デス・ワールド-四夜家の次男
「はあー、だるかった」
学校から帰って、全寮制なので、寮に戻る。
まあ、ここもここで面倒なんだが。
決まり事を鬼の規則のように守る。
さらに、不可思議なルールによって、部外者をつり出そうとする、意味不明なアレコレもあるが、そこはあまり気にしない、そうすれば心穏やかに、金のない貧乏状態の俺には幸いだ。
4階に俺の部屋があるんだが、ちなみに444号室、誰も入りたがらない故、俺なんかの途中編入組でも寮に入れた。
そこに至る、階段フロアの一階一階に見張りのように配置された不良学生のような見た目のヤンキー。
そいつらが、なにかと質問し、事前に通達されたアホらしい暗号染みたやりとり、コレをしなければリンチである、まあいい、俺は問題なく正真正銘の寮生で言霊を解し守れるのだから、ただ面倒なだけだ。
「おお、やってるやってる」
なぜか、この寮に忍び込もうとする、”やから”がいるらしく。
あのように定期的に血達磨になっているのを目撃する、死んでいるのか、いないのか、あまり関心もない、同情もない。
この寮がもつ特殊な立ち位置、シガラミ、すべてひっくるめて興味がない、俺とは果てしなく離れた世界の、バックグラウンドの御話だからだ。
「俺に必要なのは、ただ平穏無事に生きる事だけなんですわ」
特殊なメールが送られてくる、俺は内ポケットから端末を取り出す。
これはスマホなどではない、スマホはとうの昔に禁止された、もちろん違法に作られた、見た目それと分からない偽装が施された、機械端末である。
手紙のやりとりも、およそ禁止され久しい、逆に健全になりすぎた、有害・禁書図書規制法による。
偉い人間が言うには、AIやコンピューター、発達し過ぎた人工知能により生成された文章を見ると、刺激性心疾患やら、高度なマインドコントロールによって致命的な障害を負うらしいが。
そんなものがあるなら俺は是非とも受けてみたい、試してみたい側なので、このような規制には大反対、言ってて虚しい、現実になにも影響力もない戯言だ、たわごとだ、忘れてくれよ。
「はー、たいくつ」
家の指令された、業務をこなす、それ以外に特にすることは無い、ネットも本すら禁止されて久しい超現代社会。
同年代のくだらないダチと絡む気もおきない、頭の空っぽの会話を学校ではするが。
根本的に生きている世界が違う、というのもあるが、奴らの薄い人生で薄まるのを嫌っているのか、根本的に見下しているのか、どうなのか、特に深く付き合うつもりが湧かない、ゆえに退屈である、本末転倒気味か。
突然の自己紹介だが、俺の家は呪い屋だ、のろいと読みそうだが、正確には”まじない”と読む。
四家という特殊な家なんだが、血統者は人を呪い殺せる、嘘のような本当の話だ。
正体も詳細も不明なんだが、できるもんはできるもんと受け入れ、俺も状況に素直に適応している、ただそれだけ。
そして今日も、機械端末から送られてきた、顔と必要な詳細情報をもとに、人を殺した、ただそれだけ。
「あー、だるかった」
今更、人を殺してどうした、とかいう、うんぬんかんぬんの、感慨もない。
思えば、最初の殺しの時も、既に何も思わないくらいに、俺は擦り切れていた。
新米が被るだろう”人一人殺した”という感触も、”あの施設”出身というだけで、とうに過ぎ去って当然だったのか。
この呪い、扱うには相当に才覚と才能が必要らしく、言葉を操る3歳の頃から、既に選別されていたのだから。
四家は、その膨大な金と人脈で、都市近郊の一角で、人間を飼っている。
正確には大量生産と言った方が正しいか、限りなく優秀な、それもとびきりである。
呪いの継承には特殊な条件はないが、一度、継承段階に入ったら取り消せず、扱える呪いの強度と寿命は、良く分からない選定基準に依存する、原風景とも言うべき”心象”が深くかかわるらしいが、詳細は全くの不明だ。
まあ、そこで地獄のように詰め込み教育をされ、落としたら命も落とすと知らされる、4歳児にして大学受験レベルの問答を矯正され、数多の屍の上に、俺は居る。
「だから、どうしたって話しだ」
こんな話を誰したところで、どうにもならない、俺は俺であり、人殺しであり、これからも幾万と人を殺し続ける殺人鬼だ、ただそれだけ。
そうただそれだけ、だから生きている、生きているだけで、ただただ満たされる、そういう心境だ、そういう心に最終的に、俺は至った、これだけは俺が選んで、自分で決めた事だ。
ただ平穏に、好き勝手に、自分の事を自分で決めらる、その最低条件を満たせるなら、なにもいらないと、そう決めた。
地獄で、ありとあらゆる欲求を、生理的欲求まで律し、その果てに人をあやめる、そうしなければ生きていけない人生を歩み、決めたのが、それだ。
俺は平穏に生きられるなら、それでいい、そうそれだけで良い、良かった。
これからもソレは変わらないだろう、確信できる、これは生半可なもんじゃない。
これをこそ呪い屋の集団が俺を選んだ、継承条件じゃないかと睨んでいるんだが、考え過ぎかね?
