エクスラ学園物語‐幻聴蚊帳の図書館司書
「 在る物は、ただただ只管に、物理的な現象として、屹然と超常の奇跡無く、在る物でしかありません、
それは人間だって、例外なんかじゃ、ないんですよ?
この世の全ては、なんの意味も価値も無い、絶対にチリ芥と同義のモノ、
人間の主観的なモノの見方、その全てを賭しても、何かに僅かでも意味や価値を付加できると錯覚できているのならば、
本当にそれは絶対の錯覚でしかないと、自覚して悟るべきですわ、
この世の全ては絶対の物理現象で推移し、奇跡無く、数値上の純粋な計算のもとに全てが変遷するのですから」
矛盾領域、そのエクスラシャペルン学園、その付属、大図書館の一室、にて。
「主様の作品凄い!」
「うっせえ、 ぶひぃー!ぶひしぃー!!言ってんじゃねえぞ馬鹿」
可笑しな人がいた、俗に変人とも言える。
彼女は普段は冷静沈着な、メガネの似合う銀髪赤目の、そりゃ麗しい図書館司書なのだが
何かしらのスイッチが入ると、デフォで豚の鳴き声みたいな奇声を発しながら、頬を紅潮させて興奮する、
「ああ、こりゃ偶に瑕どころの話じゃないぜえ」
彼女がいま読んでいるソレは、この都市の主が直接描いている作品である
主と呼ばれる彼、天才的な彼はかなり速筆な方で、月に何冊も、それも力作を出版するのも侭、
それも最近ではそう珍しくなくなって、彼女の喜びやら発奮も一塩なのかもしれんが。
「ルヘル、それ、面白いのか?」
「ぶひぃ!!ぶひぃ!!!」
聞いちゃいない、てかやべえ奴だコイツ。
目の色変えて(実際変えて)、本の文字を目で追う作業だけに全神経を集中していらっしゃるようで。
「おい、そろそろ五限の、講義の時間じゃないのか? そろそろ行かないとな」
その後、本を取り上げて、頭コツン、いやポカン位して、目を覚まさせて講義の行われる部屋に行った。
講義も終わって、昼休憩、普段のノーマルっぽい感じに戻った彼女と昼食。
「さて、貴方の最近見た、夢の話でもしましょうか? お・と・も・だ・ちぃ」
お友達ね、なんだか酷く魅力的ながらも、白々しいというか虚しいと言うか、退廃的と言うか響きだ。
チャームという魔法がもしあれば、いま不意打ちチックに、リアルタイムで掛けられたような気分。
実際そうだ、だがそれだけ、
彼女の発する声、仕草、瞳etc,から発せられる、その”お友達”という台詞には魔性の魔力がある。
まあ常時発動型チックな奴で、彼女の恣意的に込められていたかは永遠に不明だが。
「おい、課題の、原稿用紙数十憶枚単位の、小説執筆は終わったのか?」
「終わった事でしてよ、先ほど電脳空間での直接入力、
パーソナルを希薄化する限界まで分散させて、七百六分割、後、
規定現実に実存するハイレベル端末と協同したから、それはもう速攻で片せましたわ」
「なるほど、向こうの端末でも近似で類似のモノだったか、そりゃなる早で終わるわな」
「ええだから、このように暇な時間を割いているのですわ」
講義は、担任の急用により、ほぼ自由補修のような有様であった
俺は「そうかい」とだけ答えて、既に書き終わった原稿用紙を脇によけてスペースを確保して、肘をつく
「それでぇ? 夢の内容かい?」
「はい、そうですとも、語り合いましょう」
彼女はこのように、頻繁に夢を教えろと言ってくる。
他人の夢の内容を知ることで、自分の夢の内容を思い出す精度を上げるとか、なんとか
なんかオカルトチックな話だ、現実味に欠けるファンシーな話題は情緒不安定になってくる
コイツと話してると、こういう話題も相俟って、ますます催眠暗示的に魅了されてしまうんじゃないかと、偶に恐怖するのだが
「夢って、そんなに良いものか?」
「ええ、特に、二度寝してから見た夢は、格別に良いものである可能性が高いですわ」
「ふん、良い御身分だな」
彼女の語って聞かせる夢は、いつも迫真でいて臨場感に満ち溢れている、粋が良く瑞々しい。
ジャンルはときどき様々いろいろ、だが脈動的な、まるで実際に旅行でもしてきた後の土産話のような語り口。
夢見るたびに異世界にでも召喚されてて、それを夢と勘違いでもしてるんじゃないかと、俺は本気で疑っている。
「さて、私の夢語りも一段落したところですし、貴方の夢をどうぞ、お友達」
「ああ、そうだな見てねーな、最近」
そっけなく答えるが、実際そうなのだから、しかたない、残念そうだが悪く思うな、嘘じゃない。
「ネタが無いんじゃ語れないだろ?」
「そうですか。
ですが、こう考えると面白くありません? お友達。
いま、この状況、世界、人生が、実は夢の世界でリアルタイムに体験していることだと」
ルヘルは下らない事を語るように、冷めた目と声で独白調で続ける。
「 っそして、夢から醒めて現実に帰れば、此処での記憶は、曖昧な数パーセント、いえ零点数パーセントしか覚えていなく、
まるで、まさに夢のような体験として処理されて、貴方は現実に立ち返って何事もなかったかのように生きていく。
そしてまた就寝につくと、この夢の世界に帰ってきて、私との何気ない日々をお過ごしになるんですの。
ねえぇ?これって、想像するだけで凄くトキメク、良い話だと思いませんか?」
俺は「そうかもな」と、またそっけなく答える。
「そうなんですわ、なぜなら私は今この瞬間、この場所に、確かに生きている実感がありますもの、真理ですわよ」
彼女の、なんか情熱的な気の感の入った潤みを帯びてそうな瞳を、見つめ難くなったのだろう、俺は席を立つ。
「こんなロマンス小説みたいな出来事、己の夢でしかなかったら、ちょっと悲しくなるぞ」
「って思いつつ?」
さらに顔を背けた。




