表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/588

暗雲世界のクロムハザード‐典型的な鉄の種族

 

 

 ここは魔界か?それとも都市国家領域か? 

 まあ、あまり地理には詳しくねーんだ、その中間の領域なのかも知れねえ。


 最初はただ立ち寄るだけだった、しかしなぜか居心地が良くなった。

 そして、だらだらここで過ごしていたが、最近なぜかきな臭く感じる。

 それが一気に加速したのは数日前のこと。


 その日もいつも通り、薪でも暇潰しに両断してえと、

 斧持って、ストレスの解消にでも勤しむかとか思っていた。

 

 その日の夢はバイオハザードだったからな、超高層ビルに立てこもって助けを待つ系統の。

 しかも面白くない事に、どうやら敵にかすり傷でも負わされたらゾンビだ。

 そんなんでゾンビになるらしく、夢の俺は大して動かずに終わった。

 そんな意味の掴みかねる、変な息詰まるだけの夢を見たんだ。


 ここは割といろいろと発達している、だが別に特段都会って訳でもない、そういう曖昧な文明レベルの領域だ。

 住んでる奴らは畑仕事してる奴もいれば、工場や研究所とか、そういう高度な文明を感じさせる場所で働く人間もいる。

 俺は俺で毎日毎日、自己の体を鍛える事しかしてねえし、町の外れの方にペンションみたいな家と小屋をいくつか持つ、そんな場所で暮らしている。


 そして今まさに薪と斧を持って、体を鍛える目的とストレス発散が五分五部程度の事をしようとしている。

 斧と薪もまったく重さを感じない、それもそうだ俺の全身と比べて比較したら特段大きなものでもないからな。

 2メートルはゆうに越える、そして頑強過ぎて筋骨粒々って言葉も生温いほどに体型が出来上がっている俺だからな。


 薪を切り株の上に置いて、ちなみにこの薪は大木の太さくらいあり、下の切り株は更にそれよりも太い大木である。

 息をすこし吐き、気合一声全力でただの斧を振り下ろす。

 ズガン、と何か、切り株を切った手応え。

 まあいいだろ、もう飽きてた所だ、こんな詰まらない事でストレス発散してるなって、そういう神の啓示と受け取ろう。


 そんな感じで朝までは過ごしていた。

 昼になる前にテレビでも観賞して、お決まりのニュースのキャスター陣が最近の世界の事情をシリアスに、ときにはコミカルに話す番組を見る。

 別に特に面白いとは思わねえ、でも何も見ないよりかはマシだ、だからテレビを適当につけてそれを見るだけ。



 くそ退屈だ、何かおもしれえ事はねーのかよ。


 俺は本当に己の体を鍛える事しか、餓鬼の頃を含めて今まで特に何かやりたいと思った事は一度もない。

 そして己の体も、なんだか人間という柵にとらわれている限り、これ以上俺が驚くような変化も起こさんで飽きる気配だ。

 まったくやっていられない、何か全てが劇的に変わるような事象はおこらねえかぁ。


 そんな感じにぐだぐだテレビを観賞しながら、偶に今人気の芸能人がかますボケや突っ込みに悔しいが吹いたりしていた。

 そして昼になった頃、腹の減りを覚え、ここからは歩いて10分程度、森林地帯を抜けた先にある割かし発展した町に赴く。


 旧時代のアメリカって場所のオフィス街とかに似ている、らしい、俺はあまり町の風景分類とかにうてぇーからな、詳しくは分からんが。

 回りには外国人被れした奴らがたむろしたり、又は普通に仕事に赴くのかスーツで歩いたりしてるだけの中高年の群れ。

 全員懐に銃でも忍ばせてんじゃねえか? 

 俺は多少の警戒を解かない、別に銃くらい大して怖い武器じゃねえが、他人が傍にいて落ち着いてるのもアレなので一応な。

 そんな気だるい、でもどこか堂々とした足取りで歩いていた。


 そんな時だった、変化が起きたのは。

 まず街路の大道、遥か向こう側から沢山の人間が走ってきた、誰もかれも怯えて何かしら喚いている。

 それに向かってる先は町の中心部、外延部の方向に俺は歩いてるんだが、何か外から来たか?


