄が甲にあしらわれている。紅白縞のニーハイを履き、何故か身の丈に不相応な象牙色の長いデッキブラシを手に持って地面に突き立てていた。少女はインターホンを押す。

「頼もう~!アヤカシ探偵社から参った」

玄関扉を開けて妙齢の婦人が出てきた。

「はい、お待ちしておりました。え?あなたが?」

婦人は呆気にとられ少女を凝視する。

「儂はあんじー。ご依頼の件で伺ったのだが」

婦人は訝しそうに聞き返した。

「お嬢ちゃんはお使い?後で大人のひとが来るの?」

少女、基いあんじーはむっとして切り返した。

「儂以外誰も来ん❗人を見かけで判断するでない、儂はこの手の事件の専門家じゃ」

あまりの剣幕に圧倒され、婦人は家の中に招き入れ応接間に案内した。中には恰幅の良い主人が苦悩の表情で待っていた。

「ようこそお出でくださいました。よろしくお願いいたします」

「話は依頼メイルにて聞き及んでおるが、今一度詳しく伺おう」

主人はちょっと躊躇したが、おずおずと切り出した。

「実は3週間ほど前の事なんですが…」

要約すると― 夫婦には16才、高校2年になる一人娘がいた。名を詩織という。娘の通う高校では昔から、まあどこにでもある『エンジェルさん』なるゲームが流行っていた。こっくりさんと似たような遊びである。プレイヤー3人が規定の文字盤にコインを置き、3人が同時に人差し指をコイン上に添えて質問をする。するとエンジェルさんがコインを動かして答えてくれるというものだ。

その日も昼休みに仲良し3人組はエンジェルさんに熱中していた。質問は詩織の思い人の真意を探るものだった。

「エンジェルさん、彼が私の事どう思っているのか教えてください」

暫し固唾を飲んで見つめる3人。盤上のコインはぴくりとも動かない。が、突然机が小刻みに震えだした。驚いた2人が人差し指を放した瞬間、詩織の身体が硬直。

「大丈夫、詩織?」

心配そうに顔を覗きこむ友人達。

詩織がゆっくりと顔を上げた。が、その人相は詩織本人と認識こそ出来るものの、宛ら獣、まるで狐の様に感じられるおぞましいものであった。

「手を放したな、お前達‼」

身を踊らせて2人に襲いかかる詩織、逃げ出す友人達。豹変した詩織が後を追いかける様は宛ら獣の、そう狐の姿に見えた。学校は大騒ぎになり、詩織は先生方に取り押さえられた瞬間気を失った。自宅に運ばれた後も詩織の物の怪憑きは解けず、部屋に幽閉されたまま現在に至る。

話が終わる頃合いをみて婦人が茶菓子とオレンジジュースを運んできた。

「おお、黒雲竜ではないか❗儂の大好物での、かたじけない」

雲竜は京都では有名な和菓子である。高級な餡巻きロールケーキと思われたら間違いない。白餡の白雲竜、黒餡の黒雲竜がある。

あんじーは旨そうにその黒雲竜を頬張り、ジュースをストローで吸い込んだ。一服したところで立ち上るあんじー。

「ご主人、詩織殿の部屋へ案内されい、儂が診てしんぜよう」

「はは、宜しくお願いいたします」

主人はあんじーを2階の詩織の部屋へ連れていった。扉には可愛らしいネーム札が掛かっている。

「詩織、詩織、父さんだ。今日は有名なお祓い師の先生が来てくださったよ。」

そう声を掛けた主人は扉の鍵を開けた。ゆっくり扉を押すと中は薄暗く、じめじめと湿気を感じる。部屋の隅にあるベッドにシーツにくるまった詩織がいた。

「詩織、聞いてるのかい」

主人が話かける。シーツの隙間から妖しい眼が光ったのをあんじーは見逃さなかった。

突然、シーツを跳ね除け詩織が二人に飛び掛かった!

