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オーバーラストステージ‐加速するエンドレスなエンドレス

 

 

 黄金郷、黄金の種族が収める、世界の最上位の絶対領域。


 私は、そこから眺める世界が、何もかも下らない、そう思ったのだ。

 そう思えてしまう自分自身に、酷く絶望した。

 世界というモノの閉塞感、そんなモノは黄金ならば誰でも思う事なのにだ。


 だから、下らなくなくなるように、する為に極めようと思った、

 だが極めれば極めるほど、下らなさも極まる

 この終りのない先に、果たして何があるのだろうか?

 わたしは、それに興味を持った。


 下らなさが極まって、わたしは絶望するのか、それともそれ以外の救いがあるのか?

 わたしは、どちらにしても先が知りたいから、極めた先の終わりか、果てしない希望に向かって、一心に、、、

 


「はぁ、今日も外の景色が綺麗だね」


 彼は、わたしよりも馬鹿だ、そう、馬鹿なのだ、知能が低い。


「こんな景色、ぜんぜん綺麗じゃない」


「へえ、それはどうして?」


「二次元の私は、わたしはそういうのが好きだから」


 そう、彼の見る綺麗な景色ってのは、わたしの脳内の情報よりも、決して優れない。

 だから彼の見る景色に興味が抱けない、

 彼の視点というフィルターを掛けても、わたしには全然彩りを加える要素足りえないのだ。


「くだらない、景色鑑賞なんて、じじくさいわ」


「老成していると、言ってくれても良いんだよ?」


「いやよ、だいたい寒いし、わたしは室内でピアノでも弾いてるから」


 彼はまだ外を見ているようで、馬鹿な奴と思う事しかできなかった。



 ピアノの前に立つ、そして座る。

 その頃には、外のテラスに居る彼が、テラスの縁に腰掛けながら、こちらを見る視線に気づいた。

 おおかた、外よりも君がピアノを弾く姿の方が綺麗だ、とか脳内で思考しているのだろ、ホントくだらない感情。



「所詮は、自分と感性が合った、似た人間にしか、共感も興味も強くは沸けない」


 黄金郷に居たころから、ずっと思っていた。

 わたしは、どこまでも世界に、己という存在を拡散させなければいけない。

 強く感情移入をしなくてはならないから、自分を埋没させるのは、駄目だ。

 自分を極めるのは、ほどほどにしておくべきだ? のかもしれない。


 そう思っているのに、自らを極めなければ、およそ人生は面白くなく、現実は面白く変革できない。


 と、私は、ピアノを弾き極めながら、そう思っているのだ。 



「思っているだけ、私は既に、登れる所まで登って、果てまで至ってしまったっ」



 壁面ガラス張りのステージで、外では雪景色、既に降り積もった後の、白に染まった針葉樹。



 結局は、大部分の、ほとんどの人間は、私とは違うのだ。

 多少なりとも似ていても、大部分が異質。

 IQが高すぎる己を、アスペルガーなどと、心の底では思っているのだろう?

 誰も本心から、私の事を受け入れてはくれないのだ。


 そも、私の定義する普通人、彼らにはリスクが高すぎる。

 彼らにとって、”わたし”は化け物のような存在だ。


 私の意志一つで、彼らは精神が崩壊するような憂き目にあうのだから、当然。

 こんな普通人から見て、多少面白いもの程度のモノの為に、誰も過分なリスクを負わない。

 自分の貴重で、たった一回限りの人生、その時間を与えたりは絶対にしないのだ。


 だいたい前提として、私の興味の対象外なのだ、それがまさに、致命的に致死的。


 人間は、己を見てくれる人にしか、大概の興味関心が無い、はずだ。

 つまり、自分を一心に、でなくても、それなりに関心と興味を持って、見てくれる。

 そのような真心から見つめてくれる人間ぐらいにしか、真に感情が揺さぶれない生き物だから。

 だから、私には幸せの時間が無い、世界は、わたしに対して、何もかもを与えない。


 だから、登らないいけなかった、ひたすらに、ひたすらに、どこまでも。

 感情が乗る限りは、どこまでも、只管に。

 その果てに、私が与えられる全てで、世界に与えつくせば、叶うと思ったのだ。


「そう、わたしは、私の中からでない、世界に与えて欲しかった。」


 そう、所詮は、ただただ只管に寂しかったのだ。

 他人を求めていたのだ、自分で満たされた時空に、嫌気が刺していたのかも?

 少しでも良い、わたしから強く感情移入して得られる形でも良い、他人を知りたかった、 

 直接に感じれたと思えるくらいに、強烈に刺激的に。


「どれだけ世界が矮小でも、わたしが過大に、理想を超越して与えれば」


 価値と意味を、見出せるのかもしれない。

 もしかしたら、なにかしら、返ってくる、帰ってくると、そう信じた。

 そういう運命を、あの時、信じたのだ。

 そうやって、わたしはずっと、なにもかも振り返らず、生きてきた。


 求められる、与えられる、存在とは、なにか?

