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最果ての魔女、ムーンとの旅路



「今日も今日とで、夢を見た。」



 彼女は、チェス盤を上に放り投げた。


 沢山の駒が、ぶつかり合いながら上方に飛翔、そして下方にバラバラに落下。


 まずは盤が元の定位置に、バンと、大きな音を出しながらも戻る。




 そして、駒が複雑な配置で戻ってきた。


 全部くるくる回りながら倒れそうになるが、結局最後まで一つも倒れずに、安定して舞い戻ったのだ。




 彼女は、そういう事ができそう、だ


 少なくとも、そのような雰囲気がある。


 神代の領域すら超越した、存在、性能。


 彼女がそのもの、宇宙であり、完全無欠に一から無限まで、操っているのでは? と、疑うほどなのだ。


 だからか、


 彼女と一緒の空間では、己すら、高度な未来、演算結果で、あらゆるを予見させ予測させ、期待させてくれる。


 つまり、彼女と一緒にいると、胸がドキドキして、気分がどこまでも果て無く高揚するのである。




「チェックメイト」




 対面の彼女は、一手、進め、対手に詰みを宣言した。


 僕に対して、特に意味もなさそうに、勝利の笑みを向けてくれる


 このように、


 彼女の居る空間では、なにもできないまま、完全に征服されるのを待つことしか出来ないのだ。


 僕は、彼女に屈服されることに、特に不服は無い、むしろ喜びすら感じるほどである。


 彼女ほどの存在に傅くのは、それだけで、恍惚以外の何ものでもないのではないかと? 倒錯的な感情を抱くのだ。


 およそ彼女に対して、人間の出る幕は一切合財存在の余地がない。


 彼女は、掛け値なしに何もかもを超越する、存在性能を有するから。


 世界全体よりも意味や価値が、よほどにある、大いなる真の人間だから。




「ほら、君の手番だよ? わたしの想像を、予測を超越するような、素晴らしい一手を打って頂戴な」




 このように言うのだ。


 さきほど「チェックメイト」と言ったではないか?


 つまり、絶対的不可能を絶対的な可能にして魅せろ、これはそのように解釈するべきであり。


 すなわち、できなければ、ガチでマジでお尻ぺんぺんでもされて、 


 僕が泣かされ喚かされ、彼女嘲笑、散々叩かれてホンキで馬鹿なんじゃないかってくらい、


 お尻の表皮が真っ赤真っ赤になってから、


 許される、


 という、


 醜態を演じるエンドが規定するのだ。




 ここは、妖精大陸。魔法が存在する世界。


 人々が信仰する想いが具現し、伝承がそこかしこに遍く浸透する社会。


 彼女は、最果ての魔女、ムーン=シャドウだ。




「わたしの人生は、一言で散々だ、不幸すぎて嫌になる。


 まず、第一に、地獄のような拷問を永遠に受け続けた。


 それが終わったら、なぜか変な烙印を刻まれ、それを解呪するまで悪魔達に追われ続けた。


 一段落して、隠居してたら、生まれの境遇あれこれに絶望して、死のうとしたのだが、これが死ねない。


 余りにも力を極めつくした所為で、ほとんど不老不死に、なっていた。


 だから、この終わりない人生を今、幸福の極致に導こうと、わたしはしている、ちなみに今此処である。」




「わたしは、幸福になりたい。


 今までの不幸を、すべて洗い流して、どうでもよくなるくらい、


 心の底からどうでも良いと、確信を持って清清しく飄々と流せるくらい、胸を張って生きていたい。


 世界に他人に己自身に、一切の恨み言無く、生きてみたいではないか?


