機械による寒い夜空と機械の治療
妹が重傷を負った、直さなければ、時期に壊れてしまうだろう。
機械の怪我の度合いなど、専門的な知識を持たない自分の事だ、よく分からないが、放置して治るモノじゃないというのは分かる。
内部損傷パラメータを見ると、超とかつく度合いの損傷具合が見れるし、機械独自の自己修復機能やソレら機構に頼っても駄目そうなのだった。
機械治療師、どこにいるかもしれない、それなり以上に頭の良さそうな人種だ、瓦礫のうず高く積まれる辺境にゴロゴロいるわけもない。
僕は都市とは言わないまでも、それなりに発展している町に向かった。
そういう人間を探すなら発展している都市だが、そういう場所はそもそも受け入れてもらえない、または機械との戦闘戦線が構築されて迂闊に近寄れないのだ。
「だいじょうぶか?僕が付いてるから、必ず治るから、安心して」
背中に背負った妹に、カラ元気でも声をかける、保証もなにもない空虚に響くかもしれない言葉だが、言わないよりは言ってしまった方が良いと思ったのだ。
妹は背中を掴む手に力を込めて、それに答えてくれた。
コレは怪我で喋れないわけじゃない、妹は最初から喋れないのだ、会った時にはこうだったので、自然と言葉を使わないコミュニケーションには慣れる。
それから、8日くらいさ迷った、町らしい町を探し、今まで一番町らしい場所に居た。
治療師の移住を町の住人から聞き、薄暗い路地を歩く、世界中が戦闘を繰り広げ、その影響で大気が一年中曇っているのだ、青空などほとんど見たことがない。
さまざまな特色をもった家という家、テロラポットのようなモノ、3Dプリンターで量産されたような画一的な住居が均一に並ぶような場所で、
聞いた住所と一つ一つ照らし合わせて、他と比較すると大きな、それこそ30倍の住居、それでも傍から見ると小さく見えるが、そこが治療師の住む場所らしい。
「わあ!!!!」
突然のことだ、薄い天幕の並べられた町の大きな道、ひさしのようになっている場所の下を妹を背負って歩いていたのだ。
だが突然、上空から飛行装置を背負った、かなりデカいユニットだ、二人程度の機械が乱暴に不時着したのだった。
二人は理解できない言語を喋りながらも、必死さが伝わる雰囲気、一方の損傷が激しいのは遠目に見てても分かった。
どうやら自分達と同じで、治療師を尋ねに来たのだろう。
僕はいろいろと考えたが、彼らに道を譲る事にした。
「なんか大変そうだから、ちょっと待とうか、いろいろと考えたんだけどね」
そう背中の妹に言うと、同意するかのように合図があった。
診療所ちかくの、薄暗い場所に、二人そろってしゃがんでいた、特になにも言わない、僕は体力が低下していたのもあるけど。
近くの妹が指先で地面に絵を書いていた。
見ると綺麗なモノで、さきほどの僕が診療所への道を譲った飛行ユニットの二人だと、すぐにわかった。
その二人は敵と見える機械と戦い、これも正確に特徴を掴んで、この町だと分かる、場所を守っているようだった。
多少わかりにくい所もあるが、長年の経験で分かる、妹はどうやら僕のさきほどの判断を賞賛するようなニュアンスを込めているのだと。
目を見れば、うんともスンとも言わない、不器用なのか、暗黙の暗喩が好みなのか、今でもミステリーなのだ、メタファーを好み過ぎると僕は思うが、全然不快ではない。
でもあの二人が町を守っていたかは微妙かな、あんな高性能な飛行ユニットを持つ機械が、この程度の街を守ってくれていたかに関してはだけ。
いや、それでも他のデカい街を守る事が、間接的に、この町を守るような事は、あるのかもしれないけどね。
それから幾らか、件の二人が出てきた、12時間くらい経ったろうか、彼らは特になにも言わず、ゾロゾロと音を立てながら飛び立っていった。
「あの、よろしいでしょうか?」
やっと診療所に入り、銀の髪をした機械に話しかける。
「ああ、よろしい、何ようかな? いや見れば分かるのだが、一応な」
先生は細長いパイプのようなモノを吸い、こちらを睥睨するかのように、特に妹の方を見た、、、そして僕が口を開くよりも先にパイプを置いた。
「ああわかった、もういい、その子、怪我だろう?見せてみるといい」
診療所らしき場所に妹を寝かせる、妹は目だけで先生にお願いしますの合図を送っていたが、理解はしてもらえないだろう、損傷で背中を曲げることもできずにいた。
