イルミナード円形包囲陣
「クソのシャルロットが、やりやがったな」
先ほど、アトランティックを電撃的に強襲した部隊の、全滅の報が届いた。
イルミナードには、この王国以外で、四つの大国と呼べる勢力がある。
この四つが結束した場合、全ての勢力が集まっても、拮抗すらできない。
もちろん王国単独では、どうにもならないのは言うまでもない。
「まさかあの、ドSを気取った泣き虫寂しがり屋の保守主義者が、こんな大胆な手を打ってくるとはな」
前々から警戒していたのだ、カリスマだけなら、というより魅力という利器だけで、全てを支配できるあのクソ女を。
そこで、俺のユニオンメディア端末、タブレット携帯のようなモノから、着信が有った。
「おい、まさか、な」
直通、これの意味する所は一つ、観測者の大財閥、奴らがシャルロットに下ったのだ。
「ごきげんよう、タクミ、貴方の悪行三昧、世界支配も、もうすぐ終わりね、残念だわね」
昔々、遥か昔から、支配してきた女の声が、俺の耳を遠き日の記憶を蘇らせる形で響く。
「お前の目的はなんだ? 俺への復讐か?」
「はあ? 馬鹿、そんなモノは副産物に過ぎないわ、わたしの目的なんて、あんたには言うまでもないでしょ?
それそれ、あれあれよ」
「ちぃ、塔の館に来い、あのトキ付けられなかった決着をつけてやるよ」
「馬鹿、状況は既に、そんな駆け引きができる領域じゃないわよ、イルミナード王国は既に包囲されているわ」
包囲、このゲーム的にそれは、詰みと言えるモノだ。
だがコイツは知らないらしい、このゲームの真の裏設定を、ならば勝機はあると判断する。
「そうかそうか、ならば正面切って来い、叩き潰してやるよ」
「楽しみだわ、貴方を無限に拷問して、汚して汚して、わたしにした仕打ちの数億倍の不幸を味あわせて、殺ししまう事が」
「こっちの台詞だ、前に与えた苦しみが前菜と言えるくらいの、っ」
シャルロットは電話を切った。
それはそうだろう、奴の人となりなど、俺には手に取るように分かるのだ。
臆病もので、怖がり屋、その癖に人恋しくて、寂しがり屋の、俺の事が大好きだけど、素直になれないクソ女なのだ。
「今だって、どうせ、手に冷や汗を塗れさせて、虚勢を張って、俺の声に怯えて、からだガタガタさせながら、一杯一杯で声出してたんだろうが」
確信を持って呟く、シャルロットは絶対にあの頃と何一つ変わっていない、俺は確信に満ち溢れていた。
「しかし、戦力は十二分にそろえているらしいな、クソ生意気な奴め、叩き潰してもいいが、容易な手があるなら使わない手は無いな」
俺は、このゲームにおける、俺だけが使える秘密設定を操作した。
「「王国の支配者が、直接対決を指定した、対戦者を指定してください」」
俺は俺だけが知る、黄金の女王、シャルロットの真銘を打ちこんだ。
そこは、一面がガラス張りで、血まみれの、どこかの塔の室内だった。
「ようこそ、シャルロット、そして久しぶりだな?」
「っ、あなた!」
久方ぶりでも変わりない、この世の全てよりも、なお美しい、高貴凛然とした風貌。
だが、俺が一歩一歩近づくと、その面顔は陰り、怯えと恐怖、そして媚びのようなモノを内包したモノに変化していく。
「どうした? シャルロット? 俺を撃滅するんじゃなかったのか?」
後退し尽くした奴は、壁に背をぶつけて、ついにはポロポロと涙を零して、許しを請うように、しゃくりあげた。
「分からなかったか? お前に刻みつけた呪縛は、そっとやちょっと、絶対に無くなりはしないだろうことを」
「うぅぅ、、、、ごめんなさい、、タクミ」
頭を垂れて、俺の足元に土下座し、靴の先を舐めるかのような姿勢で、ただただ謝罪の言葉を口にする金髪が見えた。
その時だった、直観的に、対手の存在に、自身の呼吸が読まれたのを察した。
次の瞬間には、腰の剣を引き抜き、下方から迫りくる殺刃と交差させた。
カキンっっと、こぎみよい音、すれ違いざまに、相手の目を視る、見る、観る。
それは過日、俺に泣かされていた少女のモノではあったが、どうやら克服したのでなく、超越したのでも無い、
ただただ歪んで歪んで、縛られた果てに、俺に対する愛で狂ったモノで在った。
「ふっふっふ、そうそう、これこれ、貴方っていうド腐れの、どうしようもない性癖を有する人には、こういうのが良いでしょう?」
女王のように自信と覇気の籠った、凛然とした立ち姿、
俺のどこかを切った血、それを綺麗な舌で舐めながら、己の剣を水平に構え持っている姿。
「ほら? 全力で刃向かってきたクソ女を、徹底的に叩き潰して、押し倒して、屈辱に咽び泣かしたい? そうなんでしょう?
