イデア図書館所属の
「この世界で最も汎用性のある、絶対の媒体は言語である」
イデアさんは語る。
「いいや違うね、言語なんてのは、仮初の宿り木に過ぎねえよ、私たちは、それを超越した何かの為にってな」
こちらはメイアだ。
僕は誰か? それは僕自身もしらない、いつの間にか、僕は、この世界に居たのだから。
そこは燦々と照りつける太陽光が降り注ぐ、小奇麗なテラスだ。
頭上には巨大日傘、それで多少なりとも色々と緩和されている風だ。
「おい、お前に何か意見はねーのか、でぐの棒のように、あたしらの会話を聞いてるだけか?」
メイアが鋭い目つきで僕を睨む、おいそういうのは止してくれ。
「いや、その、うーん」
「駄目ですよ、メイア、私たちの会話に彼は、あまり明るくないのかもしれませんから」
「そうかよ、だったら、何で傍聴してるんだろうな」
「知りませんよ、聞いてくれる人がいた方が、なんだか良いじゃないですか」
「ふーん、そんなもんかね。
あーもういいや、さっきの話に戻すが、お前は言語至上主義者だったのか? イデア」
「そうですよ、あらゆる知的生命体は、言語を使います。
そして言語を学ぶ事で、文章が生まれます。
その多岐にわたる情報の創造は、無限大と言えますよね」
「あーそうだな、だがな、言語なんて、まだまだ非効率だろ、わたしは、その先を望んでんだ」
「その先その先って、貴方は目の前にある、無限の強度を持つ利器を、まずは崇め奉るべきでしょうね」
「知るか、あたしを満足させられないなら、全部、無用のナガモノだってんだ」
「今ある、あまたの言語だけで、十二分に、わたしは満足できますが」
「駄目だね、全然ダメだ。
こんなんじゃ、この世界の始原法則、森羅万象を無為に帰す、この破滅のカギを使う日も、きっと近いな」
「使いたいなら使いさない、それによって、世界の七分の一が消滅するのも、成されたなら規定の運命路線なんでしょうからね」
「ばーか、使うか、せっかく培った世界を、おいそれと無為に帰すなんて、お前は人間の屑だ」
「いや、貴方が言った事でしょう」
「冗談を真に受けるな、馬鹿」
「馬鹿は貴方でしょう」
「け、ふざけやがって、どうせお前はわたしを心の底では見下してんだろ、イデア」
「いや別に、見下しては無いですよ」
「だったら、どうなんだ、キスしたいくらい好きか?」
「それはどうでしょう、貴方にはあまり可愛げがありませんから、ちょっと試しにデレてみてくれません、それで感触が分かるかも」
「ヴぁーか、誰がデレるか、いいかイデア、お前にデレを晒すくらいなら、わたしは億万回死んでも良いね」
「そうですか、まあ別にいいですよ、知らないですから」
このように、
この二人はずっと、こんな会話を繰り広げている。
「あー飽きた、イデア、てめーと話すのは退屈だ」
「そうですか、とんだ罵倒文句ですね、実際いままで話してたくせに、それも意気揚々とに見えましたけど」
「楽しんでた振りだ、本当は全然おもしろくなくて、もう我慢が効かなくなったのが今だ」
メイアが立ち上がる。
「おい行くぞ」
「何所にですか、指示代名詞は?」
「イーストラストだ」
その発言と同時、周囲が光り輝き、場面が一転する。
「偶には、領域外側、この世界の階層外を、直接見ておくべきだろ、何か新しい何かが、あるかもしれねーだろ」
「無駄で無為な事を、この世の外側になんて、とくに意味や価値のあるモノなんて、あるとは思えませんが」
自分の目の前には、万里の長城のような、巨大なマンションの様な建築物が、左右に見通せないほど、続いている光景があった。
「ちょっと、発言してもいいですか?」
「駄目だ」
「だめじゃないですよ、どうぞ」
「えーと、あの」
「ばーか、嘘だ、お前の稀少な面白発言で、あたしを笑わせろ、いいな、絶対だぞ、絶対だ」
「あなたはちょっと、無難に黙る事を覚えてください」
イデアさんが、メイアの頭を押さえるようにしてる、その隙に発言する。
「ここは、何なんですか?」
「だろうよ、無知蒙昧な、ただの人間が最初に発言しそうなことだぜ」
イデアさんの拘束を逃れて、周囲を両手広げて示すようにする。
「ここは世界の外側、そのギリギリ辺りだ、このマンションみたいな向こう側は、断崖絶壁だ。
そして、断崖絶壁の少し下に、水を張った堀の様な感じだ。
説明しても良く分からんだろうよ、だが、そうなってるものは、そうなってるだけだ。
そして、それによって、世界の外側からウジ虫のように湧いてくれる、泥、
