自殺という人殺し‐彼女はどうして人を殺すのか?
冷静に問い詰めた。
目が霞む、視界が滲んでいるのを自覚。
ぐしゃん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
眩しさを感じた
目を開ける。
「おはよう、って、別に朝じゃないけど、目が覚めた相手には、言いたくなるよね」
「、、、、」
意味が分からなかった。
だが、微かにこの状況を連想的に言い表す言葉を知っていた。
幾ら想像しても納得いかないが、ループ的な状況らしい。
「あれ、もしかして、これは超レアなタイプかな?
引き継いでる? もし引き継いでるなら、どのレベルで?」
興味津々な猫のように、迫って質問してくる。
さて、どのように、次の対応を選択しようか?
熟慮の余地がありそうだ。
「どうして、あんな事をしたの?」
「あんな事って?」
些細な悪戯を、問い詰められているかのような軽いノリ、彼女は会話を楽しむような感じだ
「どうして、、」
「どうして、殺したかって?」
「まあ、そう」
酷く不可思議な気分だ、理不尽で不条理とも。
さきほど、殺された相手に向って、こんな態度で会話をしていることが。
「うーん、楽しいからだよ」
「楽しい?」
「そうごめんね、殺すのって、凄く楽しい、娯楽になるんだよね、ほんとごめんね」
「、、、ゆるせないよ」
「だから、ごめんって、わたしって可虐趣味でさ。
君だって、僅かでもそういう気がないって、言い切れる?」
不思議な剣幕に押されてしまう、ズイっと彼女が迫ってきたのだ。
「う、、、だからって、殺すことはない」
演技っぽくチッチと、された。
「だめ、だめ、、殺さないと、面白くないわけ、殺さないとか全然駄目。
だって、それって全力じゃなくない?
全力で苛められて、初めて恨み、みたいなのって、真に生まれてくるものなんじゃないかな?私はそう思うよ」
意味が分からなかった、彼女は狂っているとか、そういう状態なのかと疑う。
「恨まれたいの?」
「そうだよ、まあ、それだけじゃないけどね。
さっき味わったばかりだから、分かると思うけどさ、死ぬのって、凄く痛くない?
それと、凄く悲しくなかった?
わかって欲しいわけよ、真にそういう感情があるってことをね。
わたしは本当にそう思うの」
晴れ晴れとした感じで言われた、気がした、実際はよく分からない、先ほどの死が想起された。
「分かったよ」
「いいえ、全然分かってない」
唖然とした、だったら、さきほどの死は夢だったとでも言うのか。
「どうして?」
「どうしてって? 笑わせないでよ」
イライラするべきなのだろう、だが、同時に興味も引かれた。
彼女の瞳には自信が満ち溢れているのだ、はたして、なぜだ?
「まだ分かってないと?」
「うん、分かってないの。
もっともっと惨たらしく、それこそ想像を絶するくらい死んでくれないと、駄目、認めてあげないんだから」
そこで、彼女は勢いよく反動をつけて立ち上がる。
「と、いうわけでっ、次いこっか?」
こんな、一杯行こうよっ的なノリで、笑顔で言われて、どう対応すればいいのか、瞬時に思いつかない。
「ほら、立ってっ」
手を掴まれる、こんな場合で思うべきことか分からない、驚嘆するほどに柔らかい手をしていた。
立たされて、向き合う。
改めて見ても、全身が真っ黒だ、見た目だけでも異様過ぎる雰囲気。
「どうしたの?
ああ、もしかして、苛められて、それで、好きになるとか?
そういう倒錯的な超展開?
まあ、だったら面白いけど、んなわけないよね、、、冗談だよ」
暫し、なにも言葉が出てこない、果たしてどうすればいいのだろう?