「あの、先生、実はさきほどの二人の事は12時間前に知っていたので、尋ねるのですが、休まれなくて良いのですか?」
機械はモノによっては大して休息を必要としないのは知っていた、だが精神はすり減る、そのような状態で妹を治療する事に対する危惧も、確かにあっての質問だった。
「問題ない、、、とは言わない、でもとりあえず、この子を診察して、どれくらいの治療が必要かは、知る必要があるだろう」
そして、先生は僕を外に促すようなジェスチャーをした、さああちらへ、とやるような奴だ、僕は疑問を顔に浮かべて、それに答えた。
「これから、この子を見るのだが、君がいたら、この子も困るだろう?」
「...あー、確かに邪魔になりますね、失礼します」
僕はその場を出て行こうとする、だが咄嗟というか、なんというか、微妙な力加減、そして反応、たぶん反射的だろう、妹が僕の手を取っていた。
そして先生の方を見て、先生も妹を見た、あの感じだと眼球の動き位でしか、意志を伝えられないだろうが、僕が思うに目を左右にでも動かしているのだろうか?ここからでは妹の斜め後ろ頭しか見えない。
「なるほど、君が傍にいる方が、安心でもするのかな?」
事態を把握した先生は言う、でもどうだろうか? 怖がりの気のある妹だが、診断くらいは一人でした方が良い気もするのだ、それに先生の集中の妨げにもなる気がする。
「いやいい」
先生は、そのまま妹の診断を始める事にしたらしい、余計な問答をするくらいなら、さっさと始めてしまった方が良いと思われてしまったようだ。
妹の着ている厚手の服を一枚一枚脱がして、寝台の横に積んでいく。
「なるほど、これは...」
一目で事態の深刻さを把握したような声、僕も素人目に酷いと思う。
先生はさらなる診断を行うためか、シュルシュルと、耳に神経接続された端末結晶のリールを伸ばし、妹の色々な部分を探った。
「端的に言おう、酷いけがだ、時間も費用も掛かる代物だ、お代の方も、それなりに掛かるが?」
「僕たちは、お金がありません」
先生は、下を向いてしまった、それはそうだろう、率直に言ってから、僕は頭を働かせて、なにか言えないか思考して、こう言うしかなかった。
「何でもします、僕が、なんでもします、だから妹は、どうにかなりませんか?」
”僕が”を強調した、妹にも何かさせるつもりは、今はない、僕だけが何かして、どうにかなるなら、それが一番だと思ったからだ。
「そうか、試みに聞こう、君はなにができるのかな?」
先生は顔を上げて、僕を値踏みするように見た。
「近接戦闘なら、それなりの腕は、ある方だと思っています」
この時勢での二人旅、そういう技能でも無ければ、どこかで二人ともガラクタになっていただろう。
僕が元いた”あの場所”で、徹底的に仕込まれた技術は、まだ腐っていない、どころか、研鑽を積み重ねて、あのころ以上だろう。
少し離れて、武器を持たずに演武らしき動きを見せる、素人目にも分かるように演出過多な動きにした。
「えーー、ほかには?」
不評だったらしい、確かに良く考えれば、街を守るとかにも使えない、護身が必要そうな荒れた町でもない、この僕の技能は使えないものになるだろう。
「なんでもできます、、、先生、なんでもするので、どうかお願いします」
とにかく最後の手段で、誠意を込めて、しっかりと相手の目を見て、お願いする事にした、もう不格好でも、お願いするしかできなかった。
「、、、うん、もういい、わかった、君の誠意は伝わった、ここは私が無理をしよう、、、そして一つ助言をしよう、”なんでもする”なんていうのは、そう易々と言うモノじゃないよ」
分かっている、その言葉は不用意に口にできない、でも今回はしかたなかったのだ。
それを裏付けるように、さきほどから先生と話している僕を、妹がしきりに気にしている、いやいやをするように、満足に動かせない体を震わせ、眼も左右に動かしっぱなしだ。
「これから私は、凄く失礼な事を君にきく、気分を害さないで欲しいのだが」
先生は妹の診断をさらに続けるようで、耳の結晶を操りながら、言いにくそうに顔を背けて話しかけてきた。
「君は、、、、男娼なのかな?」
うん?、、、うん?あれ、なにかおかしい、ダンショウ? ダ・ン・ショ・ウ、ってどんな言葉だったか?
