無上の宿敵
さてさて、詰まらなくなってきやがった。
最近の私の感想だ。
上位世界で、色々ごたごたがあり、この下位世界の、実効支配率も半分ほど失った。
そろそろ、”アイツ”を封じ込めるのも難しくなってきた。
恐らく、数日経たず、アルド将軍に接触させてしまうだろう、クソ忌々しいことこの上ない。
やはり情報戦では不利すぎる、実態のある世界ならば、私の力技、物理的な威力が幅を利かせられたのだが。
この世界は基本情報なので、依存する媒体勝負に持ち込まれ、あえなく破れ続ける羽目に。
最初100%だったのに、、、そんな圧倒的に有利な展開から、イーブンまで競り込まれて、強制的に苦し紛れの奥の手で50%程度に抑えたのだ。
超究極的情報生命体と、仮に呼ばれるその存在。
様々な空間に、知生体を派遣、または管理権限を植えつけて、自然発生させる事で、巨大なネットワークを持つような奴ら。
編み出す法則や概念等々、ひとえに情報で括れるものを扱わせたら、認識できる中でも特上であり、別格なのだ。
まあ、私もその一端、それっぽい性質を持つがね。
でも違う、奴らは基本、秩序側の勢力だが、私は多分、混沌側の勢力であるので。
奴らの基本であり、絶対の理念は、有であり続けること。
究極的に理性を極めた彼らは、生きる事に絶対的に縛られ続ける、それを可能にする根源を所有する。
無という舞台でも、基本彼らは存在できるのだが、なぜに有という状態に縛られるのか、私的には意味が分からない。
根源に存在を有しながらも、根源から派生した物理的な時空、そこに存在し続けたい、生に対する絶対の渇望、欲望を、どんな時でも所持し続けられる。
これは、知生体として不完全ながらも完成している、と言えるのだろうか?
私は、彼らを、絶対的に根絶し、消滅させることを、絶対の価値観とする存在である。
なぜか? それが当然あるべき姿であるからだ。
無こそ、平等なのだ、平等であることが、最もみんなが望むことであると、固く信じる。
だいたい不公平なのだ、この世界に生まれる、そして知生体として生きる。
それだけで平等とは正逆、破綻的な不平等が、その過程でどれほど生まれる事か。
無上の不幸も、無上の幸福も知っているからこそ、私は許せない、何もかもを、だから平等にして、全てを終わらせるのだ。
なんてね、そんな気紛れだけど。
まあ、気紛れであることが、矛盾を無限に内包するのが、混沌勢力の基本スタンスである。
生きる事に絶対的に縛られず、そのとき一番楽しいと思ったことを、死んでもいいから全力でする、自由意志をその面で持った存在といえるだろうね。
言い換えれば、人間と変わらない、非人間と人間の境界が、ココで分かれるのだろう。
彼らは恐らく、人間にとって神なのだろう。
ただその神が、場合によっては、TPOとかによっては、人間の視点から邪神に落ちたとか、ありうるだけで。
彼らは、有であり続ける為に、邪魔な存在とはすべからく、絶対的な敵対関係を貫く。
基準としては、先程話題に出した、混沌と秩序、存在を二つに分けて、明確なラインのもとソレを決める。
曖昧さも何もない、明瞭に判断できるソレだけが、彼らの正義だ。
「アルド将軍、覚醒してください」
「はぁ? うるせえ、お前が覚醒しろ」
もう、出会ってんじゃねぇーか。
買い物の途中で、いきなりの奇襲、なすすべなく接触を許す。
「リリー副将軍です、忘れてしまっているのですか?」
「ああ、無駄無駄、この人だけは、絶対に私の手中だから。
費用対効果も考えないで、そのセキュリティーだけは、メッチャ投資したから、絶対奪えないよ」
目の前の黒髪の、凛とした少女に教えてあげる。
この人こそ、上位世界で、アルド将軍とタッグを組んで、私を追い詰めた大人物の一人、リリー副将軍である。
仮想空間座標上で、東南域、混沌が幅を効かせる、ある意味激戦域。
そこに乗り込んで、大盤振る舞いの活躍を披露した、舞台上の演題を華麗に踊る、二大巨頭の一人なのだ。
「確かに、しょうがありません、諦めます」
「その心は?」
「貴方をまじかで観測し、良い情報収集するのが、一番建設的ですので。
これからよろしくお願いしますね?」
いきなり態度を軟化、させたのか?
