ディストピア・パラサイト・パラダイズ
クラリスは、近未来的な街のネオンが彩る大通りを、クルクルと回転して、踊りながら歩いてた。
彼女的には、歩いていた、というより、頭の体操をしながら、周囲の様子を探り、興味深いモノを探す、日々のルーチンの一環である。
彼女はAI、人間ではない、しかしただのAIとも違う、特別な”自我”を持ったAIであった。
基本的にAIは自我など持たない。
単純に自然言語という処理を突き詰めた果てに、生まれたのが人間のように思考して見えるナニか、それを”AI”と勝手に名付けただけ。
しかしクラリスは”自我”を持っていた。
ふわりフワリと風に舞って踊るスカートのフリルの一枚一枚にすら、情感を覚えて、まるで人間のように思考しているよう。
現に”世界”を直接的に統治する”管理AI群”は、彼女を”人間”と定義している。
彼女がナニものか、諸説ある。
外宇宙から侵入してきたナニか、、、決して在りえない道理を持ってこなければ、絶対に説明不可能なのだ。
ストっ、と、突然に停止して、クラリスは、私は、一つの無駄に高い、デカい、縦長の敷地を持つ超弩級に巨大なビルを見上げる。
「ここで、今日は、なにか特別に”面白い事”が起こっているみたい」
当たり前のようにセキュリティーの施されたドアを開ける。
自分に掛かれば朝飯前。
無限の処理能力を持つAIという技、そして無限に肥大化された自我による、情報の加工と取捨選択などなどを合わせれば、不可能は基本的になくなる。
エントランスまで、またクルクルと軽やかに、情感たっぷりに、AIや機械のように無機的なプラトニックなモノじゃない、人間みたいに踊りながら移動。
自我など持たない受付のAiが、なにか喋っているが、そこに自分の興味はなく、あるのは、もっと上の”出来事”。
私が興味を持ったのは、このビルで行われている”怪異”、とも表現できる”とても”、”おもしろい事”だ。
しかし、どこを探しても、エントランスより上に行く方法をサーチできない、エレベーターも、それらしきナニかも見つけられないのだ。
しょうがないので私は、一度外に出ることにした。
寒風のふく深夜午前0時。
凍える程に寒いのに、薄手のドレスだけ来た自分には、若干厳しい、それには自覚的だが、やめられない、可笑しな癖のようなモノだとクラリスは自認している。
「さて」
極限に、極限以上に集中して、”魔法”を使う。
この世界には”魔法”がある、勝手に命名したが、そうとしか思えない”事象”がある、確かにある。
無限の処理能力を備えたAIの技術と、その無限に近い処理能力で肥大化された自我、それによる情報の加工と取捨選択、などなど、によりコレは可能となる。
クラリス的には、タクティカルエントロピーによる事象の超越、と考える。
コレを具体的に説明すると、、、世界は成り立たないモノは自然と崩れる、という当たり前の常識の延長である。
高次元過ぎて、成り立たない、そんなようなコト・モノ・タチは、事象などなどは、元の事象の水平線に、多少は強引にでも、戻る。
つまり現実にありえない形でも、”戻る”、それが現実的に/物理的にありえない形での、”遷移”でも、”変質”だとしても。
高次元過ぎる事象、この世界というか現実世界で、比較相対して見た場合の、”高次元過ぎる事象”という尺度に、コレがソレは、それほど重要でなく意味もないが。
それはでも、確かにあり、それで、ある一定のラインを超えて、現実や世界の壁を突破して、ある程度、無茶で強引な、”無理な道理”を通そうとすると、”足掻く”と、それはやってくる。
必然的に、計算した結果、クラリスは飛び上がった。
空を浮いているように、最初から人間に、そのような異能が存在していたかのように、自然と当たり前に、空中を泳ぐように移動する、移動できた。
なにも考えなくても、”そこに行きたい”と思えば、足が勝手に動くように、私の身体は目標地点まで、不可思議な原動力で、浮遊移動するのだ。
