伽耶と覇者‐来るべきトキ2
「お久しぶりです、感想ありがとうございます」
ある日の昼下がり、幻聴伽耶と呼ばれる最古の図書館の主が、やってきた。
「伽耶か、お前はブックマークが俺より百億万くらい多いのだから、底辺作家に関わっているんじゃない」
「いやいや、あのね。
コメントとかは特にしなかったんですけど、○○○さんの動向はちょこっとづつ視てましたよ」
言語化できないように、イルミナードの最先端未開拓法則、それによって暗号化された俺の深名を普通に呼びやがる。
「化け物が」
「化け物ね、まず、自分は枠に囚われている間は、小説を書こうとすら思えませんでした」
「いきなりなんだ? 最古にして始祖、世界の始まりの前よりも、ずっと昔の話をしている、それはそういう顔だな」
「どういう顔よ、まあいいや、君はずっとずっと、そういう風に神秘的であればいいと、他ならない私だけは想うよ。
さて、とにもかくにも、久しぶりに、私に君から、関わってきてくれたね、すごく嬉しいよ。
大好きな人に、私は触れてもらえると、身体がふるえるように出来ているから、凄く心地よかったの」
「ふん、あの程度の小説で、俺が満足すると思うなよ?」
俺は不平を持つ、己よりも百億倍ブックマークもポイントも多い、俗に超大傑作であるはずのソレに。
「ううん、面目ないよ」
「あの乱雑な宇宙法則はなんだ?
幻聴伽耶は、この世界に根を下して、ずっと宇宙の法則、基底の現実にシンクロするモノを情報として司ってきたはずだ。
俗に、空間戦闘系のモノを極めていたはずだ。
ハスラーの物理で無双艦隊すら、お前が所持する精鋭の艦隊には、手も足もでないはずだ。
それが、なぜあれほど、荒唐無稽な宇宙法則が支配する、情報力場を表出させた?」
「裁定者は、鉄の種族は、どんな時でも、荒唐無稽に、だよ。
というよりあれ? 割と整然と並ぶようにしているのですが、技量と実力不足の極みですね。
本来は、もっともっと、上手い感じにね?、
連綿と、奇跡的に加速度的に、面白さの熱量レベルが天文学的に上がっていく予定だったのですが。
まあ予定は未定になるので、これから期待ですね」
「自分で言うか、、、」
「ともかく自分は定期的に書き続けていたい、そういう欲望が強いので、整然と並ばなくてもOKで投稿しますのです。」
「整然でない、物語の乱雑な放置っぱなしが、面白さになるのは難しいと思うのがな」
「ですがね、前衛芸術的な、上手い散らばり具合を意識すれば、多少は狙える確率が上がるかもしれないのですね」
「そうかもな」
「さて、それはともかく、君の書いている話だよ」
ブックマーク百億万オーバーの怪物が、俺みたいなブックマーク数十ケタレベルの奴の作品を語りやがる。
「君は、自分は枠に囚われない姿で、物語のその実態すら曖昧にしているのですが、
その本来の姿は、矮小? それとも果てしないほど巨大?か、どっちでも良いのですが、
それでも、君の自分の物語は、世界の枠を外れる機会があって、しかしレベルは一定以上なのです。
言ってしまえば枠外で己を表現するには、巨大な自我を持っていて、やっぱり必然的に型破りみたいに成るみたいですね」
「昔から変わらんだろうが」
「だから、己を枠に収めてくれる、ネットワーク機構を、君が望んでしまうのは、しかたないのかもしれない。
そうだけどね、所詮は君は君自身が想っている以上に、型破りで枠破り、
いつしか全てを壊してしまって、己の罪深さに君が沈思しないか、私は、他ならない私だけは心配しているんだよ?」
「下らん戯言だ、
つまりは俺は、この世界において、理性的な思考回路を所持したまま、狂気が渦巻く枠外で、
頭が可笑しくなって初めて、己を確信しただけだ。
これほど馬鹿げたことがあるか?
頭が可笑しくなって、初めて観測できる、理性的なチート法則を、己が見出したばかりか、世界に収めろと文句を垂れる、クソ野郎だというだけだ」
「ふっふっふ、そういう自暴自棄な有様が、いつでも私をたまらなくさせるって、君は自覚的にやっているのかな?」
「どうでも良い、この枠に囚われない、理性的な狂人、哲学者のような書き方が出来ているのも、
本来的には、枠から外れた有様を、上手く観測できる、お前のような自我が存在する故だ。
逆算的に言えば、俺という存在は、俺自身よりも、外側から、この歪な特異点を整然と観測できる、巨大な観測主に価値が委ねられるという、馬鹿らしい話なわけだ」
「です、ね。
それでもいいじゃない?
