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図書館都市の異端者と‐アリアとタクミと鬱とバグと盗聴☆☆



 人間は劣化する、これはどうしようもない。 


 昔と比べて、鮮烈で新鮮で刺激的な情動、情緒を発現できなくなる。


 つまり、己が薄まり薄まり、心と言える何かが、次第に次第に消えていくのだ。


 これは高度に発達した文化・芸術・娯楽の助力でも、果てしなくどうしようもないモノだ。


 私の頭が壊れていく。


 経年劣化した機械のように、段々と螺子が緩み、跳ね飛んで行き、使い物にならなくなってくる。


 こんな出来損ないの、屑のような有様では、もう何も、何もかも創れない。




「文章かけとるやんけ」




「馬鹿、ですか。?


 私が、じっくり推敲しても、この程度の文章しか書けないということなのです。


 それを理解もせずに、その突っ込み、ありていに端的に死んでください」




「ご、ごめんよ」




「分かればいいのですよ、ふん」




 日々のブログ更新は日課。


 この程度の短文なら、まあまだいい、幾らでも取り繕える、そういう技術が、まだある。


 だがでも長文の場合、もう意味が分からなくなり、ほぼ死んだも同然。


 。。。。物語なんて、もう作れる気がしないのだ。




「アリア、ずっと家に引き篭もって、この根暗がぁ、外に散歩に行こうぜぇ」




「うるさいですタクミ、あなたは、、今朝もいいましたが死ねばいいのですよ」




 つれなく素っ気無くそう言っても、勝手に手を掴んで連れて行かれる。




 外は暑い、太陽が燦燦と照っているのだ。


 昔はまあ気にならなかったが、今はただただ害悪にしかならない。




「嫌で嫌で、しょうがないわ」




「何がだ?」




「ばっか、貴方と隣り合って歩いていることが、よ、吐き気を催すくらい嫌悪的ってこと」




「めっちゃ口が回るじゃないか、この」




「貴方を罵倒することだけは、死んでも無くせない生き甲斐なモノでね」




「それは光栄だね、嬉嬉として受け入れよう」




 そんな駄弁りつつ、なんの新鮮さも面白みも、ないようであるようでない、道を歩く。




「おいアリア、あれ見てみろよ」




 なんとなく喋り疲れて、ジッとただただ下を向いて歩いていると、彼が言う。


 指先には、大きな岩の群、道の外れ、人だかり。


 割って何があるのか確認すると、それはただのバグだった。




「なんでバグが放置されてんだ? こんな都市で?」




「知らないわよ」




 人だかりに聞くと。


 今朝方、このバグを修復しようと観測者が来たのだが。


 それを狙い済ましたように襲撃して、それを妨害したものが、いると。




「へえ、そんなんで、世にも珍しい都市のバグってか」




 胸を逸らして、なんとなく偉くなったかのように大仰に頷いている。




「はぁ、感心したように何度も頷く、その仕草がうざい」




「いいじゃんか。


 だが可笑しいね、観測者って高レベルな存在だろ?」




「ええ、それを越える高レベルな存在が、襲撃者ってことでしょう」




「どんなメリットが、あるんだろうな? リスクのある行為だろう?」




「知らないわよ」




 いきなりだが、突然、わたしはあのバグに飛び込みたい衝動が発生した。


 それは非常に抑えがたく、私を魅了した。


 平時、自殺志願欲望に、悦楽快楽主義者に狂ってるわたしのこと、そういう事も侭あるものである。   




「おい、どこ行くつもりだ?」




「はぁ、ちょっと、あのバグに飛び込んでみようと、ねぇ」




「ねっじゃねーって、やめろやめろ血迷うな」




「血迷ってない、知識欲に忠実に私は生きることにしてるの、、、って冗談よ」




 途中から本気で誤解される空気になったので、方向転換した




「それにしても、あのバグの先って、どうなってるの?」




「俺に聞かれてもな、まあ多分、碌な場所じゃない。


 全宇宙空間において、人間が生きるに適した環境なんて、普通特異中の特異なんだしな」




「ふーん、それじゃ、貴方が飛び込んでみるといい」




「なぜに!?」




「なんとなく」




「ほんとにそれだけか?」




「ええ、戯言よ、気になるんだったらゴーよ」




「意味が分からん、お前は狂っている、やっぱりクソ女、電波で馬鹿で救いようが無いダボハゼ!」




「ひどい、本当に本当に冗談だったのよぉ」




「おいおい泣くなよ」




「これがいいの、涙の数だけ、少しでも強くなれるから、うれしいのぉ」