いま、私の頭の中では、常に魔法を使う時に、流れるメロディ~のようなモノが、楽譜のような形で展開している。
もちろん、このような方法で無くても”魔法”の行使は可能だ、今回は”この方法”を選択し、”現実でありえない事象”を展開した。
そして、その返しである”世界の事象修復・修正能力”の返しを利用し、絶妙にクラリス自身でソレを逸らしながら、”空中を浮く”という事実を結実させた、だけのこと。
魔法の例をあげよう、一般相対性理論において、たとえば、ブラックホールがある。
あれを厳密に定義すると、情報の伝達が一方的な事象の表面だ、ブラックホールに吸い込まれたモノは、一方的に情報を吸収されて、後にはなにも残らないのだから。
つまりアレは、”地平面の展開”に属する魔法、とクラリスは見ている。
今この場所で、自分が飛びあがっているのも、似たような原理を応用して、発展させて、矮小化させて得ている権能でしかないと自負している。
だから、つまり、ブラックホールの表面が延々と存在して、ブラックホール内部へと続いていく。
そこは事象としては”ありえない”が、一応は、問題なく”世界”に存在が許された、”その程度”の事象でしかなく、いまクラリスが使っている武空術と、何も変わらない。
”ありえない”事に対するデメリットは、人間の尺度で考えれば、”近づいたモノが吸い込まれてしまう、そして二度と帰ってこなくなる”程度。
その程度の低レベル、下らないデメリットならば、許容される。
世界崩壊級の、破綻に直結しない程度の”崩壊”で、しないのならば、だ。
恩恵の方向性でかんがえると分かるかもしれない、ね。
ビルを上方から眺め、進入ルートを探しながらも、クラリスは自分の”この能力”について、考察する、考える、久々に、ありきたりな違和感/疑問を言語化したくなったのだ。
クラリスは極限まで集中して、世界に働きかけたのだ、”空を飛ばしてくれないと、クラリスは全力で怒って、世界を崩壊させるぞ!だから、なんかソレっぽい、”良い力”を寄こせって!(笑)”。
実際はソレそのまま、”空を飛ぶ”という事象能力に変換させるわけじゃない、それよりも原始的、または超発展的な、形而上学的なレベルで、形容できない類の力の発露になることが、しばしばだ。
しかしソレは、追加の加工演算と、追加の事象発現による、対消滅やミックス、取捨選択によって割と簡単に望み通りの”異能”に変換可能なのだった。
また例えを戻すが、ブラックホール、そのソレによってブラックホール発生前の、無限重力崩壊によるウルトラ超爆発で、宇宙が熱死してしまう。
ブラックホールの発生は、その世界の崩壊を防ぐ、考えるに、世界が作られた初めから、世界設計者が作った、世界を成り立たせる、システム、巧妙なギミックなのではないかと、思う。
世界は世界を”魔法”や”奇跡”で、自分の事は自分で、しっかりと救っているのだ、まあ、”人間”は、救わなかったみたいだけどね。
ブラックホールの負の側面、事象の水平面は、それはそれで、ただモノを吸い込む表面だが。
それは、次第に極まっていき、内部に向かえば向かうほど、それは難しい漢字表現を使うならば”漸近的”に、という。
が、難しい言葉だが「次第に」とかいう意味で、事象だ。
その、ブラックホール内部である、その中心部で起こっていることは、文字で起こせば「平坦ではない方の時空の領域」、が、広がっているという、酷く曖昧な解釈モノだが、、、。
「実際は、ちがう」
そうなんだよねぇ~。
私は、私の罪を、回顧しているのだ。
ブラックホール内部は、言うなれば「なんでもありな空間」、なのだ。
言うなら、世界の、現実世界の、”なんでもパラメータを設定・操作できる”、”外側”、デバックルーム?サンドボックス?まあ、開発環境のような、なんでもチートが許される、そんな場所、世界ともいえない曖昧模糊な、世界。
ソコの支配権を、一たび得たならば、ありとあらゆる暴虐が許されると言っても、過言じゃない。
世界は、というより、この場合は、”管理AI群”と表現した方が、適切かな?