 それはあるいは、滅茶苦茶に楽しい、おかしい、ギャグやネタに富んだ、面白いものか。

 あるいは、共通項の多い、共感やシンパシー、シンクロニシティーに手間取らない。

 ただ傍に居るだけで、幾らでも、それらに事欠かない、時間をそれほどとられない、都合の良いものか。


 だけど、やっぱり、何もかも、全部が面白くない、

 憂鬱で不都合だ、溢れきって、零れているのだ、今。


 私は、私を見つめる、その他人が嫌いだ。

 私を見つめる事が、それだけで不快だ、嫌悪を醸す、拒絶を覚える。

 ただただ、汚物のような、真性に、ただただ、それだけの存在たちなのだから、もう当然。

 そのような同一の生命として、どうしても見れない相手に、なにも期待できない、愛想を抱けない。


「私は私を知り、相手を知り尽くしているから。」


 所詮は、客観的に見ているのだ、なにもかもを。

 遥かに優れるわたしと、遥かに劣る相手の絡みを見て、面白い訳が無い、そう、あるまい。

 それを私は何よりも知っているから、だから、人間に対してやる気になれない。


 私が求めているのは、同一の強度の生命、ただそれだけなのだ、かもしれないのだ。


「意味も価値も、極まれば、人知を超えて、苦悩するものね、愚かだわ」


 終局にして終曲。

 完全に、生命。

 それをただ、愛でるだけの、コミュニケーションだと思える。

 そのような無知で純真、純粋無垢に穢れがありえない。

 私は求める。

 何時になったら、私は美しい存在に、生まれ変われるのだろう、生まれ変わりたい。

 どこまで登ればいいのか?と。


「偽者の癖に」


 さらさらと、ただ私が”絶対に愛する人”そう、戯れで定義した彼が、隣で、私の金髪を弄ぶ男に、悪態を吐く。


「本物とか偽者とか言っている時代は終わった、時代は価値の本質の強度だ」


 言っている意味が、分からないわけで無いが、無性に偉そうで、腹が立つ。

 今此処で、私が論破して、貶して、不要だと切り捨てれば、死ぬくせに、ムカつく。


「最近は価値が溢れていると思う。

 昔は価値を与えられるのを待つだけの、愚昧な民衆ばかりだったのだが。

 最近はこの通り、価値を創造できる人間が増えすぎた。」


 彼は、己でも、ピアノの旋律を片手だけで奏でた。

 私には遥かに及ばない、稚拙なメロディー。


「そう、良かったじゃない。

 でも、残念ね、愚昧な民衆の方が、コントロールはし易い。

 それにどの道、圧殺されて制御されるなら、馬鹿な方が幸せじゃないの?」  


「僕は、無難な人生を歩み、不幸知らずな人間を、美しいとは思いません。

 善とは、滅私奉公、捨て身になっている人間にしか備わらない神秘です。

 不幸すぎて、何時でも心の底の底では、死んでもいい、そう思っている。

 世界にプラスになるなら、命なんて惜しくない。

 そういう人間だけが、善を名乗る資格があると思います」


 コイツは、私の目を、瞳すら逸らさずに、言ってのけたのだ。


「へえ、面白いじゃない、あんたが、

 それ、その善の、イデアみたいなのと、まるで一つになったかのような、世界の真理みたいなののわけ?」


 胸が震えて、どこまでも共振するかのようだった。

 彼は唇をニヒルに歪ませた。


「この世には、偽善しか無いが信条なのですが。」


 彼との出会いは、あるネットのサイトでだった。

 私がわたしを発信するだけの、何でもない、と言っては難だが、超大手ブログでの邂逅だ。

 私は何時もどおり、世界に対して、自分は孤独だ、愚昧な民衆めと、毒を吐いていたのだ。


 そこに長文書き込み。


〔社会的地位が無いのに、賢いタイプですよね?

 そりゃ駄目ですわ

 周りを見てみろ、社会的地位を維持する為に、馬鹿になってるだろ?


 あるいは、そもそも社会的地位も築けない馬鹿な

 少数派なんだよ、そういう賢い奴は


 大抵の賢い奴は、社会的地位があるな

 お前もがんばって、馬鹿になるくらい働け、努力をその方面に傾注しろ


 さて、そして社会的地位を築く頃には、馬鹿になってるから

 こうして、世界には馬鹿ばっかが溢れているんだなぁ~、ってこの構図が分かるから。


 まあ、お前の望みは、非現実的なんだよ。

 賢いくせに、孤高の存在の癖に、人間とのコミュニケーションを求めるな、と。


 対等に渡り合いたいなら、まずは社会的地位からあげなくちゃならん

 そうすれば、多少賢い奴の比率もあがって、出会えるだろう


 でも、それも難しいよな?


