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夢想神楽‐ハーレムを否定し詰める檻



 私はリビングに戻り、携帯を開く、掛ける相手は一人しかいない。


「もしもし、シャルさん、聞こえてますか」


「ええ、聞こえてますわ、そして貴方が何をしたいのかも、全て見通しています」


 自信に溢れた声、ただ状況確認をする為だけの問い、敵意も何もない、なんだかビジネスライクな感じである。


「へえ、そうなんですか?」


 このシャルという人は、全く全然侮れない、私の人生に決定的影響を与えるほど、いろいろと持ってる人なのだ。


「そうよ、かよさん、貴方が今からやろうとしている事、当ててもよろしくて?」


「いえ、そこまでする必要はありません」


 ただ、リミッターを切り、シャルさんを暴発させるだけの何か、それをすれば良いだけなのだ。

 つまりは、私が彼女の背中を押す感じで、盛大に後押しする形の。


「私は、シャルさん、お兄ちゃんと結婚しますよ」


「ええ、いいのでは? 私はそういう事を否定するほど狭量でも干渉癖でもありません」


 冗談と受け取っていない、携帯で電話を掛ける前に、書類も見せたりしている、前提条件は揃っているのだ。


「もしですよ、シャルさんがそれを拒否し、お兄ちゃんを完全に受け入れて、これから建設的なお付き合いをするなら。

 その場合の全体の幸福の総量は、私の中では最大値化します。

 しかし、それ以外をシャルさんが行なうのなら、もう駄目です、絶対に関係を切ってもらいます」


「わかってるわ、これから、彼と契りを結ぼうと思うの、私なりのね、一生をともに過ごす殿方、もうずっと前に決めていたもの、そう前世からね」


「はぁ、シャルさんには驚かされますよ、もう少し、私のやり方に驚きとかは無いんですか?」


「ないわよ、そろそろ、私を追い詰めて、詰みの状態にしてくれると思っていたもの。

 こういう機会でもないと、臆病すぎる私は動けない、そういう絶対の理性が働いてしまうの、感謝しているわよ、かよさん、このお礼は今度いつか、無限にし続けたいと思うから、期待しててちょうだいね」


 彼女の言葉に一切の嘘はないんだろうと思う。

 前世でもそうだったのかもしれない、彼女も多分、私と同じ幸福の最大化を目指すような、”秩序の勢力”の人間だと信じたい。

 でも、やっぱり底の底、真の姿までは、どうやっても見通せるものではない。

 彼女は私と同格程度の、そういう存在、肩を並べたり、相対できる、そんな人。


「それで、お兄ちゃんを受け入れてくれるって、そういう認識でいいんですよね?」


 一応の確認、しかし答えは予想とは違った。


「前々から思っていたのだけれど、かよさん、貴方は兄を過大評価しすぎではない?」


「そんな事は前も言ったと思いますよ、私の持つ価値観的に、お兄ちゃんの才能や存在は、どうしても贔屓目に見て、それこそシャルさんの言う、過大評価をしてしまうのは当然なのです」


「そう、まあ、あの才は、それはそれで見所もあるけど、かよさん、貴方も同様に近い、何か、持ってるのではなくて?」


 それは、そうだ。

 確かに私はお兄ちゃんの持つそれ、同一ではないが近いモノを持っていた、今も持っているとはいえるのかもしれない、だが。


「それは、もう過去に封印した感じで、私の中には利用できる形でありませんよ」


「そうなんでしょう、試みに聞いてもいい? なぜそういう事をしたの? 貴方は、それこそ他人を一切必要とせず生きれる、そういう存在でしょう?」


「それこそ、シャルさんと同じでは? 自ら欠けて、他人を求める必要が、あったのです、私には」


「そう、私はそうじゃないけど、かよさんはそうなんだ、流石”秩序の人”だわ」


「無理を押して聞きますが、シャルさんは”秩序の人”ではないのですか?」


「無論よ、”計算高き混沌の女王”そういう二つ名で呼ばれていた時期もあったくらいよ」


 前世の話だろうか? そこら辺の情報は流石にわたしの中でも疎い感じになるのだが。


「計算高い、そういう冠が付くという事は、ただの混沌ではないのですよね」


「それも当然、混沌である事はあくまで形だけ、本質は秩序の上を行く、血に飢えた最強を、特異点を目指し続けるだけの存在ですもの」


「本当ですか? シャルさんは秩序を求めているのではないですか?」


「それも無論よ、最強とは秩序の極地にあると、私は思っているもの、でも、そこに到達する為には、混沌すら手玉に取る、少なくとも私にはその必要が、人生の経験上身に染みてわからされたからね」


 天使の堕天のような感じだろうか?

