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白夏熊ベリー星ズ(デイズ)-ルルアの最初の夜

 

 

 昔々ある所に、人魚の小さな御姫様がいました。

 その小さな姫様は、浮世離れした沢山の大人人魚に愛され、小さいながらもスクスクと育ちました。

 しかし、人魚の女王が月の魔力に狂わされ発狂してしまい、ひとり海に飛び込み海底王城からの逃避行。


「みぃーー!みいみいーーー」


 あの暖かい場所では彼女はみいみい鳴けば助けられ、なに不自由ない暮らしができました。

 しかし、ここは弱肉強食が蔓延る厳しい大自然、少女が幾ら泣こうが誰も助けてくれません。


「みい」


 やがて少女は泣きつかれ、力尽き、人魚特有の泡となって消えてしまう己の末路を悟ったような頃、彼がやってきました。


「あれ? こんなところで、どうしたんだい?」


 海辺を歩く一人の少年は、みがるな軽装でラフな散歩を楽しんでいました。

 そして、浜辺に打ち上げられた魚のように、岸辺でぐったりしている少女を幸運にも見つけてくれたのでした。


「みぃみぃ~」


 少年は近づいて、少女の声を聞こうとしました。

 しかし、少年が視れば分かる通り少女は人魚です。

 人間でいうところの尾てい骨の方から、立派な人魚の尻尾が生えている事からも伺えます。


「あの、、、お腹がすきすぎて、死んでしまいそうなの、たすけてぇ」


 でも少女は人魚語の他に人間語もしっかりと学んでいたので、少年に明確に助けを請えました。


「ああ、わかった。とりあえず僕の家に来なよ、直ぐ近くだから、なにか食べさせられると思うから」


 そんな出会いがありました。

 その後なんやかんやあり、少女はしばらくの間という想定で、優しい一人暮らしの少年の家にやっかいになる事になりました。


 少女は夜、温かいフカフカのベッドの中で、彼、少年になにか恩返しができないかと、ずっと考えていました。


 少女は懐から水晶をとりだしました、それは彼女の愛用の録音水晶、スイッチを入れると周囲の音を吸収して再生できるアイテムでした。

 彼女はそれに人魚の歌声、自らのお気に入りのソングを入れて、彼にプレゼントすると喜ばれるのでは?と考えた。


 さらに布団の中に籠って歌うと、丁度よく歌声が籠って、子守歌のようになりました。

 それは少女の透き通るような声がウィスパーで聞き心地よく、より近くに声が感じられる、と少女も気づき、何度も取り直して最高の一曲を少女は仕上げました。

 

 次の日の朝、その水晶ごと少年にプレゼントすると、少年も大変よろこんでソレを受け取ってくれて、彼女は彼との絆が深まったような気がしたのでした。


 しばらく経ちました。

 しかし人魚の国は月の魔力に魅入られた乱暴な女王の統制する国に変わったようで、人魚の姫ルルアも簡単には帰れないのだと分かり始めました。

 そんな頃になると、少年は彼女を学校に通わせるべきだと思ったのでした。


「よし、こんなもんかな、あっはぁは、凄く似合っているよ」


 赤いランドセルにセーラー服、ルルアは恥ずかしさに見舞われました、今までしたことがないユニークな服装にドキマギします。


「どこが似合っているのですか、貴方の趣味丸出しではありませんか」


 ルルアと同じくらい小さい女の子が言いました。

 彼女は少年の勤務する研究所の上司、そしてさらに言うなら研究所の所長でもありました。

 ルルアが難破して暫くしない内に縁あって、初めてかかわった人間の女性でもありました。

 

「え、そうかな? 学校に通うなら学校に通う服装にするべきだと思うのだけど、うーん、可愛いと思うんだけどな」

 