貴方の事は知っているのだからね、わたしだけの貴方、なのだものね。
もちろん、このまま叩き潰されて、殺される寸前で、わたしは止めてあげる、そして倒されてあげるのよ? 楽しいでしょう?」
好き勝手はなす口を、真横に切り裂くつもりで、全力で剣をふるう。
シャルロットは、ただただ剣を同時に叩きつける要領で、作用反作用、初期値ゼロの状態に戻してのけて止める。
「虫唾を走らせるなクソ女、てめえは俺に媚びて媚びて、その至宝の存在を、弄ばれればそれで良いと、何度言えば分かる?」
「えーー、だって貴方、それだけだと、飽きるじゃない?」
言ってまた、なにか良く分からないイルミナード起源だけだと、それだけ分かるスキルを発動。
呼吸読む、それだけの発動条件で、これだけのアシストスキル、常軌を逸している、たとえ本人の類稀な素質と合わせても。
「あっはっは、左右対称に刀傷、おもしろーい!」
「てめえ!”」
童女のように、愉快そうに笑う、多少は昔よりも、なにかしら吹っ切れたか、影のようなモノが薄くなっている様な。
いや違う、俺が与えまくった絶望は、決して逃れられない呪縛だ、
ならば、黄金の種族の精神操作、おそらく頭を可笑しくして、それによって狂った理性によって、狂った衝動を抑える、そのような原理だろう。
「ねえねえ? 本気でやらなくちゃ詰らないわよ?」
剣の腕は、若干だが奴の方が有利、認め難いが、精神に刻みつけた楔無くして、コイツは御せないのだろう?
「やめろ、”命令だ”」
その言葉で、先ほどから縦横無尽に周っていた刀の軌道が止まり、シャルロットは身じろぎした様に動かなくなり、身体を震わせる。
「そうそうソレソレ、嬉しい、やっと命令してくれたわね」
「ああ、クソうざってえ、殺したいほどだが、命令してやるよ」
コイツの望みはそれだけだ、俺の命令無くして動けない、
俺がそのように、望んでコイツを根元から改変、つくりかえたのだから、知っている。
「それでも、わたしの本当の本当、胸の底までは、作りかえられなかったの」
絶対の呪縛を、シャルロットは己の胸を貫いてみせることによって、破ったんだろうよ。
「ああ、知っていたさ」
そう、俺だって知っていた、コイツの劣等感のようなモノを。
誰にも己の深部を晒せず、触らせられず、誰かと繋がりたいと願った、ゴミのような執念を、変えられなかった事を。
「全力で戦いましょう、そして、世界の命運を弄びましょう、タクミ、貴方と遊ぶには、最高の舞台でしょう?」
血を吐きながら、黄金の種族、アストラルに顕現した形を失っていくシャルロット。
「そこまで闘争に浸らなければ、感じれないか、無様な女だ、たく」
存在がすべてなくなった次元で、俺は次の奴の転生場所、アストラルの顕現体を探すのだった。