 天使はその聖なる力だけでは、とても異形の神々の理力に抗えなかった。

 だから堕天し、混沌や魔の力を得た、その結果、絶対の聖域としての聖なる心を失いはした。

 でも、それでその存在の全てが穢れたとは言えないだろう、代償として得た力には、確かな正義と神聖さがあると、少なくとも人間なら見出せるのだから、それらのようなものだと、私だけでも信じていいのだろうか。


「率直に聞きたいのですが、シャルさんはどういった人なのですか? 私と敵対しますか?」


「しないわよ、厄介な相手と敵対するなんて、余裕のある状況下では絶対におきない、そういうものでしょ、どう考えても?」


「はい、確かにそうです、では質問を変えたいです、シャルさんは本質で私と相反しないのでしょうか?」


「ふん、難しすぎる質問ね、でも、多分、同じ人を絶対に好きになっているのよ? 同じ方向をこれからも向き続けると期待してもらっても構わないと思うの」


 そうだった、同一の価値観を、そのように共有するのは何よりも強い同士になりえる、のかもしれない。


「これから、私の協力とか、してくれますよね?」


「もちろんよ、私は、むしろね、ココだけの話し、イツキよりもかよさん、あなたの方が好きな側面もあるのよ?」


 その声には、なにか底知れない何かがあった、滾る欲望の火を感じて、こちらの胸も熱くなってしまいそうだった。


「それは、とても嬉しいです、私もシャルさんの事、お兄ちゃんよりも好きな側面がいくつかあります、それこそ、お兄ちゃんを場合によっては越えるほどの何か、無限に見出せます」


「まあ、そうでしょう、存在のリソース的に、そういう事は当然理論的に考えて可能ですもの、でも、理論と感情は別物でしょう? 本当に場合によるとしか言えないわ、兄をどのように思い、どのような関係性を育むのか、特に三角関係に至るならば、その複雑性によって、抱く感情は兄のモノにしても、私に抱くものにしてもどこまでも変質するでしょうしね」


「はい、でもそれでも根本は揺るぎません、シャルさん、私は貴方が好きなんです、お慕いしてるんです」


「そう嬉しい、私も、かよさん、貴方が好きよ、本当に愛しているの、大事にしたいと、この本心だけは確約する、信じて欲しいとも思うの」


 胸が痛くなるほど真剣な告白、それだけその心を私に感じて欲しいのだと、そんな愛欲のようなモノを感じて、切ないほどの甘美な感覚が伝わった。


「はい、シャルさん、私も似たような感情を抱いているので、少しでも貴方にそれが伝わったら幸いです」


「うん、そうだといいわ。

 それで、話しを戻すけれど、私はこれから、その、イツキに飛び込めばいいのよね?」


 途端弱気になる、そんなシャルさんが可愛らしく思う、もう好きだからシャルさんならなんでもいいのだけれども。


「ええ、もし何もしなければ、私がお兄ちゃんを独占するだけです、そうなったらもうシャルさんの介入は認めません、時間制限は今日までです、私は優しいですが甘くはありません、約束を破ればそれなりのペナルティーを与えます、そして貴方が約束を絶対に破らないと信じるからこそ、この非道なまでの残酷な、そういう約束を無情にも取り付けられるのです」


 その言の終わりらへんで、ぐすんという声、シャルさんの嗚咽だ、かわいい、同姓の私でも一瞬聞きほれた。

 流石歌姫属性まで持つ人だ、声が綺麗、私もそういう声だったらよかったのに。


「もっと聞かせてくれませんか? 失礼ですがとても聞き心地が良かったので」


「うぅ、それは、ぐぅ、また後でにしてくれるかしら?」


 なぜ泣くのか、それは今まで得ずにいた、幸福も不幸も、いっぺんに手に入れるような。

 そんな彼女にとって最大限追い詰められた時にしかしない、そんな行動に出る前だからなのだろう、そうなのかと予測はできるが、真相がいまいち判然としない、まあ好きに妄想して萌えるだけだけども。