 とにかく、この胸から湧き上がる、毒々しくて嫌気が差して忌々しい、憎悪とも形容できない負の感情群。


 これを、一切合財、この世の中、わたしの中からすべからく、消滅させたいのだ。


 そのために、わたしはわたしの成せる、為せるべき事を、全力全開で行い続けるのだ。」




「ふぁー、次の町まで、あとどれくらい?」




 彼女は言った、僕に聞いてきたのだ。




「南に、このまま十キロくらいだよ」




「くそ面倒臭いな、死んでくれ」




「歩きの僕に、それ言ってて楽しい」




「当たり前だの太郎君、


 わたしは楽しいことは、ガンガン一切の容赦なく冷酷無道の極致で、


 やり続けることを、生き甲斐とアイデンティティとす」




 彼女は使い魔の、大きな黒猫、ちょっとした熊くらいの体格、その背で寝転んでいた。


 それはチャシャと言って、彼女はそれはそれなりに可愛がっている。


 そして今、その上で、僕を見下ろしながら、変なこと悠然と言ったのだ。




 ちなみに、この黒猫は、何も無いところから生まれた。


 彼女の使う、魔法の産物なのだろう。


 しかもこの魔法と、一概に言っても、異端に属する魔法だ。


 俗に無属性魔法と呼ばれる、無色透明で、傍からは何の法則性も見出せない、常軌を只管に逸した、なにか。


 奇術的な、種も仕掛けもあるのかないのか、本人にすら分からない、のかもしれない、正体不明のモノ。


 それで彼女が、なにをするかと言えば、、、


 知らない、単にその時のノリとテンションと勢いで、彼女の主観に偏り切って、感じる、侭に、面白可笑しい楽しい事をする。




「のだ」




「うん?」




 僕の発した声に、ちょっと気が引かれたみたいに、彼女は見てくる。


 その瞳は、膨大な虚無を宿していることを、僕は知っている。


 彼女は、なにもかもが、どうでもよくなるくらいに、悟りきった存在。


 同時に、なにもかもが、どうでもよくならないくらいに、激情、無限の情念を内包する人間でもある。


 僕の主観からの評価は、


 彼女は、酷く電波で、中二病、


 誰よりも賢いのに、馬鹿っぽくて、


 可愛いくせに憎らしさが優越する、癖に、最終的には魅了して、こちらを挑発して止まない悪魔、


 そして、ただの一欠けらの気分で、なにもかも破綻、破滅、崩壊させる、


 世界的に見れば、はた迷惑すぎて、どうにもならない、救いようが無い、歩く最悪な災厄存在。


 無限周回ダンジョンゲームの、噂されて止まない幻想の真に真なるラスボス的、存在と、言ってやろうか。


 つまり、クソゲー風味な存在性なのだ。




 僕は、彼女との、徒然に、無限に続くんじゃないかって思える、只管な旅で、このように哲学する事が侭だ。


 歩いていると、退屈なのだ、当然だ、歩くことは詰まらない。




 彼女が内包しているモノ。


 それは僕から見て、無限に素敵で、素晴らしいモノなのだ。


 少なくとも、僕の現在の主観視点からは、彼女はそのように、在りのままで、観測することが出来るのだ。


 好きだして、愛していると、


 心の底の底の、なんといえばいいのか、魂が、そのように無限に在り続けている、のだ。


 彼女の、持っているもの、それが何なのか、僕はハッキリと明言できない。


 とにかくそれは、だいたい、


 己の、僕の一生賭けて、ベットして挑んでも、永遠に辿り着かない、


 境地に次ぐ境地の、果てを何度も超越して、裏技チート的に、変な事を散々して、初めて至れるところ、ポイントに思える。


 それは、僕の命では、存在では、そもそも一生掛かっても辿り着けない、


 一言で言って、彼女とは生きている世界が違う、のだ、だから、それゆえに、求めて止まない、のだろうか?


 届かない、から、宇宙の神秘にすら匹敵する、から、


 それは僕の大事な、大切な、聖域にして神聖なる、モノ、なのだ。




 そうだろうか? そう、そうだろう、胸を張って言える自分が、誇らしくある。




 これは、凄い感情だ、


 己の持ちえる、今生で間違いなく最高の、


 これより先はありえないと断言できる。


 そう、精神世界観みたいなのを、感じさせてくれる。


 己が真に求めている、唯一無二の欲望の根源的なモノを、


 彼女は、持っているのではないか? 


