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ウィザード・エルオナ・ファンタジー



 


 目覚めなさい、、世界に生まれ出でるモノよ。


 目を覚ましたとき、何も知らなかった、この世界に関する事は何も知らず、前世の記憶だけがあった。

 この世界と比べて、相当に発達した世界の記憶である。

 ここは、どこまでもファンタジーな世界だった、前の世界の視点から見てだ、酷く典型的なソレ。


 更に特異な点として。

 まるでゲームかのような、いや、まんまゲームだった。

 先天的に備わる感覚によって、どこに居ても中空にステータス画面等々が開けるようになっている。

 それによって自己のHP(体力)やMP(魔力)等々を知ることが出来た。


 最初に居た場所は、ヘドロ溢れる暗黒の沼の内だった。

 その一つだけ確保された草の上、実年齢で表せば青年程度の、健康的な身体で横たわっていたのだ。


 最初の町で、今は暮らしている。 

 この世界の人々から情報収集し、ある事を知った。

 この世界は、ただただ上層に向かう事だけ、それだけが目的かのような、そういう世界観もあれば。

 一つの階層世界、それも無限に広大だ、そこで無限の自由で何かをする、つまりはただの人生で何かしらを成す、そのような世界観もあった。

 色々な世界観が複雑に入り乱れ、選べる選択肢が多すぎる、だから、俺は最初の町で今だにぐだぐだしていたのだ。



「はぁ~暇だ」


 安宿にて、一人退屈を持て余す。

 宿代は、一日一回、町の郊外で現れる敵を始末するだけで賄える。

 最初の町にあった冒険者ギルド、其処での最低ランクの、恒常的に発生する依頼を適当に果たすだけである。


 全体、組織として、最上層の世界に至る事を究極的目標に掲げ、また世界の治安維持活動もし、見返りを得る集団。


 日々沢山の依頼がギルドには舞い込み、そしてその依頼をギルドメンバーに紹介し、達成の暁にはその報酬を所属メンバーと、ある比率で折半する。

 そのギルドで上位の地位に至れば、本部から上位世界を冒険する為の援助等を受けられたりする、俺には今直接関係しないがな、これ。


 そこの最低ランクだ、レベル1でも楽々達成できた。

 今日も朝の涼やかな空気の中、レベルが当初と比べ物にならないくらい上がった、そのような状態で即刻終わらせた。

 だから、もう何も、緊急を要する、今すぐしなければならない事は一つも無いのだ。


 ベッドでゴロゴロ、何もせずに寝転ぶ。

 外は特に科学の発達していない、そんな場所、娯楽も比べ物にならないくらい少ない。

 前の世界、まるで前世のように回想される、その世界のド田舎以下の場所である、退屈すぎて頭が痛くなってきそうだ。


「はぁ、外に出てみるか」



 最初の町は、ヨーロッパの田舎的、比較的低層建築がずっと続く地域だ。

 ただ一つだけ目を引く、そのような場所。

 大図書館、ありえないほどの規模を誇るソレ、それのみが異色、この町で一つだけ見るべき物があるとすればソレだ。


 内部には、無限に続くような書架、超幻想的な絵画のような神秘に溢れる、そういう非現実的な空間だ。

 利用者は、始めて行ったときは殆どいなかったと記憶している。

 数人、俺と似たような、町の人間以外の存在、そういう人物が居たような、居なかったような。

 続く最奥に進もうとすれば、ただ一人で図書館を管理しているらしい、緑髪の少女に呼び止められた。

 話を聞くと、貴方には閲覧禁止の領域です、それだけ言って、半ば強制的に奥への侵入を拒まれた、それっきり一度も行ってないが。


 今は大図書館の周囲、泉と川があり、沢山の森林を抱えた自然公園のような場所にいた。

 適当に植物や鳥、町の住人を眺めたり人間観察をして、ただウォーキングでもしているかのように歩く。


 それにも飽きて、町並みに戻る。

 どこまでも特色の薄い、モノクロ色彩の建築物と衣装を身に纏う人々。

 店なども、商店街のように町の一箇所に集中され、そこ以外は住人の住まう場所だけで構成されているかのような。

 アトリエや魔女の家のような、怪しい場所は、町に点々、独立した場所にある事が多い、そういう事も歩き回る過程で知った。


 町の最外辺、終わりの位置に付く。