 俺は別に気にしてなかったが、事情を知るため逃げてる奴で話ができそうなお人よしを物色する。


「おい、お前」

「なんだ!こっちは急いでるんだ、話はあとに、ぐぅ!!!」


 俺はもう選別終えた後で、適当に逃げられたり振り切られたりするのは嫌だったので、接近して首を掴んで爪先立ちに出来る程度に中に浮かす。


「何が起こってる、簡略に事情を話せ」


 男は信じられないモノを見る目で俺を見る、なんだこんな乱暴されるのは意外だったか? 

 別にいいじゃねえか、殺したりする訳でもあるめえぇによ。


「俺も良く知らない!だが町の外から異形の化け物集団が押し寄せてるらしい、あんたも早く逃げたほうがいいぜ!」


 こちらに媚を売るような態度と話し口調、小物臭満点のサマだが、別に強者に率先して従う態度を悪く思うわけじゃねーし、なにより話が円滑に進んで心地好かったのでもう離してやる。


「そうだったのか、わるかったな、俺も緊急事態で焦ってたんだ」


 目の前の奴はそう言ってもその場から動かない。

 逃げるような態度でその場を離れようとして、俺の気に変に触ってまた捕まえられるとでも思ってんのか?


「もう行っていいぜ」


 それだけ言うと、奴は了承得た犬のようにその場を離れる。

 俺はどうするかな、化け物ってのを見物しにいくか? でもそれで殺されるってのも早い話おもしろくねえな。

 それにだ、今日見た夢で再復習したが、そういうバイオなハザードのお約束で、傷を負わされたらそれだけで感染してゾンビ化する不文律ルール。

 それを考えると下手に突撃するのはやめだな、肉弾戦なら十二分に自信はあるが、そういう面倒臭い戦いはあんま得意って訳でもねえ、筋肉を付けすぎて俊敏性は確かに落ちてるって自覚もあるし。


 そんなわけだ、俺は早々町の中心ら辺に向かう一段に紛れた。

 紛れたっつても、俺の目立ちまくる見立ててで紛れられたかどうかは微妙だ、それに誰よりも早く走っていたしな、正味目立っていたかも知れねえ、まあどうでもいいがな。



 そして町の中心、広大な敷地と物々しい工場が立ち並ぶ街区。


 沢山の武器弾薬と沢山の武装した人間が終結している。


 それが初見で抱いた感想だ、だが良く見りゃただ怯えた人間達が寄り集まってるだけだぜぇこりゃ。

 どいつもこいつも薄暗く、太陽の日差しが窓から入る工場みたいな場所で、湿気た面してただひたすら殺伐としている。


 まあ悪くない空気だ、これから死ぬかもしれない奴らが戦々恐々としながらも虚勢を張ってんだからな。

 工場の敷地内は広大で、様々な場所にバリケードと人員を割いているらしい。

 この中心地はそれぞれ周囲12箇所に散らばった分隊の、その司令部か? はたまた補給の為の物資置き場として機能してるようじゃねえか。

 まんま適当に周囲を見ただけの感想だがな。


 