「学校に服務規定はありませんよ、、確かに、学校征服を着用する生徒も半分ほどいますが、決して強制ではありません」


「それは、あんたみたいに小学生みたいな服装が子供っぽくて嫌いなだけじゃ」


 彼女、寧々は、その「あんたみたいに」という言葉にカチンときたのか、少年を口撃しだします。

 それは何時もの事です、少年と寧々は事あるたびに口喧嘩するので、ルルアはそれは一種の動物のじゃれ合い程度で、決して深刻には考えませんでした。


「でも、榊、、は、この服装が好きなのですよね?」


 その言葉は、寧々と口喧嘩する少年、榊には届きませんでしたが、少女はこの服装を好きになる大いなる切っ掛けでは、あるのでした。


 ルルアの初登校日、その女はやってきました。


「消し飛びなさい、ファイアーボール!!!」


 突然とんできた、大きな大きなファイアーボールが、ルルアの足元で盛大に爆発しました。

 ルルアは「うひゃー」なんてコミカルな声を出して、爆発点から人魚の俊敏な動きを可能にする大きな尻尾を使って地面を強く叩きながら飛びのき、事なきをえました。


「あらあら、外しましたか」


 女は通学路にある、風光明媚な高くなった丘のような頂点にたち、足元まで隠す優雅なドレスを閃かせた。

 妖艶に微笑むその様は、黒系統の服装もあってルルアにはお伽噺に登場する悪い魔女に見えました。


「おい! クエス、お前なにしてんだ!」


 当然少年は怒ってくれますが、クエスと呼ばれた女は気にせず、ルルアの見上げる遥か高い場所から飛び降りました。

 そのまま生身で地上まで降り、事も無げにしていて、ルルアはおよそ同じ生物とは思えないような事をしてみせた彼女を畏怖します。


「私、神代クエスが命じます、その人魚を今すぐに討伐するべきですわ!」


 指を突き付けて、榊少年の背後に隠れるように立つルルアに大きく宣言したのでした。


「どういうことだよ!クエス」


「少し前、先刻、横暴な人魚の国に対して、我が魔道学院が敵対的侵略者に対して、周辺諸都市もあわせた非難文からの、実質的な宣戦布告をしたのは、ご存じありませんの?」


 神代クエスは実は、少年の家をマークしていて、ルルアが流れついてから暫くもしない内に状況をつぶさに把握していました。

 もっと言うなら、彼女の個人的な思惑も絡みます、伊藤榊という少年に纏わりつく、泥棒猫のような人魚ルルアを疎ましく思ってもいたのでした。


「よって、その人魚は討伐するべき対象、アンダースタンドユー?」


「わかるわけあるかよ! お前なんて、こうしてやる!」


 榊は俊敏に、鼻高々に宣言するクエスに近づき、その体を後から組伏すように拘束して、首を絞めるようにチョークスリパーをしました。


「な! 無礼者!放しなさい榊!」


 とか言いながら、想い人に密着されて、クエスの声は言うほど嫌がっていないのでした。


「俺はお前を見ると、徹底的にやり込めたくなる、その生意気なスカした女王様フェイスを見ていると、どこまでも屈服させてやりたくなるのさ!」


 榊は拘束する過程で、クエスの黒いドレスを押し上げる大きな双丘に手が触れて、鼻の下を伸ばしていました。


 ルルアはいつもの優しい榊の豹変した姿に驚き、さらにクエスに鼻の下を伸ばす性欲に塗れたような榊の姿に戸惑い。

 他にも二人の距離感の近い掛け合い、そう二人は幼馴染だったのです。

 そして疎外感を感じて、他にもファイアーボールで抉られた地面を見て危機感を再熱させて、色々と内心穏やかではないまま、その場を逃げ出すように去ったのでした。


 ルルアのクラスは珍しい人魚の少女に皆が興味津々ながらも、昨今の情勢もあり、誰もルルアには自分から話しかけませんでした。

 でも何時ものルルアなら、能天気に自己紹介して、みんなの人気を取る位のカリスマはあったのですが。

 今朝の少年とクエスという女のアレコレがあり、気分が沈んでいたルルアには、そうできなかったのです。


「あの、もしかしてルルアちゃんって言うんだっけ、一人でお弁当を食べているのなら、私と一緒に食べてくれないかな?」


 そんな昼休みもポツネンと一人で机を孤立させて、集団生活を学校で送る上でのボッチ感を強くする悪習、一人飯を送っていたルルアに、好意的に近づく少女がいました。

 真っ白な法衣のような服、なにかしら彼女の役割が連想されるものですが、詳細は分かりません、とにかく彼女の名前はベイルでした。


「あの、ベイルちゃん、クエスって子は知ってるかな?」


 和気藹々と話している内にルルアはベイルと気心が知れて、今朝の顛末を話し、相談する事にしました。


「、、、あぁー、あの女」


 最初は違和感はありませんでした。

 しかし、その言葉から察する事はできました、ベイルの声が一段も二段も低く、そして魔性を内存させるような狂気を含み始めたから。


「あの女はいけませんね、ルルアも用心した方がいいわ」


「え? ああ、はい」


 その後もベイルの口調は変わらず、クエスへの警告とも悪口とも分からない事を懇切丁寧に教えられました。

 誰も詳細は知りませんが、ベイルは二重人格でした、裏とも表とも分からない人格の名前はヘキル、ベイルのコントロールできない不明のタイミングで表に姿を現すのでした。

 それはベイルの持つ異能力の代償とも、諸説ありますが誰も詳細は本当に知らないのです、もちろんベイル自身もです。


 帰り道。

 榊とルルアが今日あった事を話しています。

 今朝の怖い少女、クエスには榊はキツク言ったとルルアに説明しましたが、あまりルルアは安心できませんでした。

 そしてベイルという少女と友達になったこと、榊もベイルの事は知っていました、というよりこの町はそれほど大きくないので、誰もが誰もの顔見知り程度はあるのでした。


 さらに寧々はどうしているのか、ルルアは榊に聞きました。

 ルルアにとって寧々は、雛鳥が反り込みされるように、この町に来てから初めて合い、その包容力もあって、まるでママのように甘えれる対象でもあったのでした。

 榊が言うには、寧々は多忙で、学校に姿を現したり表さなかったり、姿を見せても気まぐれの猫のように居たり居なかったりだそうで、ルルアは寧々と学校生活は送れなさそうだと残念がりました。