 どこまでも続く平原地帯、何もない、畑仕事をする人々と、どこまでも続くかと思われる田園とか、何を生産しているかは知らない。


 またも町の内側に、反転するように歩く。

 すると、一人の少女が現れた。


「あの、お願いがあるのですがぁ、、、」


 これは、無意味に歩いていると、決まって定期的に起こる”イベント”に近い何かだ。

 始めはそうは思わなかったが、断っても断っても、定期的に町の住人から何事か話しかけられるのだ。

 この世界を、ある意味ゲームと分かる、前世の記憶持ちの俺は、この事象をそのように認識するに至るわけである。


「なにかな?」


 今回は、暇すぎて、用件だけは聞くことにした、いつもは断りを丁重に入れている、縋るように頼まれる事は今まではない。

 目の前の、赤茶髪の少女は、控え目に礼をしてから、話し出す。


「そのですね、この町の図書館、利用者は一人ニ冊しか本を借りれない決まりじゃないですか?

 もし本を読まれないタイプなら、図書館から私のお願いする本を借りてきて、私に又貸ししてくれないでしょうか?」


「うん、別にいいよ」


「ありがとうございます、では、本と引き換えに、何かそれに見合う報酬を用意しますので、お願いしますね」


 クエスト

 目的・図書館で「錬金術法則書・薬草調合初歩」を借りる

 達成確認・その場でアイテムを手に入れるのみ、その瞬間にクリア扱いとする

 報酬・1000G


 まあ、悪くない、暇だし受けても良いレベルだ。

 ちなみにGとは、俺の前の世界の円に完全に相当する単位だ、つまりは千円という意。



 大図書館への道中、冒険者ギルドの前を通る。

 アメリカ西部、ウエスタンにあるような、まるで酒場のような扉を持ち、中もそのような場所。

 中規模な建築物の中には、朝昼夜問わず、ギルドのメンバーが溜まっている、時間帯によって存在する顔ぶれは多少違うが。

 退屈を紛らわす為に、顔を出すことにする。


 今は昼時、顔馴染みが居た。

 長い腰ほどの黒髪の美女、女剣士のような凛とした姿、抜群のプロポーションを、気だるく椅子に預けていた。


 目の前まで近づくと、向こうの方から声を掛けてきた。


「なんだ、タクミ、私に何かようか?」


 この美女、名をローザという。

 始めは向こうから話しかける事は無かった、だが俺が何度も話しかけると、いつしかこのような対応に変わった。 

 この酒場では、多少だけ目立つ程度、個性豊かな場において、ただの黒髪の美女は目劣りする、この世界的に言えば割と凡庸な個性なのだ。


 それでも、俺はこの美女に興味を持ち、暇潰しの雑談をしていた。

 そして少し前、暇だから、どこかに行かないか? と控え目ながら聞いてみると。

「依頼関係でなければ、ただで同行してあげてもいいわよ」、そう言われた、逆に依頼関係なら、それなりの報酬、任務に応じた額を要求するとも。

 だから、暇な時は連れて歩く、そう言う事にしているのだ。


「はぁ、今日は何かあった?」


「ないわ、いつも通り、退屈でしかない日々よ」


 このように、冒険者にも個性があり、日々を活力を持って生きたり、上層を目指すものなどなど、千差万別の個性を持つようでもあるようだ。


「そういえば、これから図書館で依頼を果たすんだけど、それって別に良いの?」


「いいわ、そのくらい、だいたい私がするべきこと、役立つ事はないもの、それでお金をもらうってのも変な話でしょう?」


「そうだね、そういえば、君は何か本を借りないの?」


「そうね、貴方が薦めてくれれば、読むかもしれないわ」


 なるほど、それは良い事を聞いた。

 おそらく、この美女は薦めた本を読む、ならば、将来的展望も見据えた、そんな本を読ませるのもありかもしれないな。



 そんな思惑を抱えながら、開け放たれた図書館の前。

 内部に入り、常に受付に立つ緑髪の少女に話しかける。


「そうですか、ならば、二冊の本を借りる事を許可します、お好きなモノをどうぞ」


「エルク、こんにちは、元気してる?」


 隣の美女が話しかける、俺よりも前から居るのだ、図書館の主と交友があっても特段不自然ではない。


「はい、ローザさん、お気遣いありがとうございます、私は元気ですよ」


 俺とは違い、控え目な笑み、好感度が俺とは違うのだろうか?