そして、なぜか妹が先生を非難するように、睨んでいる、これは先ほどとは違って、良く見えた、それも怖いほどに。
「いやちがう、私がどうにかしようとか、、そんな気分は一切ない、君の技能について、聞いているのだよ」
なるほど、先生は眼も合わせずに、恥ずかしがっているかも分からない、あと言っていることも、ちょっと分からない感じだが、とりあえず即興で理解はした。
「男娼ですか、この町には、そのような稼業があるのでしょうか、それならご紹介いただきたいですね」
妹が、ガシャンと音を立てて反応した、体が震えてしまったのだろうか、先生も慌ててしまったのか、診察器具を放した。
「すまない、この話は後日しよう、パートナーの居る前で、するべき話ではなかったね」
「ああ、ちがいます、この子は僕の妹です」
なぜか妹が悲しそうな眼をした、傷に触ったのだろうか、可哀そうに、早く治してもらいたいと、僕は一心に思った。
「それと、僕はなんでもしますと言いました、文字通り、なんでもするのです、先生にだけ無理をさせるわけには、まいりません」
「そうか、わかった、だがもう口を閉じた方がいいだろう、、、診断ができないのでね」
先生がジェスチャーで、口をチャックするようにしたので、僕はソレに従った、従事者の判断には黙って従った方が良いのだ。
それから二時間くらい経った。
先生が「もうだいたいわかった」と言ったので、そこで診断は終わったようだ、その場で簡単に治せるとは僕も思ってなかったが、かなり準備が必要そうだと察した。
直ぐに先生は、だいたいの治療の工程を話してくれた、妹も怖そうに顔を染めて、その話を聞いていた。
そして今日はお開き、と、診療所を後にしようとしたタイミングで、先生が去り際に僕と交差するとき、僕にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「夜、妹さんに気づかれないように、この場所に来てくれ」、僕は覚悟した、いや、いろいろと、ね。
夜、獣も寝静まった夜半、妹を簡易な仮住まいに残して、僕は出かけた、もちろん先生の診療所を訪ねる為だ。
「待っていたよ」
先生は僕を招くと、とりあえず治療に必要な諸経費が分かる書類をくれた、僕は一応読んだが、流し読みだった。
先生が僕を騙すとは思っていなかった、会ってから間もないが、この人は信用できそうだった、もちろんあれから町の人に先生の話を聞いたのも、あるのだけど。
「あの、先生、率直に聞きます、失礼だったら、申し訳ありません」
僕は恥ずかしかった、もし空振りに終わったら、これほど恥ずかしい事はないだろう、誠実な先生に対して、とても失礼なのもある。
だが昼間、言われて思い出したが、確かに僕には、その毛の才能がありそうなエピソードもある。
とある場所でだが、僕よりも年長の女性に「君は私の弟になるべきだー!」とか言われて、追い回されていた時期がある、妹は「あの人は変態だ」と筆談で忠告してくれて、構わず逃げてきたのだ。
「いや言わない方が良い、関係ない事だが、、、私は自分よりも年下の、それも見るからに子供に見える、そんな子と淫らな性生活など、のぞまない」
言いながら、先生は酒を飲んでいた、なにか耐えるかのように、やりきれない事でもあるかのように、うん、先生の事だ、日々の治療や診察で、悩みも多いのだろう、僕は心の底から同情した。
「しかし、他のものは、そうじゃない、初めて君に”おねがい”された時の迫力は、ホンモノだった」
それは本心から、一世一代の勝負に挑む時のような、そんな迫力だろうか、ちょっと言っている意味を理解しかねている間も、先生の話は続く。
「君も、いつまでも、この町に拘束されてる謂れはないだろう、手早く治療費を払い、行きたい場所もあるだろう」
先生は提案を僕が受け入れやすくするような、会話のテクニックも交えているのだろうと感じた、確かに、少し我慢すればいいのと、長く苦役に苦しめられるの、どちらが良いかは明白に見えるのだろう。
そして勘違いだが、まあ放置しておこう、僕たち兄妹が流浪の旅を続けていた理由も、もう昔のことに近い、アイツらは”ある一時”から全く姿を現さなくなった、おもえば、元居た場所からは、遠く離れ過ぎたのだろう。
定住する場所がないのも、ただ単に定住するよりも移動し続ける方が気が楽だったからにすぎない、その程度の理由に成り下がった、のだろうと思う。