「いったい、何があった、、、」
不可思議な第六感、こんな話を誰にしても、誰も信じやしないだろうが、俺には絶対に当たる第六感がある。
たとえば、事故に合う列車に乗ってれば、強烈にヤな予感がするだろうし、いや事故にあう列車に乗った試しはないが。
とにもかく、嫌な予感はあたる、そしてアレから、空前絶後の嫌な予感に身震いし、動物的本能の導かれるまま、寮を出た。
門限を破ると割と面倒なんだが、それでもだ、純粋に死を予感するレベルで、アレはヤバいと確信できた。
「しかし、俺、いまさら死を恐れるかよ」
機械端末を弄り、親に連絡を仰ぐが、だんまりだ、あの〔クソ〕、心の中でも一応は仮面を被ると決めている前提なので、心の中でも心の中で思っているテイだ。
兄貴は「死ね」とだけ返ってきた、これをあの〔クソ〕兄の温情だと勘違いするのは、今という精神が不安定になって当然の事態に対する精神錯乱状態を暗示しているのか、一考の価値はあるが、とにもかく。
「兄貴の性格からして、死ぬなら勝手に、死ねという事だろう」
つまり、ここから推理、推察できるのは。
組織が潰されたわけではない、だが親に連絡不可能になるほどには、状況はだいぶ混乱、錯綜しているという事。
そこに来て、俺だけなんの保護もなく、野放しにされている、ここから導き出される結論は、、。
「なるほど、俺はテイの良い”囮”ってところか」
なにも確かな事は言えないが、状況証拠からして、そう俺は読み解く事にした、今の事態の推移全般を。
四夜家も相当にデカい組織だが、やってる事がやってる事だ、敵も相応にデカいという事だろう。
そして、どの程度、俺の身辺が騒がしいかについては、各論あるが、全くの無防備というわけでもないんだろう。
そうじゃなきゃ四夜家に歯向かえるほどの巨大組織、一瞬で戦闘ヘリでも何でも持ってきて血祭りに挙げられている。
まあ今の時代、戦闘ヘリなんて持ってこれるのか異論はあるが、それに替わる金に飽かした最強無敵装備でって意味である。
「寮は、流石にヤバかったんだろうな」
さすがに所持金がなく、寮に戻ろうとしたが、戻らなくて良かった。
寮の寮長、反グレのリーダーらしき鬼のような顔の男が、騒いでいた、緑の鍵が欲しいらしい。
そりゃコレの事かい?とか言って現れたら、夕暮れ時に捨てられていたリンチ死体のような目に合うのは明白だったろう。
本家から定期的に刷新され送られてくるモノだ、どんな理由で”敵”が、コレを欲しがるのかは分からないが。
適当に側溝に捨てて、許されるモンでも無いだろう、敵の目的が”コレ”でも、簡単には手放せないわな、と思い、ソレをまたズボンポケットに突っ込んだ。
「夜だな」
適当に、華やかな繁華街で人に紛れ、四夜本家の人間、分かる奴には分かる場所を、遠目に見たが、本家らしき呪い屋の関連する人物は見当たらない。
つまり、野宿か、しかも金もそれほどない、さらに言えば決済時に個人情報が流出するのは誰でも知っている、正規の商店すべてで買い物が不可能に近い現状。
つまりは、普通に腹が減っている、オマケに朝昼を精神的不調、まあただ単に世捨てヒトのようにダルくて食ってないだけの自己責任だが、抜かしたので、その空腹も最近は冗談でなく、苦痛になってきたところ、今ここなわけだ。
「委員長」
頼ってもいいのかと、少し迷う。
ここで俺以外のネームドキャラが初登場するが、なにも怖い事もない、ただのモブのような女だ。
見た目だけはビックリする、驚くほど整っている、見た目の器量だけは素晴らしい形をした女という生き物だと俺は認識しているが、それ以外は最低レベル。
核地雷すぎて、彼女に近寄る男は皆無で、たぶんそうだろう、疑う余地もなく、実際に学校生活でもそのように扱われていたと思う。
「いやまあ、そんな女と知り合いで、なんか巻き込もうとしている、俺は何物だ、という紹介をしていないな」
