黄昏の世界で黄金の蝶は夢を見る
つっまらない、本当につっまらない。
どいつもこいつも私を殺しに来て馬鹿みたいだぁ!
シャルロットは宣言する、上層に位置する敵の一団を吹き飛ばし叫び散らす。
「おーいシャルゥー」
「うっさい!お前もだまれ!」
目の前に現れた少年すら頭を叩いて踏みつける
「うぐぁ!やめろやめろ!」
「やめない!ストレスが溜まってるんだぁ!晴らさせろ!」
彼女が怒っているのも無理はない、今日を入れて一週間も何処の誰かもしれない勢力に追い掛け回されているのだ。
手に汗握って激情のまま、今日まで生き延びてきたのだ。
「ふんっ!いくよぉ!ボンクラのゴミクズ」
「おお、付いて行くよ」
そうやって黒髪黒目の平凡そうな少年をつれて歩く金髪碧眼の少女がどこかに歩いていく。
廃屋についた、そこで少年を縛り付けると軽い拷問に近い事をしてイビリ倒す。
「うがぁ!!!うぃだああああああああああああ」
「はっははははっはぁ!!!愉快だわ、本当にその顔は愉快!もっと楽しませなさい!」
彼女は悦に入った表情で少年を擽り倒す、それはもう痛いレベルで少年は泣き叫びながら痙攣を繰り返す。
「ふっふ、今日はもう楽しんだわ、ほれ、開放してあげる」
「うがぁは、はぁはぁ」
少年は虫の息である、既に事切れる寸前かもしれないが、全く彼女は労わる風がない、至極どうでもよさげだ。
テレビを付けて、ニュース番組を眺める。
「ちぃ!まったく使えない番組ばっか、面白さの欠片もないゴミの様な娯楽して転がってないわね」
少年が仰向けでピクンピクンしている、まさにその真横で赤のワインを傾けながら悪い口をペラペラさせる。
「ちょっとぉ、貴方、さっさと復活してよ、遊びましょうよ」
「、、、、むぅ、、、、りぃ、、、、、だ」
「はぁ、ほんと使えない、つまらない癖に面倒事だけは山のように転がっている、もうホント死のうかしら」
世を儚んだ老女のように、彼女は憂鬱な表情で呟くのだった。
「プロフェッショナルの朝は、、遅い」
既に超一流、それすら超えた存在である彼女、シャルロットにとって、早起きなど幾文の得にもならないのだ。
しかし、昼頃起きれば起きたで、なんとなく機嫌が悪い彼女。
というよりも、彼女の機嫌が悪くならないこの世の事象等々は、そもそも見つけ難く、探すのも難しいだろう。
完全に八つ当たり、少年をイビリ倒すことでしか、欲求不満の気休め方法を知らない彼女は、リビングでテレビを見ていた彼を廃屋に連行。
そこで繰り広げられる、少年にとっては塗炭の時間、字の如く炭に塗れる、いやそれ以上かもしれない。
それでちょっとだけ気分が好転、血のような色のワインを煽り、それから、弾む息を整えながら、ボンデージを外してあげる彼女。
まあこれも、彼女にとっては日課の日課でしかない行為。
少年にとっては何時までもいつまでも慣れない、終わりの見えない苦行だ、しかし耐えるしかない責め苦。
「ふぅ、、、」
「ふぅ、じゃないよぉ!!」
憤慨し、飛び掛る寸前、いつも通り一線で理性が押し勝ち、少年は自己を押し止めている。
少女はそんな少年を眺め、特になにも思わない、来ればそれも良し、調教を苛烈にする口実にもなるし、とか普通に平常に考えている。
はぁぅ~と、少女にしては珍しい溜息。
最近は退屈この上ないのだ、ただでさえ人生を楽しみきり、限界まで飽きや既知感に満たされている彼女。
そんな彼女は平時から常に、生きているだけで苦痛なのだ。
「なにか面白い事ないかしらぁ~、宇宙がビッククランチで崩壊するレベルの、なにか絶対的イベントぉ~~」