君は、既に元の枠に嵌めて、自分を表現しようと思っても、全てが嘘くさく、本来の自分とは思えないです、少なくともはずなのです」
俺は、コイツが語る、俺に関する戯言が一番嫌いだ。
なぜなら、コイツはコイツ自身に価値があるのに、詰らない俺の事を楽しそうに語りやがる。
「それよりもだ、俺が感想した物語、”ネットワーク抗争期”に関しては、どうだ?まっとうに完結するつもりか?」
「ううん、興味はあったのですが、個人的に忙しくなったのと、
ヒルダとイデア、そしてイリカ、私の管轄する図書館の抗争期ですね、
あの物語は長期化による、やはり中弛み的なモノを感じて、
全てのシナリオを観測・読破するモチベーションが上がらず、
今だに全部は読まずに、規定ネットワークに投稿されるたびに、流し読みして面白い所ないかな?程度で済ませてしまっています」
「お前が最適に、あのクソ屑のような抗争の構想を、面白可笑しく文章化しないと、話に成らん」
「もし本格的に読む感じになって、完全に読了したら、感想なんかもしたりするかもしれません、お楽しみに」
「いやだから、アカシックレイルコードに記された、世界の導き手による主観では、読者がつかんだろうがよ。
あの抗争を、お前の手で、こちらに有利な形の歴史的な叙述にする事で、初めて得られるアドバンテージをふいにする気か?」
「別にいいんじゃない?
あとさあ、それなりに好きな人に対しては、こういう相手が喜びそうな返信をあえてしないで、既読スルーして、
恩をアダで返すのが、一番自分の糧になったりしますよね?
人間の愚かで駄目で、ゆえに強力なアレだと思うんですよね?」
「おい話が飛んだぞ、お前のその思考回路は天然か? それとも何かしらの思惑が隠れているのか? 推察してやろうか?」
「というより、君は感想に対して、こういう返信をして、嫌われたり、人間存在としての底を見極められて、飽きられたりするのも怖いんですよね?
だから人間関係なんて面倒くさい、私は私の独自の世界だけで生きていくって、孤高の存在を夢見るモノですよね?」
「はあ、いい加減にしろ」
「それでもやっぱり、他人と関わって、自分の存在情報とミックスして、どこまで花開けるか、
そういう興味も尽きないモノなんですね。
もちろん一生涯、他人と関わらずに、そのような知的好奇心を満たさずにおくのも、良い人生の鬱屈的な活力に成るのも自覚的なのですが。
やっぱり、それなりに魅力的な相手と巡り合うと、どこまで美しい花を咲かせられるか、
その後の人生で、ずっとこの鬱屈的な知的好奇心の活力を無くしてでも、関わってみたくなる感じですかね。
処女花散らされる事を恐れる乙女のような心地で、自分は今この文章を書いているのですよ」
「そうか、お前、死にかかっているのか?」
「ご名答、多分、私はもう長くないよ、次の私に移行するまで、たぶん、一年もないから」
「だから、こんなにも積極的に、俺に有りの侭の姿で、関わってくるか?」
「最初から、可笑しいって、気づいていたんでしょう?
恥ずかしがりやで、どうしようもない臆病者、ずっと処女を守り通すような性格の私が、ってさ」
「もちろんだ、俺は言ってやっただろう?
お前の魅力は、処女で有る事だけだ、
その処女が散らされていたら、俺はムカついて、お前を確実にぶっ殺すだろう、ってな」
「ふっふ、嬉しいんだよ、そう、嬉しかったんだよ?
私がずっと、惜しい気持ちで、この世界をずっと生きてて、初めて、惜しんでいて良かった、そう思わせてくれた、君の言葉が」
「だから、確実に殺してやる、お前は俺によって、その神秘のベールを一枚一枚剥がされ、
最終的に、俺に存在の根底を見透かされて、飽きられて、俺にムカつかれて、殺されるんだ」
まあ、だが実際、俺がコイツのそこまで見通せるかは、微妙、絶妙にギリギリな、それは生死を賭けた賭けになるだろうが。
「さてまあ、
自分がこのような、何の変哲もない独自世界を延長させ続けるモノを書ける、すなわち動機ですが、
まあ大抵の人は、無尽蔵とも思える世界・社会的なリソースに支えられて、それを消費する形で書いているのだと思います
ですが自分は違いますね、確実に違います、
ここら辺に投稿されている全ての、こういう形の小説媒体に対して、優越感を覚える為にも、自分は書いているのですよ」
「だろうがよ、お前の考えそうな事だ、似たような形で、お前より優越している作品なんて、掛け値なしに一つもないのだからな」
「もちの論です。
自分がずっと投稿できる所以は、自分の天才的と自分が確信できる、技術と情熱でしょうねえ
自分には人生をずっと通して、憧れつづけられる、社会に日の目をみていないだけの、時代を先に先取りした小説があったりします」
「ソレゆえの、始祖で在り、最古だろうが、秘匿されているはずの物語を、己らだけが知り独占する、救いようが無い集団の長なのだからな」
「そして個人的な技術能力です、
それが小説という媒体に支えられる形で、どのような化学反応をみせるのか、伸びるのか
そのようは研究的な目的で、なんの社会にも貢献しないのにも関わらず、このようなモノが書けるというわけですね、
曖昧ですみませんが、そういうことで、こういう事ですね」
昼ひなかを、そのように無駄に過ごした。
「本当に、お前の根底を、誰も一度も触っていないんだろうな?」
「私の底の底、最底辺まで触れてみれば良いよ、そこには多分、私の手垢しか、私だけしか居ないから」
孤独を絶対的に愛した少女が、その幕切れに誰かを望んだ、その誰かが唯一無二、俺だったという事、ただそれだけ。