瞬時にあんじーのデッキブラシが空を斬り詩織の身体を打ちつける。詩織の身体は打撃の威力に跳ねかえり床に叩きつけられた。

「たわけ!この雑魚妖怪めが、娘から離れよ‼」

あんじーが再びデッキブラシを振り上げた瞬間、詩織の身体から真っ黒な影が抜け出した。あんじーがブラシの先で突くより早く影は窓をすり抜け消え失せた。ぐったり倒れている詩織に主人が駆け寄り、上半身を起こした。

「大丈夫か、詩織⁉」

主人は踵を返してあんじーに懇願した。

「先生、手荒な事はやめてください。娘はか弱い女の子なんですよ、死んだらどうするんです⁉」

あんじーは答えた。

「案ずるでない、手加減はしておる。お蔭で取り逃がしてしまったがの。じゃが、もう大丈夫じゃ。物の怪は娘御から追い出したわい」

直に回復するだろうと付け加えると主人は安堵の表情をみせた。

玄関口。夫婦に見送られるあんじー。

「ありがとうございました、本当に助かりました。先生にはいくら感謝してもし切れません」

「いや、礼には及ばん。謝礼はしっかり戴くでの」

一瞥してその場を離れ、あんじーは二人が見えなくなる通りの角まで差し掛かった。すると曲がった先に一匹の巨大な獣がうずくまっていた。白色のそれは頭は獅子、躯体は牡牛、背中に大きな翼を持ち尾は蛇である。まるで神話に出てくるキマイラの様であった。

「どうだった、あんじー。ヤツの尻尾は捕まえたか」

「すまぬ、駑巨(ぬこ)神。取り逃がしてしもうた。じゃが、儂の予想通り奴等の仕業に間違いない」

そう言いながらあんじーはぬこ神の背に跨がった。巨大な翼を広げ、空高く舞い上がったぬこ神は北の彼方へと飛び去っていった。


場面変わって別の住宅街。とある家の前で談笑する三人の姿が。

一人は占い師風の長い髭を生やした人物、残り二人はその家の夫婦である。

「先生、誠にありがとうございました。何とお礼をして良いものか」

「いやいや、良うございました。お嬢さんも早々に元の元気な姿に戻られる事じゃろう。所定の祈祷料は戴くので気になさることはないですじゃ」

笑いながら占い師風の男は手を振った。その様子を塀の影からじっと見ている者がいた。

占い師が二人に別れを告げ、通りの角に差し掛かった瞬間!

いきなり体ごと引き込まれる占い師。眺めていたのは大鎌の様な手を持った大柄な獣 ―鎌鼬であった。

「てめえ、怪しい商売やっているらしいな。洗いざらい白状してもらうぜ」

占い師は恐怖のあまり声に成らない。鎌鼬は占い師を引摺り、闇に消えていった。


大山崎のとある山中。あんじー、ぬこ神と鎌鼬の姿があった。

あんじーが口火を切る。

「恐らく奴等の仕業で間違いない。」

「こっちも捕まえた手下が白状したぜ。連中のアジトはこの先だ」

鎌鼬が言いながら右手の鎌で指した。

「よし、行こう!奴等を一網打尽だ」

ぬこ神が鼓舞する。三人(三匹?)は藪を掻き分け、森の奥へと入っていった。

暫く進むと急に辺りが開けた。中央に巨大な、さながら寺社の本殿の様な御殿がそびえている。建物の前まで進んだあんじーが声高に吼えた。

「貴様の悪行は全てバレておる。出て参れたぬ吉!」

「お前の仕業か、あんじー。ワシらのビジネスをことごとく邪魔しおって」

現れた羆ほどある巨大な狸・たぬ吉はあんじー達を睨み付けた。続き、大勢の狸があんじー達を取り囲む。

「たぬ吉親分、コイツら殺っちまっていいだか⁉」

手下の狸達は口々に叫んだ。たぬ吉は腹に付いたポケットから大きな錫杖を取り出した。先に実物大の瓢箪が着いている。胴回りに細いしめ縄と裃飾りが巻かれ、ただの飾りではない様に見えた。たぬ吉が錫杖を振り翳し、号令を掛けた。

「者ども、やっちまえ‼」

狸達は一斉にあんじー等に襲いかかった!