正直、ふんぎりがつかない、俺は人殺しだが、直接的に人を殺した経験は皆無なのだ。
そして、この女にしてきたことも、別にそこまでしていいか、リスクを相手に求められるかというと、そうでもないだろう。
「そうでもない」
死ぬかと思った、突然、後ろから、至近距離だ、明確に気配を消し跪拝気味に、足音を消し、近寄ってきた証拠だ。
してやったりをした委員長、女は、口元を弧にカーブを描き、満足そうな顔を晒す。
四家分家だ、人の心を読めるような話だったが、ガチだったか。
己の本性を隠すような素振りをしていたのに、この有様、既に今のこの状況を知っている節がある。
「そして、目の前の昭和の世界からタイムスリップしてきたような、年季タップリ鉄筋コンクリートの家屋から、反対に、大回りして、俺の事を背後から、驚かせる、、、キッパリと聞きます、どういう意図ですか?」
分からない、純粋に分からない、地雷だ地雷だ、と散々罵っておいて、いざ自分がその地雷女の被害を受ける段取りになると、純粋に恐怖を感じるのだから、情けない話だ。
ちなみに、ここは繁華街から相当に離れた、国から援助を受けている人間が集団で密集する団地だ。
団地と言っても、ただの団地じゃない、広域に展開し、排他的な雰囲気を漂わせる、同じ見た目を永遠と連ねる形で形成される、昭和から変わらない見た目も見た目、団地地帯だ。
おそらく、政府は国から援助されるかわりに、このような肩身の狭い場所、言っちゃえば準スラムに詰め込み、自発的な自立でも促そうと思っているのか? 俺の根拠のない予測だ。
「それは違うわ、ここはここ、弱きモノが集団になって、己の存在と居場所、生存権と生存圏を守るために、形もそのまま、今も戦って勝ち取り続けている、場所なのよ」
いやーまあ、委員長、声がヤバいな、と言いたい、まるでホラー映画の貞子のような声だ、いや貞子の声を聞いた事もないが、多分喋れば目の前で、声は良い事は確かだが、薄気味悪いな。
俺が薄気味悪いで済んでるんだから、普通の人間が聞けばホラーとしか思わんだろうレベルだ。
「そう? わたしは自分の声を、この声を、かなり気に入っているのだけど、私のアイデンティティを否定するの?」
さらに薄気味悪さを冗長してきやがる、まあ状況を把握し、楽しんでいるのか、らしくもない俺を案じて、気を使っているかのどっちかだな、いやこの場合は両方か。
「そのとおり」
「あ、やっとやめたか、さっきの声は薄気味悪いからやめてくれ」
「いえ、あの、あの声が私の素である可能性には、、、言及しないのね、分かったわ」
普段の委員長ボイスに戻った、途端に現実色を取り戻す場。
団地の人間は大概が高齢で、11時も過ぎた丑三つ時のような暗さ、誰もいない。
使える筈もない、電話など過去のものだ、完全にオブジェクトになっている公衆電話、それの発する灯と白色街灯、つーかコレも相当前からオブジェだったな、誰もがスマホを持ってた時代から、凄まじくアンティークな雰囲気を助長していた。
オマケに目の前の、周囲が低層建築の模式の団地だというのに、ここだけ7階建ての、古臭い鉄筋コンクリートの、まるで周囲を支配するような、そんな趣がある、併設された団地の共有フロアのような自治体会館と、無駄にデカい公園などなど、周りを高みから猊眼するような形だ、のマンションが発する白々しい明かりに、これも若干暗い、全体的に光量が少ないのだ、だから先ほどからホラーのように感じている、まあこの程度が繁華街でなければ当たり前か、考え過ぎの類だと判断、断定する事にする、そして、そんな場所に今、俺と女は包まれいる。
「当たりね、この建物は、昔は私の家、もうヤのつく自由業から、相当前から引退しているはずだけど、、、。
それでも、ここら辺の人間を管理し、みかじめ、とか?そこら辺は私は詳しくないけど、取って、この場所の名実ともに支配者であった、頃の名残かしら?
