矛盾領域のシャルロット‐駄弁り話し
図書館都市、にて。
「まったくダメダメだわ、全部ゴミ屑みたいな作品」
シャルロットが悪態をついて、机をバンバン叩き始めた。
「馬鹿やめろ」
「馬鹿はあんたよ、くたばれば?タクミ」
真底うんざりしたような瞳、生気を失った老女のようなソレ。
「どうしたんだよ?」
「どうしたもない、最近の作品はゴミばっかで、人生というモノが下らなく思えてきてしまったのよ。
あんたっどうしてくれんのよぉ!!この!!」
「うるせえよぉ」
俺は対面の机に山盛りの詰まれた本を押し退ける。
「最近ってことは、昔は違ったのか?」
「まあね、最近は層を絞って、特定のターゲットに向けて、書き出したのがいけない。
昔は、全ての人間に価値あるような、そういう意味を内包した作品が多かった。
つまり、人生のどのトキに触れても、一定の汎用性や不変性や普遍的娯楽が感じれるのが多かった。
でも、今は違う。
歪な色物ばっかで、とてもじゃないけど、読む気がしないわ」
「ふーん、別に、俺はそうは思わないけどな」
「うるさい、わたしがそうだと言ったら、あんたはそうだそうだと機械みたいに頷いてればいいのよ。
馬鹿、なに自我を持ってるように振舞ってるの? わたしの奴隷の分際で、生意気、ぶっ転がすわよぉっ。
で、人生の一時期でしか楽しめない、刹那的な作品ばっかり、に、なる。
余りにも粗悪品に溢れてしまった。
間違っても歴史に残るようなモノは最近の作品にないでしょ」
「へいへい、そうですね」
「思うに、個性的で刺激的な作品を尊ぶばかりに、表現が典型化、テンプレート的な単純シンプル化したのでしょう。
でもそれも、しかたないのかもね。
だって、読み手が基本的に馬鹿なんだもの、能無しの無能、馬鹿で愚者な奴らばかりが、世界に溢れてるのがいけない。
商売で書いてるのだから、それもしょうかたない、馬鹿に合わせて簡潔簡単な内容にせざるをえない」
「だったら、お前が小説を書けばいいと思うよ」
「なにがっ、だったら、なのよ? 馬鹿なの死ぬの?
なんでわたし様が、馬鹿たちの為に、あるいは世界の為に、情報提供しないといけないの?
わたしの為に存在しているだけの世界の分際で、ね。
わたしという一個存在よりも、世界総体の方が価値が高くなってから、そういう事は言うべき。
所詮はわたしの玩具以上になりえない、こんな下らない世界の癖にね。
まだまだわたしの脳内世界の方が、断然果てしなく絶対的に超越して価値あるのだから」
「物凄い自信だな」
「当然でしょ、その真理であり事実を自覚している、当事者、観測者ですもの。
わたしは世界よりも優越した事象であり、予測でなく確信の領域で、わたしはそれを認めてるの。
この世界の全てを合わせた、感性、知識、技術、よりも、わたしのソレらの方が優れているの。
なぜなら、その証明としての、クイーン級のわたしが在るのだから。
この世界の全てを、わたしは無限に予測できるの。
つまりそれって、わたしに全てを予測再現される世界が、わたしよりも下位の事象ってことでFA(最終回答
でしょ?」
「まあ、だな、でも、他のクイーン級も含めた、この世界でも、同じだったのか?」
「わたしが予測している世界が、真である、そうわたしは確信しているから、恐らく、いえ、そうでしょう」
「なんだ、恐らくって、確信できて無いじゃんか」
「くっなにを得意げに、鬼の首をとったようにっ」
「だって、そうじゃんか、他のクイーン級を本心から優越していると確信しているなら、恐らくなんて使わなかっただろ」
「ふん、優越してるんだもん、わたしがこの世界で一番の存在なんだもん、違うなんて、許さないんだもん」
「子供か、で、実際どうなんだ? お前がこの世界で一番なのか?」
「まあそれはね、これから確実に確かめるつもりよ」
「どうやって?」
「簡単よ、わたしが他のクイーン級、全員殺せれば、それで決まりでしょ?」
「確かに単純明快だな、過ぎるくらいだ」
「ええ、もう確信的な未来は見えている、全員を血祭りに殺しているわたしの姿がね」
「他のクイーン級も、それを予測しているんじゃないか?」
「ええ、でしょうね、でも勝つのはわたし、だって、わたしがそう確信しているのだから、そうなるわ」
「なるほど、実際やってみないと、分からないってところか?」
「違うわよ、わたしが確信してるんだから、確実なのよ馬鹿」
「他の奴だって、そう思ってるだろさ」
「他の奴なんて、そう思い込んでるだけの馬鹿よ」
「なぜ、自分がそうでないと思うの?」
「そう心の底から思うからよ、今まで誰にも負けたことが無いのだから、当たり前でしょう?
この広い世界の全てを知覚し予測し、どんな時でも誰にでも優越をしてきた己よ?
なんで、此処に来て、今更負けるのかが不可解よ。
わたしは大宇宙の真理、運命的に奇跡的に、最上位の恩恵と幸福の下に生まれた、
と、わたしは確信に満ち溢れて存在してるの。」
「大したもんだ」
「大した大人物だからよ。
矮小な世界観では成しえない、私自身が世界観以上の超越した、なにか。
わたし以下のこの世界から、わたし以上のなにかが、原理的に生まれてくると、理性的に思える?
サルや家畜の子供が、人間以上に絶対になりえないと、そう思うのと同じよ、っふっふ、いい気分だわ」
「世界を見下して楽しいのか?」
「もちろん楽しいわよ、じゃなきゃ見下さない。
己が神であり、世界を全て、視界に映るすべてが、すべからく自分以下。
この快感で爽快で愉悦的過ぎる痺れる享楽の世界観は、成ってみないと永遠に分からないわよ。
どんなに素晴らしいモノでも、わたしの前では下位互換、わたしは全てを自給自足以上できるのだからね」
「世界なんて下らない、なんて、本当に確信しているのか?」
「もう当然、全然下らない、うそじゃないわよ?
圧倒的に桁外れのわたしだからできる、無限に超越し続ける真に完成した確信よ。
世界よりも、よほどに巨大な存在、大世界を擬人化したら、わたしになるのよ、っくっくっく」
「脳内に、この世界全て以上があるって、神かよ」
「まあ、神よね。
神の義務として、確かに、この世界の為に、小説じゃなくても、何かをするのも、もしかしたら、いいのかもね」
彼女は何時もの偽悪的な笑みを見せて高笑いした。




