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ドリームワールドの工廠長‐脱走者、コードネーム銀の妖精



 その日の目覚めは突然だった、普段は絶対に鳴らない緊急用の連絡線から。

「なんだね?」「所長っ!実験体が脱走しましたっ!」「よかろう、直ぐ向かう、最善を尽くせよ」


 聞き慣れた、一応は能力も人格も信頼に値する部下の声、コイツ以外の、、、

 ヘマをやらかした奴、どうせ色仕掛けや何やら、心当たりは無くも無い。

 わたしはソイツに対する出生を後悔する見せしめも含んだ拷問計画を考えながら、武器を見繕う。


 刀のように振れば、枝先が思考をトレースして分裂・幾重にも分岐して敵を狙う、最近の私の愛刀。

 他にも幾つか適当に選んで、素早く用意を済ませた、1分も掛かっていまい。


 向かう先は兵器生産部門、無手の強化体が、わたしのようなモノに勝てるはずもなく、当面の武器を得ようとするなら、そこしかない。

 だが焦りは特にない、そこでの兵器生産プロセスによる。

 アストラルから溜まったエーテルを武器の概念を混ぜ込んで結晶化させるのだが、SS級のアイテムが生まれる確率は低いのだから。

 

 私専用の端末で、武器工廠にオンラインでアクセス、今日付で生産された武器カテゴリーの生産物のスペックを閲覧する。

 AAAAA...、あってしまった、この時ばかりは無駄に高性能な工廠を呪いたくもなる。

 ランクはSだが、多少はやっかいな代物だ、私の獲物と、戦い方との相性は悪くはないが、良くも無い、決して油断できるものではないだろう。



 サイレンのけたたましい音が反響する、巨大な歯車やら分厚い支柱に囲まれた、外からの限定された眩い光で暗に明にコントラストの成す長い回廊にて。

 目標を発見した。

 予想通り、予想通りの武器を手にしている、無駄に長い黒髪を靡かせて、一直線に、そう一直線に、ソレ、を踏んだ。


 ぶわぁああっ、と、確死に成るはずの、鋼鉄の檻の攻撃から、武器を手に突破を果たした、その眼前に、私は自分の獲物を突き入れようと手を突き出す。

 キィィィギンッ!、防....がれた、察した瞬間には、後方に飛びのいている。

 

「くっくっく、ックック、」

 まるで爆発物が舞わせたような粉塵、その中から声、「捕獲が目的ですか?」、伺うような、静謐な理性を感じさせる落ち着いた、しかし同時に鋭さも含むような、

「相手が強化体でなければ威力範囲も散逸物も多いソレ一択だが、強化体は概念込みの力場攻撃でなければ駄目だ」がやみ、姿を現した対手を見ながら言う。


「爆発物を使わなかったのは?なぜ? そう問いたいのだろう?化け物、自覚が無いのか、教えてやろう、貴様は」右手に持つ鋭利さを突き詰めたような狂気的な形状の武器を示す、

「切り刻まれなければ死ねないのだよ、爆発で一瞬で死ねると思うな? 私を手煩わせたのだ、奴隷にしてやろう、毎日わたしなりに可愛がって、」

 ギンッ、キンッッ、、キィィィン___ーー。

 言ってるうちに、対手の相手は表情を無くす、ただただ只管に鋭利な殺人者のようなソレで、私を視線もろとも貫こうと武器を振りかざしてきた。  


「なかなかやるじゃないか、独学ですらない、才能のみに偏った、凄まじく不思議な剣気だねぇ~」


 私は系統的には暗殺者殺しのライトニングステップの使い手なのだが、コイツも相当、研鑽すらなく既に使いこなしている。

 天才の類か?、によって、初撃の最も入り易いアレすら、接近の瞬間には、防がれると察したが、ここまで37合切り結び、筋良く全て返されるとは...予想外だった。

 ならば、最初の一撃で殺し損ねたのが本当に悔やまれる。


 一泊の静寂、「見逃してくださいっッ」戯言をほざこうとした口もろとも、切り裂くつもりで獲物を振るう。

「見逃さないよ、貴様は首を切り落とす、貴重な強化体だからね、頭が不自由でも、私にとって従順な実験体の頭と取り換えれば、十二分に楽しめる、」

 私は、これ見よがしにイヤらしい目と舌なめずりをする「いろいろとね」、...案の定なんの反応も無い、嫌悪すら。

 年頃の少女の姿をしているが、中身は既に人外レベルなのだから、可愛げが無い。


「ソレ、カニの鋏のように歪な剣、冗談のような形状だがSランクアイテムだ、スペック上の攻撃力等、取り回しの易さが物語っていよう。」


 初激の一撃、Sランクの武器で無ければ、武器ごと断ち切り、首を断ち切れていた。

 いや、Sでなくとも、どうだったかな?