「わたしなら、君に仕事を紹介してあげられる、これでも毎月、都市にまで足を運ぶ、その伝は広いのでね」
なるほど、伝があるなら、”その手”の仕事は格段にやり易い、昔に闇の仕事を請け負っていた経験から、それは分かる。
でも、もう一つわかることがある、僕の勘と経験は、かなり鈍っていたけど、昔の事を思い出したからか、カスミのようにぼんやりとした気分が若干晴れていたのだ。
「でも、そういう話をされるのなら、先生が直接たしかめておいた方が、よくありませんか?」
初めて会った時から、どこか他人を寄せ付けない感じ、それは裏を返せば極度に人恋しく、寂しいからだと、分かってきた、簡単に他人を踏み込ませれば、絆されたり過度に感情移入してしまうから。
「それに、先生は恩人です、奉仕するのに、まったく異はないのです」
「あーいや、だから、私はそういうのに興味はないのだよ」
僕は”いける”と判断した、誰かも分からない女性と関係をもったら、たぶん妹が悲しむ、既に手は汚れ切っているが、ここで体まで汚してしまったら、妹とこれからさき困る事になりそうだ。
だったら、妹を助けてくれた恩人になる、この人の弱みに付け込むべきだろう、なんか、どうやら、僕の事を気に入ってくれている気配もある、そして純粋にこの人の手助けもしたいと思うのだ、誠実な一人の人間として、ね。
その後いろいろあったが、僕は”使える人材”のようだ、先生が直接判断してくれた。
だが残念な事に、今度は先生が僕を手放したくないと、だだをこねてきた、一度心を許してくれると、とてつもなく可愛い人になるらしく、萌える仕草で人を駄目にする人だと思った、キュンキュンしてしまう。
「ただいま」
ホクホク顔で帰ったのが、果たしてマズかったのか、妹は薄暗い部屋で、怪我をおしながら、鋭利なナイフを持って、待っていた。
護身のために常に持たせている、女性でも扱いやすい軍用ナイフだが、部屋でもそのように常備しているのは、やり過ぎじゃないか。
妹はよそよそ近づいてきて、芋虫のような動き、僕を優しく押し倒して、その首にナイフを当ててきたのだった。
「だいじょうぶだよ、なんとなかった」
緊張して、嚙みながら、恥ずかしくも今日一番で緊張する、それは妹に押し倒されてしまったのだから、そうだろう、僕にとっては一番のことは大抵は妹の案件に直結する。
「だから、だいじょうぶだから、安心して、安心するために、頭を撫でるから」
妹は透明な瞳で、僕を見るだけだ、まあこのような事は今回だけじゃないので、少しは慣れてくるものがある。
どうやら妹は、こういう事があると、僕の生殺与奪を握って、支配欲を満たしたいような時がある、僕だって似たような気分になる時もあるので、お互い様だ、我慢するべきは今回は僕だって話で。
「、お、ちょっと」
それだけなら良いのだが、今回は事情が違った、妹が突然ちかよって、僕の身体の匂いを嗅ぎだしたのだ、それはやめてほしい...変な気持ちになってしまうから。
それに不味いだろう、逆の立場で考えれば分かる、妹が異性と関係をもったら、僕は狂ってしまう自覚がある、、、つまり、今の妹の思考を逆算すると、、、逆算すると、、、? どうなるか?
妹が突然キスしようとし来た、当然とめる、そして自分の胸元のボタンを開けようとしたので、それも当然とめる、もう片方の手で僕の服も、なにかしようとしたので、ソレも止める。
「だから、だいじょうぶだから、ユリアの困る事はしないよ」
言って聞かせれば分かる妹だ、案の定、なんとか分かってくれたようで、その場はそれで済んだ、が、次はどうだろうか? 予想がつかない、もっとバレないように、”しなければ”ならないだろう。
というより、匂いでバレる展開は予想していたので、30分ほど外を歩き、服も変えていたのだ、妹の嗅覚が平常に異常なだけで、いや違うか、勘とか言う奴かな、今回はシチュエーションが不味かったのか、バレてもしかたない。
うーん、僕だってハマってるのに、、、いやちがう、これはどうしようもない、その成り行きとか言う奴で、決して妹の為であって、、、そのなんというか、アレなのだ、そうそう、アレアレ、アレ...妹にも分かってもらいたいのだ。
「妹の目を盗んで、どうやってするか、、、」
寝言でそんなことを言う、夢を見た、そしてソレを僕のベッドの隣で、座って聞いている妹の、夢を見た、怖い夢なので、もう見たくないと思った。