 今俺は、工場の中心地から少し外れた高い鉄塔、工場群に埋もれながらも上の方だけ覗かせていた。

 そこを内部から螺旋階段で登っている、上方から辺りを見渡せば、状況が分かるんじゃねーかって思ってな。

 カツカツ登っていると、先の方で人の気配。

 俺と同じ考えの奴でもいたか? まあ別に問題ねーなと階段を更に上り詰める。


 登りきった先に居たのは、ちょっと予想外な事に一人の少女だ。

 それも見ただけで尋常でないとわかる、そんな感じの女だ。


 長い青髪を風に靡かせ、そして同色の蒼い瞳で周囲空間を注意深く観察してやがる。

 それに体全体も、常軌を逸して鍛えているのがわかる、女サムライのように刀も腰にぶら下げているしな。

 筋骨隆々の大女ってわけじゃねぇ、比較的普通よりちょっと大きい程度だ、体のライン自体は女のそれ以外の何物でもない。

 しかしどこもかしこも良質な筋肉を付けながらも締まりきっている。

 おそらく、限界まで俊敏性を突き詰めたような、素早さに特化したそういう使い手だな、百発百中。


 俺と正反対の性質を備えるそいつだ、多少なりとも感じ入るところがあんな。

 俺が失っちまった、てか捨てた諸要素を、現在進行形で実戦に耐える強度で所持してんだからよ。


 奴がこちらに気づく、いやこいつ程度ならさっきから、もしかしたら俺より早く気づいていたかも知れねえ。


「貴方は、なにもの? この町の人間? ですよね」


 多少困惑の面持ちでそう質問してくる、そりゃそうだろうよ、俺の見た目は特異だからな、いろいろな感じで。


「ああそうだ、お前も同じような立場か?」


 こちらが多少なりとも愛想を取り繕って答えると、なんだか露骨に見せ付ける感じで安心したようなホッとした表情。

 自分が警戒心を解いた、そういう意思表示を暗に示す、賢いやり口だな。

 頭は回るほうかぁ、殺り合うには厄介な相手だな、まあそうなるかは一切別にして。


「すこし違う、わたしはこの町で工場を営む、そのクラーク会社から派遣された、研究員みたいなものだ」


 研究員ねえぇ、見た目からしてそんな陰気臭い性質と無縁と見えるが、まあ疑ってもしょうがねえ話しを進めるか。


「その賢い研究者から見て、この状況をどう取る?」

「どう取るもこう取るも、わたしも意味が分からないといった感じだ、この町にも一ヶ月ほど前に着任したばかりだ、何かこの町に問題があるのかすら分からない、貴方は何か知るところはあるだろうか?」


 流暢に正確に一切淀みなく話す、俺を前にしてこういう風に堂々話す、それだけで俺の最近にとって新鮮な体験だな。

 相手は見た目だけは美麗な少女でもある事だし、それを心情的に大きくするのに一役買ってんな。


「俺もお前と似たような感じだ、すこし前からこの町に来た、何もしらねえよ」

「ふむ、そうか、残念だ。何か知れるかと思ったのだが」


 そう言いながらも一切落胆な風ではない、最初からあまり期待はしてなかったようだな。


「ところで、貴方の名前すら聞いていなかったな、一応聞いておこう。私の名前はレイルだ、一応青銅の種族でもある、よろしく」


 はあ、なんだいきなりこのフレンドリーな対応は、しかも青銅たぁ、これは別に言う必要はあったのか?


「なんだ、そういう接し方の流れか、それじゃ俺も一応自己紹介してやる、名前はオギン、ただの鉄の種族だ」

「やはり、そうであったのですね、そういう鉄特有の何か、感じていた、ならば適格者でもありますね」

「適格者? どういう事だ?」

「ここから見える景色をまず視界にいれていただきたい」


 鉄塔から辺りを見渡す。

 どこもかしこも工場外は町の至る所に異形の怪物、人間の三倍ほどの動く塊が触手みたいなモノを何本も揺らしている。 

 こりゃ予想の斜め上だな、ここまで非現実的な感じとは俺ですら一片も考慮に入れてねえ。

 しかも数が異常で以上だ、蠢くだけのそいつらは軽く見渡すだけでも町のいたるところ、それこそ町の端の方までわんさかいやがる。


「これが、なんだって? 絶体絶命の状況って奴か?」

「そうでもない、奴らは視界内に入る生物を捕食するだけの能無しだ、バリケードを作って移動を制限されただけで、そこを越える事もできないタイプの怪物だ」


 なるほど、だからあいつらは町の至る所に居るくせに、この工場には一匹たりともいねーのか。


「それに、意外と弱い、生命力的にも戦闘力的にもである。普通の人間はまず間違いなく100%で殺されるが、貴方や私ほどの使い手なら同時に十体相手にしても大丈夫な程度には、まあ貴方の場合は素手でなく獲物が必要ではあるが」

「獲物、確かに素手でやるつもりはねえが、そもそもやる事自体あんま考えたくねーな、奴らの景観見てる限りは。てかそもそも十体ってどういう事だ? それ以上だと負けるみたいじゃねーか?」


 少女っぽい奴は外中をうろちょろする化け物を睨みながら、強く体を力ませ憤慨して怒ったような、そんな一瞬だけの動作をして言う。


「奴らは、とにかく手数が多い、だから十体以上だとこちらの迎撃能力や回避が間に合わず食われる、そういう構図なのだ、しかも普通の人間なら掠り傷一つで奴らの仲間入りだ」


 なんだ、仲間でもやられた経験持ちか? そりゃご愁傷様だな。

 しかしその言い草、まるで普通の人間以外は大丈夫みてーじゃねーか?