 このような偶発的で突然・突発の攻撃に対して汎用、正攻法なアクティブムーブメントで全方位に備える、のではなく、返す切っ先で超攻撃的に切り込み防御とした。 

 連続で攻撃しても、一向に切り崩せる気がしない、どうやら防御に徹するようだが、、、認めよう、同ランクのSS級の武器同士での対決ならば、負けていただろう。


 膠着状態が続く、勝てないし、負けもしない。

 駒は私以外に無し、メギツネに頼るのも、、、弱みを見せる位なら、コイツに逃げられた方が幾らかだけマシか...。

 そんな折、ソレは空から降ってきた。



 七色の翼の弾丸、一本一本が周囲にある直径10メートルオーバーの支柱と同レベル、高速で着弾し場を汚す。


「ちィ」「これは?」 知らん、知りたくもない、アイツが来るのは予想のパターンの一つだ、打つ手など無いが。

「所長」

 見ていたらしいなぁ、嫌らしい目を向けてくる、空から七色の翼を展開させながら、いつでも殺せる武器を私と強化体、双方に向けながら地面に降り立ったソイツ。

「?、強化体に逃げられたらしいな、そして、その様子だと、捉えられもしないようだ。」

 この町の支配者、件のメギツネは小笑い顔で見てくる。

「さて、所長、その類まれな強化体、処遇は?」

「はい、拘束後、片脳移植術で、現在の戦闘能力を保ったまま、従順な戦闘人形として仕上げてみせましょう」「片脳?はて、詳しく説明せよ」

 はあ?おまえが知らない事か、いや、この目の前の強化体に説明を、私の口からさせたいらしい、一体どういうつもりだ?、まあいい。

「クローン体、強化体には予備として事前に作ってあります。それから真っ白な脳を取り出し従属強制プログラムをインプットし、その脳を半分だけ脳移植し、経過観察しながら脳幹の干渉率を日々調整し、 

 カスタマイズすれば、ほぼ100%の成功率で、現在の戦闘能力などを維持したまま従属強制プログラムをインプットできますので」「いらなくなった脳は?どうするのだ?」「廃棄します」


 支配者は、笑う、「嘘をつけ、私は見ているのだぞ?全てを。

 貴様は貴重な脳を廃棄するような人間ではない、大方、誇り高い戦士を辱めたく、ひ弱で脆弱な、娼婦型アンドロイドにでも移植する。淫乱なだけが取り柄の肉人形にして楽しむのだよ」......コイツは何を言っているんだ?そんな事をして一体全体なんの価値がある?「本当のことを述べよ」

 「はあ、申し訳ありません、戦闘シミュレーションの知能として使い道があるかと、愚行はしておりました」「いやいや」 、、、なにがイヤイヤだ。


 とコントを繰り広げている隙をついたつもりだろう、強化体が逃げようと、初めの一歩を光速よりも若干早い位のペースで踏み込んだ。次の瞬間、首根っこを捕まえられていた、眼前で喋っていたはずの、支配者にである。

 動きは追えた、正攻法なアクティブムーブメントである、だが格が違う、支配者の来歴からして某公家の出身、正攻法の王道剣術を収めていたはずで、

 定石を極めつくした果てに、邪道に走らず、正攻法を、今をもって極め続けている口か。私のように正攻法に限界を感じ、暗殺者のライトニングムーブメントで殺しに来る奴とは、やはり違うのか。

 感嘆を悔しながら感じていると、「望み通り、奴隷にしてやろうぞ、所長」「はぁ」「奴隷だ、奴隷、奴隷魔術でだ」「はあ??!!!」


 奴隷、その名の通りで無い、コイツが奴隷解放をしてから、奴隷とは正式な身分が保証された、ただの言葉遊びでの一階級でしかなく、ソレにすると言っていると認める、しかも主人は誰か言うまでもないだろう。

「強化体を奴隷、、、悪くはない提案ですぞ、しかしマスター、主人は誰にいたしましょう、....少なくとも私は多忙故」しかし愚問でも言わずにおれない、支配者は私の方に指を指し「おまえだ」と言った。


 

 拘束した、コードネームを見返すとリリー、なぜか毎度付けられる二つ名...らしきもの、とある頭のよろしくない偉い人命令、その名も”銀の妖精”。

 確かに、光の当たり具合によっては、あまりにも流麗で漆黒で、人間離れした、そも人間でない存在なのだが、銀色に見えなくもない。

 それで強化体を拘束するには、奴隷魔術、それも高位に概念まで縛る形での、もちろん、そんな事をできるのは、メギツネ、位しか終ぞ知らない。


 さて一応、助けられた形であった、内心百歩ほど譲れば、日頃の振る舞い通り、従順に認めようものだ。

 だが私も暇ではない、どうしたものかと、途方に暮れなくもない訳だが。


 この、コイツの、メスガキ臭い、純粋な処女のような、汚れの無い瞳、知っている、この世の悪という悪逆、拷問という拷問の深淵に潜む、不幸、苦痛、膨大な虚無、徒労、etc.、この世の真理のようなモノ。

 モノを知らない、所謂、ガキの目なのだ。

 さきほどまで意気揚々と拷問して、この目の色を変えられると思っていた立場としては、ニンジンを取り上げられた駄馬のような心地を強制的に味あわされているようなモノではないか?

 イライラしてムシャクシャするっ!

 可愛がられるとでも思ったか? うすら寒い笑みを向けてきた強化体、もちろん愛嬌で絆される人間でない、イラっとして手を内心でだけ振り上げた。

 いまごろ、お前の脱走の手引きをした部下は、なんの生産性も無い、ただただ脳に無尽蔵の苦痛を与えるだけの部屋で常時発狂レベルの苦痛の世界にいるとも知らずだ、と言うのも内心でだけだ。

 

 罵倒も、殴るのも、禁止されている。

 

 奴隷の主人は親のようなモノだ、体罰は場合によっては認められている、が、うすら寒い笑みで挑発してきた、程度の理由では体罰は勿論認められない。

 仮に殴って、馬乗りなってボコボコに叩きまくって、気を晴れ晴れにする妄想でも危ない、ワンチャン捕まるレベルなのだ、思考罪、二次元で無い三次元の、と限定されるが、

 全てを監視する町のAIに、特に、あの支配者に見られようものなら、どんな”正式な形での”罰などが下されようか。

 既にコレが、正式でない、罰のようなモノ、もう既に間に合っているのだからな。


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