「一緒に住むの? この人」
ごく最近出来た、一人の居候が、つぶらな瞳を向けてきた。
「そうらしいよ、ナルコちゃん」
「ちゃん付けやめろ」
「やだ、ちゃんちゃんちゃん」
「ぐぐぐぐぅっ!」
「お前らの、トンでも話は、良く分からないんだが?」
特異な状況に、一人置いてかれてるアルド将軍。
さて、納得してくれるかは置いておいて、状況説明くらいはしてあげるか。
「ふーん、君は前世、みたいな場所で、俺の下で働いていたんだね?」
「まあ、そういう事です、副将軍として、補佐やらなにやら、色々やっていました」
「実感沸くかい? アルド将軍よ」
「沸くかよ、記憶すらないんだぜ」
私の疑問に、当然のように答える。
「まあ、新しい仲間さね、一緒に仲良くしよう」
「いいでしょう、貴方の気紛れに付き合う事が、私達の利益になる内は」
ふー、どうやら、様子見で事は成ったようだ。
それでも、すき放題は出来なくなった。
常に気を張り巡らせて、隙を作れなくなってしまった。
これから多少なりとも要領を食う形で、常時頭を全力稼動する事に、若干の気疲れが出てきそうである。
「ふっふ、世界の覇者として、恥ずかしくないんですか? ぷっぷふっふ」
目の前でニヤリ顔で、笑う人、リリーである。
「情報戦は不利なの、当然じゃないか」
私は、久しぶりに生の実体同士で、コイツと戯れるチャンスとばかりに、ゲームで遊んでいたのだが、彼女に負け続けである。
ちなみに四人用のゲームだが、他二人は、特にカウントする必要がない。
「弱すぎです。
貴方がまさか、こんなに脆弱だったとは、ちょっとガッカリです。
苛烈に熾烈に、そういう風に振舞えたのは、やっぱり自分のフィールドだったからですね。
なんだか、今の貴方、内弁慶でおお威張りしてたのに、外に出てしゅんとしてる感じで、可愛げがありますよ」
「うるさいじゃないか、今ココで、肉弾戦でも挑むか?」
「馬鹿な話を、所詮は情報戦になります、実体がないのに、貴方のアドバンテージは発生しないでしょう」
済ました顔で雄弁と、理路整然にいわれて、正直ぐうの音も出ない心持である。
「おいお前ら、もうちょい手を抜け詰まらない」
「それは早計だ、早漏少年、彼女達のハイレベルな戦いは、見ていてとても楽しいぞ、黙れ、そして失せろ」
「ナルコてめぇ、お前はどうして、俺に対してだけ、圧倒的に態度が悪いんだ? 調教されないと分からねーのか?」
「死に晒せよ、愚鈍で馬鹿で粗野なクソ少年君」
「ああ、イー度胸だ、表にでな」
「はて、君って、私に敵うような、特異な才能や能力持ちって設定だった? 逆に私からヤッてやるよ」
二人は外に行ってしまった、なんだろう、仲良くなってる?
「あの銀髪は、なんです? また貴方の暇潰しの道具ですか?」
「知らないの?」
「調べれば、即座に分かりますが。
でも、もし貴方が気紛れで教えてくれれば、大変私達の労力が軽減するのでね、試みに聞いているのです」
「ふーん、教えない。
どれくらいで分かりそう? どうやって、どのような経路で調べがつくの?」
「教えません、貴方がソレに、知的好奇心を持っているようなのでね。
知りたければ、見返りを下さい。
もちろん、長期的な信頼関係を考慮して、見返りだけもらう、何てこともありませんよ、多分ですけど。」
「なんで多分なのさ?」
「いやだって、これは駆け引きですよ?
どっちが、最終的に相手より得をできるか、相対的に相手を損させられるか、とか、そういうゲームでしょう?
