-二日目
次の日、普通に目覚めた、10時である、正確な体内時計が俺にそう告げた、実際にそうだろう。
「おはよう」
横を見ると、女がいた。
朝日に照らされ、滑らかな黒髪を垂らし、微笑むその姿は天使か何かと錯覚しそうになる。
もちろんソレは錯覚で、10時までずっと、正座して俺の顔だけをずっと見ていたコイツである、ホラーである。
「おはよう」
適当に一言だけ、礼儀で義務で返事をし、冷蔵庫を漁る。
昨日はあれから気疲れもあって、絶食状態、一日なにも食べていない計算である。
そんな中で、冷蔵庫を開けたら、水以外になにもない事態を目の当たりにした、俺の絶望をどう形容しよう。
「ごめんなさい、買い物に行くわ」
「いや、行くなよ」
状況を把握している癖に、把握していない振りか、はたまた頭が純粋に悪い鈍いのか、どっちだ、、、答えはない、どちもなんだろうか?
まあいい、買い物は駄目だ、正規の食料品店では、足がつく、てか馬鹿なのは俺か、コイツに買いに行かせればいい、ってのは馬鹿の考えで、コイツも四夜の血統、分家とはいえ、不審な買い物記録にはマークがつく可能性も考える必要があるあるだろうか?
「非正規の食料品店をしらないか?」
「めんどうだわ」
言って、ツカツカと靴を履き、外に行ってしまう。
あーもう、どこで間違えた、このパターンは、拗ねたか、単純に詰まらない事を多く抱えた時の反応だ。
面倒な女が、機嫌を悪くした、そういう状況あだ、そうとしか形容できん。
「あー待て待て、捕まるから!」
近所のスーパーで、トマトの60円とかいう、久方も何も、買い物なんて自分でしない身分だったので、久しぶりに見た安さに驚く。
驚きつつ、全力でモーターバイクを漕ぎ、俺は走って追った、スーパーに華麗に自転車を止めて、向かった女の手を掴んだのが、そのトマトの最後の一個を女が取った、そのシーンである。
「買い物するのよ」
「いやだから、するなって言ってる」
棚が空いたので、おばちゃんの、いやお姉さんだったが、、どっちでもいい、棚替えロボットが棚ごとデラックスに変える。
この手法、裏でロボットが、棚ごと商品を詰めて、纏めて入れ替える手法とか、なんかの大昔のネットが当たり前にできてた頃の記事で見たな、とか思いつつ。
「ちょっと待て、どういうつもりだ、戻せよっ」
割と本気で慌てて、言うと、女は素直に、トマトを戻そうとする、しかし既に棚ごと入れ替わっているので、当然置き場所がない。
それに目ざとく気付いたお姉さんが、胡散臭そうに、今日のトマトは活きがいいですよぉ~、とお決まりの営業トークをする。
はーー、なんだこれ、戸惑った女が、それでもトマトを戻す気だと判断した、おばちゃん、いやお姉ちゃんね、はガックリとした顔を隠せず、裏の方に、さきほど棚がしまわれた方に行った、多分何らかの面倒な処理をするのだろう、詳細は知らんが、罪作りな女だな、まったく、と思った。
「どこにいくの?」
俺が自転車置き場にいき、息を整えていると、やっと買い物の衝動に落ち着いてきたのか。
いやアレは衝動だったなマジで、この女、たぶん俺と二人で買い物でもしたくて、ずっとうきうきと待っていた。
そして俺が起きると買い物するなと言って、キレて、このキチゲ開放の祭りである。
そう推理した、当たりかどうかはしらない、確証が持てないのが割と凄く気持ち悪い、この女の頭は、軽く電波なので、それなりに頭の良い自覚のある俺でも読み切れないのが難点か、これほど付き合いが長くなれば、読めてもいいだろうに、無駄に複雑化して、メルヘンも入っているのだから、始末におえない。
「ここ以外の場所」
そう答えた、とりあえず、ここ以外の場所なら、今はもうどこでもいい感慨だった、だってここ四夜家の運営する直属の店舗だしな。
「知っていたわよ」
知っていて、なぜここに来た、怨念も混じり始めた俺の熱視線に、女はスルーという華麗なる対秘術をみせてくれた、実に楽しそうですね。
「ちょっと、待て、ココは危険だぞ」
女がAI特区に入り始めたのを察して、そう声をかけた、ちょうどその時である。
ドシャアあああああああ!
