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ヒルダネットワークの一端末‐とあるラノベ作家の日常風景


 


「あぁ~くそ! 締め切りに間に合わん!」


 私は直接情報入出力システムを投げ出し、一人部屋で喚き散らす。

 もう今日が終わる。

 一日中、自己限界ギリギリで脳を過剰に酷使して、頭が溶けそうな、毎度の歪な感じの頭痛が鳴り止まない。


「あぁー、少し休むか、その方が作業効率が上がるだろ、常考」


 椅子に座りながら仰向けになり、天上を意味なく見つめる。

 銀河暦、ピリオドオブギャラクシ、が良い感じに全部ゾロ目になり、なんとなく特別感の漂う今日この頃。

 世界中もなんとなく特別感を抱き、だからか、なんとなく私も特別な作品を提供する必要に駆られ、頑張った。


 それがグランドゼロ・災禍の中心・最悪の中心地だったのだろう。

 己で緻密に編み出した、手広く多岐に渡る執筆活動、

 における締め切りなどの仕事全般を最大限、費用対効果の限りに行う為のタイムテーブルを、

 強引に弄り、作品のクオリティーを上げようと画策したのが失敗だったのだ。


 締め切りという制約は、一個作者が破れるものでもないし、破るべきでもない。

 だいたい質を高めたいなら、この時代、合作でも何でも手は腐るほどある。

 私に求められている作者としての在り方、それを忘我していたのかもしれない。


 それはつまり、自己の作品間に存在する、絶対的な、未来まで延々と続き続ける整合性・連続性を感じさせつつ。

 更に、合作では到底不可能な速筆なのだ。


 この時代の平均的な読者の読書スピードは、毎分一万文字だ。

 三十分程度読書する習慣がある、大概のライト層、それに毎日の間隔で作品を刊行し、ライフスタイルに組む込みするという商法の為にも、これは必須だ。


「ああ、しかし、、、」


 ライト層を満足させる、それはもちろんで、更にヘビーな層にも受ける為には、偶には超クオリティー、神回というモノを織り交ぜる必要がある。

 毎回それを実現するのが不可能なのだから、偶のそれ、神回は、私が不可能を超越した、好調やら致命的なレベルの過負荷労働の成果なのだ。

 そして本日が、その日。

 毎日を特別に過ごす、そんな私の更に”超”特別に値する日だったのだ。



「お、今日ちょっと面白いじゃん」


 友人作家の作品を片手間で読みながら呟く。

 毎日レベルで作品を連発する彼女だ。

 それゆえ、作品単体で見れば、お世辞にも質はとても良くないのだが、それだけが情報の質を必ずしも定義しない。

 彼女の作品の醍醐味は、その繋がりや連続性、相似性、つまりはネットワーク的な楽しみなのだ。


「それにしても、今日は気合入れたね、毎日新聞のように読み飛ばされるのに、ご苦労様。

 ああでも、傑作短編集になるだろから、別にそんな無駄でもないのかな?」


 独り言を呟きながら、日課の情報収集活動に入る。


 宇宙に散らばる情報の海から、私の中で新規に値する情報を見つけ出すのだ。

 どれだけ高次元な情報を生み出せるかは、これに全て掛かっている。

 つまりは情報量。

 わたしの出力可能な情報の強度は、絶対的にソレに依存すると昔から、意識が顕現した出生の時から悟りきっている。

 その質と量と強度などを決定し、己の価値を規定し、絶対に比例するのだから、執筆よりも断然こっちの方が重要だ。

 これは俗に、情報収集能力と定義される力だろう。


「国家にで例えるなら、大規模諜報機関とかかな?

 執筆は軍部とか政府や行政などなど、実行機関がそれに比例しそうだ」


 無限に広大な情報の海にも、特に情報価値の圧縮・凝縮・偏在している所は点々とある。

 時代の最先端を突っ走る、相対的に一流・超一流といわれる時空間だ。

 とかく、先発世代よりも後発世代の躍進は見逃せない。

 私達よりも後に生まれた、生まれる世代は、今までの全ての歴史、娯楽作品等を利用し踏み台にできるのだから。


 恐らく総合的な情報量で言えば、質量共に十倍以上、高い娯楽の世界で生きているのだから。

 それだけ純粋に楽しい世界、人生を生きる彼らの、瑞々しくも才気にも活気にも溢れた情報が、まずはメインターゲットだ。

 それから、綿々と続く古式ゆかしい、超最新にして、新しくも古いという矛盾を体現する、現代の聖書とも比喩できるニュース週刊誌タイムズを閲覧する。


 時代の掛け値なし先端を突っ切る人々の、介錯ない記事の数々も魅力的。

 だが、まずは見逃せないのは、この誰もが平等に知る、現実という最大級の物語の事象を知ることだ。

 最もインパクトが強く印象的な事柄、それは物語を読む読者の視点そのものを明瞭に想像するのにも役立つのだ。


「もちろん、ライバル作家の生み出す情報も、商売仇として、当然見逃せないんだけどね」


 同一存在の読者を相手にする場合、作品が被る場合は、相手の作品を上回る必要がある、

 だが、衝突を避ければ共存もできるのだ。

 お互いに衝突を避け続ければ、無駄なリソースの浪費が防げられる、それは質の向上を迫られるという一点のみではありえない。

 ライバル作家ですら、読者なのだ、むしろ、最も私の作品を読んで、何かしらを読み取り学ぶ、最高級の受容体、観測者といえる。

 つまりは効率的に切磋琢磨する為にも、相手の、ひいては世界の発信する情報と被らない、似たようなモノにならないように心掛けなければ。




「はぁ、はぁ、ヒルデちゃんの作品萌えぇ、、」


 うん? しまった私とした事が、締め切りに追われ過ぎて、精神が失調し、娯楽に逃げてしまったらしい。

 だが頭痛は無くなった、明瞭で冴え渡る頭脳を取り戻すことができた。

 ちなみにヒルデとは、私の最も敬愛する作家だ。

 総合力では、唯一わたしに比肩する、いや上回る、一個作者なのではないだろうか。


「それにしても、酷いトランス状態だった、普段の私は冷静沈着クールに冷徹な感じなのになぁ」


 机になぜか涎の後がついている、一体なにがあったのか、、ヒルデの作品の情報以外に頭になかった。


「さて、元気も出たし、ラストスパートを掛けるか」


 私はキーボードを叩き、今日を締めくくる為の文章を創作しだした。

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