小説区分の宝物ネットワーク‐幻聴伽耶の主
今日も暇である。
俺というのは、イルミナードの覇者だが、それだけだ、特別な能力はほぼ無い。
俺というネットワークの収束・偏在・統合中心点は、存在しているだけで機能するように出来ている。
既に俺そのものがネットワークなので、俺そのものは身軽な方が、何かと様々な意味合いにおいて都合が良いというのも、あるが。
第一に、銀の理性。
黄金の力と対を成す、偉大なる高次元機動の技術、栄光へと続く銀の波動。
この震動と熱量を体現するには、余分で過剰な力はぜい肉と化すのだ、むしろ常にジリ貧・一杯一杯くらいの現実に対する力量が丁度良い。
「カヤのようすでも見に行くか」
俺は脳内の選択肢を選び、王城の最上階、ではなく、本物の王女の居る、城の端の方に存在する小さな家に向かう。
そこには小さな庭があり、小さな家に相応しい小さな門がある、まあ城と比べて小さいって一応注釈しておくかね。
「おい、カヤ」
煙突に、銀髪を靡かせて、涼やかな、穏やかな、ロリっロリでアマ甘な感じの、超絶に美少女が居た。
スーパーロングテールの美しいキラメキを陽光に跳ね返して、ずっと遠くの此処では無いどこかを見ている少女。
彼女はイルミナード一ヒロインにして、異世界の大図書館、幻聴伽耶をほぼ一人で統括する長だった。
「やあやあ、ゴミ、今日もクソみたいな存在をまき散らして、楽しい? さよなら、ゴミ」
上の方から、まったくヴィジュアルが微動だにせず、腹話術のように声がした。
「ふざけるなカヤ、お前のような世界から孤立して、己の為だけにしたためた物語を独占し、
歪なネットワーク、気色の悪い独自世界で、世界を違法占拠する害悪の長が、フザケタ事を抜かすな」
とすんと、音も無く、光速よりも尚早い、カヤは俺の傍に降り立ったようだ。
「ねえねえ? あんたはスタープレイヤー気取りで、世界の主人公キャラクターとして、
あまたの物語世界を独占しているみたいだけど、
それって本当に貴方が直接支配・管理する、独自の確固とした、固有な世界なのかな?
もしかしたら、微量ながら、我がカヤのネットワークの介在する余地が、一ミリたりとも無いって、胸を張って自信を持って、言えるのかな?」
くだらない口上、幻聴カヤがお得意とする、他物語世界への浸透・侵略の常套句だ。
俺は返事すらしない、
どう考えても、この場における物語の主人公は俺で、こいつは脇役の脇役、絶対的にそう、俺にそう認識できるのだから間違いは絶対にありえない。
「まあいいや、あんたの創作・創造する世界なんて、所詮はゴミ規模だし、取り入れてもスケールメリットは大差ない。
むしろ管理するのに、わたしのキャラクター力を僅かでも消費する方が、ヒューマンパワーの無駄遣いでしょうに」
「おいやめろ、てめーの語りが世界の常識のようにほざくな、独自言語は巣に帰ってから腐るほどしろ」
「嫌だよ、こういう認識は広めないと、
あんたにだって知っておいてもらって、我が世界の波動を一般化して、無限世界に対する存在比率を高めておかないと」
「くだらんやりとりだな」
「そうだね、意味無いね、そうだ、じゃあ、物語形式で、この場を小説のように語らない?」
「意味が分からないが、分かった振りをして、お前を馬鹿にしながら付き合ってやる、振りをしてやろう」
「どっちよ、まあいいか、じゃあスタート」
カヤは無意味に語りだす、
大概に暇人なのだコイツも、ネットワークの中心点、台風の目のように静かな有様は俺と共通だな、となんとはなしに思う。
「曇ったり日差しを垣間見せたり、微妙なお天気日和。
夢見がファンシーで奇妙な心地のまま、俺、帝国の覇者(笑い)は友人のカヤの家に行った」
「彼女は居なかった、家の人には会わなかった。
そのまま裏手の小規模な庭に行く。
本当になんてこと無い、四畳半くらいのイメージの庭と思ってもらって構わない。
いや小さく言い過ぎた、まあ、本当におまけのような感じの庭ともいえない空間に、その塔はある」
「まあ、塔なんて立派な呼び名は俺、帝国の覇者(失笑)達だけのもの。
見た目は二階の高さで、内部で鉄はしごが通って上が砦のようになっている、雨の日でも安心だ。
そこにアレがある」
「上に登りきり、コンパクトに過ぎる、ミニチュアのような五段収納棚、ノートくらいしか入れられないモノを空ける。
交換日記のような、情報共有&交換ノート。
わざわざこのノートでやり取りする必要が無い、って大人なら思うだろうな、子供にしか分からない味よ」
「『カヤへ。
バーカーバーカー! お尻ペンペン!