ソファーにうつ伏せで寝転びながら、テレビ番組を高速で変えながら足をバタバタ。
そんな風で突然、少女は喘ぎ声のように、大音量、大音響で力の限り精一杯叫んだ。
傍から見たら意味不明、少女は涙をポロポロ流して、その場で悔しそうな表情で、うぐうぐ、えぐえぐ、泣きじゃくり始める。
哀れで可愛そうなだけの、そんな少女の悲痛が、ソコには明瞭に展開されていた。
ちなみに少年はいない、いたら流石にこういう事はしないのだ。
彼は今、地下に設けられた休憩室で、疲れた体を癒している、戦士に許された一時の休息であると言えよう。
少女は泣き飽きて、生まれ変わったように血気溢れる表情を復活。
一言「やってやるぜぇ!!!!」とか男勝りに叫び、家を飛び出す。
何時間か後、沢山の返り血に塗れ、虚ろな瞳で帰還する少女。
その血のほとんどが人間のモノではありえない、魔獣の色彩を帯びていた。
そんな少女を見て戦慄し怯える少年、リビング併設のキッチンで、少女好みの料理を鋭意製作中であったのだ。
少女はそんな少年の努力、それをひっちゃかめっちゃか荒らし、わめき散らして、最終的に少年を絞めたのち、自室に引きこもってしまった。
わけが分からず、されるがまま、少年は荒らしが過ぎ去るのを待つが如し、必死で身を丸めていた。
「うぅ、、えっく、ひっく!えっぐぅ!がぁはぁ!うぅぅぅ、、、ひっぐぅ!!うぅ、うぅうう!!!!」
盛大に、子供のように嗚咽を漏らして泣きながら、シャルロットは考える。
なんで自分は生きているのか? 存在理由が曖昧で希薄、それゆえの苦悩に頭を拘束されていたのだ。
死ぬか? いや嫌だ、でも、生きるのも辛い、ツマラナイ。
そんな思考をずっと高速でループさせ続ける。
しかし、実は、彼女の苦悩は全て偽りなのだ。
ただただ、悲劇のヒロインである自分を堪能し、必死に自慰をするが如し、耽溺してるだけなのだ。
シャルロットという少女は、どこまでも根本的に強者だ。
だから、こと、生きる事に関しては、半永久的に無限に楽しめる、はずなのだ、そういう力の一端を持ち、現在も持ち続けて存在しているのだ。
黄金の種族、それすら超えて、無上の黄金比、黄金律を手にした、そんな至高の絶対者の一角なのだから。
真っ白に燃え尽きるほど、何もかも、自分の汚いモノを出し尽くして、菩薩のような表情で自室から現れる彼女。
そんな彼女に飛びつく少年、甘え時を正確に把握しているのだ、この時の少女は神よりも優しい。
ただただ甘い、夢のような時間、二人は至高で至福、無上の幸福を味わいながら、今一度、プラスの方面で絆を深め合った。
それから数刻後、その遊びに飽きたっぽい彼女、少年も一瞬前に気づいたが、もう遅い、平手を打たれ地面に跪く。
「調子に、のらないでくれる?」
どこまでも見下す、零下の冷たい視線を少年に、発言と共に攻撃的に向ける。
「ご、ごめんなさいぃ、いいいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」
背骨が軋みを上げるほど、強烈な圧迫。
少女は折れたら折れたで、ソレも良いと、掛け値なしでギリギリの狭間で、ミシミシ言わせている。
普通死ぬが、折れた瞬間幾らかまでに、最高級エリクシールと同等の効果、黄金の歌姫である彼女が歌えば済む事と、高を括っているのだ。
「貴方みたいなゴミが、私とどうにかなれると、本気で思ってるなら、今度こそ身の程を思い知らせてあげる、死、という形でね」
強烈過ぎる優越感、彼女の所持するありとあらゆる劣等感、コンプレックスが解消される。
我慢という我慢を、今の自分が出来る、その真の限界までして、溜めに溜めた、そんな鬱屈した全てが快感に変換されていくのだ。