「それじゃ、いこ」


「ええ」


 書架によって、本の種類は正確に整理されているので、割と膨大な書架の中でも、目的の本は苦も無く見つかる。


「これこれ、これが頼まれた本なんだよ」


「へえ、依頼主はアトリエ少女だったりするのかしら? それとも薬屋の娘とか?」


「見た目からじゃ分からなかったけど、地味目の少女だったから、後者かもしれないね」


「そうかもしれないわ、アトリエ持ちって見た目がファンシーだったり、個性的だったりするものね」


 本を手に取り、アイテムとして”持つ”、すると本は消え去り、多分ゴールドが千、増えているのだろう。


「ローザにはこれを薦めるよ」


「料理の本? なぜこんな物を読ませるの?」


「だって、将来的に、いや、なんでもない、とりあえず読んでくれると嬉しいな」


「そう言うなら、とりあえず読むけど、なんか変な人ね」


 それを外衣に放り込むようにしまう。

 この機会だ、俺も何か借りるかと、物色をしてみるが、特に何も読みたいモノはなかった。


「ローザ、何か俺に薦められる本、知らない?」


「薦める? そうね、私って一般閲覧禁止書庫の、剣技の棚、そこから貴方に本を又貸しできるけど、興味ある?」


「へえ、だったら、見るだけ見てみようかな」


 本を読むだけで強くなれる、スキル等を身につけられるなら、楽しめて一石二鳥、良い話に思える。


「ちょっと」


 奥に進もうとした、俺の上着の袖引く感覚。


「ああ、そうだった、俺は奥には進めないんだった、ローザ、俺に合ったやつを、適当に見繕ってくれないか?」


「分かったわ、今の貴方にぴったりの奴、持ってくるわね」


 俺はその場で待つ事にした。

 暇なので、目の前の緑髪の少女、割と背丈の低いその頭の上から話しかける。


「図書館長? と呼ぶべきなのかな?」


「いいえ、エルクで構いませんよ」


「それじゃ、エルク、さん、俺も名乗りますか、タクミです、よろしくお願いします」


「はいよろしくお願いします、ローザとは親しいのですか?」


「まあ、冒険者ギルドで良く会話する仲、その程度ですがね」


「そうですか」


「あの、エルクさんはココで暮らしているのですか?」


「はい、あの受付、そこの扉から上に行けます、そこが住居スペースになっていますので」


「そうだったんですか、どんな風になっているか気になりますね」


「来ます? 別にその程度、わたしは構いませんが」


「いいえ、それは次の機会に、その間にローザが来るかもしれませんしね」


「ローザの知り合い、少しはお話もしてみたかったのですが、そうですね、今はやめときましょうか」



 そのように駄弁っていると、ローザが奥の方から帰ってきた。


「お待たせしたわ、はい、これ、”「剣技の書・三段突き」”これで良かったかしら?」


「うん、ありがとう、でも一冊でそれだけが記されているのかな?」


「そうよ、一つの剣技に関するいろいろ、技術や精神、その他沢山が記されていて、一冊という形になっているの」


 まあ、たぶん、全部読まないと駄目なんだろうな色々と。


「では、これにて、図書館長、ではなくエルクさん、また今度」


「はい、ローザもまた」


「ええ、エルク、またね」


 そうして大図書館を後にした。



 昼も中ごろ、町並みをローザと歩きながら会話する。


「貴方、これからどうするの?」


「そうだね、宿屋に帰って、本でも読むかな」


「そうなの、私はまたギルド本部に戻ろうかしらね」


「依頼とか、するの?」


「するわよ、もし同行したいなら、タクミなら受け入れるけど?」


「いや、今はいいかな、それにローザの受ける依頼なら、俺じゃちょっと荷が重いかな」


「別に、貴方に合わせる事もできるんだけど? どう?」


「お誘いありがとう、でも、今日は本を読みたいから、いいかな」


「そうなの、それじゃ、今日はここでお別れかしらね」


 俺の宿泊する安宿の前。


「うん、そうだね、またね、ローザ」


「ええ、またいつか会いましょうね、タクミ」


 彼女は軽く頭を下げて、颯爽と反転、髪を翻して、優雅な見惚れる風を演出し去って行く。


「よし、今日で全部読んで、明日ローザを驚かしてやろうかな」


 今日は、夜まで本を読み倒すことで終わった。

 割と剣術の本なのに、読んでて退屈にならなかった。

 剣技、三段突きに関するアレコレ、中には物語り形式で書かれた内容、有名な使用者等々、様々幅広い内容形式で描かれていた。


 ゲームっぽく、全部読み終わった夜、俺のスキル欄に”三段突きLV1”が新しく追加されていた。

 まあ、実際の戦闘とかで、これが活躍するかどうか、酷く微妙な話ではあるのだけれど、意外と嬉しかったのを覚えている。

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