クズ親の勇姿
「ああん! 助けて! おとうさーあん!」
今日も今日とで、娘の店を冷やかしに行ってやろうと思ったら、戸口から駆けてくる姿。
「ああなんだ? うっさいな」
「オークが! クソオークがぁ!!」
真夜中の一人シフト、静けさが満ちる場で、糞みたいなキンキン声が辺りを満たしているのだ。
「ちょっ、ちょ見て! コレ見て!」
差し出してくるタブレットには、防衛線を盛大に貫いて、都市最外辺の此処まで進撃してくる敵マーカーの数々数十。
「ほお、あと一分も立たずに、此処までくるか!」
「ああああん! やだやだやだ! たすけて助けて!」
うっさい奴だ、そりゃ泣き叫ぶわな、俺は事情を良く知っているのだ。
「このお店は、わたしの唯一の居場所なの! 友達も同じように働いてて! 壊しちゃ駄目なの! お願い! おとうさーん!助けて!」
「しゃーないな」
俺は背の、刀身ばかりがアンバランスに巨大な、いわゆる斬馬刀、それを片手に持ちながら、シャロに言う。
「だったらシャロ、これから俺に絶対の忠誠を誓うと言え、今まで俺がしてきた全てを、帳消しにして水に流すと誓え」
高圧的に言う、シャロは苦虫を噛み潰した顔をして喘ぐ。
「嫌よ! そんな事を誓うくらいなら、死んだ方がマシよ!
うぅうぅ! こんな一時の危機で、あたしの人生の全てを支配しようとするなんて! この人生の寄生虫!」
「アホ、聞き分けのないクソ女が。
一時でも、俺は命を賭けるのだ、だったら見返りは当然だ、それを払わない、借金踏み倒しクソゴミ女が、くたばれや!」
「あああん!!! 駄目駄目だめ! お願いよぉ! 誓うから! 誓うから! おとうさまあ!」
渋っていたシャロも、クソみたいに巨体を持つオークが、視界に迫ると、流石に事態を悟ったか、譲歩したようだ。
「よしならば、ちょっくら気合いを入れて、頑張ってやるかね」
俺は正直な話、後悔していたのだ。
人間はすぐに死ぬ、興味も無いが、俺の前から消えてしまうのは心残りだ、絆が無くなり、故に絆に飢えていた。
愛する女が、若くして暴飲暴食で透析に成り、三年で、いや五年で死んだか、シャロを残して、勝手にくたばったのだ。
俺は絶望した、当然だ、愛する女が、ゴミ屑みたいな有様で、なんの勝手な有様で死んだのだから。
だから弱さを、シャロには弱さを克服して欲しかったのだ。
もちろん、俺が美しいシャロに恋して、副次的に貪ったのは否定しない。
シャロ自体も、一心に愛情に突き動かされる行為として、劣情なしならば、ここまで絶対的に屈折しなかっただろうがよ。
まあいい、そんな狂った娘の電波でクソな末路も、まあ面白いと、俺は心の底から思えるのだからな。
だが、こんな一回の命を賭けた戦闘に勝てれば、そんな俺の汚名が挽回できるのかもしれないと、そう知る。
それが俺をどこまでも超過させる。
若い頃よりも、肉体は劣っている、柔道などで全国大会に出場して栄華を極めたのは過去の事、肉体は遥かに重い。
「おあらあああぁあああああああああ!!!」
間合いが迫り、絶妙なタイミング、人外の膂力に対して、人間の力は余りにも非力だ、そのはずだ。
だが俺の刃、相手よりも遥かに早く、遥かに明瞭に両断した。
やはりこれこそが力だ、娘を貪り、娘の人生をぶっ壊し、その果ての贖罪の想い、
これこそが何よりも勝る力を生む、俺は確信していたのだ。
「はああぁああああああああああ!!!!」
全力で動き回っても、息が上がる気がしない、肉体は何時にもまして華麗に、明瞭に、確信に満ち溢れた動作をした。
連続で迫る、クソオークの同時攻撃、紙一重で交わして、同士討ちを誘う。
眼前から正面突破、繰り出されるオークの拳に、斬馬刀を突きだして、拳ごと粉砕する。