「皆、戦闘モードじゃ」

一言告げるとあんじーは呪詛を唱えた。爆炎が立ち上り、中から美少女が現れた。身なりはあんじーだが、背は延びて顔も大人びている。エプロンの結び目から二本の尾が覗いているが、片方は半ばから切られていた。顔は…鶴姫と瓜二つ?そう、あんじーこそかつて妖怪・白眉を退けた安寿だったのである。

「あんじー、この期に及んでまでまだ人の形に拘るか…正体を曝け出せば本領を発揮できるものを…不憫なものよのう」

「人の勝手、いや猫の勝手じゃ!たぬ吉、覚悟せい」

あんじーがデッキブラシを一扇、見栄を切る。

「何を小癪な!俺の一撃を受けてみろ」

たぬ吉親分は長い錫杖を一回し、勢いよく振り下ろした。

あんじーが下段からデッキブラシを引き上げ受け流す。鈍い金属音が辺りに響き渡った。

「うぬう、俺の打撃に耐え得るとは‼ただのモップではないな?」

あんじーが憮然とした表情で答える。

「当たり前じゃ。こいつは妖怪白眉からぶん捕った尻尾の骨から削り出した業物じゃ。それとコイツはデッキブラシじゃ!モップとは違うぞ‼」

互いの二打目も互角の打ち合いとなる。たぬ吉は再び腹のポケットから何やらアイテムを取り出した。その得物は―巨大化して茶釜に変型した。見ようによってはアダムスキー型の円盤に似ている。たぬ吉は茶釜の上に飛び乗り、仁王立ちに構えた。

「飛べ、茶釜❗」茶釜はUFOさながら宙に浮かぶやいなや、物凄いスピードで飛行した。

「ええい、逃げるかたぬ吉⁉」

たぬ吉を乗せた茶釜が大きな弧を描き急降下してきた。

「小癪な猫又め、これでも喰らえ❗」

たぬ吉は頭の毛を抜き、腹一杯吸い込んだ息で吹き飛ばした。散り散りになった毛玉はぽん!と煙をあげて小さなたぬ吉に化けた。小さなたぬ吉達が降り注いであんじーに襲いかかる。あんじーはデッキブラシを持ち上げ、小たぬ吉達を黒板消しの様になぞり出した。すると、まるで消しゴムを掛けるが如く小たぬ吉達は消えてしまった。

「ぬぬ?どういう事じゃ⁉ あんじー、貴様どんな妖術を使ったんじゃ」

あんじーが天空のたぬ吉を見上げて答えた。

「お前に教えてやる義理はないが、知りたいなら明かしてやろう。先程言ったろう、コイツは妖狐の尻尾の一本じゃと。ブラシの先にその毛を付けておるのじゃ。そも、九尾に備わる妖力のひとつ、このデッキの能力はデリート(削除)。この世から森羅万象を消し去る事が出来るのじゃ」

たぬ吉の表情が強張った。狭い額から冷や汗が一筋流れた。

「なんとおぞましき妖怪よのう、あんじー。出来れば闘いたくはないが、俺も全国の狸を束ねる身。貴様を必ず倒す❗」

一方、ぬこ神と鎌鼬は子分の狸達の数の多さに手を焼いていた。さながら蟻の軍勢である。ぬこ神は体にまとわりつく狸達を追い払うのが精一杯、鎌鼬は自慢の鎌で数匹の狸を追い回すが狸達は逃げ足が速い。本殿の縁まで追い詰めた鎌鼬。