既にAI特区の入り口、入っていたが、その十字交差点の向こうがわ。
車が横に横転した、どうしたら横に横転するのか、見てなかったが、左右にハンドルを切り過ぎたとか?分からんが、たぶんその辺。
そして工場っぽい建物を、その車体で抉った、そういう光景が映し出された。
「言わんこっちゃない」
ここAI特区、AIが勝手気ままに生きて良い事になっている、だからああいう事が起こる。
低性能のゴミのようなAIが運用され、自動運転に、完全自立制御、なんでもありだと規制要綱を見た俺の感想だ。
おおかたアレも、低性能の人工知能か、人工知的生命体にブラック労働をして、壊れたか、本当に詳細不明だが、その辺。
「出てきたわよ?」
状況を数十秒見ただけで、分かる、相手もAIだ、事故した方もAIなら、事故を受けた側もAI.
多少の金銭のやり取りを行った後、一分もたたずに事故はまるで無かったかのように扱われ、交通渋滞も起こらない。
工場で働いていたデカい人工筋肉でモリモリの化け物みたいな奴が、車を外によっこらしょと運び、そのまま車も進んでいった。
そう、これがAI特区、人間の、しかも生身の人間が立ち入る事は基本的に自殺行為の場所なのだ。
ここに立ち入る位なら、海外の犯罪パレードのスラムを歩いた方が、まだ生存確率がマシだろう、そこがたとえ死亡率200%で一度入れば二度死ぬ場所でも、ここよりかはマシなはずだ。
「貴方、考え過ぎよ、今のは、、、ちょっとした不幸な事故で、それほどまでには危険は、なくもなくはないないはずよ」
お前もバグってるじゃねーか、その確信の無いセリフで、俺を安心させられると思うな。
とか言いながらも、腹の空腹はすでに限界で、女にしぶしぶ付いていく情けない俺。
「どこに行くんだ」
女は無言で、次は俺が思考を読む番なのか、「ついてくれば分かる」、恐らくその辺だろう?
「ねえ、吊り橋効果って知ってる?」
はい理解した。
つまり、この女、、、まさか、ここに来る意味はない?
つまりつまり、この危険地帯に、二人で飛び込んで、命の危険を共にする事で、俺達の関係性がより特別になるとか、勘違いしちゃってるとか?
いやまさかまさか、そこまでこの女が馬鹿だとは思いたくない、思いたくないが、コイツの前科を思いめぐらすと、ワンチャンでなく、ありえそうな話であるのが怖い所だぜ。
「ほら、貴方の好きな店舗があるわよ」
指さす先には、ロボットみたいな、まんまスター〇ォーズに出てきそうな、全身テカテカしたロボットが交通整理している、大通りに直接面していて、客足も悪くないようなスロットパチンコ店があった。
「いや、興味ないが」
「でしょうね」
とか言いつつ、先に進む女。
そんなこんながあった、アレ以降は、特に何もなく、無駄に命の危険のある危険地帯をコイツと一緒に歩かされた。
ただそれだけ。
その後。
「ありがとうございます」
「いいのよ、美優ちゃんには、日ごろからお世話になっているからね」
団地、低層建築の密集する、例の場所。
ところどころに、畑らしきものがあり、そこら辺をめぐりながら、ボケ入っている優しそうな御老人から、の施しにより食料を手にする女の姿があった。
「これから、料理を作ります」
場所は低層建築の団地地帯の、支配者の塔、7階建ての鉄筋コンクリートの昼間でも絶妙に昭和臭の漂う五階の一室、見ためも向こうと大差ない、ちょっと広く手狭に感じない低度か。
エプロンを撒いて、ポニーテイルに長い黒髪をゆんだ、そんな姿を後から見ていると、普通の男なら、あの女の色香に惑わされて後ろから抱き着きたい衝動に駆られるのだろうが、生憎と俺にはそんな感情は湧いてこなかった。
あの女が、屋上の向こう側に毎日いて、一瞬で自殺できる場所から、精神的優位をとられて、それは当然だ、精神的に高揚している相手、リア充にハイなテンションで話しかけられる陰キャオタクのようなイメージが分かり良いだろう。
饒舌な自殺志願者に毎日のように接し、俺の、俺だけの聖域が汚される日々。
体がぶよぶよで、自分のモノではないかのよう。
女として十二分に魅力的に成長し、何を言っているのか、母親が夜の街で働き、そののちトラブルに巻き込まれ惨殺された、自分もそう、なる、ような前提の話だったが、どう見ても、この女が夜の街で働く様子はない、あれは嘘だったのか?