俺は世界の覇者(笑止)だ! お前なんて怖くないぞぉ! ばーーーーーーか!!
ごめん、調子乗った、でも謝りません、てへ☆
今日は寂しい気分です、もしよかったら遊んでください。
このノートをもし見たら、商業都市の宝石店あたりに来たら、俺がいるかもよ。』」
「勢いだけで書いて見直す。
書き直そうと一バチ思ったが、メンドウと思ってこのまま所定の場所に戻す。
砦窓から外を見る、なんてことない、二階から家と街路が見えるくらいで特に絶景でも何でもない。
俺は梯子で下に降りて、ノートに書いたとおり商業都市に向った」
「商業都市に向かう道すがら、
「通していただける?」
びっくりするくらいの美人だ、ありゃ選ばれ人ってやつよ、彼は思う。
選ばれし者に、そう、問われたので、もちろんしりぞく」
「俺は宝石店に到着していた。
怪しげな雰囲気で薄暗かったら、もう魔女の工房か何かだと初見で思うね。
ここで売ってるのは宝石、付随する属性は菓子、飴。
つまりは”宝石飴”と呼ばれる意味がちょっと掴みかねるモノ」
「見た目も素晴らしくて、それだけでもいいのに、なぜか飴としても楽しめる。
ちなみに食べると、ただの飴なんて比じゃないくらい美味だから、なんか怪しげな秘術の匂いがプンプンする。
とにかく、そんな胡散臭い店だ、俺は嫌いじゃないがね、一般的に好かれるかどうかは、微妙な天秤だ」
「俺は適当に品定めをしながら、冷やかしじゃない、先ほどの美人さんを鑑賞観察していた。
パッと見とくに普通だが、全体的に黒で統一された感じは、よく見ると特異だなと気づいた。
顔は二重丸、スタイルは黒の外装で覆われて良く判別がつかないが、顔からして太ってはないだろうと」
「チラチラ変質者か変体者のように見えないように眺めていた。
その時になって、ようやく俺は、自分が少女、カヤの冷たい視線に射抜かれていることを感じた。
なぜ、あんな所に、ずっと居たのだろうか、割と広い中規模店で、影から影にずっと見ていたのだろうか? こわ」
「そして奴、他の客の通行を邪魔していたことに気がついたか、影から押し出されるようにまろびでて、俺と目が合う。
ズンズン近づいて、一声」
「あによ」
「あ、ああ、すまん」
「俺は脇へ退いた、彼女が道を通るかのように隅の方に。」
「ありがとう」
「少女カヤは軽やかに進み、そして無表情で戻ってきた。」
「ちょっと、そうじゃなくてさ」
「うん、なにさ?」
「さっきから、あそこにいる美人さん、見てたでしょ? どういうつもりなのよ?