もう別に管理も必要もない時代になっても、人は変わらない、人だけは今でも昔と変わらないから、この場所がずっと存続して、今でもあるのでしょう。
とにかく、このマンションは私の御家で、貴方が私を頼ろうか迷ってる、素晴らしい事態だわ、私は貴方を助けたい、どうぞいらっしゃい、私のお城に」
手を差し出された、随分と気分が良いようだ、似合いもしないセリフで、下が回るまわる、先ほどの振る舞いもそうだが、相当にテンションが上がっているようだ。
まあそういうコミカルな振る舞いをしろと、暗に仄めかし、調子に乗らせた主犯格の一人、って他に居ないから単独犯か、俺の言えた義理じゃないだろうが。
「ありがとう、委員長、頼りになるな」
俺はその手をとった、あと本名を言うと怒られる、メンドイ精神疾患でも抱えているのか、ヒスを発症するので、そこら辺には触れないったら触れない。
心が読めるのに、なにも反応してこないな、相当にスルーするのに慣れている。
てか、どこに行く? 、、、顔が赤いな。
「ちょ、委員長、前の前の家に連れて行く、、、招待してくれるのでは?」
「ごめんなさい、別の場所、ここは夜は使ってないの」
???、えーーーと、これは予想するに、、どういうこと?
、、、若干の高速思考のあと、この違和感を解決する推理を発見する。
つまり、この女は最初から、学校から帰ったあたりから、ずっとストーカーしていた、ということ?
「、、、、」
「ヲイ、なにか話しやがれ、思考読めてんだろ」
「しらないわ、早くついて来て、置いていくわよ」
さらに頬を紅潮させる、可愛い反応だな、していることがネットストーカーのような陰湿さがなければ、それも10割増しだったのに、残念だ。
委員長についていく、ャのつく自由業さん、別の島でもあるのか、ここと似たような団地が町にはあり、そこは低層建築でなく高層建築の団地だ、ここも凄まじく昭和で時間が停止したよな感じだな。
「違うわよ、ここだって変わっているのよ。
さっきの団地も、一部が売りに出されて、普通の住宅地に、次第にだけど変わっているの、団地の高齢者は大反対。
でも、お金がないのよ、国に頼りきりの癖にって、上の人達が怒っているの、時期にこの場所も、ずっと聖域ではいられないでしょうね」
なるほどな、興味もないので聞き流し気味だが、ャのつく自由業も大変なのだなと思った、いやもうやめているんだったか、だったら何で鎬を削っているのだか。
そうだな、例えば四夜の分家なら、、、とか脳内で勝手に妄想していると、ついたようだ。
どことも変わらない、先ほどの支配者の塔に比べれば、本当に周囲と変わらずに存在していた。
「なんで、夜は向こうに住まないんだ?」
「特に大きな事情はないわ、ただ、お母さんが生きていたころ、あそこは夜になると暴走族が頻繁に訪れて、眠れないほど五月蠅くなっただけ、その時の、これは癖、なんでしょうね」
なんだか凄まじく重そうな話を、それとなく話された気分だ、実際そうなのだろう。
たぶん、全部予測だが、あの地帯を売りに出している、そういう地上げ屋みたいな奴が関連しているのだろう。
「ちがうわよ。ただ”あの時期”に、偶々たちの悪い暴走族、チームが調子乗って台頭していただけ、最後は私の、お父さんが片付けてくれたわよ」
なるほど、となると、、、あーあの事件か、変な暴走族が纏めてひき肉になる様な、変な大事件で20人ほど死んでたが、相当にヤバい奴らだったらしいな、本職をそこまで怒らせて、静かに消されず、抵抗でもして隠し通せなかったんだろうな、とか察する。
「やめて、思い出したくもないわよ」
「あのーー、俺の思考に、いちいち突っ込まないでくれて、いいぞ」
「いや、、、だって、そうすると、貴方話してくれないじゃない」