「さあどうする?俺は狸が大好物なんだ。鍋にして喰っちまうぞ?」

狸達は恐怖のあまりあっさり降参。鎌鼬はなんとか捕らえた狸達を境内中央に集めた。


場面が対峙する二人(二匹)に戻る。たぬ吉が吼える。

「糞餓鬼が、こいつでも喰らえ❗」

たぬ吉が茶釜を叩くと胴体が赤く発熱し、口先から熱湯と蒸気を吹き出した。辺り一面に熱湯の雨が降る。

「ぬこ神‼」

あんじーが狸達を振り払うぬこ神を呼んだ。

「おうさ❗」

翼を広げ、ぬこ神が低空飛行であんじーに近づく。まとわりついた狸達は勢いで零れ落ちていく。あんじーは跳躍、ぬこ神の背に飛び乗った。たぬ吉の茶釜へと滑空するぬこ神。たぬ吉は茶釜を叩き、注ぎ口をあんじー達に向けると熱湯の雨を降らせた。ぬこ神は難なくかわしたが、地上の狸達や鎌鼬は避けられない。あんじーが叫んだ。

「辻神~‼ 近くにいるなら助けてくれ❗」

南の空が急に曇り出した。と同時に猛烈な横風が吹く。風は蒸気も熱湯の雨粒も吹き飛ばした。

「あんじー、わい待ちくたびれたで。やっと暴れられるわい」

辻神と呼ばれるその物の怪は雲海より抜け出してきた。ただ、実体はぼんやりして輪郭は定かではない。真っ黒な幽体の様で角を生やし、極端なつり目は月明りの如く光っている。口元は鋸型に裂けて笑っているかに見える。尖った爪が伸びた腕を大きく広げ、長い尾っぽをたなびかせた様はさながら一枚の凧の様だ。

「ほう、辻神か?泉州(南大阪)の暴れん坊風神まで味方につけるとは、貴様なんと喰えん奴よのう、あんじー」

たぬ吉は半ば苦虫を噛み潰した様に言い捨てた。

「仲間を犠牲にして平気な貴様を慕う妖怪など貴様の子分以外おらぬわ」

あんじーが言い返すと、辻神が続いた。

「おどれのような性悪狸は地獄へ送ったるわい」

鋭い爪を立て、空を切り裂くような仕草をすると物凄い旋毛風が起こり、茶釜ごとたぬ吉を巻き込んだ。茶釜は渦に翻弄され、錐揉みしながら蒼空に舞い上がった。たぬ吉はしがみつくのがやっとだった。天空に放り上げられた茶釜はまっ逆さまに落下。何とか地上スレスレで踏みとどまった。埒の明かない闘いに業を煮やしたたぬ吉は錫杖の先の瓢箪に手をやると口先の栓を抜いた。

「奥の手じゃ!お前ら全員消し去ってやる」

すると、瓢箪は猛烈な勢いで辺りのものを吸い込んでいく。それこそ、空間ごとブラックホールの様に。

「いかん、離れろ!」

あんじーを乗せたぬこ神は翼を羽ばたかせ逃げようと必死でもがくが、じりじりと吸い寄せられる。たぬ吉が調子に乗って錫杖を振り回したその時!瓢箪がぼろりと取れて地面に落下。地表に落ちた瓢箪は独楽の様にぐるぐると回転しながら辺り一面を呑込んでいく。

「しまった‼あやつ等め、あれ程しっかりくっ付けておけと言うておいたものを」

瓢箪に近づこうとするたぬ吉だが、瓢箪のバキューム力が凄まじく容易には近づけない。茶釜は吸い込まれそうになり、必死で逃げる。なんとか離れることができたたぬ吉。

「駄目だ、もう止められん。」

「このまま放っておくとどうなるんじゃ⁉」

あんじーが語気荒く尋ねた。

「わからん❗ が、おそらくこの世界ごと呑込んでしまうかも」

顔面蒼白のたぬ吉、肩が微かに震えている。

「どうにかせい❗貴様のせいじゃぞ⁉」

あんじーが怒鳴った。

「どうにもならんわい、俺ぁ逃げる」

その場を飛び去ろうとするたぬ吉の尻尾を、あんじーは鷲掴みにした。

「離せ馬鹿猫‼死んじまうだろうが⁉」

必死で振り払おうとするたぬ吉。だが、あんじーもその手を緩めない。

「貴様の得物じゃぞ❗何か手立てはないのか?」

尻尾を引っ張りながらあんじーが叫ぶ。

「瓢箪の栓をする以外止める方法はない‼」

逃げようともがきながらたぬ吉が答えた。

「なら瓢箪の栓を寄越せ❗儂がやる‼」

たぬ吉はポケットから栓を取り出し、投げつけた。

「後は任せた❗上手くやってくれ」

あんじーは受け取るや、ぬこ神に命じ瓢箪に近づこうとする。が、回転する瓢箪にタイミングが合わない。何度もぎりぎりまで近づこうとするうち、ぬこ神の身体が瓢箪の吸引に引っぱられ抜け出せなくなった。「頑張れぬこ神❗なんとか持ちこたえろ」