「なぜ泣くのですか?」


「怖いからよ、感情の臨界を越えて、ただただ爆発を続ける、そんな天国のような地獄、これから味わえるんですものね」


「分かります、刺激的過ぎる情報は、涙腺を無限に刺激します、そういう時は泣いてもいいんだと思います、感情を抑えない方が、プラスになる時もあります」


「うん、そう思うわ、涙なんてそもそも、ずっと流していたいくらいだもの、そうすれば感情を無限に溢れかえらせる事ができる」


「前世なら、そういう事もできたのに、窮屈な存在になってしまいましたよね?」


「そうね、こんな不便な存在として、まるで余生のような人生を送るなら、生まれたくなかった、そんな悲観的な人生観も抱いてしまうほどに」


「だからこそ、お兄ちゃんは私たちにとって絶対の希望足りえるのでしょうか?」


「まあ、言ってしまえばね、人間にまで落ちた私たちは、人間をどこまでも無限に愛すことが出来る、その愛の対象の極地を地で行く彼は、きっと私たちを無限に魅了し虜にするのよ」


 お兄ちゃんの真価は、恐らくそれなのだと思う、人間に対して無限に価値を見出させる、ただただ無限に素晴らしいだけの人で、それこそが才なのだ。


「でも本当に良かったのかしら、貴方とイツキの間に、私が割って入った気が、まだするんだけれども?」


 様子を伺うような声、そんな事は気にする必要もないのに。


「何言ってるんですか? いいんですよ、他ならないシャルさんです、むしろ質量が増えた分、私たちの幸福の総量は確実に増えました、私達はお互いをどこまでも受け入れあいたい、そんな仲間なんですよ?」


「仲間、ね、そういう存在を得れたのも、ここまで落ちたお陰なのかしら?」


「さきほどから落ちたという表現を使いますが、いつでも登る事もできるのでは?」


「ええ、まあ、そういう言い方もできるけど、向こうは向こうで勝手に生きて行けるのに、まだ詰んでないこの存在を捨てる理由もないし、それにこっちで得たものも向こうに渡せるなら、まあ損な役回りだけど、私がそれを引き受けるしかないのよ」


 向こうとは、度々話題に出す前世の話である。


 普通前世は終っている、だが彼女の場合は前世が今だ続きながら、今世が始まるというパラドックスが生まれた希少なタイプなのだ。

 だから向こうの存在と共鳴、その他様々な方式で戻る、とういう事が可能なのだ、向こうにそもそも拒否とかも絶対にされえない、なぜなら本質的に同一の存在なのだ、片方が戻りたいと思えば、もう片方も同様に在るのだから。


「では、このくらいで、そろそろ兄が戻るかもしれませんので」


「そうかしら、まだまだ戻らないんじゃないの?」


「まあ、万が一ですよ、もし、戻ってこない、そういう可能性が、というよりも20分ジャストくらいで戻ってこなければ、もう3時間は戻ってこないって所までは読めるのですが、お兄ちゃんは極端だから、時間厳守か大寝坊、その両方しか、少なくとも今回の刺激の強すぎる状況では起き得ないのです」


「それでね、もし、良ければなんだけど、仮に遅くなる方なら、またこうやって話してくれないかしら、かよさんとはこの機会にもっと話したいし、なによりこれから戦いに赴く私は、できる限り励ましや勇気が必要なのよ、いいかしら」


「もちろんです、シャルさんなら、私も無上に無限に、何かをなんでもしてあげたいんですから、はい、了解しましたよ」


「あり難いわ、ありがとうね、かよさん、それじゃまたあとで」


「ええ、頑張ってください、シャルさん」


 そんな感じで通話を切った。



 さて、お兄ちゃんは直ぐに帰って来るのか、それとも大分立ってから帰って来るのか、確立としては五分五分だ。

 まあ、テレビでも適当に見ながら、気長に待とうかな。

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