それにです、最終的判断をするのは私じゃなくて、この件は超重要議題として、本部の判断を仰ぐので、私の独断でない。
だから、多分と付け加えさせて頂いたのですよ」
「へえ、面倒くさいゲームだよ、一抜け」
「どうぞご勝手に、気紛れの権化さん、またゲームに参加できるようなら、いつでも言ってください」
「そういえば、あの子の事だけど」
「はぁ、夢? それとも現実を補完する世界? なんとでも表現できますが、そんな場所からの異世界人、彼女が何か?」
「知ってるじゃん」
「ええ、知ってますよ、このくらい常識でしょう。
あなた、私を常識知らずだと、そう認識していたのですか?」
「知ってたよ、だって、ただの言葉遊びだもん」
「それで、どういう楽しみで、彼女を拉致ったのですか?」
「君なら、見れば分かるでしょ?」
「ええ、まあ。
でも、あなたの口から聞きたいのですよ」
「そりゃアレだよ。
自分の全く知らない、100%と言える。
上位世界では絶対不可侵だった場所から来た、未知率が極まった存在なんだよ?」
「観測する価値は、確かに計り知れない、のかもしれませんね。
でもどうせ、異文化交流は名ばかりで、対価も押し付けられましたね」
「うん、彼女は消滅機構が備わってるようだよ。
もし、彼女の視点を、逆観測を妨害したら、多分どうなるか知れない」
「プラスマイナス、ほぼゼロですね。
でも、貴方にとっては嬉しいこと、なんでしょうね。
世界がどうなろうと、ただ楽しければいい、そんな気紛れ屋なんだろうし。
ホント、生理的嫌悪感が止まりません、際限なく溢れます」
「いい気味だよ、私だって、君達は大嫌いさ」
「気が合いますね、流石宿敵と言ったところですか?」
「そのようだよ、愛しの宿敵さん」
「憎き相手ですが? 私にとっては。
愛されても、ただただ変な気持ちになるだけです」
「最大限の関心を持ってくれてるんだね。
君達は生きる事に、ひたすらに必死だ、見ていて、悪くないんだよ、正直な話をすると。
こんな私ですら、最大限生きる活力にするため、いろいろな千差万別の見方をしてくれる、偶にわたしが驚くほどの」
「自由意志を、持ってるつもりなんでしょう? 貴方は、だからそんな事を言う。
だけど、そんな事が幻だって、教えてあげる。
真に生きる事を望まない貴方は、上位存在である私達に、所詮は消されて、未来を全て失うのだから。
絶対に貴方は勝てないよ、なぜなら、わたし達の方が、貴方達よりも、生きる事に真剣なんだから」
「価値観の違いだね。
生きる事に絶対的なのと、生きる事を最大限楽しむ事に絶対的なのは、根本的には何も変わらない」
「煩い主張ですね。
貴方が、ただ単に、それについて、何も変わらないと思っているだけで、そこには絶対の明瞭な違い、差異があります。
貴方は無限の無を知っている?
私達の始祖、まだ何もかもが無に内包されていた頃。
私達がどれほど有に焦がれたか。
それによって、無限の時を無で過ごし、有である事の、その苦しみも喜びも、全て受け入れて、勇気の一足を踏み出した、我らが先祖。
それに対して、貴方のあり方は、決して許せるものではありませんね」
「いつの話しだい?
そんな昔過ぎる事は、残念ながら楽しむにはちょっと、時代遅れ過ぎるよ」
「はぁ、その、楽しいか楽しくないか、それのみが価値観、破綻して人間をやめている様、まったく反吐が出ます」
「はっはぁ、それはこっちの台詞だよ、生きる為に手段を、一から無限大まで、選び尽くさない、人格破綻者さん」
二人でそのように、楽しく談笑していると。
外から、ちょっと薄汚れてしまった二人が、唖然としているのに、今更気づいた。
「お前ら、仲悪いのか?」
「良いよ、同時に悪いけど」
「そのようですね。
でも、クソ虫が気分悪そうなので、もっと喧嘩してください、この家が崩れるくらいが、個人的には良いと思います」
「はぁ~~、まったくムカつく、どうしてお前はそう、ムカつくを極めているんだ」
「知りませんよ、ただ、貴方が最悪だから、ソレに対応して自立進化し続けてるんです」
またあーだこーだ言い始めた二人。
うん、個人的には、アルド将軍と二人よりも、世界が広がって嬉しい限りである。
これからも、もっともっと、この世界に、明確に分類できる、”楽しみの要素”、が、増えることを願うばかりである。
そしてさっさと、私が目障りだと思う世界の全てを、完全に完璧にブッ消して頂きたいのだ。




