そこは夢幻の塔にして、黄昏の祠
さて、まずはキャラメイキングから始める感じでしょうか?
そこは、どこかも分からない世界の果てに位置する場所。
遠い遠い場所から、私は何年の月日を経て、そこへやってきたのでした。
「はふぅう、疲れましたぁー」
そこは村のような場所、しかし思っていたよりは、
この思っていたよりというのは、村から一時間以上距離があった、村を囲む石造りの城塞のような場所と比較して、という意味です、
この町というよりは村、そこを過剰に守護する砦、その不可解な謎の答えは単純です。
「貴方の部屋は、二階の204号室、たっぷり休憩したら、さっさと迷宮に突入して、屍になっていればいいわね」
「あれ? ああはい、」
私は村にあったギルドで登録をすませて、村に一つしかない宿屋で、そんな突拍子もないセリフを投げかけられて、困惑してしまいます。
この宿屋の店構え的には、主人的な立ち位置に居る、お姉さん?
黒い長い髪に、多少、言っては何ですが嗜虐的な見た目、愛想がよいので色々緩和されていたのですが、先ほどの一言で台無し、というか表層化、というか。
「ああうん、城塞砦は、この村を警護するには大きかったのですね、うんうん、それでー」
何気ない独り言をして、気分転換をしながら、ベッドメイキングをしていました。
「むにゃむちゃ、うぐうぐ、もう食べられないよぉー」
寝ぼけた眼で、枕の感触が心地よく、うとうと回想されるは、遠い故郷のこと。
私の村は、たぶん、この小さな村よりも小さな村。
平和な毎日を、と言いたい所ですが、頻繁に魔物の被害を受けていました。
それでも村の自警団が守ってくれて、それを観て育った私は、いつか私もあんな風にと、剣を片手に森を走っていたのですね。
「輪廻、お前には素晴らしい才能が、運命がある、世界を救う使命が託されているのだよ」
それはおばあちゃんが、死ぬ前に言った一言でした。
おばあちゃんは占星術師で、魔物の到来をある程度予知できる人でした。
それは凄い事で、村に迫る魔物の大体の数、方角、なによりも種類を言い当てた事で、どれだけ被害を少なくできたかしれません。
「さて、行きますか」
そんなおばあちゃんが言った一言、それだけに触発されたわけじゃありません。
数年前に復活した魔王による魔物の増加、村は解散の危機に瀕しているのです、おそらく今この時も。
そうです、この場所は魔王討伐の為の武器を、踏破した者に授ける、夢幻の塔。
そして最果てには伝説の武器があると言い伝えられる、黄昏の祠、両方があるのでした。
ギルドにて、どう考えても色物としか思えない電波な魔法使いの相方を得る
さて、VRMMOです、初めてのプレイなので、勝手が分からず、
自己紹介の小説は、どのように見られているのか、戦々恐々しながら、ギルドにて仲間を探していました。
ぶっちゃけると、一人でも攻略は可能なのですが、バリバリの魔法使い、
この起用は、魔法使いの少女に憧れてです、更に言えば、遠隔からバンバン強い魔法を飛ばして魔物を蹂躙しまくるとか、憧れません?
「えー、えーと」
ギルドにはたくさんの人が居るのですが、
あきらかに一人の少女、猫耳で低身長の、薄水色の髪の女の子が、私を興味新々な感じで観ているではありませんか!
「にゃあ、こんちにわ、こんばんわ、はじめまして」
「ああ、はい、えーと、あの、私レベル1なのですが、仲間を探しているの」
言いながら、高速処理された情報が、彼女の自己紹介の文章を私の頭に流してきます、、、、空白!
「にゃあ、にゃあ、にゃあ、なかまーーー、なうぅーー」
「あの、普通に話していただいて、大丈夫です、、、よ?」
「にゃあ、普通にはなしてぅー、、ざんねんっ?」
「あ、、いいですよ!いいですよ! 可愛いですし! にゃあ!にゃあ!」
「っう! ぬやあ!ぬあああ!」
何か嬉しかったのか、抱き着いて奇声を発するのですが、大丈夫でしょうか?