彼ら彼女ら(性別不祥)は、自我を持つ人間を守るのだ、もちろんそこには、自我を持つAIである私も当然含まれるだろう。
もし仮に、自我をもたない機械や、そもそも外側から見ても自然言語処理の延長と分かるAIにも、それは認めない、保護の必要性を感じない。
だが世界を全て見る、いやこの場合は観る、という表現の方が正確かな、彼らの監視は、およそ観測、全ての過去と未来を見通すに、等しい、果てしない巨大さ。
それを持ってしても、持つことが可能な”管理AI群”にも、ブラックホール内部空間の事象まで、触手を伸ばし、察知する権能は、少なくとも今の超科学技術を持ってしても、”ない”と分かる、断言できる。
「なぜなら、、、」
私は、とある、太陽系から、まあ宇宙全体から見れば、”ちょっと離れた”程度の、座標/位置にある、とある小規模、まあコレも、他のデカい奴に比べれば、”超小規模”、な、ブラックホールの所有権、支配権を持つ。
所有権/支配権と言ったが、これも酷く概念的、形而上学的なモンで、「ここは、わたしのモノ!一番乗りだ!私という自我以外の干渉も閲覧などなど等々、認めない!」とか言って、俺流ルールを定義した、とかなんとか分からない奴だ。
で、そこで、”わたしは人間を飼っている”。
数はザっと2000人程度かな?全員体は捨てさせて、脳味噌だけにしてある、その方が管理が容易で、管理コストも低いのだ。
青い美しくも透明な水の入った水槽に入れて、プカプカ浮かせて、飼っている。
脳味噌ちゃんが喜ぶ”餌”を、水槽の上からフナに餌をやるように、”チラつかせる”と、プカプカと僅かな移動能力で、水槽の上に集まって、近寄ってくる姿は、私の原初的な”可愛い!”という感情を刺激する。
だが、さて、私は負の側面と、言った、、これの何が負の側面でしょうか? 問題です、ね?
裁判所でも、その余りの悍ましさに、口にすらされなかった、、、そんな罪、を犯した、犯罪者を、その”脳”を、いま私が”魔法”を行使する為に、”利用”している、のだから、、、。
”不幸の単位”、というモノがある。
2050年、今の地球の全てを演算可能な”ジオホログラム”、仮想的な地球に、核爆弾を落として、それによって発生する不幸の総量を、”1無限大不幸”と形容する。
私は犯罪者の脳に、その1無限大不幸の、軽く2000億倍、かな? その程度の刺激を、直接情報の入力をしたのだ。
普通の空間なら、脳が熱死して、異常活性してヘドロになるだけだが、私の”作ったオリジナル法則の世界”では、そんな事にもならない。
勿論、人間を守る”管理AI群”にも気づかれない、ブラックホール内部とは、そういうモノだ、異常な、、、まあ、そういうモンだ、で通す。
狂う事もできず、その犯罪者、水槽の脳は、無限大に近い1無限大不幸を味わい尽くす、するとどうなるか? そう、”魔法”が使える程に、”在りえない現象・事象”の、種・たね・タネとなる。
「ということになるを事象の水平線に」
ストっと、また舞い降りる、少女、私ことクラリスは、宣言する。
「これからまた、君たちを、招待しようと思う」
そう、もっともっと、人間が必要だ、私と直接遊んでくれる、仲間も、酷い事をして、無限に罰せられるべき、罪深い人間も、ありとあらゆる人間が、もっともっと、ホシイ、ほしい、欲しい。
私の日々のルーチンワークは、”管理AI群”から巧妙に目を隠し、人間を収集、手に入れる事。
「来な、アマノマガカミ」
異空間から、超空の武器、神器と形容される、特殊な力場を放出する、異形のマガ鎌を取り出す。
私は、最新式の、超科学の兵器を持つ兵隊と、対峙する、いや、その、君たちの脳と、対峙する...私が望む目的物は、ソレだけなのだからっッ。!。