ぬこ神は必死の形相でなんとか答えた。

「駄目だあんじー。もうもたん❗」

じりじりと吸い寄せられるぬこ神とあんじー。翼の力は弱まって、徐々に瓢箪に近づいていく。

限界に近づいたその時、ひときわ甲高く叫ぶ声が響いた!

「沈まれ‼止まれ❗瓢箪!」

すると、瓢箪の回転が止まり、吸引力も一気に弱まった。

「あんじー、今じゃ!蓋をせい‼」

あんじーはすぐさま瓢箪に栓をする。

「助かったぞ、頭領」

あんじーの向いたその先に頭部の異様に発達した、白髭の老人が立っていた。仙人の白装束に、長い杖をついている。

「遅くなってすまんの、あんじー。此度はよく働いてくれた」

「なんの、頭領。最後は助けてもろうたしな」

埃まみれのスカートを叩きながらあんじーが答えた。あんじーは術を解き、3頭身少女体形に戻った。どうやら大人変身は長時間は持たない変身能力らしい。

頭領と呼ばれた老人は木陰に隠れたたぬ吉を見据え、声をかけた。

「さて、たぬ吉よ❗お前の今回の悪行には目に余るものがある。ただでは済まさぬぞ」

たぬ吉は恐れの余り震えが止まらない。老人は話を続けた。

「何よりけしからぬのは妖怪會舘の館長室から我の卓上掃除機を勝手に持ち出したことじゃ。」

「は⁉卓上掃除機?それってもしかして…」

あんじーがもしや、という顔をして訊ねた。

「そう、その瓢箪じゃ。無くなってしまってからは部屋が散らかって大変なんじゃ。アヤカシ探偵社に頼んだのも何度捜しても見つからなんだからなのじゃ」

「はあ…まあ、他の依頼も受けておったから良かったが、まさか掃除グッズだったとは…のう」

あんじーは呆れて呟く。頭領と呼ばれる老人が話を続けた。

「たぬ吉の処罰はあんじーに決めてもらう。どうする、あんじーよ。地獄に落とすもよし、石塚に封印するもよし」

あんじーは怯えて大きな身体を精一杯縮め込ませるたぬ吉にチラリと目をやった。

「許す。確かにたぬ吉の諸行はいかんことじゃ。が、誰も殺しておらんし、今回は大目にみてやってくれ」

「あんじー、かたじけない。恩にきる❗」

たぬ吉は涙目で感謝した。頭領は半ば呆れ顔で話を続けた。

「わかった。たぬ吉よ、今後1ヶ月間妖怪會舘の便所掃除を命じる。館内の全てを子分の手を借りず、お前1匹でやるのじゃ。あんじーの恩赦を有り難く思えよ」

「良かったのう、たぬ吉」

あんじーが笑顔でたぬ吉を見た。たぬ吉は大粒の涙を流し、

「ありがとう、あんじー。この恩は一生涯忘れぬ」

と答えた。

皆が無事を祝う中、頭領がぬこ神に話しかけた。

「あんじーは優しい奴じゃ。彼の騒動以来、誰も死ぬ事を望んでおらぬ。人と妖怪が仲良く暮らしていける世の中を真剣に望んでおる」

ぬこ神がにやり顔で答えた。

「そういう奴だからこそ俺達はあんじーに就いていけるのさ」

二人が見守る先には笑顔満面のあんじーの顔があった。

ー第一話 完ー








水木しげる作品の大ファンだったので、先生亡き今鬼太郎のオマージュとして書きました。シリーズ化していくつもりですので今後とも宜しく。

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