この世界を覆い尽くし、なんか良く分からんが、何もかもを無為に帰す、そういうのを堰き止めてんだ。
はい説明終りだ、わたしのパーフェクト世界観説明で、完璧に理解出たよなぁ?」
「貴方の説明は、要領を得ません、そんな言語で理解を示すべきではありませんね、実際に行って、目で見た方が良い」
「ばーかイデア、あんたは言語が至上とか言ってたくせに、矛盾野郎が」
「うるさい人です、また抑えつけてあげましょうか」
「お前がうるさい、さっさと行くぞ、直接観測が重要と行ったろうが」
二人は大きな声で口論する、だが足は、その眼前の巨大マンション、その最も大きな入口に向かう。
内部は、なんだか簡素な作りだ、受付みたいな場所があるだけだ。
「俺様だ、それじゃあ通るぞ」
「メサイアとイデア図書館の主ですか、こんな辺境に、いったい何の御用ですか?」
受付の人が言葉を発した。
「なんだ、モブキャラと思ったが、こいつは喋るのか、だったらちょっと雑談がてら、最近の近況を話せよ」
「いいですよ、貴方がたレベルの存在の、嫌でも相手をするのが、ここでの私の責務ですから」
受付の人は、ちょっとムスッとした顔だ。
「いいえ、そこの失礼千万と一緒にされるのは、不本意です」
「いいから黙ってろ、こいつの話を聞くぞ」
「はいはい、そうですね、最近は、、、特になにもありませんよ。
この城壁が完全に機能する限り、外側は何もできませんよ」
「そうか? 虚無の進行が、大規模になったって話は聞いてるぞ」
「それは中央の話でしょう、ここは辺境です、中央での決戦の結果から、初めてここまで波及するのです」
「そうなのか? 敵は辺境にも増援を出すとか、しないのか?」
「戦力を分散して、どうするのですか、だいたい、ここは城塞でしかありえません、落としても実質の被害は軽微でしょう」
「そうかい、落とされてもまあ、後詰は用意されてるってか」
「そうです、ここが落ちても、第二第三の防衛線が機能し、延々と戦線を後退させるだけなのです」
「そうかい、まあもういいや、とにかくあたしらは上から眺めるだけだから、問題無くここは通れるんだよな>?」
「さきほど、可能と言いました。」
「そうかい、まああたしらは世界の覇王、矛盾領域の本拠地に本拠地を置く、図書館の主のトップだしな、当たり前かぁ」
「なにを偉そうに言ってるんですか? 我らが主の隷下の分際で」
「おお? モブキャラって、こんな風に発言するモノなのか? なあイデア?」
メイアは、完全に嫌ったような顔で彼女を見る、受付の人を指差して言う。
「知りませんよ、貴方の他人を怒らせる技術が人知を超えている、そういう光景なのでしょう」
「そうかい、わたしは愛されキャラだと、己を定義してるが、そういうのを嫌うひねくれ者だって事か」
メイアが吐き捨てるように言う。
「別に嫌いじゃないですよ、わたしは貴方の事を」
「いやいや、どうして、だったら何でそんな汚物を見る目で見てるんだ?あんたは」
「いやだって、貴方の様な人を、嫌うように振る舞うのが、わたしですから」
「矛盾してるな、ツンデレって奴か? それは?」
「そうです、内心ではそれほど嫌いではないですが、嫌うように振る舞う、そういう姿勢です」
「気にいった、お前はこれから、メサイア図書館所属と成れ」
「我が主の御心のままに、、、良いみたいですね、わたしは貴方に従います」
「ほら見た事か、あたしの勝ちだな」
「いや、ちょっと、なにを手ごまを得てるんですか、わたしも欲しいんですけど」
「駄目だ、もう上げない、これはわたしのモノだ」
「しかたありませんね、わたしにはこの人がいますし、我慢しますよ」
なんだか同行人が増えたが、階段で周囲が見渡せる上まで行く。
「人生は行き当たりばったりだな、こんな世界はやっぱりあたしのパーフェクトな世界観から反する、好きに成れないね」
「どうせ、貴方はこの世界を否定して、馬鹿にしたいだけです、一々取り合ってられませんよ」
「さて、この先は泥が下にあるから、ちょっと不快に成る奴はなるが、覚悟決めろ」
ドアを開けると、視界が空ける。
「ほお、なんだ、結構上まで泥があがってんじゃん」
「どこが、ですか、随分と堰き止めてあるじゃないですか」
マンションの外側は断崖絶壁、下の方は水が張ってあって、透き通るような液色なので、その下が垣間見えるのだ。
「やっぱ外側には、なんにも無いのかね?」
「ないでしょう、こんなに素晴らしい内側があるのに、今だに外側に存在するような存在、無いのも同然です」
