IF‐虚無の観測者‐羽住可憐の手帳ノートの物語小説
人が、もしも~ほにゃらか、と思った数だけ、その世界は存在する。
それは当然の、宇宙の真理、法則。
世界は無限に広がっているのだ。
そして、それぞれが違うものとなっている。
「物語小説は、複雑になればなるほど、不安定になる傾向がある。
そして、不安定なら、どれだけ情報総量、力場レベルが高くても、客観的に使えない。
不安定な物語は、その不安定さゆえに、作者と同じレベルの視点が必要になるんだろう。
不安定だから、補完し補強する、そのような要素が必要。
つまりは足りない要素が多すぎて、それを補完し補強し、欠損や欠陥を補えばいい、
のかと言えば、そうでもなくて、不安定さが無くなれば、安定して、それで最善とは、ならない事がほとんど。
不安定な物語小説は、その不安定な複雑さ、意味深な揺らぎが、情報の総量を上げるのに、一役買ってるからな。
故に、つまり、安定的で情報総量の高い、物語小説が、この世界には求められている、ということだよ」
男は「なら、どうすればいいんだ?」と聞く。
「人間の思考回路は、複雑になればなるほど、不安定になる傾向がある。
逆に、単純になればなるほど、安定する傾向がある。
馬鹿な人間は、安定しているけど、馬鹿なのだ、愚かで他人を傷つけて害する。
逆に、賢い人間は、不安定だけれども、賢者なのだ、賢さで他人を助け救い、役立つ。
つまり、物語小説を最善に書くためには、存在として、適度に馬鹿で賢くなる必要がある。
絶対矛盾する、この愚かさと賢さを、一つの存在生命として、可能な限り両立させるのだ。
奇跡のような二面性が、求められるのだろう。
一面では、馬鹿で、一面では賢者。
愚かしくも賢く、そのように生きている、世界に存在をあらせているような奴は、面白い小説を絶対に書くのだ。
なぜなら、そのような矛盾を内包する奴は、絶対に客観的に見ていて、面白いだろうからな。
だから、その延長線上として、そいつの書く物語小説が面白い、面白くなるのは、もうこれは必然だな。
傑作に笑える、これは真理だろうな、はっはぁ」
そうして、喫茶店で話している、というより気侭に暇潰しのように駄弁ってる二人に、
「名も無き娘と、それとついでに男よ」
一人の黒服の男が声をかけた。
「なんだオッサン? 娘って、私のことかぁ?
調子くれんなよ、私はもう大人のレディーなんだぞぉ?」
男は「おいおい」と、宥めるように声をかけている。
「お前達に問う、この世に存在する知生体の、価値や意味を何と聞く?」
突然の意味不明な問いかけ、娘と呼ばれた少女は苦笑いと共に、しかし即答する。
「そんなの、当然、ここっ、頭に入ってる、価値ある情報の総量だろうがぁっ」
「聞かれたから、一応答えるが、ゲームのプレイヤーとしては、
あらゆるゲーム、人生を生きる上で、意味ある攻略法、情報の総量、それをどれだけ知ってるか、だろ?」
黒服は、多少なりとも感嘆する。
そんな多くの世界を、知生体の存在する、を回ってきたわけではないのだが、
これほど、確信に満ち溢れた瞳で、このように回答を断言するモノは初めてだった。
「やはりお前達は、真理に限り無く近く、遠く、存在しているようだ。
その歳で、情報力場こそが、存在の真価そのもの。
知生体の、唯一、縋ることが可能な、絶対のヨリシロであると、理解しているようだな」
娘と男は、「はぁ?」と、口をぽかん開けて、男を見ることしかできないようだ。
「よし、決めたぞ。
これから貴様は、“羽住可憐”と名乗れ」
黒服は、娘の方を、そう言ってビシっと指をさした。
「それから、、、、よし、では行ってまいれ」
男は「ちょ、、その流れだと、俺の名前もっうわぁ!!」と、光に包まれだして遮られる。
まだ知らぬ世界を見て、
まだ見ぬ意味と価値に溢れる、瑞々しく初々しい世界を、存在を知るのだ。
そして、情報力場を高めるのだ。
身に余るほどの情報を蓄積し、知恵を研鑽、研ぎ澄まされた刃のように磨き上げるのだ。
そして何時しか、常に知恵の奔流に、自らが翻弄され続けるような、存在に成るのだ。
衝動が衝動を呼び、知識欲が知識欲を喚起し、無我の領域で世界に存在する存在。
「お前達を、その候補とする」
その時点より、少し前。
からんころんと、喫茶店に入店する娘。
「貴様をーー蝋人形にしてやろうかぁ!」
そこから、既に観測し、記録する者。
観測者を自称する黒服は、見ていたのだ。
カウンター席を一番端っこで、やや安いコーヒーセットを頼み、舌鼓をうちながら。
「お前をーー変質者に認定する」
「はっはぁっ、この程度で、いいじゃないか、お前と私の仲だろぁ?なあぁ?」
娘は男の肩に手を回し、酷く馴れ馴れしい態度で、嬉しげにニヤニヤ。
客観的にその光景を見れば、
気弱そうな大人しい男子に、サディスティックな肉食系女子が、嗜虐心を滾らせているように見えた。
観測者という存在は、
そのように、喫茶店内で白昼堂々、騒ぎつつも、
何時しか、上記のように語りだしたりする、二人を観測し、口の端を嗤わせていたのだ。