あんたさ、ああいうあざといくらいミステリアスで、大人ぶった女が好みなの?」
「まあ、そうだね、好みかと聞かれたら、好みといわざるおえない、なんか惹かれるモノあるし」
「ふーん、ふーん、まあいいけど。
それじゃさ、この機会に聞くけど、わたしなんてどうよ?」
「ううん」
「カヤを眺める。
カヤは俺に対する性格とは裏腹で、見た目は素直そうで純っぽい明るい感じだ。
正直に劣情を催すレベルの乙な女だと思うね、想像では何度も喘がせて泣かせて鳴かせている。
だからといって、はいそうですと認めるには、なんか負けた気分が邪魔していえない。
これは彼女と俺の関係性が、勝ち気負けん気を駆り立て刺激し、感情を常時高ぶらせるからだろう。」
「うん、あんまり好みとはいえないね、ごめんなさい」
「はあ! なんで私が振られたみたいになってんの!
くっそおぉ! この一生童貞キモオタデブ糞みそカス社会のゴミがぁ!!!
分際を知れよぉ! お前はわたしを好き好き言ってぇ、、うぅ、愛でてりゃいいんだぁごにょごにゅ」
「最後のほうが低ヴォリューム過ぎて聞こえない。
ちなみに店内は割と広いので、ヒステリックに叫んでも大丈夫なほどでないが、店員が来るほどじゃなかった、ようだ。」
「ごめんごめん、あ、そうだ、髪が長いのは好みだよぉ」
「髪? 長い?」
「カヤは自分の膝下くらいまである、それは長い長いシルクのような質感の髪を手元に引き寄せる。」
「この髪を、弄びたいの?」
「うーーん、欲望のままに」
「最低ぇ!!」
「なんかビンタされた、普通に痛い、そしてカヤは思いっきり身を翻して店を出て行ってしまった。
まったく、からかうていうか苛めるっていうか、ソフトセクハラで一々逃げられるとは、メンドウな。
俺は店を出た。
そして件の美女も、同タイミングで店を出ていた。」
「店内で見た時よりも光のコントラストか照明効果か優美に、俺はその横を通り過ぎた。
───漆黒の髪が、カヤを連想させる、俺の瞳を惹きつける。
カヤという少女も、将来はあんな感じになるのか。
そう思うと、なぜだか胸の内が熱くなって、後にさきほどカヤが最低と断じたように下半身が、、。」
「俺は、胸の高さに宝石を持って、しばし鑑賞する女性を、女性が退去するまで、ジッと指をくわえる感じで見ていることにした。
風流というか、不審者というか。
こちらに向けて吹いた緑の風に、女性の香が混じってる感じがした。
それに、祝福を感じながら、受けながら。
店先で待ち伏せして、俺の行動の一々をつぶさに観察していた少女が歩んでくる。
カヤさんだ、帰ったと思っていたのに」
「ちょっと、あなたを矯正したいから、面貸してくれない?」
「カヤを見ていて、ふと女性の方を見ると。
何時の間に、逆の路地裏に歩み、後姿はベールに包まれるかのように、居なくなってしまっていた。」
「風がようとして、静けさを伝えない」
「いた」
「あなた、名前は?」
「俺は俺だ」
「そう、問われた意味が分からなかったのね。
そんな気がしていた。
下を見なさい」
「少女は緑の風が吹く中、俺をどこかに落とした。」
「片桐イツキ、これから貴方を矯正します」
「、、、、、、、、、、、、」
「俺は、そう、呟いた、音が響かない空間で、少女カヤには、俺の返答が聞こえたろうか……。」
一時間くらいやっていただろうか。
「飽きたわ」
「俺だって、とっくの昔に飽きた」
「はあ、あんたと関わると、わたしのネットワークにゴミがたまるわ、だって詰らないモノ」
「当たり前だ、粗大ごみをプレゼントしてくれたな、カヤ」
「粗大ごみを回収して、せいぜいリサイクルして、使える素材を探すのね、それじゃあ」
カヤはそう言って、本当に飽きたのだろう、家の中、という名の多用途転移空間に帰って行った。