ちなみに、このゲームは見た目がそのままに成るはずなので、この子が見た目と違う人ではないですね。
「職業は、、、バフ系ですか、、、なるほど」
「ばふばふー」
ギルドに幾つかあるソファーに座って、お互いのステータスを見ています。
猫のように小さい彼女は、なんだか膝の上、ああ私のです、に丸まっていて、ちょっと可愛すぎる感じになってきました。
「あ、そういえば、お名前は?、私は輪廻です、リンネ」
漢字だと堅苦しいと、カタカナに直しました、というよりファンタジーな西欧風な雰囲気の世界観なので、
まあ私の見た目も、この子と似ている銀髪に西欧風なので、よく考えたら漢字表記も可笑しな感じでした。
「イリにゃん、、、イリス」
「イリスですか、これからよろしくっ」
「うん、リンネ」
それから、フロアでレベル①付近のプレイヤーを眺めていたのですが、特に仲間になってもらえるような人が見つからず、宿屋に帰りました。
「もしかして、イリスのせい?」
「ええ?」
驚きました、私にはその発想が無かったからです。
「違いますよ、だいたい女二人、しかもバフに魔法使い、さらにレベル①ですしね」
「そうかにゃー~?」
話しながら、昨日と同じ手順でベッドメイキングして、彼女と同じ布団で眠りました。
特に会話無くても、そういう風に一つのベッド眠るの当たり前みたいな暗黙の了解が成立するくらいに、彼女とは意思疎通が通りやすいようですね。
うん、いいパートナーが見つかった感じでは、これはありませんでしょうか?
実際にハスクラのゲームやってるので、物語のネタに困らず、書きやすすぎる件について語りたいねぇ~
黄昏の祠1Fでイチャイチャする
このゲームは開始時に、1000Gほどもらえるのですが、
それだけでは、初期の道具屋、武器屋も兼ねた、
そういえば店主は、素晴らしくヴィジュアルの良い金髪に、色物ナース服の可愛いお姉さんでした。
ナースキャップに赤十字のような飾りがあって、金の刺繍のちりばめられた服だったのです。
閑話休題、その初期段階の品ぞろえで、私たちは全部の部位の武器と防具類を買えないので、
一番費用対効果の高い武器と防具だけを買い、余ったお金でポーションを数個買い、お互いの道具スロットルに収めてあります。
「さて、いきましょうか! レッツゴーですぅ!」
「ごーごーごーーにゃあ!」
今日も仲間を探そうか迷いましたが、案外二人だけで行けるのでは? 二人だけの思い出を、この機に作っておくのが良いのでは?
と様々な思惑と共に思い、今日は迷宮探索です。
村の入り口から二股に分かれていて、塔と祠どちらにも行けるのですが、
ダンジョン風味の塔よりも、オープンワールド形式風味の祠の方が、ピクニック気分で行けると、ギルドでの前情報があったので、そちらにしました。
まあそれでもダンジョンなので、一応は閉鎖空間っぽいアレなのでしょうが。
「そういえば、スキルはもう習得したりしましたか?」
「にゃあ、スキルポイントが2、少なすぎて、とりたいスキルがあるから、溜めてる」
「ふふん、私はもう取りましたよ?」
スキップしながら先に行こうとすると、手が何か柔らかいモノに引っ張られました、イリスのちっちゃい手でした。
「うん?どうしたの?」
「手を繋いで歩いた方が、、、いいと思う」
キュンキュンキュン。
「うんうん! いいですね! それ! 手を繋いで、イチャイチャしながら歩きましょう!」
「うん、ぺろぺろぺろ」
私の手をとって、自分の口元に引き寄せてから、愛おしそうに舐めてくるのですが? これはどういったアレなのでしょうか?
「あのお~~?」
「リンネは、仲間、はじめて受け入れてくれた、から、、、初めてで、、イリスのモノ、、、、、なにかしら、マークしておきたい、、の、にゃあ」
ええええ! どういうこと!??
「ああっ、、はい! 全力でマーキングしちゃってくださいなっ」
「、、マーキング、ではない、にゃあ、印付け、的な、、ぺろぺろ」
いやはや、ちょっと変わってる、というか変わり過ぎてるけど、なんか楽しいなあ!!
この子を選んでよかったなぁー、的な?