 っと、只管に期待させてくれる。


 彼女と一緒にいると、純粋に無垢で無知な子供のようになる。


 胸がドキドキわくわく、する。


 冒険心をくすぐられるような、情熱的な衝動。


 それは、ただただ若々しく滾る、獣の本能。


 それを湧き上がらせてくれる、のだ。




「ついたよ」




「ふぁー、よく寝たよく寝た、疲れたよ」




「僕の方が、君より百億倍疲れてるって、断言できるよ」




「そうだね」




 村に着いた、変哲の無い村だった。


 幼女達が集まってきて、大変だった。


 どうやら、彼女の魔女っ子、それも超絶成る色物だ、が凄く感動的に心に響くらしく、とても人気だ。


 周りの大人たちも、物珍しい娯楽に見えるようで、その様子を和やかに見ていた。


 そんな感じで、流れで、歓待されて、その日は一泊した。




「おい、起きろ、起きてくれ」




 夜中だろう、まだ外は暗い。


 目をパッチリ開くと、彼女が見ていた。




「なんだ、やめろ、僕は、まだ眠い」




「駄目だ、君が傍に居ないと、退屈が紛れなくて、世界を壊す」




 たぁー、しゃーねぇーな、こいつは。


 僕は寝ぼけながらも、身支度。


 外にいざなう彼女に従う。




「なんだ? これから夜のピクニックかい?」




「違うよ、いや、そう、半分正解くらい」




 そのまま、その山の麓の、出入り口まで来る。


 彼女は、呪文を唱えだした。




「なにしてるの?」




「いや、ちょっと、ね」




 彼女は、杖まで取り出して、中空に円形魔方陣を組み立てる。




「おい、ちょ」




「あのね」




 彼女は一泊おいて、魔法の準備を終えて、後はエンター押すだけ位で、放置して「ちょっと語るね」と前置きした。




「わたしは、駄目なんだ。


 ああいう風に、優しくされたり、幸福な人たちを見ていると、駄目になってしまう。


 そう、駄目な奴になってしまう、悪い子に、なってしまう。


 例えば、あの人達を、この晩で、火山の噴火に巻き込んで、炭ズクの無価値に、してしまいたい、踏みにじりたい。


 そんな最悪を、決意し、決行したくて、堪らないんだ」




 僕は、なんだ、そんなことか、と、酷く落胆した。




「馬鹿な奴だ」




 彼女は、ぽかんと、透明色の瞳を揺らめかせて、一度首を傾げる仕草をした。




「馬鹿だな」




 彼女は言葉を聴いて、なにを想ったか、知らない、僕はただ、その場の勢いで、彼女に言いたい事を言うだけだ。


 僕は、彼女の、なにか、欠かせない、者、なのだから、そのように行動するのだ、それだけなのだ。




「馬鹿、馬鹿、馬鹿。


 当然だろ、ありきたりだろ?


 もっと何か、思いつかないわけ? 


 たとえば、この一晩で、あの村をお菓子の村にするとかさ? 


 もっと、なにかこう、、、わくわくドキドキ、真髄から真骨頂の、なにかこう、、、


 そうだ。迫真に迫るような、ヤバイことしようぜぇ? なあぁや」




 語るうちに、彼女は、先ほどまでの態度が演技だった、


 ことを示すかのように、偽悪的な、値踏みするように目になっていたので、僕は少々でなくドキマキする。




「とにかく、話は、噴火を止めてからだろ。


 この御時勢、村から出ても、どうせ世知辛いだけだろ。


 なんでも、本当に、なんでもできるんだろ?


 だったら、もっと、建設的に、いこうぜぇ??」




 これであってるのか、彼女の望む答えなのか、まったく検討がつかない。


 彼女の意図を 察するなど、端から、諦めてしかるべき。


 そのような所業だと、僕はずいぶん前から知り、完全に諦めている。


 それでも、知りたいと、思い、想って


 その葛藤のギリギリの境界線上、矛盾の境地で、僕の立つべき所を、永遠に彷徨っている、のだ。




「ふっふ、そうか、そういう風に、なったか。


 今回は、ギリギリ、天秤が、こっちに傾いたけど、次は、どうなるかな?