 社会的地位を、賢いまま築いて、人生をバラ色に謳歌できる状態なんて、なぁ


 大抵の奴は、馬鹿になって、社会的に立身する

 賢くて、夢のような楽しい仕事をしている奴なんて、超少数は過ぎて、いないと思えるくらいだよ

 この世は馬鹿と、社会的地位のある馬鹿、あと社会的弱者の馬鹿が、ほぼ全てと思っておけ〕


 死ぬほど、嬉しかった。

 これだけで、既知の色とりどりの人間の関係性を、全てデフォルメしてみる事ができた。


 たとえば。

 劣等感を抱いている人間が、誰かに、例えばAさんに嫌われている

 そして自分は、Aさんとは、比較的仲が良くなれる関係性にある 

 ここでAと仲良くなれば、自分が劣等感を抱く人間に対して、優越感を抱けるのだ。

 そして劣等感を抱く人間が、Aに好かれている自分を見る視線も刺激的だ。


 馴れ合い嫌いだ。

 だが、素以外の何者でもない、この私に、このような態度なら、話は別だ。

 私は、コイツの様子を、ですます口調の丁寧語に変えて、のべくまつなしに続けた。


「こんな駄ブログにコメントなんて書いてないで、

 貴方は速やかにハローワークに言ってください。

 または、続きの反論の話を、じっくり練って、何度も推敲してから、書いてください、お願い申しあげます」


 彼には口癖が、あった。


「本物とか偽者とか言っている時代は終わった、時代は価値の本質の強度だ」


 あるいは、個人的名言集。


「君には、真なる価値がある」


「この出会いには、運命的に意味があるんだ」


「どうやら、僕が一生かかっても、出会えないと思っていた、夢に見た理想の人は、君だったんだな」


「どうか、願いを聞いてくれ、そうすれば、君は僕の一生のお姫様だね」


 そういえば、母の件について、彼とも語ったっけ。 


「自分は母親が居ないのですが、本物って何ですか? 母親の愛って?

 どうせ、それが無いならないで、代償的に他の本物を渇望できるし、求められるのでは?


 自分は母親の愛なんてありませんが、凡人以上に素晴らしい人生を歩んでいますよ?


 偽者っていうのは、ただ単に価値が低いって意味です、価値あるモノを手に入れれば、それだけで良いのでは? 


 本当に無知な人間は、美しくありませんよ?

 無知で低俗、自分では何も生み出せない癖に、本物を知っているだけの、凡人です。


 本物を初めから知っているから、最低限の渇望があるだけで、基本甲斐性なしの無気力ですし、真に真なる本物も、愛情も知りませんよ。


 なぜなら、初めから無い、という状態は、初めから持っている人間には絶対に分からないからです。

 それよりも、初めは何も持ってなく、後天的に本物を身に付けた、努力の人間や、幸運の運命を手にした人間の方が上位存在です。

 先天的のアドバンテージもありますが、個人的には後天的の方が、頭が良い傾向があると思いますね。


 一言で言って、生きている世界が違うんですよ、格違いの一ステージでね。


 奴らは本物を初めから知っているから、不幸なんて本当の意味で知ってるはずがありません。

 逆に、初めから本物を知らず、真に不幸を骨の髄まで知っている人間は、本物をより渇望できるというわけ。」


 ふっと、笑えた。


 既に、こんなにも、ほぼ一瞬、一秒に満たない時間で、こんなにも彼に関することを思考できる。 

 その時点で、わたしはもう魅了されつくしているのを、自覚的に、ならざるをえない。

 彼が好きだ、大好きだ。

 どうしようもなく、理由なんて、まったく必要が絶無にありえないくらいに。

 ただ一人の他人として、好きなのだ。


「どうしたの? 口元が笑っているけど?」


「いいえ、貴方の事が、心の底から好きだと、そう思っていただけ」


「へえ、それは嬉しいね」


「ねえ、どうか、わたしの命を全部、貴方に、この瞬間に捧げさせて」


「別にいいよ」


「ありがとう、たぶん、一瞬後には、貴方の事なんて、また馬鹿な奴くらいにしか、思えないだろうから」


「酷いね、僕のお姫様は、これだから困る」


「もっと、わたしの為に、困ってちょうだい、貴方の苦悩顔だけが、どうしようもなくなるくらい、わたしを唯一に満たすの」


「はいはいわかったよ、けどもう既に、こんな風な君の為に、僕は、常に困りつくしている様に思えるけどね」


「ふっふ、だからさ、よ。

 貴方もこの一瞬間で、どうしようもなく、わたくしを魅了させて、困らせてくださいね」


 同じ強度の生命を求めていた、それは今でも変わらない。

 だけど、わたしが彼を、そのように認めてあげたい、という感情が有り、

 そして、そのような、例えその全貌が歪んでいて、実際には全然綺麗じゃない、醜く、今思う”それ”とかけ離れ、違っても、

 この、今眼前に張り付く、このわたしのフィルターを通してあげれば、

 彼はもっと素敵に成り、キラキラ輝く存在に至る、

 これはきっと、わたしと同じだと、彼を心底から刺激的、感情的に、そう今、彼をそんな風に感じれたりもするのだ。

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