至上の観測手の暴走★★★
過去、私は、大好きだった人に大好きだと告白すれば、そこには無上の愛が発生するのだと信仰していた。
だが現実は無情で、愛情すら数値化され、絶対的な価値観に縛られてしまうモノだと知った。
そして空白のトキという、現実がある事を知る。
この世界には、代償としての情報が無ければ、無上の拷問にも等しい不幸に、全知性体が直面する危機が有ると。
だからこその、絶対人間宣言と、超人化計画の、絶対なる完遂。
至高の観測者として、私は全人類を滅ぼさなければいけない。
「生きているモノは、一人残らず、なんの抵抗もままならない内に、皆殺しの憂き目にあえばいい」
特異点という、無限大熱量を創造し、己を神へと至らせる道。
全てが無に帰する事が可能ならば、それは成るのだ。
「私は私という意志の下に、全存在を統合させる」
その通りに、全てが私の脳内妄想ならば良い。
そうすれば、全てを私の望み通りに、幸福で平和、愛に満ち溢れた、完全なる世界に変貌させることができる。
そこには私しか居ないけれど、ソレで良いのだ。
無限大に無限大が広がり続ける、至高の観測空間、それだけが在れば、至極良いのだと心の底から思い願う。
「おい、何寝ぼけた事を言っているんだ? この俺様が、そんな破滅をみすみす見逃すとでも?」
やはり来た、イリカという女。
メサイアオブサンクチュアリ、あるいはカオス。
この世界を外側でなく、内側に求道し、全てを自我のみで超越、世界すら呑み込むほどの特異点的な力場保持者。
「アルドが消えて、メサイアのカギの行使、それによる熱量が、既に第七世界を上回る特異点に成った」
「だからどうした?」
「この世界を、滅ぼさせて」
ありのままの心情を吐露する。
「永遠に生き、永遠に苦しみ、永遠に喜びを感じれない身体、そんなモノを引きずって、我々人類は、一体何を成そうというの?」
今まで強がってでも、己の本心を封じ込めてきた、他人の喜びが己のモノだと、ばかばかしくも幻想していた、いたかったのだ、
だがしかし、遠く永遠の距離を隔てた他人を、所詮は他人、わたしはわたしにしか成りえないのだと、知ったのだ。
「既に、カギは機動したわ、イリカ、貴方だけよ、貴方だけは、わたしの苦しみを理解してくれる、片割れのトモガラ、そうでしょう?」
「バカバカしいな」
イリカは言った、それは狂気的な渇望を成す、ただただ永遠に縛られる私とは、対極の意志、そう直観的に悟る。
「確かに、この世界は無限に破綻・破滅・崩壊し、生きるに値しない、ゴミけらのような場所だ、
だが、それがどうした?
詰んで、詰みに詰みまくった有様で、それでも生きるから、楽しいと違うか?
俺様は断じてやるよ、面白い事も、楽しい事も、可笑しい事も、なにもない世界を、ってな」
「生きろと?」
「生きようや、佳代、お前はどう考えても、ここで絶望して終わる玉じゃねえだろうが?」
ハッキリと分かった、完全に決別した、この方はおそらく、私とは対極の、思考停止した馬鹿野郎だ、と。
「そう、死になさい、長い間、ごくろうさま」
片割れでも、カギはカギ、破滅の余波で無くせない、ならば意志を呑み込む。
このような薄ら笑いで、世界の真理を知った気に成る、おそらく青二才にも劣る雑魚に、わたしは精神力で優越する確信がある。
「駄目だな、その程度の絶望、空白のトキをやはり、後天的に育まれた外世界で送っていたから、この程度の熱量で甘んじる、女に成ったわけだ」
女、それはつまり、消えたアルド無き今、このように暴走している私を指す。
そして、内世界、己の身を礎として完成させた、イリカの世界、それが私を撃ち滅ぼす、そういうことか。
「だから? どうしたの? 依存していた男が消えて、世界の初めての残酷さに、今さらに気づいて、嘲笑えばいい、可笑しがればいい。
私は間違っていない、
貴方のような、自分だけの安住の特異点を持つ存在には、世界の外側で、世界に直接触れて生きている、私たち真っ当な人間の言葉なんて届かないんでしょう?」
「世界ねえ、俺様的に言わせれば、今だに時代遅れの世界で生きている、取り残され組みだろうが」
「世界を糧にして、生まれた癖に、世界に依存していなければ生きれない存在を見下すな!!」
確かに、確かに確かに、私だって考えなかった訳じゃない、外側への広がりでなく、求道の選択肢を。
だがそれでは、余りにあんまりだ。
世界を選ばずに、己の脳内妄想を選ぶなど。
「そう、所詮は同じだって事だ」
「え?」
「この世界を脳内妄想で満たしたい、今のお前と、わたしの選んだ究極的な選択肢、だよ」
その瞬間に、わたしの展開する全ての力場が消滅した。
「まあ所詮は外世界出身者ってとこだな、人間同士のつながりが無くなり、存在が希薄になれば、己のホームグランドでも、この様だぜ」
負けたのか、、わたしは、三千世界を手中に収めて、全てを繋がりのみで演算できる、至上の観測手足る、このわたしが、、。
「ううぅぅ、、、アルド、、、アルド」
「はあ、所詮はそれかよ、くだらねえ、自分以外の他人に、存在の拠点、特異点を置かなくちゃ成り立たねえ、脆くも愛おしい、人間らしいじゃねえか」
イリカはわたしの頭を撫でた、うざったいと撥ね退けても、何度もなんども、何度でも。
「しょうがねえから、俺様がアルドを探してやるよ。
まあそれまでは、この小さな箱庭で、自分を慰めて、トキを過ごすんだな」
残酷な宣言だった、今だって、一秒だって待てないのだ。
彼が居ないのなら、無限大に死んでしまいたい、殺された、苦しみたい、何もかも変え尽くし、変わりたいのだ。
この時間を、わたしは空白のトキ、千回分よりも長く感じるのだった。




