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2‐魔弾と魔剣

 


「やあやあ」


「君は、75回の内、34回もやあで挨拶をするんだな」


 また何時もの喫茶店で、イリカと出会う。


「数えてるのかよ、お前」


「ああ、暇だったしな、そして、やあってのはなんでだ?」


「某インターネットチャンピオンの口癖だから、僕も使ってる」


「ああ、あのゴミか、君も者好きだな」


「イリカだって、見てるだろうが」


「偶にな」


 猫目はいつものように、周囲を見るともなしに見つめ、どこか別の異次元を睨んでいる様に見える。


「こんちには」


 最近は恒例になっている、ルヘル、自立型人工知能の少女がマスターよりも先にテーブルに楚々っと近づく。

 ぺこりんっと可愛らしく頭を丁寧に下げて、紙の媒体で物を差し出す。


「おいイリカ、嵌ったのか?」


「ああ、定期購読してるぜ。

 惜しいな、どうしてあたしは、今までお前のような最高のクズを、ついぞ知らなかったのか、目から鱗だぜ」


 ペラペラ捲って、最後を捲ると、僕に差し出す、毎度の流れだ。


「面白かったぜ、また頼むな」


 おまえそんな顔できるのか、というよりできたのかって突っ込みたくなるような慈愛の籠った笑顔だった。


「君達、さいきん内の子が世話になってるみたいだけど」


「あ、なんだ、あんた喋れたのか、てっきり喋らないタイプのAIかと誤解しそうになったぞ」


 初見であんまりな台詞、

 ちなみに俺も初めて、この人の声を聞いた人だ。


「まあ、無口で居た方が、らしくあると、自覚しているからね」


「自覚が有るなら、そうするべきなんじゃないか? せっかく渋い見た目なのに、ぼろがでるかもしれないぜ?」


 積極的に埃を出してやるとでも、挑発的で挑戦的な瞳でマスターを見るイリカ。

 対するマスターの方が、どこ吹く風で話を続ける。


「それでも、娘が世話になってる人達だ、すこし話してみたくなってね、駄目だったかな?」


「いや、駄目じゃないぜ、むしろ大歓迎だ、わたしは何でも受け入れる主義だからな」


 適当言っている、なんか不安に成る会話だなぁ。


「こんな風に威嚇的で威圧的ですけど、人見知りなだけです、あんまり嫌わないで上げてください、意外とあとあと気に病んだりすることもあったりなかったりするので」


「うっさい、てめぇーは黙ってろ、ゴミの分際であたしを知った風に語るな!」


 せっかく会話の潤滑をしようと思ったのに、これだ。


「それで? あたしの興味は女だ、あんたの人妻はどんな風な奴だ?」


「いきなりそれかよ、自重しろ」


「いやいや、いいよ、それにもう故人だ」


 なんか話の流れが唐突だが、そういうことらしい。


「故人の話をするのは微妙だが、話したいなら話せばいい、あたしは知りたい」


「そうだね、虚無的な、嫌世的な所があったけど、優しい人だったな」


「そうか、典型的だな、物事を広く知り過ぎて、それでも身近な人間がこの娘とマスターなら、そういう風に成るのもどうりだ」


 知った風に上から目線で語ってんなぁー。


「誰にでも優しかったから、それはどうかな」


「もっと話せ、あたし独自のプロファイリングで、丸裸にしてやる」


 それからはいろいろと話した。

 最終的に丸裸って意味がまんま、そういう意味合いの、つまりはヤバい方向に行ったので僕が止めた、マスターは苦笑いだった。


「はぁ、人に歴史ありだな、やっぱ一人の世界に籠ってちゃ、いけねーよなぁー」


「だね、僕は面白かったよ」


 今は、季節のデザートというのを食べている。


「この甘味は、人工甘味料が使われているんだが、君は糖分を注入する方式でやってるか?」


「やらないよ、長時間プレイする訳じゃないしね」


「あたしはやっている、だからこれを食べれば食べるほど、太るってわけだ」


「リアリティーを追及しているの?」


「いいや違うね、食べるのを忘れて、たまに頭がクラクラするからだな」


 いつも食べている、この店の定番、レアチーズケーキを美味しそうに食べながら言っている。


「さて、あいつは誰だ?」


「ああ、シャルさんだね」


 出口から、とんでもない美少女、金髪碧眼の、お姫様みたいな人が来た。


「ごきげんよう、イリカ、それとその下僕」


「ああ、くんな」


「こんにちわ」


 つかつか、杖の様なモノを地面につけながら、こちらまで接近して、一定の距離でストップ。


「大手出版社に取り込まれたと思ったのですが、案外、自由にしているのですね」


「馬車馬のごとく働くだけが、能じゃないんだ」


「ええ、あなたのような奴が、そんな誠実なはずがありません」