 どのようにアプローチすれば、君はわたしを純粋に査定してくれる、するんだろうね?」




 月明かりに照らされつつ、陽気に僕の周りをぐるぐる周回する彼女は、なんだかそこはかとなく、楽しそうに見える。




「君は、、、なるほどなるほど、分かったよ」




 彼女はそれだけ言って、展開されていた、魔法を、キャンセルしたようだ、全て雲散する。




「どうするのさ?」




 僕は聞く。




「ふん、どうして欲しいのさ?」




 彼女は睨み効かせるような効果で、顔を辺に歪ませた、僕は怯まなかったけれど。




「そうだよ。


 どうせだから、全部救えばいい。


 今回は、そういう、気分なんだ」




 僕の言葉に、なにか目をぱちくりさせてから、肩を竦められる。




「そうかい、そうかい、気分は大事だ、それのみが一番大事だから、従おうかな」




 それだけ言って、箒を具現、山の方に、彼女は一人で飛んでいってしまった。




 それから、


 山の噴火は収まった、というより、見に行った村の人言うに、噴火口ごと、なに抉られて無くなっていた、とか。


 僕達は、旅の道程に戻るつもりで、彼女のファンみたいになっていた幼女達が「いかないでぇー」とか泣いていた。


 彼女は頭撫でていた、それに、どういう意図があるのか、まったく分からない。


 そう、慈悲に塗れた表情で、手つきも優しげで、慈しみが垣間見える、僕には、そう感じられる、思えるし、見えた、


 けど、分からない、彼女は、彼女が、真になにを感じ取って、意図しているのか、分からないのだ、全然に全然。




「ねえ?」




 彼女が聞いてくる、なにかを。




「なに?」




「月が綺麗だね」




「はあ」




 今は昼である。


 村から出て、来たときと同じ様に、黒猫、こいつは隠れていたのか、どうなのか、その背で彼女は言う。




「月が綺麗だね」




「はあ、今は昼だけども」




「分かってないね」




「なにが?」




「これって、愛しているの、隠喩なんだってば」




 僕は意味が意図が、皆目見当つかなかった。


 なんか、昨日からのあれこれも相まって、素直に、頭痛くなってきた。




「なのだ、ぞ?」




「はふぅ、それ、伝わらないよ、ぜんぜん」




「ふん、それすら伝えているんだよ。


 伝える気なんて、さらさらない、愛の告白、囁きを」 




「なんか迂遠だね、暇そうだね」




 彼女は上から、見下ろす視線をくれた。




「暇だよ、暇すぎて暇すぎて、大変。


 だから、迂遠に迂遠を超常に重ねて、人生を楽しもうとする。


 永遠に伝わらない、伝えない、愛の告白、そこはかとなくロマンが垣間見える。


 そう思わない? 


 思わないかい、まあいいけれども。


 わたしが感じていることが、この場合は唯一重要なのだから、君が感じて無くても、まあいいのだ。


 それでも、君も、わたしが思うように、


 わたしが思っていることを、等身大に感じていてくれれば、わたしは、嬉しく思うよ。


 きっと、それが、幸せになるんだと思う、わたしが望む幸せかは、断じれないけど、幸せなんだよ?」




 風が流れて、彼女の髪の毛がサラサラと揺れる、きっと意図的だ、そう思った。


 僕は思う、彼女は演出家だ、きっと風の流れすら、僕の感情の流れすら、操る、操ろうとするのだと。


 僕は、それを感じて、反抗しようと思う、凌駕しようと決意する、おそらく、彼女もそれを期待するだろうから。




「そうだね。


 それじゃ、僕が思える限りで、君が思ってることを、想ってみるよ」




「お願いね、出来る限り、わたしと同じ、


 等身大に、思って欲しいな、思ってくれていると、嬉しいな。


 例えば、


 この星の全てを、直接感じれるように、


 わたしが感じているってのは、そういうものだから、同じ様に感じてね」




「僕のちっぽけな感覚から、


 君のその、壮大な感覚を幻視するように、錯覚できるように努めてみるよ」




「うん、それでいいよ、むしろ、それがいいのかもしれない、よく分からないけどね。


 わたしから見れば、それがいいのかも。


 わたしはわたしを、君の視点から、純潔な視点から、見ることは出来ない。


 そこから、どう思われるのかも、絶対に分からないんだよ、残念ながらね。


 だから、すかれたい、愛されたいと、思うよ、、、


 うそ、かもしれない」




 ふいと、視線を逸らされた。




「わたしは君を、、、」




 彼女の、そのような呟きが、風に流れながら聞こえた。




「好きなの? 愛してる? なの?」




 僕は、多少挑戦的な風味で言った。




「そうだね、好き、なのかもしれない、愛してるとも。


 私自身も、分からない、のかもしれない、本当に意味深。


 だから、言わないでおこうか、


 焦らしてあげるよ、寸止めして、


 やっぱり、永遠に、言わない」




「変な感じ、文学的な深読みのレトリックを感じるけど、そこはかとない、別にいいよ。


 僕は、メロメロにして、デレデレにして、無理やり言わせてみるから、そんな感じなだけ、だから」




 彼女は上から、この世も凍りつくような、ジト目、白い目。


 超絶美少女が、それも、見方によっては天使や聖女に属する系統の、彼女の見た目から繰り出されるソレ。


 そんな顔が、表情ができるとは、知っていた。


 知っていたけれども、まったくもって、胸を撃ち抜かれた。


 僕は余りにもの衝撃で、その場で気を失い、、、かけた、いや、やっぱり気を失ってしまった。

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