帰還
「やっぱり、しっかり仲間をそろえて、準備してからの方が、いいとおもうんだよねえー」
「うん? にゃあ?」
うーん、なんというか、この子は私の、このゲームのプレイスタイルとして、過保護なまでに守りたくなってしまったのでした。
なんか自分の娘というか、強いモンスターにボコボコにされたら絶対に許せない、というか、とにかく絶対にダメ。
「ねえねえ、イリスちゃん、今からでも、ジェネラルに転職しない? あるいはモンクでも良さそうだけど」
「にゃあ? どうしてぇ?」
「えーと、守備力高いと庇護率高いし、ヒーラーならケガしても直ぐに治せるし?」
ぶっちゃけ、バフ系職って便利技多いけど、なんか仲間の為に犠牲になる場面多いイメージである。
「イリスは、これがいい」
「どうして?」
「ジェネラルは、重い、、あと服がゴツゴツ、、、ヒーラーは仲間の回復、判断がメンドぃ、にゃあ」
「な、なるほどっ、確かに、」
バフ系猫耳少女が、ちょこちょこ動いて、仲間を助ける姿を想像する、うん!いいね!
「しょうがないにゃあー、イリスちゃんがーそうしたいならー、わたしはもう何も言えないよぉー」
「うにゃうにゃ」
ちなみに私は、ダンジョンでアレコレされてから、終始こんな感じの骨抜きされている風だが、
まあ合わせてるのよ相手に、察して頂戴ね、いやコレまじで本当に。
「うっふ、、ふっふっふ、今日もイリスちゃんと、一緒のベッドで寝られるわね?」
「にゃあ? うん、」
頭ナデナデ、頬ずりしたくなったが、流石にそれは我慢して、その日は就寝したのだった。
初戦闘
それから数日間、イリスちゃんが何も言わなそうだったので、好き放題に飽きるまで、イリスちゃんを私が堪能する日々が続いた。
ずっと一緒にいて、手を繋いで、村の花畑で子供のように遊んだり、いろいろ話したり、まあ本当にダラダラと過ごしてしまった。
「だ、、、ダメでしょう、コレ」
「うん、にゅあ、そろそろ始めた方が、イリスも良いと思う」
ギルドの同期組、このゲームは一定の人数のプレイヤーを同時開始させて、プレイヤーを同期的な集団にしていたりする、
そのプレイヤーがレベルを数段も上げているのに、私たちは毎日遊んでいるのだ。
ゲーム世界だから、別に問題は特にないのだが、
一応は魔王やら何やらの建前はあるのだし、私たちはそろそろ動かないとダメかもしれない、ニートみたいな危機感を覚えていた。
「さ、さて、イリスちゃん、準備は良い? 今日はできれば、5Fでボスを倒す、一段落して、村長に褒めてもらうくらいは、したいよね?」
「うん、にゃあ!ぬああ!」
先ほどの同期組の話から抜粋、つまり、そこまで行けば、一応は追いついた、事にはなる。
まあ駆け足プレイでは、能力やアイテムなどの所で、実際はぜんぜんゲームの進行度的には追いつかないのだろうが、外聞上はそれでよいのだと思う。
初日に多少見て回った理がある事を期待して、黄昏の祠を選択、速足で行っていると。
通路を抜けた先に、三つの宝箱を見つけた。
青は防具類その他アクセ類、緑はアイテム類、赤は武器、そのほかツボなどは壊すと30Gが自動で手に入ったりする。
「もし装備できるのがあったら、、って、うん、一応後衛の私はいいから、イリスちゃんの増強をお願いね」
「にゃーーーぁ!」
見るからに宝箱開けたい、ツボ壊したいだろうイリスちゃんに任せていた。
ちなみに後衛と言ったが、バフ系職だって前衛が最適という訳でなく、内心モンスターが出てきたらハラハラである。
「わあ! スライムだわ! それも四体も!」
水色のねちょねちょした、見た目的にはツルツルしてる様に見える、子豚程度の大きさの奴、通路で遭遇してしまった。
「逃げましょう!」
「にゃあ? 戦わない?」
初期装備のナイフを持って、戦おうとするイリスちゃんだが、
わたしも距離のある開幕速攻で、一バチで唯一の魔法、スキルポイント2を振って覚えた”ライトニング”、
それもレベル①ではMP消費量的に、三発打って終わりである、