 ひたすらに剣呑、てかシャルさんの目が、普通に殺人者のそれなのは、つっこむべきポイントなのかしらん。


「魔弾と魔剣、ひさびさに手合わせでもしておくか?」


 魔弾、過去に何度も何度も、こいつが自暴自棄にリボルバータイプの拳銃で、無意味にロシアンルーレットで自殺していた頃。 

 その極限の集中状態が、なぜか異常戦闘特化し、抜き構え狙い撃つの過程が、人間の反射神経の伝達速度を超えた、とかいう技。


 そして対する魔剣だが、

 これはハッキリ言って、よくわからん。

 だいたい対する相手の呼吸を読んで、隙をつけば必ず瞬殺、殺せるってのは、理屈がちょっと可笑しい。

 どう考えても、それだけで、そこまでの破格のアドバンテージが得られるはずがない、これには何かトリック、裏が有ると思っている。


「いいえ、時間の無駄ですし、

 でも、貴方からジャレテくるなら別ですが、、、ヤりますか?」


「ああいいぜ、死ねや」


 マズルフラッシュが閃いた。


「呼吸が乱れてますよ、イリカ、隣の少年に気をやっているなら、貴方はその程度の矮小人、さっさと身の程わきまえてほしいモノですが」


「黙れや雑魚が、いっぱい一杯のギリギリのギリギリで、なんとか防いだだけだろが、このリーチならどっちが有利だ?」


「装填数から考えて、防戦してれば勝てるわたくしが有利でしょう」


「ふざけろ、全部ふせげるつもりか?」


「ええ、でもやめておきましょう、わたしは別に、貴方を本当にヤりたいわけではないので」


 俺はなんとなく、この金髪碧眼で、人外みたいに神聖不可侵みたいな、静謐で美しい人に言ってやりたくなったので、衝動的に言ってしまう。


「なんだ、そうだったんですか。


 俺はてっきり、貴方はNGワードでも引き出して、他人をバンするようなタイプのアレな人なのかと思っていたのに、違かったか。


 でもどう見ても、貴方の語り口調は、そういうパーソナリティーが透けて見えるんですよねぇ

 別に俺はプロファイリングの天才とかじゃありませんが、ここまでの文章を全部つなげて俯瞰すると、そう見えるの


 嫉妬するでしょうが?

 嫉妬して、嫉妬の対象を排斥して、殲滅、魔女狩りのように火炙りにして、絶叫の内に非業の死に追いやれば

 どう考えても圧倒的なリソースが得られるでしょう?


 それが紛れもない現実だ、いいわけはありえない、無条件で享受されうるべき世界の真理なんだ


 小説家になりたいとか野心を抱いてる、どろどろした世界で生きてるのに、そんな潔癖なのはたぶん違うと思うな

 いろいろな人がいるけど、大抵の人は隙があれば上位者を排除しようとする、過激派ですよ

 悪であり、憎悪と滅意と殺意と、そういう権化、衝動を体現する事しか頭にないですからね


 貴方も今現在、小説家ではないとするなら、たぶんそう

 リスクを取ってでも賭けて、狂ったようにリターンを得続けて、勝利に次ぐ勝利で、上位者に真に至りたいんじゃないんですか?


 俺は本当にそういう奴ら馬鹿だなクズだな、ゴミだなって鼻で笑って馬鹿にしてるんですけどね


 俺は上位者で、真に小説家になれるレベルの人間だからな


 そういう奴らばっかで、最近は辟易してるんですけどね、

 貴方は違ったんですか、そうですか、まあ内心は別にそれほど思ってませんがね」


 ハッキリ言って、呼吸の間に刃が飛んでこなかったのは、イリカが後の先を狙ってたから、だろう。


「くっく、だとよ、嫌われてんな、クソみたいな生き様さらしてるから、もてねーんだよ、てめーは」


「はぁ、不愉快な少年ですね、どこまでも屈服させて、凌辱の限りを尽くして、ぶっ殺してやりたいですわね」


 酷い瞳で射抜かれて、身が竦んでしまった。


「どういうつもりだったのです? 貴方、わたしに喧嘩をうって、どんな得が有るのか? あまりに不可思議で、教えてくれません?」


「いや、いや、なんとなく、君が心を震わせる、というか踊らせる所が見たかった、すごく見たかったから、ただ、それだけ」


「でしてよ、ずいぶん興味津々なご様子、年頃の少年を誘惑して、罪深い私ですね」


「言ってろカスが、こんなクソ凡人に好かれて、うかれてんじゃねー、めざわりだっつーの」


 そういう馴れ合いが有り。


「用事ですわ、今日はこれくらいで済ませます、次のために、貴方がたは首でも洗ってなさい、捗りましてよ」


 突然そんな事を言って、どこへなりとも消えた。


「あの人は、君にとって何なの?」


「知るか、宿敵でしかない、絶対に倒すべきゴミ野郎ってのが、あれだな、わたしたちの唯一正しい共通理解だな」


 殺伐とし過ぎている、どう考えても現実として、ありえんだろう、そう思った、だがどこまでもただそれは現実だった。

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