アンジェ編1‐イルミナード王国防衛譚
魔軍の進撃が収まる所を知らない、異世界。
俺は召還された、沢山の元世界の人間と一緒に。
極寒の冬コミケから、こんな場所に連れてこられて、気分はブルーだ。
召還師たちの、大規模精霊召還において、事故ったらしいが、ふざけるな。
「まあ、戦いますけどね。」
「なに言ってるんだ?」
眼を向けると、一人の少女が佇んでいた。
彼女の名前は、
アンジェリカ・ヘルベルアルミト。
「独り言か? あまり趣味が良いとは言えないな、慎め」
「へいへい」
「そういう返事も、どうかと思うぞ」
銀髪碧眼の、現世では実存が怪しいほどの、美少女、いや美女か?
というか、この少女の事は、召還される以前から知っていた。
それはゲームの話だった。
まあゲームといっても、現実と余り変わらないレベルで、精巧に作られたVRゲーム。
概要は何百ものヒロインが集う、ソーシャルネットワーク的なエロゲーである。
プラスアルファ的要素として、MMO的な、陣地奪取・領土合戦的な趣のある、王国防衛ゲーの側面だ。
特に人気なのがコイツ、だったけな?
どうだったか? それなりに人気だった、はずだ。
「アンジェ、そういえば、オークは好きか?」
「好きなわけ、なかろう、むしろ、大嫌いな部類だ。」
「そうか、殺すのは?」
「うるさい奴だな君は、見るのも嫌いというに」
ちょっと、変にお喋りをしていたら、好感度を下げてしまった。
あと、この世界にきてから、特定の、こいつの様な奴には、ハートパラメータが上に表示されていた。
見ると、今すこし下がった気配だ、全体的に30~40%の案配だ。
「アンジェ、俺のこと好きか?」
「つぅ、うるさいね、なんなのだねぇ? さっきから、君の顔など見たくも無いよ」
恥ずかしくなったのか、顔を朱に染めて、逃げ出してしまった。
さらに、下がった感じだ、まあいい、後で埋め合わせすればよいのだ。
「VRゲームで、しかも、、、である、なにをか言わんや。」
日中や、所構わず、むしろ羞恥プレイ風味で、である。
他にも、わざと彼女を戦場で孤立させて、触手地獄、の憂き目に合わせたり。
それから、先ほど話に上がったオーク、
こいつは弱いのだが、束になって掛かられると、厄介なタイプで。
王国近衛兵、隊長クラスのアンジェでも、複数によって集られると不味い。
乙なプレイヤーは、戦場で血と汗を撒き散らすアンジェを、王宮のテラスから見つめる。
オークパートって奴は、王宮まで攻め込まれて、アンジェが孤立した状況のみで発生するレアイベントだったな。
そうして、袋叩きにあってる少女騎士を助けもせずに見つめて、安全なテラス上から愉悦の笑いをもらすのだ。
「お前は、なにを不気味な風味で笑っているのですか? 気持ち悪い」
俗な妄想に耽っていたら、なにか戻ってきたアンジェ、少女騎士の端正な顔があった。
素直に、「お前がヤられてるトキの、舌突き出した、だらしないアヘ顔だよ?」って言ったらどうだろう?
普通に、斬り付けられそうである、やめておこうか。
てか、好感度さがったな、そんなにヤバげな気持ち悪さだった? 若干あせる。
「いや、お前の、事を思っていたら、つい思い出し笑いだ」
「っ、この無礼者、私を馬鹿にしていたのか?」
「ち、ちがうぞ、アンジェの普通の笑顔が、あまりにも可愛くて、心が和んでいたんだ」
「うぅ、そうか、そういう意味か、紛らわしい奴。
だったら、初めからそう言え、、、ゆるす」
頬を染めて、うれしげに口元を綻ばせている。
喜んでいる悦んでいる、好感度が先ほどのマイナス、全部挽回するくらいで上がった。
この一々赤面する所も含めて、本当にゲームのキャラクターっぽい感じだ。
アンジェは、多少は整合性のある人格だが、やはり翻ってみて、やっぱり不自然さがある。
むろんそれは、俺にとって悪い意味ではないが。
実際の話で言うと、アンジェはお堅い少女騎士で、一筋縄で済まない。
ハイロジックなクールツンデレみたいな、擬似人工知能AIを搭載している、格ゲーの強キャラみたいな奴なのだが。
俺は前世で、この少女と散々にお喋りして、口説きのテクを鍛えてるのだ、ちょろいちょろいっだ。
ちなみに、アンジェの攻略何度は8だ、マックス10だ。
しかし10なんて、あまり見かけないし、事実上、この少女が最高難度と思っても良いだろう。
「君は、これから戦いだが、緊張しているか?」
「もちろん、武者震いが止まらないよ」
「そ、そうか、あまり、そのように見えないが、そうなのか。
だったら、私流の、独自のおまじないをしてやろう」
「本当に利くのかな?」
「あ、当たり前だ、我が家の秘伝の、という感じの、効くやつだ。
すこし、眼を閉じてみてくれ」
「キスするんじゃないの?
これから血みどろの戦いなのに、それって、なんか気が抜けないかな?」
「っ、このっ、私の親切心を無碍にして、この馬鹿!」
また、どこかに行ってしまう。
好感度が下がった、だが、これは狙い通りだ。
俺はあまりに、アンジェを攻略できすぎてしまう、きらいがある。
そして好感度が一定以上高まると、キャラにもよるが、しきりにエッチを誘ってくるようになる。
平時ならいいが、戦闘前は、さすがに堪えたい所だ。
正直、あんな美少女に誘われたら、「決戦前でも、ちょっとくらいならぁ、、」と思ってしまうので。
つまり、しっかり理性をもって自重できた、俺えらいな。
「君、飲み物でも、どうかね?」
また戻ってきた、甲斐甲斐しく、世話焼いてくれるキャラでもないが、好感度が高いのだろう。
「ありがとう、いただくよ」
陶杯に入った、お茶のようなモノを頂く、飲む、普通の味だ。
「ちょっと、横に座らせてもらう」
「どうぞ、どうぞ」
微妙に、擦り寄ってきて、肩が触れ合うくらいに、なった。
「君は戦ってるときに、なにを考えているのかな?」
「アンジェの方こそ、どんな事を?」
「わたしは、姫様の事を考えている」
「そうだったのか、それはなんで?」
「私は姫に拾われて、王国に忠誠を誓った身だからな」
確か、孤児だったアンジェを、姫が拾って、という設定だった、はずだ。
騎士団に入ってから、ぐんぐん頭角を現して、姫に恩返し奉公する、という流れの、少女騎士だったな。
「いいじゃないか、俺も姫様を守りたいと、そう思う」
「ありがとう、私も、本心から、そう思う、共に王国のために、剣を取ってくれて、ありがとう」
また、ぴょっこんと、割と大きめに、好感度が上がった。
あと一メモリくらいで、エッチせがまれそうだ。
そろそろ、夜も更けてきた、戦う前にもう少し、しっかり一睡を取っておきたい。
「それじゃあ、俺はちょっと休むよ、おやすみ、アンジェ」
「ああ、おやすみだ」
お互い手を振って、その場で別れた。