「普通の人間とはどういった意味だ、そこを詳しく聞きてーな、教えてくれ」

「そのままの意味だが、詳しく言うなら。奴らの因子以上の、それを越える形の何か遺伝的形質やその他要素を持っていれば、奴らの因子をこちらが支配するだけで特に問題はないのだ、まあ化け物の能力を一部受け継ぐ形なるので、そういう問題はあるが、基本は肉体強化、しかし一部例外の拒絶反応、自己形質や要素とあまりに反する化け物の様々な特性は場合によっては感染者を死に至らしめる、まあこれはホント例外だから、本当にあまり気にする必要はなく」


 そこで一旦言葉を切る、喋りすぎてこちらが理解しているか、そういう確認の意図とこちらの質問の機会を作ったのだろう、ホント考えてやがんな色々と。


「とりあえず全て話してくれてから質問するぜ、今のところ特に大きな疑問はない、続けてくれ」

「あいわかった、その例外は何万分の一からそれ以上、なので死に至った場合は事故のような扱いだ。そしてここが重要なのだが、大きな分類でカテゴリーされる所の種族、貴方も当然知っているかもしれないが、金と銀と青銅と鉄、その他マイナージャンルのいくつか、これらは確実に、例えハーフ以下でも大抵奴らの因子を支配下に置くほど強力、なので私たちは奴らに傷を付けられても問題ない、そういう事を言いたかったのだ」


 なるほど、分かりやすい説明だな。

 俺が思い描いていた、掠り傷すら許されない、そういう構図でなきゃいくらでもこの現状は突破できる気すらしてくるぜ。


「それで? 俺にそれを話したって事は、何かしら意図があるんじゃねぇーか、それも利用するとかしないとかって類のよ」


 目の前の奴は多少考える素振りをしてから、面倒臭くなったのか率直に話す事にしたようだな、別に頭を回してどうにかなる事でもねーだろ。


「貴方のお察しの通りだ。わたし一人では、ちょっとばかり脱出の手段、そして最悪の状況のときに戦力として不足する可能性があるのだ、だから貴方のような上位種族と協力を、この今このときの状況でのみ、したいと思ってわざわざ状況を全て洗いざらい話したのだ」


 素直に嘘偽りなく話すとは、多少交渉術にも長ける可愛げがあるな。


「なるほど、俺としても願ったり叶ったりだ、意味の分からない状況が多少なりとも把握できただけでも感謝したいくらいだ、提案だが無条件で飲むぜ、俺もこんなところで死ぬのは願い下げだ、助かる最善を尽くし模索する所存だ」

「それは良かった、そして心強い、貴方のような存在は、実はわたしにとっては珍しいタイプの人種なのだ、普段は普通の人間とばかり接している、この機会に少しばかり交流も持ちたいと思っている」


 なにか期待するような瞳、なんだいきなり、こいつは俺の予想外の行動を普通にするタイプか。

 世間知らずの餓鬼が大人っぽい奴に幻想を抱くあれなのか? お生憎様なことに俺はその要望に答えられる大人じゃねーぞ。


「まあ、何か俺に期待するなら、答えないこともねー、が、俺はお前が思ってるような奴じゃねー、とだけ言っておくぜ」

「それでもいい、それも含めて、何かあると踏んでいるのだからな」


 そいつの目はじっと俺を見つめるように固定される、そんなに興味深い存在なのか? 

 気紛れに普段見たこともない珍獣に、知的好奇心を刺激された学者肌のこいつのアレなアレなんだろよ、特に気にする必要もねーか。

 こいつなら真性の餓鬼みてーに、空気も読まずにうざったく纏わりつくこともねーだろーしな。


「それは別にいい、そして、外のあいつらの話が最重要だろ、率直に言って脱出の成功確率とか分からねえか? またはこれから先どうなるかの展望とかはあるか?」

「うん、脱出は、正直に言って厳しい。外に見てのとおり異形の大集団を超えた何か、そいつらの視界や感覚野と呼ばれる空間に入れば戦闘は避けがたい、飽和的に数的不利な状況に追い詰められると、私たちでもホントどうにかなる気がしないのだ。今は脱出は時期尚早と言えよう。だが確実に脱出はできる、とまずは最初に言っておきたい。ここに立てこもる人間達、そいつら、というのはアレか、この人達がもし奴らに襲われるような事があれば、その全てのどさくさ、敵の戦力が分割したところでわたし達だけで強行突破する分には、脱出の可能性はほぼ100%と見る、敵が外に密集して存在している間は動かぬが吉であろう」