そりゃそうだろう、こんな平然と話しているが、コイツは最悪の女だ、話したくはない、のも無理ないだろう?これも思考を読まれている前提で、嘘を付けないから言ってしまうが。
だいたい、この女との馴れ初めから振り返るが、やっかいな話しだったのだ。
学校で不良に苛められ、俺が助けていたのだ、とかいうと俺がカッコ良すぎる、人殺しの贖罪、暇潰しの類だ、コインで表が出たから助けようとか、その程度の気まぐれ。
そしてコイツを不良から守り、泣き言を言えば励まし、てーか、本当に面倒だった、その不良がどぎつい野郎で、集団で、守るだけならわけないが、裏でもこそこそとした嫌がらせで、そんなもんは守り通せるわけもなく。
俺は最終的に学校をやめるように進言した、コイツの精神衛生は元から超がつく不安定なのだ、これ以上不安定要素が重なれば自殺や自傷をしかねないと、、、。
って言ってて悲しくなる、コイツとの出会いは屋上で、屋上なんて入れないはずなのに、コイツはなにかしらの特権でそこにいて、屋上の柵の向こう側から「こんにちわ」、飛び降りるだの、飛び降りないだのの面倒過ぎる問答。
夕暮れの教室に忘れ物を取りに戻って言ったら、委員長のコイツが手首を血まみれにして、うーうー、悲しそうに泣いていた光景は、明日にも夢に見る可能性がある。
そして極めつけは、てめえのバックグラウンド的に、対処できる問題に対処しないクソのような精神。
実家に頼りたくないのか何なのか、状況を自然と受け入れる精神、メイワクである、なんもかも迷惑な、女なのである。
「、、、クソ女とは言わないのね」
ああ、そういうと喜ぶ性癖の誰かさんの所為だ、気持ち悪いから、自然と呼ばなくなった。
「あの、付いたのだけど」
知ってる、お邪魔します。
殺風景な部屋だった、特にモノというモノもない、テレビでも、付かないが、置いてあれば格好もつくだろうに、本当になにもない。
「ここで普段、なにをしているんだ」
「貴方の事を考えています」
「そういうのは、いい、何をしているんだ」
「知りたいの?」
知りたくもない、適当に助けてくれたお礼がてら、普段はしない会話をしようと思ったが。
慣れない事はするもんじゃない、コイツの地雷のような女トークに、嫌気がさしてやめた、声も陰気で、ホラーじゃなくてもホラー映画に出てくる怪物に対処しようとして逆に呪い殺される、霊媒師のような声も癪に障る。
「霊媒師は、アンタでしょう?」
なにかイラついたのか、アンタ呼びである、地雷女の考えは読めない。
ちなみに状況は全て知られている、どれだけ思考を読めるのか、詳細不明なのがこの手の能力にありがちだ。
長い付き合いでも、そのラインが読めないのは不思議だ、どんな脳味噌しているのか、一回調べて見たくなる位には好奇心をそそられる。
「いい機会だし、私の能力について、知ってみる?」
「いやいい、今日は疲れたから、寝させてくれ」
「ええ、分かったわ」
部屋の中央に、一本だけ置かれた布団、俺はそこに横になる。
女も、当たり前のように横になり、俺を抱き枕か何かと、勘違いしたのか、抱き着いてくる。
「熱い、抱き着くな」
「いやよ、いつもの事でしょ」
まあ、何時もの事ではあるんだが、いつもどおり、嫌だっただけだ。
あれから、コイツが学校を俺の指示通りにやめてから、それからも、コイツとの付き合いは続いた。
てーか、学校をやめる条件に、俺が毎日一回、彼女の所在地に訪れ、慰めたりなんやりする、そういう条件を提示してきた、なんかその時はどういう経緯だったか忘れたが、泣いていたような気もする。
「逃がさない、この機会に、貴方を私のものにする」
またホラーな声になって、呪うような声で、俺の耳元に呪詛を送ってくる、存在そのものがホラーな女が、この学校をやめても特に呼称が無い、委員長様だったのである、あった。