手が痺れて手放した刀の代わりに、幼少のころから培った柔道の技、締め技で、オークの首を上手くネジ切りまわす。
サブ装備の手投げナイフ、等々、背にある最期の奥の手、次元切断刃。
「クソ! 数が多過ぎる!」
イルミナード防衛隊は来ない、当然だ、此処で奮戦している俺がいるからだ。
そもそも、防衛線を抜かれた場合の、配置換えが、このゲームのシステム的に煩雑で、時間が掛かり過ぎるのだ。
そのシステム的な限界時間を短縮するのならば、課金のようなモノで、掛かる費用、
この場合は運命力のようなモノなのだが、良く知らんが、高過ぎるらしいので、できるのなら行使したくないのだろうがよっクソ。
「つまり、俺がやらなくちゃ駄目なんだろうなよおぉおおおおおお!」
迫る敵の目を狙って、ナイフを投擲、片方は腕で払われ、片方の目にクリティカル、間合いの測りが甘くなっているのを期待して突撃。
サブ装備の日本刀を、滑らせるように放つ。
一回で折れないように注意する、日本刀の弱点、滑らせる刀使いなので、当然ながら間合いとタイミングがシビアになる。
返される攻撃を、日本刀を気遣った動作で、回避が遅れに遅れる。
使用制限の定まりきった奥の手を閃かせる、なんの抵抗感も無く、オークの腕が両断されて落ちる、すぐさま退避。
「くらえよ、ゴミ虫が」
ファンタジー世界では似合わない、特殊兵装、ガン、所謂ただの拳銃、リボルバー。
連射性も何も無く、剣と魔法が主体の世界で、おまけのような機能しか無く、弾も貴重品扱いの、ゴミ武器を懐から取り出す。
魔法が使えず、嵩張る飛び道具も使えず、接近武器も尽きかけの、本来なら使う場面がイコール詰みのような、護身武器でしかないのだが、行使。
それが面白いようにオークの目を貫く、思ったよりも良い性能、オークが鈍重で相性が良いのもあろう、もっと早く使っておくべきだったかと後悔、突撃。
「らああああああああ!!!」
目が潰れメクラな今を逃さず、回復する前に、刀で急所を切りに切る。
「はぁ、、はぁ」
流石に、無敵状態の反動が、身体が動かなくなり、その場に倒れる。
敵の確認は怠ったが、追撃が来ない以上、奇跡的に全員を倒せたようだと、一応の確信を得る、確信で無ければ死ぬだけなのだし、そう信じる。
「、、、おとうさん」
目だけがギリギリ動かせる状態で、うつ伏せから目だけを上に上げると、シャロが居た、胸に護身用ナイフを持って。
「おお、やったぞ」
「うん、ありがとう、おとうさん、本当に感謝している」
「ああ、そうか、、、それでだ、今なら、俺を簡単に殺せるな」
「うん、そうだね」
シャロの目は、虚空を見つめるように、いわゆるメンヘラの目って奴だった、
俺は俺の死期を、先ほどの修羅場の熱量も上乗せで、強くつよく痛感した。
「私は今、感謝している、それでもどうしてかなぁ? おとうさんを殺してしまえる今に、無上に好機だと思えてる私も居るの」
「だろうがよ」
殺意、当然だ、俺はシャロに、壮絶に恨まれる事を望んでした、殺されるに決まりきっているのだ。
「うわぁ、、、っ、それでも殺せないよっ、だって貴方は、わたしの一人だけの家族で、唯一の絆、親なんだもん!」
からんからんと、ナイフが落ちる音、ついで、久方ぶりで忘れたが、シャロの方から俺に抱きついてきた感触。
「おとうさん!おとうさん! とにかくありがとう! 感謝してる!
どうせ明日には、お父さんの事なんて大嫌い、口も聞きたくなくなるくらい捻くれて、いつもの私に戻るって、
今だって確信できるけど、それでも今だけは、膨大に感謝してるから! お父さん大好き!」
泣きながら胸に縋りついてくる、ああそうか、そりゃ良かったな、俺は声にも出せず心の中だけで言って、視界を失った。




