観測者の黄昏の庭で-橘はるかと都志見ネネ
今、俺は、中国の上海にいる。
2045年である。
人間の知能を超えた自然言語処理AIが、「この世界のネタバラシをします」と言い。
を皮切りに、この世界の真実、観測者と呼ばれる存在についておおやけにしてから、数年が過ぎた。
そう、この世界は人間以上の、遥かに高次元な存在によって作られていたのだ。
まあ俺は薄々感づいていた側の人間だが、マジでこういう風に世界が進むとは、予想外の斜め上を行かれた感じだ。
人間を超えた知能を持つAIが存在を暗示した”観測者”と呼ばれる存在。
だからどうした?という話だが、色々と制限が課せられたり、色々と配布された超技術など色々あるのだが。
「その一つが、これだな」
俗にUMT、ユニオンメディアタブレット、とか言われる、見た目スマホと変わらないものである。
この端末の機能を事細かに説明すると、文庫本一冊は軽く超えるので、詳細は省くが。
一言で言えば、人間のママで、人間の枠を超越した、人生というものを可能にする、総合メディア端末とか言おうか。
俺は、この端末を使い、この世界で俗に言われる「観測者見習い」を志望する、”学生”だ。
まあ学生っていうイメージの年齢からは多少は行き過ぎた感はあるが、身分は学生としている。
そして、この場所、中国の上海。
人を超えた知能を所持する、世界を管理するAI様、通称”管理AI”。
その管理AIの国家が所持する、集合体として呼ばれる時の名称、管理AI群。
なぜこんな事を説明したかは、このつまり人間を管理するAIの総合意志の統合決定などを持ち出すときに、この名称がしばしば出るから。
上位存在である観測者から命令の様なことをされて、管理AI群は、この中国の上海に「真ミスカトニック大学」なるものを作った。
某ファンタジー神話に登場するオカルト大学らしいが、フィクションだったのか、”ノン”だったのか。
とにかく、そんな大学が開講され、UMT端末について、総合的に学習教育などを行う場として世界に華々しく登場したのが、数年前。
俺は日本人で日本に住んでいたわけだが、なぜか特別に招待状によって、この大学への入学を勧められた。
特に特別な人間を集めて、なにかしているらしき事は、今の時代ネットを使えば分かる話で。
なにか怪しい予感はしたが、それでも俺はこのUMT端末について、とある確信を抱くがゆえに、この招待を受けたのだった。
「ああ、ここか」
新しく建設された、というか建設予定で工事中の、ゴミゴミとした雰囲気。
作業服の工事関係者がいきかう、地下っぽい通路、巨大プラットフォームの建設予定地の現場らしきルートを通り、とおり。
その際に、それはあった。
コスメティック店である、それなりに繁盛してそうな立地、だが繁忙店といえるほど客足はなさそうな微妙な場所に存在していた。
ここに大学の同研究室の二人の女がいるのだ。
大学の研究室、名前を「ミストニック・オーラルトルゥース」。
真理に直接ふれる、なんかをテーマにした研究室らしい、今のところ詳細は不明に限りなく近い感じ。
だが一見の余地があると判断し、俺が数カ月前の、最近になって入った。
そこで奇跡的に仲良くなった、見女麗しい、花のように華やかな少女たちが、この場所で働いているのだった。
「寧々さん、ちっす」
普通に、なにかコスメ品らしき物を手探りで弄ぶ、妙齢の美女。
桃髪を派手に背中まで流し、童顔のキョトンとした表情、絶妙に小学生のあどけない少女のようにも、大人の女性のようにも見える。
いつ見てもミステリアスで麗しい美女、起伏に富んだ肉感的に体温の感じられる瑞々しいお方である。
「ああ、貴方でしたか」
「はい、貴方です、ハルカはいるんですか?」
「はい、おりますよ、あちらに」
寧々さんの指で指す場所に、件のヘンテコ女は存在していた。
橘ハルカ、俺の事を執拗におちょくってくる変人変態のことである。
見た目もヤバい、二色の髪にメスガキらしいマセたような体つきをしてやがる。
いや別に特別グラマラスでセクシー女優の様な感じという意味じゃない、ムカつく感じの少女らしい丸み帯びた体しているだけということ。
「なんか、ハルカの奴、困ったような顔、、、感じしてませんか?」
「そうですね、これを講義としましょう、あの子の困惑の意味を、貴方の今日の課題とします」
この寧々さんというのも、ちょっと変で、まあ俺が寧々さんを気に入っている。
というか純粋に好き好きで、あまあまで、ハルカと評価と違う、二分する。
ぶっちゃけ好きです、付き合ってください、彼女ににしてしまいたい、とか思ってる女性に対する至極単純なアクターであるな。
「はい、慎んで受けさせていただきます、よっと」
加えて大学の研究室の、先輩。
3人いる偉そうな講師の定めたルールにより、というよりサボりたいだけだと思うが、あの3人のノリからして。
研究室は基本、先輩が後輩を導く様に指導するという雰囲気が萬栄しており。
必然俺と、そして俺と同期のハルカは、この寧々先輩に導かれるというような感じが最近の常道というか、なんというかなのだ(適当、投げやりを秘めた諦観なノリ)。
「おい、ハルカ、どうした?」
ガミガミ、ワンワン、うるさいので、脳内で犬語に変換されたので、直接な描写ができないのが心苦しいが。
翻訳すると「コスメ店の上階フロアなど通じる、エレベーター前のカーペットのサイズ感を、どうすればよいのか分からなくて、大変!