 そんな二人の背後に、電子柱のように生える木の裏で、ギラギラした瞳を輝かせる彼女がいました。


「くすくす、いけませんね、私としたことが、親愛なる榊さんの前に、このようなモノを持って躍り出るところでした」


 彼女の言うモノとは、大きな大きな、彼女の身長と同じくらいに、身の丈だけがアンバランスに巨大な、言うなら巨大な戦斧、異形のハルバードでした。

 彼女は木の裏にソレを立て掛けて、さも手ぶらかのように、ルルアと榊の前に偶然を装って現れました。


「ごきげんよう、榊さん、そしてお初にお目にかかります、小さな人魚の国の姫様」


 ルルアは突然現れた女性に面食らいます、その立ち姿の隙のなさ、ギラギラした混沌を隠すこともできない研ぎ澄まされた瞳もあります、目の前に現れた女は見た目からして尋常ではないのです。

 それもそのはず、彼女の隠された二つ名は「殺戮姫」、大陸に名を轟かす無敗の、いまは無所属の暗殺者なのでした。

 もう一つ怖さを助長する要素、彼女は鬼族なのですが、その二つある角の片方が欠けていて、まるで歴戦の強者の古傷のように、彼女の貫録を助長しています。


「はい、お会いできて嬉しいです、私はルルアです、仲良くしてくれたら嬉しいな♪」


 でもルルアも怯えているばかりではありません、今朝のように破天荒に魔法で攻撃されたなら無理ですが、普通に丁寧に挨拶してくれた相手には、このくらいはできるのでした。


「あー、コイツはトキノ絵里、絵里ちゃんって呼べってうるさいから、絵里ちゃんと言うと喜ぶと思うぞ」


 二人きりだと妹に接する様に丁寧すぎる対応だったので、このようにぶっきらぼうに話す榊にルルアは最初戸惑いました、でも年相応の少年のように振舞う榊にもルルアは既に完全に慣れてました。

 

「榊様、ちがいます、私は貴方に絵里ちゃんと呼んで欲しいのであって」「絵里ちゃん!」「はい、まあ呼ばれて悪い気はしませんが」


 絵里と呼ばれた少女も、ルルアの邪気のない姿勢に、次第に毒気抜かれているような心地でした。

 初めは泥棒猫のように思い、内心では今朝のクエスと大差ない心境だったのですが、話している内に次第に優しい瞳をルルアに向けるようになっていたのでした。


「むーーーみいみいぃーーー」


 でもルルアの方はちょっと違うようで、人間が解しない人魚語で一人愚痴を垂れるくらいでした。

 それは榊の性質についてでした。


 ルルアが見るに、榊は大きな胸が好きなようで、今朝のクエスの時も同じような事があったので、もう二つも証拠があるので確実そうです。

 先ほどから絵里ちゃんの大きな、その双丘にチラチラと目線をやって、それに気づいた絵里が彼の腕に自分の腕を絡めて、オマケと言うように自分の胸を押し付けた時の、榊の顔もルルアは見ました。

 

 それに比べてルルアの、未発達なのかどうなのか、自分でも分かりかねる小さいな胸。

 榊に好かれたい、それも何がなんでも好かれたい位に思っているルルアには、これは気が気ではない事態なので、一人ぶうー垂れたい位に気分が悪化するのでした。


「スケベエー」


 ルルアは榊に言ったつもりはありませんが、恨めしく榊に呟いていました。

 榊は耳ざとくルルアの呟きを察知したのか「なにか言ったか?」と聞きましたが、ルルアは何も言ってないと笑って応えました。


 ルルア的世界観から見れば、榊は性欲に溺れすぎな、汚いモノに見えてしまっていました。

 でもそれはしょうがないとルルアも思います、性欲に溺れる悲しき獣のサガなのでしょう、人魚よりも高潔さでは下に見られがちな”人間”という認識がルルアのそのような考えの元になっているかも。

 とにかく、榊は女性の魅力に弱く、簡単に靡いて行ってしまう、そのようなものだとルルアには思われてしまうのでした。

 

さらに明かすと、実際にそれは正しく、伊藤榊という少年は、思春期さながら性欲は強い方で、周りの美しくスタイルの良い女性にはコロッと行ってしまうタイプなのは、誰も否定しようがない事実に見えます。

 登場人物紹介


 ルルア・かわいい人魚の姫・マリア様のように清純で無垢なイメージ

 伊藤榊・性欲に翻弄される悲しき獣、ギャルゲ主人公の無個性みたいなイメージ

 神代クエス・高飛車で生意気でお姫様で凄く強気で美形でスタイルがいい銀髪黒目の日本人と外国人のハーフみたいなイメージ

 中州ベイル&ヘキル・一つの身体に二重人格・ベイルの方は平和的だがヘキルは殺伐とした性格・シスターのような白い法衣を普段着にしてる

 内海寧々・榊の勤務する研究所の所長で榊の直接の上司・ピンクの服を好み、見た目は小学生みたいだが年齢はもっと上、年齢に関する事は語りたがらない

 トキノ絵里・過去に大陸に名を轟かせた凄腕の暗殺者、今は無所属である、傷ついていた所を榊に助けられた事を切っ掛けに、彼を運命の人だと思っている

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