自覚する。
人を殺したいほど狂っているなら、もう言葉も無い、ただただ俺は彼女に殺されるのだ。
「ねえねえ、またぶっ殺してヨカですか?」
彼女はニコニコしている、人を殺すことが、心底から楽しいと分かる表情だ。
分かり易い、普段はネガティブな癖に、人を殺すと途端に饒舌に成る。
「ほら、どうしたの? 行くよ?」
「いや、行かないよ」
彼女はつまらなそうな顔をする。
「へえ、そういう態度とるんだ。
まあ、普通にありえる、というより、それが当たり前、当然の常識的対応ですよね」
非難するような目を向けられる、ジッと見られる。
「ねえねえ、殺されるのって、本当に嫌な事?」
「本当に嫌だよ、殺されたくない」
「意味わかんない、殺されるのって、最高じゃない」
彼女は道を歩いている人を捕まえて、めった刺し、身の毛もよだつ惨殺体験を語る。
俺の前で披露するかのように。
「ほら、こうやって。
ナイフで刺されて、グリグリされて、激痛にのたうち回るのって、楽しくない?」
既に死に体、痙攣すらしなくなった死体を蹴って、彼女は戻ってくる話を終えた。
「少なくとも私は楽しい、生きているって実感できるから。
貴方にも、殺されて欲しいって、私は思うよ。
私と同じように、この真に真なる、生の実感を痛感して。
そして最終的に狂いきって、人間として覚醒して欲しいと思うのよ」
俺は言葉が無かった、ただただ狂っている彼女を見る。
「それじゃ、こうしません?
どうしたら行く気になりますか?」
考える、特に考える間でも無い。
「行かない、俺は殺されたくない」
「強情ですね、いい度胸ですよ、それ。
はいはい、凄く思い通りにならない感覚、あはっ、イライラしてきちゃった」
彼女はポケットから何かを素早く取り出して、後ろ手に隠した。
「ほら、行きましょうよ?」
「行かない」
「ふぇーん、そればっかり、泣いちゃいますよ?」
「・・・・」
「まあ、そうですよね。
でも、それって、典型的な詰まらない対応だと、思いませんか?
こんな状況下で、ありきたりに、そんな態度、誰が進んで予測しますか?
いいじゃないですか、手を取り合って中に入ってくれても。
そういう超展開があって、何が悪いんです? 意味が分かりません」
「・・・・・」
「あー、どうせ無限に拒んでれば、無限に催促する、そんなプログラムと、もしかして思われちゃってます?」
「・・・・・」
「いい加減、殺しますよ?
いいんですか?
何もしないうちに、私にグサッと、本当にリアルで刺されてしまいますが、このままだと」
「・・・・・」
「あれ、これは殺害許可ですか? やったぁー、いえーい」
彼女は驚くほどスピーディーな動作、速く鋭く、後ろ手を突き出してきた。
それが腹部に押し当てられるが、特に何も感じない、そこには手をグーにしたモノがあるだけだから。
「もしかして、バレてました?」
「うぅ、、、ウああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
失禁した、あの死を思い出せば、誰でもこうなると、思う。
麻痺していた感覚が蘇り、振り返れば、身の毛もよだつ、彼女の姿。
「なんですか? 今までの態度は、そういう事なんですか?
というより、汚いですね、、、漏らさないでくださいよ、、どうしてくれるんですか」
困った顔で見てくる、恥ずかしいという気持ちもなくなかった。
「うぅぅぅ、、、」
ベンチに座って、ずっと泣いている、あの記憶はトラウマ以外になりえない。
「ざっこ、あんな程度の死で、こんなに壊れるなんて、下らない人生生きてたんでしょうね」
ジロッと、彼女を睨む。
「へえ、良い目しますね、恨むことは慣れてるんですか? ポイント高いですよ」
「犯してやる」
本気でそう思った、と見せかけて脅迫して怯えさせたかった、なにか仕返ししたくて堪らなかった。
「馬鹿ですね、そんな下らないエロゲーかエロ漫画みたいなクソシナリオに、させるわけないじゃないですか。
やめてください、建設的にいきましょう」
「殴っていい?」
「駄目ですね、少女を殴るなんて、わたしの趣味では在りません、まあ逆なら、普通にありなんですが」
「勝手な奴」
「ええ、勝手が服着て歩いてます」
なんとか、したかった。
「なにしてるんです?」
濡れた服を脱いだ、投げつけた、なんか変なバリアで弾かれた。
「はぁ、、はい、新しい服ですよ」
何もない空間から服、ポイッと投げつけられる。
「本当にしょうがない、下らない人ですね、消滅させてやりましょうか」
ビビリながらも、虚勢を張る。
「怖いこと言うんだな」
そこで、彼女は何かを切り替えるように手を叩く。
「さて、お喋りはこれくらいにして、マジで行きますよ、さっさとね」