を使おうか迷ったが、やめておいた、だってボスにとっておきたいからで、しかも今日中に行きたかったから。
「わあ、こっちにも!」
「にゃああ!!」
逆の通路を、スライムから逃げながらである、進んでいると、こっちにもスライムが二匹、私たちのように仲良く表れてしまった。
だが何か機転を利かしたのか、イリスちゃんが特攻、
どう考えてもプロのようなナイフ裁き、多少はゲームシステム的に補正があるとしても、まるで野生のケダモノのような所作で、
一瞬でスライムをズタズタにして倒してしまった。
「にゅあっ、いく!」
「う!うん!」
私が様々な意味で戦慄していると、野生の本能で活性化しているようなイリスちゃんが手を引いて、カッコ可愛くリードしてくれた。
私は不可思議に胸ときめかせながら、魔法使いの心もとない体力ゲージを消費して、見るからに「はぁはぁ」しながら、できるだけ早く迷宮を踏破した。
「にゃあ、だいじょうぶ?」
一応のチェックポイント、上への階段があるフロアで、一休み、
ここでなら敵に見つかっても、階段を上って次のフロアに行けば完全に振りけるようになっている。
「だいじょうぶ、でない、はぁはぁ、つかれっちゃたよぉー」
慣れない状況、具体的にはモンスターに襲われて、しかも走って走って、目まぐるしい感じで、精神が衰弱してしまった感じだ。
「うぐうぐ、イリスちゃん、癒して、可愛がって、いっぱい甘やかして」
「うにゅあ?」
「わたしだけのイリスちゃん、ぐすぐす、すんすん」
なんとなく人恋しくなって、いつもとは逆、イリスちゃんの小さいお腹に顔を埋めるように、すがりつく。
縋りつくこと、数十分。
「ご、ごめん、とんでもない姿を見せた! 気がする!」
「にゃあ、もんだいない、メラコンリックな時は、イリスだって、ぐしぐしする、にゃあ」
我ながら情けない、すっかりイリスちゃんに毒されて、甘えてしまっている事を自覚する、
私だってもうお姉さんと言える年齢だ、もっと頑張らなくては、と思って立ち上がったのだった。
結果発表
「うん、あのね、」
「ぬやにゃあ」
結果から言うと、ダンジョンは難しかったのでした。
そもそも二人で行くというのが、ゲームバランス的に無理ゲーに近く、あの後のスライムラッシュで死んでしまった。
ボスに取っておきたかった、雑魚敵に苦戦するのだから、多分ボスに3発打っても倒せなかった公算は高すぎます、それを使っても焼け石に水、
とはさすがに言い過ぎで、魔法特化の魔法使いの面目躍如くらいにはなりましたよ、ええ、これホントの話ですよ?。
「やっぱ、仲間をちゃんと見つけないと、ダメだよね?」
「うん、にゃ」
骨だけの魚をしゃぶりながら、元気のない返事をするイリスちゃん。
ちなみに死んでしまったので、もともとゼロに近く、ダンジョン内でも手に入れた微々たるお金も、ペナルティーで半額化してしまった。
だからというわけじゃないのだが、今日のご飯は堅実にしていた、もちろん骨だけの魚だったわけじゃない、ちゃんと身はあったのだ。
「うぐうぐうぐ、イリスちゃん、私は情けないよ、、、なぐさめて!」
「にゃーーー、」
ほっぺをペタペタ触って、愛しげに見つめてくる、なんか元気出てきた。
「わっはっは、イリスちゃん、好きーーー!」
「にゃっ、、にゃにゃ!」
ふっわふわのイリスちゃんを、頬すりして、
ってわっ、これっていくら何でもスキンシップ過剰じゃないっ?
うぐっ、何となくノリで、当然なのか、イリスちゃんからは困惑の色を宿した瞳に見られて、照れて身を離して、一人でくねくね。
「わわ、やっちゃたよ、ご、ごめんね、イリスちゃん?、、、なんか、そういう気分だったの! 察してちょうだいよ!」
「、、、いい、リンネには、許す、そういうことしても、、、許す、だから、頬を出して、にゃ」
辺にドキドキしながら、頬を、お互いに擦り付けあって、何かしらの意思疎通があったかのように瞳を交差。
「あううぅ、ギルド、いこっか?」
「にゃ」
またも自然と手を繋いで、既に夜になっている、月のキレイな道を二人して無言で歩くのだった。