「だよなぁー、せっかくロマンあふれる、外側という概念の、無駄だよなぁー」
「しょうがないでしょう、内側という絶対の価値が、外側を無価値かしてるのですから」
「はぁーつまらん、いっそのこと、わたしが外側の盟主と成り、開拓し開発し、ロマンを担ってやるかぁ?」
「いいんではないですか、それも。
あなたは人類の為に、偶にはそういう風に犠牲になるのが良いのですから」
「嫌だよ、お前が内側のあれこれをわたしに輸出しろ、そうすれば、外側に身を置くのも、やぶさかじゃない」
「本格的にやるつもりですか? 外側に単身行って、どう身を守るつもりですか?」
「はあ? なんとかなるだろ、そんなもん、図書館ごと、行ってやるよ」
「馬鹿ですか、絶対にそんな事はしないでください、世界のリソースの無駄遣いになります」
「いいじゃねえか、無駄がロマンを生み出すんだ」
「絶対に駄目です、イデア図書館の総意として、それには反対です、行くなら、あなたという存在一人です」
「かーくそ、そんなにあたしを殺したいかお前!」
「別に、殺したくはありませんが、貴方の苦しむ姿は見たい、ほえづらとか」
「マジで、ぶっ飛ばしたくなるな」
世界の終りの様な黄昏を前にして、それを餌にするかのように、二人は話している。
「この二人は、いつもこういう風なんですか?」
「はい、そうです」
「それを、貴方は聞いていると?」
「そう、なのかな」
「なるほど、、、酷く退屈じゃありませんか?」
「退屈、、、なのかな、別にこれはこれで、良いモノだと思う」
白熱する会話をいったん止めた二人が、こっちを見ている。
「馬鹿が、若い二人をこういう風にくっつけると、直ぐに番いに成ろうとする、やめだやめだ、リア充は全員しね」
「ですね、いいですか? 貴方はわたしのモノですから、そういう自覚をするように」
イデアさんが袖を引き、近くに寄せて、敵対的に受付の人を見る。
「いえ、そんなつもりは、ただ話していただけでしょう?」
「駄目です、言語の繋がりは、最も深い接触なのです、話すの禁止です」
「そうだぜ、お前らは話すのをあたしからも禁止するぜ」
「なんなのですか、貴方達は、、」
「図書館主、だぜ!」
「偉そうに言う事ですか、最古の、それこそ老害に成りえる因子なのですから、貴方はもっと慎み深く自重してください。
もし、貴方のようなのが、並び立つわたしを含めた、図書館の主の基本姿勢と見られたら、正直こまります」
「こまれこまれ、イデアの苦しみがわたしの悦楽の至高のメニューだぜ」
「いい加減にしないと、この鍵の究極のいちげきを、貴方に差し向けますよ」
「やってみろ、さっきも言ったが、まずは図書館の主級で一番を決めようぜ」
「馬鹿らし、やってられませんね」
イデアさんは言いつつ、あらためてという感じで、眼下の風景を眺めた。
「なにも、新しい発見はありえません。
こんな辺境は、やはり価値の中央、エクストラシャペルンに比べられません、帰りませんか?」
「嫌だね、こういう辺境で、一生暮らそうぜ、住めば都だぜ」
「話になりません、アホの所業です、もうわたしの退屈は臨界を超えました、帰らないなら、勝手に帰りますが?」
「はあー、我慢の効かない奴だ、確かに、イデアが本気で詰らないなら、わたしも詰らないから、帰るか?」
「わたしに聞かないでください」
「貴方はどうですか? ここには飽きましたか?」
「正直、この黄昏の風景も、そろそろ見飽きたかも」
「そうですか、なら帰るのが良いのでしょう」
またも、一瞬で場面転換、最初の場所に戻ったのだ。
「やっぱ此処だよな、最高の場所だ、どこにもアクセス一瞬だ」
「アクセスなら、どこでも一瞬でしょうが」
「嫌だなイデアさん、一瞬という単位をさらに細かく分けてみろ、コンマ幾らか早くなるだろうが」
「そんな些細な誤差でしょうが」
「些細な事に、もっと必死に成らんか!」
「うっさいですね、貴方のそういう所には、鳥肌が立つ思いです」
「もっと、怖気ろ、わたしの恐怖に鳥肌立つお前が、わたしを最も満たすのだ」
そういう風に話す二人を、傍聴する形で僕たちは居た。
会話を先ほど禁じられたので、アイコンタクトで、何かが伝わった感触しか得られないのだが。
「気が変わった、わたしは気紛れだからな、お前も何か話さんか!」
「別に話す事は禁じて無いでしょう、私的に二人で話すを、わたしは禁じたままです」
「貴方がたは、始原図書館の主なのでしょう? なにかする事は、無いのですか?」
「くはぁー、無いんだなぁー、これがぁ!
