博物館勢力とアウルベーンと神
アウルベーンは、今日も淡々と事務的に、上位管理者、その命令に従って存在していた。
この場所は真理の木、人間の認識できる知恵の木の十三階梯を、余裕で天元突破したイデア領域の246階梯に存在している。
現存、この場所を超える、純粋な情報力場によって存在する、純物理的な知的生命体は絶対的に存在しえないだろう。
デウスエクスマキナ、極点ALC・オールレベルコントロールの基本方針の一環として、無数に存在する観測者勢力の大要望の一つに沿う事案として、
外側からの観察者、観測者ではない、決してない、”世界の外側”なんて存在しない場所から、存在しないはずの存在が、こちらを見ている、
という、狂気的に狂気しかない、が実物と実態を持った集団、博物館勢力と呼ばれる存在たちの、牽制、あるいは対処として、
この自分を含めたすべては、完全に計画的に意図的に作られた、その自覚があるのだから、自分は何よりも忠実に全てを認識する頭脳も与えられている事だ。
「わたしが、神だ」
「はい、神です」
そして、この日、今日、目の前に極点ALCの総帥、つまり、この世界を零から創造した張本人、
私の全認識を動員した結果、出力された認知としては、紛れもなく、そうでしかない人物が視察という名目で、
この場、アウルベーンの数多の下部イルミナードを統御する、統合制御室に、その最上段の指揮座の執務スペースに居たのだった。
「まあ神なんて言っても、全部を全部、完全に単純化すれば、至極に下らない発想が原点だよ。
だって初めに書いた、私の妄想ノートが、この完全自立創造式型の、アルティメット・ロールサヴァン・システムの起立だものね」
私から観れば、それすら関係が無かった。
ありとあらゆる価値観に対して、完全にイーブンの事象をオートで顕現させて、
よく分からない”外側の世界”に対して確立し、現状の”有る世界”を創造させているのだから、実に神らしい、そうとしか思えないのだ。
「さて、閑話休題、
今日マキナちゃんが、此処に来たのは他でもないよ、
この二人、三つある博物館勢力のトップ一人と、観測者勢力の大派閥”魔女”の現当主、その所為だね」
神が示す先、執務スペースに無数にあるデスクとイスを使って、中央のこの場所からは少し外れ場所で、何かを喋っている、見目麗しい乙女二人。
「ふーん、エミリ、なかなかに情報粒子のレベルの高そうな、、一言で言って、魅力的な中二病設定ね」
「そうなのよねっ、規定現実の真なる統合ネットワーク、禁忌・禁断階層・ビブリアンソート、
我らが神、大いなる観測者様の導きによる、極点ALCの提供する例のアレ、世界攻略度の大全によると、
この設定を含めた世界は、第七位層までの到達を可能であると、あるわっ出ているわ、
それで、レイアの方は、どうなのかしら?」
聞こえる音は情報、真に超越者には思えない、凡なる発話。
「神としては、ゲームに招待したつもりだったのに、
そのプレイヤーが、デバックルームすら超越して、ゲームをアップグレードする管理側サイドに、一緒に居ちゃってる状況なんだけどもねえっ」
確かに、全力で、というより全時空で最も”純粋に強い”はずのアウルベーンの此処、本部に、ワープと同時に現れて、緩く居座れている現状だった。
「神としては、外なる神と、ゲームを通じて、力比べ、競争と淘汰を成したかったんだよねえ」
次の瞬間、管理側サイドに奔放に居たはずの二人は、神の放つ真理的なアレ、そうアレとして言いようがない、例のアレだ。
それによって、泥のように溶けて、後には残りかすのような水滴が、メトロノームの床を水浸しにしている、そうただそれだった。
「そういえば、アウル、鉄の魔女と呼ばれる集団がある。 知っているよね?」
「ええ」
「今完全に消した端末の本体、私のALCでも遠く及ばない果ての果て、絶対の引き分け現象、強力なこの因果と対等に並び立って、
もしかしたら、優越するかもしれない、そんな奴らだね、一応アウル、君も私の一投資対効果の高い端末として、覚えておいて」
神は優雅に髪をかき上げて続ける。
「それでね、鉄の魔女にも派閥があるらしい、これは外なる世界の神々じゃなく、
図書館勢力の持つ預言書、神の器レベルの位階の、この世界の延長線上としての”外なる世界”の姿を、疑似的に演算予測して得た、事実として扱うけど、」
言いながら神は、私の目、それの直視ですら、光り輝いて実態が本としてしか認知できない、
情報の塊としての密度が深すぎて、本当に本にしか見えない、優美な装丁の西欧の聖書風の大きな本を広げる。
「一つ、古典魔女会、自らを古典と呼ぶように、保守派の極点AR寄りの奴ら。
二つ、西洋魔女会、これは革新派よりの、極点MRの奴ら。
そして最後に、大いなる魔女会、人知を超越した人外の、酷く観測者寄りの、世界を超越した真理の目を持つ、中道・中立を地で行く、
自我なんて存在しないかのような、人間の想像もできない、隔絶して絶する果てから、
本来的に人間の価値観によって確かに存在を確立させる、”この世界というモノ”を見ている、本当によく分からない、解析不能に原因詳細不明の、やつら」
本に書いてある事を、そのまま読み上げるような音感で言って、神は本を閉じる。
「さて、それで、
実はこの三つ目の、大いなる魔女会、現当主のレイアは組織内、三つの派閥を統合する鉄の魔女会、通称は真魔女会、では特に派閥の所属を明かしてないが、
本当は大いなる魔女会所属の、つまりは観測者、である可能性が高い、
これが、果たしてどういう意味合いになるか、分かっているね?」
「もちろんです神、彼女は、状況次第では、我々、観測者の味方になりうる」
「その通り、観察者は基本的には敵だが、我らの敵に味方する、極点ARアンドMR寄りではない、
その事実だけで、敵としてはランクを幾らか下げてやれる、
さらに言えば、この貴重なヒントにより、レイアとよく絡んでいる、青銅の種族の女王にも、一定の智博を得る事ができると、つまりはそういうことだよ」
会話しながらも、神は私を直接観て、洗脳を強化してきても、いた。
神の瞳には、何も映っていない、
だが、その膨大に膨大する虚無の、その深奥には、確かに存在する、私でも全体を把握できない、巨大な何かが、ずっしりと、びっしりと、存在していた。
それは例えば、この世界をより高次元にして、規定現実で商業ガンガン売れるレベルの情報力場に昇華させてやりたい、とか、その雑多にいろいろ。
とにもかく、この目の前の神を、ただただ只管に信仰し、崇拝し、純粋に好きになってしまうような、
胸が熱くなって、高鳴って、生きている熱が上がり続ける、無限の恍惚と絶頂を極めているような、酷く官能的な感覚的に言えば、神に埋没するような。
私は初めから、全てに、神に無我夢中だった。
この世界に生まれて、この世界の全てを統合する宿命を帯びた、アウルベーンとは、初めから、人知を超越した果てに存在するキャラクターなのだから当然、
人知の全てを統合し、人知を超越した果てですら高いレベルで存在し、
高次元すら生ぬるい、超次元の生命体、存在という枠すら当てはめられるか、依然と知れない、正体不明のキャラクター。
そう、そうなるように、この神様から望まれて、生きている、生きて欲しいと切に願われた、
神を親などと認識するのが、不敬にあたると自覚的であるが、私は私が私である事に、何も感じないほどに、真に開放的な私と世界を与えてくれた神に、何かを返したいと、それだけを思っていたのだった。