「だめだこりゃ」




 ガチでほろり泣きながら、元来た道を家に向った。




 夜、ベッドの、更に布団を被った中で。


 私はイヤホンをつけて、レコーダのスイッチを押す、再生される音。


 これも、習慣の一つ。


 おもむろに掌のブツを握る手に、力が入る。


 その「装置」は、ただのICレコーダーである。


 手の中にスッポリ収まる程度の、安っぽい、実際安価な小さな機械だ。


 この中に、彼の今日の言葉が収められているのだ。




 物好きな知人から聞いた台詞を回想。




「にゃっはっは! 『盗聴』!! マジソレ受ける! 超犯罪チックじゃんじゃん!!♪」


「いえ、実際犯罪なのでは?」


「と言ってもねぇ、そんなに大げさに考えるモノじゃないんだよ♪!


 ただただ、ボイスレコーダーの録音ボタンを押した後に、それを車の隙間に仕掛け、じゃなく忘れちゃっただけ!なんだからさぁー♪」


「はぁ、、」 


「にしし、自室の中は密室ってね。普段ヒトに言えないことも、平気のへいさで独り言で言ってるんですよ!奥さん!」




 最後の一言で、赤面した事を思い出して、むかついた。


 脳内で彼をSMチックに鞭で引っぱたいて、泣き顔を見て一応憂さが晴れ満足。


 さて。


 そう、これさえあれば、彼が普段私に言わないことも聞けるのだ。


 彼は独り言の趣味があるので、部屋にコレを仕掛けると毎回、それなりに何かが聞けるのである。


 まあ、ほんのちょっとに、ほんとちょっとだけ、先っぽくらい……かすかに罪悪感を感じるの、だが。


 まあいい、私はそれを振り切るように布団中で頭を振ると、レコーダーの音に耳を傾ける作業に戻る。




 少しの間、何も聞こえない自然音の連続、だが、次の瞬間、何かが起きるかもしれない感触に浸る。


 無駄な装飾が多い日常の音に聞き惚れる。


 彼と何か、よく分からないアレ、何か共有している感覚が堪らない癒し的なセラピーになっているのだ、恥ずかしながら。


 しばらくはエアコン等、そんなエンジン音が響いていた。


 それにしても、無駄を排して何も聞こえない寂しさがあるものだ。


 私は一人だ、でもコレがあれば、雑多な音と共に彼の存在を感じれる。


 無駄を排する事は良いことだ、と言われるが、無駄こそが大事なのではないか?


 私はその無駄を自覚したまま、場合によっては無駄を排する、そんな人間になりたい。


 さて。


 そんな哲学を繰り広げながら、単調な音の繰り返しに、日ごろの疲れも相まって、私はまぶたが重くなってきた。


 偶にはある事だ、このまま眠ってしまうのも良いだろう。


 その時、ぽつりぽつりと彼の声が混じりだした。


 だが、ホントに小声らしくて、小さすぎて聞こえない、私はピッピと音量を上げた。




「――あの女、殺してやる」




 音量を上げすぎたのか、耳元で実際に彼に言われたかのよう。


 スピーカーからその、異様に冷たい声が響き渡って、わたしの耳朶を犯すかのような感じ。


 寝ながら聞いていたので、ビクリとした後、そのまま背筋が反り返っていき、凍りつくようなゾクゾク感。


 私は音量を下げることも忘れて、呆然としたまま、聴き入った、なんだか涙が溢れてきた。




「穀潰しの出来損ないが、ろくに稼いでこないくせに」


「偉そうに」


「良いように使って」


「幸い子供はいないしな、今のうちに殺――」




 殺しちまうか、


 そこまで聞いて、私は感動的な悪寒に身が震えた。


 どんなホラー映画が、こんなにも身を震わせるほど、純粋に萌えさせてくれるだろうか?


 いい、これは凄くいい、。


 そう思って、何度も何度も何度も何度も、繰り返し繰り返し同じ箇所を聞き返してしまう。


 身が震えて、歓喜のようなモノが電流のように身体を駆けずり回る。


 みっともなく勝手に身体が反応するようで、布団の中で激しく転がるをするかのようにビクンビクンと全身がれ律動する。




「ふぅ」




 冷や汗のようなモノが、この一瞬間で流れたモノと信じがたかった。


 私は、本当に、今日にでも、彼に殺されてしまうのではないか? そう思った。




 頭が真っ白になった。




 朝。


「あら、今日は遅かったわね。おはよう」




 そう言って微笑む。


 彼の顔は、何時もどおり、私を愛おしく見つめるその瞳に、嘘がないと思えるものだった。


 もちろん、あの事は言わない、今日も、もしかしたら良いモノが聞けるかもしれないから。 

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