トップだから、逆にする事がないんだよなぁ!
私たちがやるべき事は、全部既に下々の民に、委託済みなんだ、その為の時間はそれこそ無限大にあった。
もちろん、新たにやるべき事が見つかれば、ひとまずはあたし達がこなす、だがこなすのも時間の問題だ。
オートメイション化するのが、時間の問題ってな」
「そういう事です、だから、まあ、こういう風になっているのですよ」
「そうなんですか、私からの質問は以上です」
「だったら次はお前だな、なにか質問をしなさいしなさい」
差し向けられた無茶ブリっぽいのに、どうこたえるべきか?
「ほらほら、スリーサイズでも何でも、質問をしなさい、この!」
「やめなさい、この人は純朴なんです、あなたの、その、穢れみたいなので毒さないでください」
「うるさい、けがれてるお前が、そういう事を言うのは滑稽だぜ」
「この、わたしのどこが穢れているというのですか、名前の通りに潔癖に、絶対の存在なのに!」
「そういう歪んだ自己愛が、一番の穢れだと言うに!」
「この! くぅぅ! この鍵マジでガチで冗談なく使って、貴方の存在ごと一蹴しますよ?」
「やってみろ、相手してやる、この鍵とそのカギ、どっちが強度的に上か、力比べのように、やってやろうぜ」
「、、、馬鹿ですね、そんな事をして、どんな利益がありますか」
「くっくっく、だよな、無益だ」
無駄にピリピリした空間が緩和された、その間、自分はまったく動けなかったというのに。
「あー詰らん、どうして世界は、もっと超越的に面白く成らないんだ」
「無駄な議論ですね、そんな超越的に超越してたら、人間なんて存在できないのですよ」
「いいよもう、人間なんて、知るかー!、あたしはその先に行きたいんだー」
「勝手にどうぞ、貴方だけ一人で、無上の超越的世界に、孤立していてください」
「ひでえ奴だ、少なくとも、わたしと同格のお前くらいは、一緒に来んかい」
「嫌ですよ、わたしは人間にたくさん囲まれて、幸せにずっと暮らしたいだけですから。
貴方と二人きりとか、考えただけで、ゾッとします」
またいつも通りの流れに戻ったようだ。
「あのちょっと」
「なんだ? どうした? トイレか?」
「ちょっと寝てきてもいいですか?」
「いいですよ、許可を取らなくても、寝るくらいは好きにしても」
「いーや駄目だね、寝たいときは、わたしの許可制にする」
「馬鹿ですね、この人の所有者のつもりですか? 貴方がそういう事をできる人材を先ほど手に入れたばかりでしょうが、それで我慢おし」
「そうだな、お前は、これから許可制な、寝るの」
「嫌です、拒否します」
「ほら、こういう風になるんだ、お前の従順な家来をわたしに寄こせ!」
「拒否します」
そんな会話が繰り広げられるテラスから、自分はいったん退避する。
ここはエクストラシャペルン、その図書館都市の、街区メサイア、本部近くだ。
離れたは良いが、どこで休めばいいのか、じぶんは途方に暮れるような心地に成った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
イデアさんが、かけつけるように来た。
「それでは、寝室に貴方を転送します、また戻ってきたいときは、まあ、念じてください、それでわたしには分かりますので。
それじゃあ、おやすみなさいです」
「はい、おやすみなさい」
それで寝室に転送された。
いつもの寝る場所に来た事で、条件反射的に眠気がやってきた、自分はベッドにもぐると、直ぐに眠ってしまったのだった。