そんな、人間が味わう事が出来る、悦楽の無上の極致で、頭が根底から真っ白になって、身体全体が歪に強烈な振動をした。
そう、彼女は一番気持ちよくなる為の、”そんな手法”を熟知し、最大限活かせるタイプの人種なのだ、ついでに、少年の脊髄が逝った。
「ごめん、ごめん、残機が一機減っただけだから、大丈夫よ、ふっふ」
へらへら笑いながら言う彼女。
背骨を折られて、一時三途の川を、中ほどまで渡り歩いた経験を所持する事になった少年は今、ただただ恨みがましい瞳を彼女に向けていた。
「どう? 私に殺されかけた、その件について?」
「別に、どうでもいいよ」
拗ねたように、それだけ吐く少年。
「そう、ならまたやってもいいわねぇ」
「っ!!よくないよくない!!やだよぉ!!!!」
「へぇ、本心が、それ、ね、、、また、ムカついたらやりましょうかぁ」
舌なめずりして、色香漂う表情を向ける少女、平時ならば少年は見惚れたろうが、今はそれどころじゃない。
「やだよぉぉ、シャルに殺されそうになる、、、そんな倒錯、流石に、、、楽しめないよぉ」
少女は慈悲深い、そうとしか形容できない感じで、少年の顎に手を当て告げる。
「駄目よ、、、だってこれ、貴方が私に殺意を向ける、そうなる為に、全力を尽くす遊びだもの」
そう言って、くつくつと、腹の底から笑い声を鳴り響かせる彼女。
「無理だよ、絶対に、僕はシャルを、絶対に傷つけたりなんてしない」
誠実で真っ直ぐ、純粋に過ぎる、そんな狂気と妄信の境に位置していそうな瞳とか。
だが中心にある、芯とも言える、至高に位置する愛情を内包していた。
少年の全てからそれが、統合して感じ取れるのだ。
それは至高の人間だけがする事ができる、そんな存在の在り方、だった。
契約と証明、制約と誓約を、無限に無上に、どこまでも突き詰め、ある一線を越えた果てに、たどり着いた、人間を超えた存在、とも言える、崇高な姿だった。
いや、彼女と出会い、重ねた歳月で、自然と、この根源根底は完成されていたのだ、登る所まで登り、辿りついた特異点が、今の少年なのだ。
それは、ある特異物理法則によって説明できる事象、現象、、存在の在り方だった。
人間の根本、価値を認識する機能、欲望と渇望、それが自己よりも他者に傾く場合、他者の為に限界という境界線を超越し、物理現象を、言い換えて自己の存在を、どこまでも引き伸ばす事が出来る、そんな奇跡的な脳の機能の為である。
単一の、自己と存在分類、種類を同一にする存在、この場合、知的生命体”人間”である、そのハードウェアが全く同一なのにも関わらずだ。
なぜ、人間は人間を愛せるのか?
無限に複雑化させて、自己と同一と認識できなくなったから、だろうか?
純粋に可笑しいのだ、自己愛よりも、他者愛を強く感じるのは、ありえない、そう言ってしまえる。
なぜなら、本来、自分を愛する総量以上に、他者を愛する事など不可能な、、、はずなのだ。
物理法則のすべてが、明瞭に”それ”を証明している、なのに、現実は”そう”はならないのだ。
人間から、この世の宇宙の真理レベルの、そういう類の謎が隠されている気がするくらいだ。
「これから出かけるから、そのつもりでよろしく」
「うん、分かった、それで、どこに行くの?」
「教えない、せいぜい、恐怖とかで慄いてるといいわ」
救いがたく、そして度し難い、傲慢な表情でせせら笑う彼女。
彼女の望みは、大概の場合一つに収束される。
この世の謎を全て解き明かし、この現実全てを鼻で笑い切って捨てる、そういう何よりも歪な願望である。