「できたわ、食べて頂戴」
思っている内に、飯ができていた、途中の脳内には特に反応もなく、黙々と作ってくれていた。
「毒は、入ってないよな?」
「入れて欲しかったの?惚れ薬も毒と言えるのかしら」
うるさいな、まあ食うが、あむあむ、もぐもぐ、むんちむんち、むしゃむしゃ、パクパク。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした、、、、感想は?」
特にないので、またベッドに横になる、そもそも俺は食などに現を抜かさないタイプだ。
あの地獄で、ありとあらゆる生理的な欲求は悪だと決めつけ、ひたすらに勉強していないと殺されていた世界だ。
命が掛かった試験で、5日貫徹した日には、もう生理的欲求と無縁の悟りの果ての仙人のような心境を手にしていた自覚もある。
「ねえ、遊びましょうよ」
その後、等価交換があった。
第一に、俺を匿うのは同意してもらえた。
第二に、俺はこの女モノになる。
第三に、子供を作る事。
どうやら、相当にお熱だったらしいな、俺に。
本気で子供を作って、俺が離れないようにしたいらしい。
別に子供なんて作っても、普通に捨てるが、俺は。
出来てみないと分からないとか、そんな話はない、だって俺はそういうものを簡単に切り捨てられる人間だ。
コイツもそれが分かってるはずだ、思考が正確に読み取れる、読み取られた今までの経験的に分からないはずもない。
つまり口ではそう言っているが、本心は本音は、ただ俺との絆?俺との子供が欲しいだけの、ただの女のような発想だな。
「うっふっふ」
コンビニに来ていた、AI特区のだ。
特に外のコンビニと変わらないが、中身は全然違う。
人間の時代から、実質AIの時代に変わり、これからはAIが人間を牛耳る時代だろう、内部のシステムも決済の金の流れも、個人情報も、人間サイドには伝わらない仕組みだと心得ている、知っている。
つまり、コイツが色々と買っていた中の、妊娠検査薬的な道具も、なにもかもバレないという事だ。
「できているかしら?」
ウキウキな、らしくもなく目に宝石や星星が瞬いていそうな顔だ、ホラー声も今は鳴りを潜め、年頃の女の子のような姿を晒す女。
「知らん」
いやまあ、出来ているんだろうなあとは、思う。
俺が疲れるから、やるなら絶対に俺の体力が消耗しない感じでしかしないと言った。
萎えるかもと思って、一縷の望みを託して女の反応を伺ったが。
その後三日、三日後は、特に何もして記憶がない。
ずっと、三食全部、すっぽんドリンクだった記憶がある、あとは栄養補助食品の錠剤、女の言ではコレで人間一人、一匹は適当に健康に生きれるらしい。
健康に生きるために必要なビタミンとミネラル、計30以上を、吸収率が高い有効成分と一緒に飲めば、訥々と栄養学の本も一緒に横で説明された。
「体から、あの女の匂いがする」
吐いた、免疫がないのだ、人の身体には。
風呂場で、何回も吐いて、少しは落ち着いた。
俺にとって、人間は肉袋なのだ、だって、そう考えないと駄目だから。
俺は人を殺すのだ、これからも、恐らくそれは変わらない、日常的に人を殺す、殺す殺す殺す殺す。
そして、殺す。
そんな俺だから、人にはあえて、触れてこなかったのに。
あの女のせいで、それも壊れそうになっている。
いや別に、そんな程度で俺の精神が壊れるわけないが、体の方はそうでもないらしい、体が嫌がってる、拒絶反応を示している、生理的嫌悪だ、なら別に精神で抑えれると思ったが、どうやら思っていた以上には重症だったらしい。
吐いて気持ち悪さが落ち着いて、むしろ精神力で押さえつけて、強靭な精神というのは、こういう時に役に立つ。
軽く精神崩壊しかけたような気もするが、大丈夫、俺は俺だ。
四夜家、最高の呪い師、四夜拓海、何も問題はない、そして生きている、、、ただそれだけ。




