ナナ編
「さて、作者として、俺は何をすればいいんだろうね」
商業で売れるレベルのモノを書くか?
馬鹿、夢物語だ。
俺は俺をよく知っている。
こんな程度の低い観測端末じゃ、逆立ちしても出版できるレベルのモノは書けない。
書けても奇跡、確率が低すぎる、そんなモノは不可能と同義の、俺の中での絶対的希望にも成らない、故に効能一切無し。
「だったら、物語に介入するか?」
俺は程度の低い観測端末だが、伝手とコミュニティーには恵まれているのだ。
むしろ、それのみで、今の俺は此処に存在する事が許されている様なモノであり、
俺はここに居る実感を、それから得ていると言っても過言じゃない、俺の基幹のすべてを成すモノ。
「はあ、でも眠くなるな」
この物語は遠く果てないほど、奥が深すぎるのだ。
介入する、僅かばかりでもシナリオを弄るならば、無限大にヤルが事が増大するのだ。
無限大に面白いだろう、だが、無限大に面倒くさい事でもあるのだ。
それによって俺の、ありとあらゆるモチベーションは、初期値ゼロ、何もしたくなくなる今になるのだろうよ。
「しょうがない、ナナと戯れるか」
こんな俺にも、唯一無二、俺という存在が俺として生きて、関われたモノの中で、ナナ奴だけがソレだ。
イルミナードには、ヒロイン指定を受けているのに、ずっと家に引き籠っている奴がいる。
それが奴だ、本人は、自分がなぜヒロインに指定されているのか、ずっと不思議がっているが、
答えは簡単、俺が主人公だからだ。
俺ってのは、ナナの隣に住んでいる親戚だ。
そして、その親戚は、引き籠りのナナに唯一の労働を科している。
それは親戚として昔から親交が有り、ナナの良きお兄ちゃん、今もそうだ、に肉体的な奉仕をして、対価を得るって奴だ。
俺は俺的に売れないながらも、小説家を生業にしており、それなりの収入が有るのだ。
ナナは、性格は破綻して電波だが、見目は麗しい美少女だ。
繊細な美貌に、美しい白色に光り輝く髪、瞳の色はどこまでも透き通る空色、声は極上のオルゴールのようにか細く可憐。
ハッキリ言って、これほどの美少女は、この次元世界最先端のイルミナードでも、そうそうは居ないだろう。
そして最近だが、そのナナが、俺を殺す形での、心中染みた、自殺を考えているらしいのだ。
ナナの唯一の居場所とも言える、”書籍家になろう”の活動報告や、書いている小説から、俺は察した事だが。
そこまでの流れは、おおざっばに省略して話すが、
俺が”書籍家になろう”で、俺と分からない形で、ナナにコンタクトを取って、ナナが自己愛と自尊心に狂った、自殺志願者だと知れた、
そして、俺が毎日のように愛でるようにナナの小説を、隅から隅まで読んでいたので、
俺の小説が、まるでナナの書く小説のように、成ってしまったのだ。
そしてナナが俺に、盗作野郎、私のオリジナルの個性を盗まないでください、と言うようになった。
どうやらナナは、世界に絶望し、己に絶望し、死にたいらしい、本気でガチで自殺をするらしい。
これについては、となりに住んでる俺の事、ナナが自殺未遂で死に掛けたので、確信して知っている事だ。
ナナについて俺は、勝手に死んでろ、なんて言わない、
俺にとってナナは、大切で重要、この世で一人だけの少女だ。
歳の差とか色々、そもそも俺では釣り合わないし、まっとうに関わってはいけない、ナナは聖域のように囲っているから。
だがナナは、そんな俺こそを、殺したらしい。
ナナの望みは、死ぬのなら、こんな世界に尊い絶対のモノである、己の個性を、オリジナルを残しておきたくないらしい。
それが死ぬ事に対する唯一の未練らしいのだ。
俺はナナに生きていて欲しい、だから俺が、書籍家になれば良いと分かった。
ナナのような文章を描く俺が、書籍家に成れば、ナナだって生きる希望を見出すんじゃないかと、
最近の俺は、ガチで狂ったように小説を書いて、その技術力を上げているのだった。
私は毎日、死にたいとしか、此処から居なくなりたいとしか思えない。
私が唯一無二の、絶対の個性だったら良かった。
それならば、あの光り輝ける兄にも、顔向け出来たのだ。
でもどうやら、私の個性なんて、私を直接見た事もない他人にも、容易に模倣されてしまう程度のモノだったらしい。
こんな恥ずかしい事は無い、だから私は死んでしまいたい。
それでも死ねない理由がある、こんな恥ずかしい私が残されてしまうからだ。
そう、わたしを知る、完全にと私が思えるレベルで、模倣出来てしまう、アイツが居るからだ。
あの模倣された私で、官能小説やら何やら、何でも出来てしまうのだと思うと、正直ぞっとしてしかたがない。
こんな恥ずかしいだけの私を、そんな風に晒されてしまったら、
故に死ねないのだ、アイツを殺すまでは。
「やあナナ、お兄ちゃんだぞ」
一人で部屋で、パソコンの前で正座して、呪詛を呟いて、アイツが殺せないか試していると、兄が来た。
とっさに顔をそむける、こんな私は兄に見せられたモノじゃないのだ。
「兄、」
「いやいや、お兄ちゃんと呼ばないのか?」
「そんな昔の事は忘れてください」
お兄ちゃん、馬鹿だった遥か昔に言っていた言葉だった、今では無限に忘れたい記憶の一。
「うぅ、、、」
悲痛だった、悲恋だった。
この人を前にして、どの面を下げればいいのか、私には無限の時間が有っても、永遠に分かりそうに無かった。
「どうして、顔を背けるんだ?」
兄がこっちに、顔が見えるように、回り込んでこようとする、わたしはさらに逆に顔をそむけた。
「、、私は、兄と関われるような、人間じゃない」
「そうか、、、ずっと分からないんだが、ナナは何に羞恥を感じてるんだ?」
分からない兄なのだ、この兄が私に向ける想い、兄が発するモノ、その全てとしか言いようが無い、形容不能な感覚なのに。
「兄は、わたしには到底思えない、わたしに対する感情を持っている」
「うん」
「それなのに、わたしには何も返すモノが無い」
「十二分に返してくれているよ、俺の方が何も持っていないくらいなのに」
止めて欲しい、頭が可笑しくなる、いや既に、わたしは可笑しくなっているのだ、完全に。
この素晴らしい兄と離れてしまっても良い位だ。
自尊心と自己愛に浸り、研ぎ澄まし、頭を可笑しくしても、簡単に模倣された。
わたしはわたし自身が見えなくなっているのだ。
「ええと、はっは、今日は電波びよりなのかな?」
昔むかし、わたしが兄と離れたくて、口走った恥ずかしい言葉だ。
「うぅぅ、、あく、、ぐすぅ」
「ご、ごめん、今日は帰るな! ナナありがとう!」
なにが、ありがとう、なのか?
恥ずかしくて、恥ずかしくて、身が切り裂かれるよりも、沁みるように痛み続けている、現状だ。
「本当に、アイツを殺したら、すぐに死のう」
イルミナードの凄腕の、探偵を雇ったのだ。
もしアイツの所在が知れたら、、、パソコンの下の収納を開ける。
「そう、すぐに絶対に殺す」
二段構造になっている下、異次元的な収納で見た目のスペースよりも広い、
複数の、事を成し遂げるに足る武器を見て、わたしはほくそ笑んでいた。