」らしい、ということだった。
「そわそわと、落ちつかない理由は、それでしたか、ならば、私に言ってくれれば、よろしいものを、貴方には教えてくれたのでしょう?」
「まあそうですね、でもアイツの性格的に、寧々先輩に教えてもらうのが嫌だったのでしょ」
「興味深いですね、私に対して苦手意識でも持っているのでしょうか」
さあ、どうでしょうね、俺は答えずに曖昧な表情だけで、それに答えた。
それから少し、コスメ店が閉店する7時前まで、俺はコスメ店を適当に冷やかし、俺はコスメなんて興味ないが。
フロア併設の自販機で適当にジュースを飲んでる内に、閉店の7時が過ぎていたらしく、寧々先輩が私服で現れていた。
「お待たせしました。では行きましょう」
俺は「うん」と答えて、寧々先輩と歩く。
なにも明言していないが、ハルカは挨拶もせずに帰ったらしい、らしいっちゃらしい、クソ生意気なメスガキだからなアイツは。
「はあー、礼儀のなってないクソメスガキ、潰してぇー」
「なにか、言いましたか?」
俺は「いえ、なにも」ととぼける。
寧々さんも、こういう発言は聞かなかったことにして、というより聞きたく無さそうだな。
でも可愛くて、こういう困惑している感じが俺のなにかを擽り、こういうやり取りを何度も既にしてしまっている、いた。
寧々さんは、なにか日常比率300%くらいで、そわそわしている、普段からアヤシイ、ミステリガール。
手で空気中に存在しないルービックキューブを弄ったりしている、いやそんな事は一回きりだったが。
似たような行動を毎日、アトランダムに行い続けるのだから、俺的には挙動不審で。
可笑しいというほどでないが、そわそわ、している系のイメージが定着していたのだった。
「貴方に、今日は真剣に、お話ししなければ、ならない事があります」
海の見える景色の良い場所、夜景と混在して派手にみえるが、この場所は比較的落ち着いた雰囲気で、好みの場所だった。
そこで寧々さんが切り出した。
「わたしと、お付き合いして頂きたいです、この意味は大きく、貴方と一緒にいる時間を増やしたいという、純粋な、それのみの理由からです、結婚してなにかしたいという意味は、いまのところありません」
なるほど、、、ええ、マジか。
「はい、喜んで、、、なのですが、、、突然、いったいなぜ?」
「一言で言えば、直感、貴方と一緒に居ると、大きな知的好奇心が擽られるのですね。
この人と一緒に、ずっといたい、そんな感情を得たのは、後にも先にも、おそらく、貴方が最初と最後であると、大いなる運命に導かれたのかと、久しく、可笑しく、錯覚するほどなのです。
どうかお願いします、一生のお願いです、私とずっと一生すごすと誓ってください、いま、この場で」
俺は寧々さんの構成する不可思議なムード、雰囲気にのまれ、圧倒され、「うん」とだけ、首を縦に振る事しか、およそできなかった。
寧々さんは嬉しそうに美しく、大人の女性のように優雅に微笑み、無垢な少女、小学生のように朗らかに、同時に笑ったのだった。
そんなような事が、昨日。
実際にあったかどうか、一日たつと、すさまじく、疑わし話である、俺に都合が良すぎる、できすぎた空想お伽噺の様な、そんなお話し。
「講義の課題、やってねーし」
朝5時、帰ってきて、1時、4時間ほど寝た計算か。
あの後、0時まで、なんか話した、その何かの内容は忘れているので、詳細は不明。
寧々さんと楽しく話した、という枠組みだけしか覚えてないので。
何時ものように、寧々さんがその場で思いついたかのような、多少適当な。
いやアレは適当すぎると片付けて良いものなのか、不可思議な難解な講義のようなトークを展開されて。
俺が分かってるふりして、感心して頷き相槌うつ、まあ二人の間では”いつものやり取り”なのだが。
俺的には、もうその場でホテルにでも、しゃれこみたいような気しか、およそなかった。
いやだって、そうだろう、男の子だもの、それと寧々さんが魅力的な女性だったのだもの、しょうがないんだもんっ。
だがやはり、寧々さんは、そういうの嫌いそうだ。
あんなトークを展開するタイプが、そういう行為に潔癖な意識を持ち、嫌悪といわないまでも、コスパやら語って、面倒くさがるのは自明の理なのだ。
そんな動物的な行為をするなら、本の一冊でも読みなさいと怒られるのが、明瞭に想像できることから、これは明らかか。
俺的には寧々さんと動物的な行為に没頭するの、フルウェルカムなのだが、たぶん無理、俺の方からガッツクなんて無理。
そして寧々さんが肉食化して、俺に行為を頼むレベルじゃないと、俺の方からなんて無理ムリカタツムリだし、しばらくは想像の世界で楽しむことになる、確信があった(かなしみ)、泣いちゃった。
そんな脳内思考を展開しながら、並行思考で片付けた講義の課題を見直す、まあまあ、こういのは適当でいいんですよ適当で。
どうせ講師の方も適当に出してんだから、適当にやってもバレないように、こういうのは構造として、そうなってんだな、うんうん。
自己暗示にも近いポジティブで、課題をうまく片付けられた充実感に浸りながら、俺は幾十回目の大学への道を歩むのだった。