 本当に分かり易い説明だ。

 流石何か知的階級っぽい研究員を自称するだけの事はある、凡人とは何かとっさの台詞にも知的さが含まれ分かりやすく噛み砕いて説明している節があんな。


「良く分かった、そこら辺は全て承知しておこう。それとさっきから気になっていたんだが、お前はなんでそんなに奴らに詳しい? 何か事情や訳があるのか?」

「それもお察しの通りだ、奴らを知る機会はわたしには多かった、特に研究所では特にその手の事を調べたりしていたのでね」


 あまり明確には語らんか、知られるとまずい何かを持ってる雰囲気だぜその語り調は。


「具体的には話せん内容なら、別に追求はしねーが、もし話せるのに無意味に、それこそ特に問題がないのに話さないのは、こちらの不信感を煽って後々不利になるだけかもしれねーぞ」


 情報を引き出せるならできるだけ粘るつもりだ、こいつ自身、どこまで話してもいいか、考える時間を与えてやる為にも言ってやる。


「まあ、なんだ、一般にも知られている事だから隠さず話すが。奴らを人工的に作り出し、生物兵器のように扱おうとしてるのがわたしのいるクラーク会社なわけだが。偶に各所の研究所、盗まれたそれらで生物災害が起きてね、それらを全てに柔軟に対処する、その為の研究員兼戦闘員、その一人がわたしというだけの話さ」


 なんだそういう話だったのかよ、まあ別に隠さなくてもいい事じゃねーか、つまらねえ駆け引きに時間を使ったな。


「その事に特に何か情報取得以上の感情を抱かねえ、お前の所属する会社のへまでも何でも、起こちまった事に何か言うほど浅慮な馬鹿じゃねーから安心しろ」

「それはあり難い、というよりもそう察する事が出来たから話した、この工場に立てこもる奴らには、できる限り内緒にしておいてくれ」

「ああ、一応お前とは協力者だ、ある意味一蓮托生、そんな馬鹿な事はしねーよ」


 女は何か? どうしたんだか、こちらを変に力んだ瞳で見やがるな。

 さっきからどうにもこいつの整いすぎた容姿と合わせて、それが俺に対する多少一線越えた刺激や影響力として俺自身感じてしまっていて、向けられてる事自体がなんか気に入らねえ。


 何をたかだか小奇麗過ぎる小娘一人程度に心情を動かせれてんだか、馬鹿らしすぎて吐き気がする。

 機会があれば殺したいほど、今は衝動的なムカつきを覚える。

 そもそもこいつは危険っぽい、早々に始末できるいい塩梅でも幸運でもが巡ってきたら消すか。

 まあそんなチャンスはそうそう訪れないだろうし、多分だが無いと思うがな。


 俺がそんな一時的感情や刹那的衝動に基づく殺意、少女に対してのそんな憤りを抑える為の脳内での発散思考をしているとだ。


 女はすこしの沈黙を平気な風で破って、空気を変えるような多少明るく開き直った感じで、積極的に口を開いてきた。


「そのような訳なのだ、だからこの工場に立てこもっている間は、ともに行動するという事で良いだろうか? そして出来ればわたしのような人間の相手を適当にしてくれると更にあり難い」

「ああいいぜ、暇だしな、立てこもってる奴らの邪魔するわけじゃねーが、別に俺達的に協力する必要もねーだろーしな、適当に過ごすか?」


 なんだこいつ、途端ちょっとウキウキしたような、そんな雰囲気と微妙な表情の微細すぎる変化、嬉しいとでも? 

 そんな感情抱いてるなら即刻後悔することになるぜ、たぶんだがな。 


「それでは、これから短い間かもしれんが。ともに脱出とかをする仲間として、改めてよろしくお願いする」

「かしこまり過ぎだ、もっと気軽に接してくれても別にかまやしねぇーよ、ああ、こちらこそよろしくさせてもらうよ」


 そんな感じでだ、こいつ名前はなんだ? 最初の方でお互いに名乗ったが、なんだか言い難くて双方言ってなさ過ぎて忘れた。

 確かレイルだったか? まあ別にどうでもいい。

 こういう経緯でちょっと意味の分からない状況下で、こういう変と言ってもいい女とすこしかどうか分からねえ期間、行動を共にする事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