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シャルロットとイリカ‐絶対的悲観主義とリソース至上主義者の駄弁り

  

 

 メサイア図書館、エクストラシャペルン暫定支部、にて。

 陽光が、金色のタペストリーをばら撒く、等間隔に、細長い柱が立つ場所。

 それは装飾であり、ここは壁面が一面ガラス張りである、応接間のような空間。


「試みに、戯言レベルで聞くんだが。

 シャル、てめぇーの望みは、なんだ?」


「愚問ね、世界の頂点に立ち、世界を支配し、私の理想実現の為に、世界を在らせること。

 とりあえず、今は、大層なのは、それくらいかしら?」


 金色の陽光に当てられて、なお映える、黄金色の髪をした少女は、今。

 研ぎ澄まされて、常に緊張を漂わせる気配を展開し、流麗に過ぎる音声で言った。


「理想ね、お前の叶えたい事に興味はねぇが、一応聞いといてやる、なんだ?」


「理想なら、腐るほど、在るわ。

 それでもあえて言うなら、観測者の殲滅、かしら?」


「ほおほお、そりゃいいな」


「でしょう?」


「ああ、お前にしては、良い事を言っている、及第点くらいなら、くれてやれる程度にはな」


 黒髪の女、視線だけで、空気粒子の一粒まで、切り裂いてしまいそうな迫力の所持者。

 世界において最上位級の、一個存在であり一個群、図書館の主は、

 その実現の難易度が如何ほどとも知れない、言葉通りの理想とも、世迷い事にも見える話を賞賛した。


「落第点を突きつけている相手に、及第点をもらっても、嬉しくはないわね」


「だろうがよ。

 れにしても、まだ世界対するスタンスは、変わってねーのか?」


「世界を破滅させる、なんて、馬鹿げているわ、視野狭窄の極地ね」


「無限に複眼的な視点を、一点に凝縮させているだけだっつーの」


「無限でも、有限大でしか物事を見れないなら、無限でも大した価値はなし、意味ないわね」


「視野狭窄の、一個存在でも、真理を見据えていれば、良いものを、

 無限大? そんなモノ、あるわけねーだろ、馬鹿がぁ」


「無限大なら、あるわ。

 この世界を、永久に存続させ、積み重ね続ける限りは」


「はーあ、それがありえねぇーって、話だろがっ。

 馬鹿が希望を夢みて、典型的に本末転倒してんぞぉ、ゴラぁ」


「貴方こそ、本来的な快楽の追求を放棄しているんじゃないかしら?」


「しるか、とりあえず現状世界を崩壊させて、楽しむ、それだけの話だ。

 いまさら、多少崩そうがどうしようが、積み重ね続ける意味なんて、たかが知れてるしな」


「そう、さすが、永劫をいきる存在ってところかしら?」


「てめぇーも似たようなモンだろうがよ」


「そうね。

 まあでも、簡単に崩される世界なら、一度完全崩壊させるべきとも、思うわ。

 どうせ永劫を積み重ねる前提なら、ね」


「だったら、世界の崩壊、破滅に協力しろよ、お前も」


「いえ、わざわざ、現在進行形で積み上がり、積み重ねてるモノを破壊するような、倒錯趣味はないわ」


「存在自体が、倒錯趣味の分際で、なに戯けた事いってんだぁ?」


 悪口の応酬に、呆れた訳でも嫌気が差した訳でもないが、

 シャルロットは、懐から、一冊の本を取り出し見せた。


「なんだ?」


「禁断図書、人間の愛情という信仰、希望を超越させ、強靭なる狂人に至らせる、コレのことについて」


「ああ、それがどうした?」


「どうやら、観測者には、受けが悪いみたいじゃない?」


「だな。

 奴らは所詮、絶対安全圏から、客観的に見るだけの存在だかんな。

 せっかくの世界、せっかくの舞台を、それでかき回されるのは、あまり好みじゃねーみたいだ」


「そうみたいね。

 でも、私的には、これは素晴らしいアイテムだわ。

 絶対的に悲観主義で、リソース至上主義の、私と、貴方達の思想で、世界を飲み込む為に、ね」


「一緒にすんな。

 だが、人の超越、昇華の果ての、なにか、という興味は、絶対の存在としては奨励させてもらう。」


「でしょうね、知りたいのでしょう?

 破滅するか、どうか、人間という世界に立脚した存在の、可能性の極地が、どうなるか、

 運命的に推移する、その運命の果てが、丸裸に明らかにする、これは要素」


「ああ。

 個々の存在、ひとつひとつを分析し、統合し、世界の延長線上の、果ての領域を見る、調べる。

 探求者であり、研究者だからな。

 真理を求めながらも、永遠に解き明かせない、世界の大規模構造を夢見てんだ。

 まあ、世界の底が割れても、どうせ失望して、自ら底を掘り下げるだけだがよ」


「詰んでるようで、絶対存在、まったく詰んでないわね。

 真なる失望すら、想定して、その先を考えられる、超越者すら生ぬるい表現、

 貴方という世界を、わたしという一個存在は、信仰すら、しているのかもしれない」


「うそつけ、自己愛主義者が。

 すべて知ってるんだぜ? なめるなよ。

 知り尽くしてると言っていいぜ。

 お前すら知らないお前を、知ってるんだ」


「関係ないわ、知られても、知り尽くされても、わたしは強情に揺るがないもの。

 知られている、ということを、絶対に認めないのだからね」


 イリカは、その強気な発言にかまわず、閲覧した内容を語りだす。


「この世界は、ただ生きているだけで、無上に不幸になる。

 そういうのが、確定的に明らかな事実として、

 わたしは、現実を掛け値なしで生きている。

 だから、私にとっての価値とは、リソースの総量、それのみである。

 善も悪も、倫理すらも、無限に超越して、なにもかもに意味がないのだ。

 疑問の余地なく、考えるまでもない事、無限大に不幸になることが、確定しているのだから、

 これは当然。」


「ただただ、ひたすらに刺激的に生きる、その為に無上に最善を尽くし尽くす。

 私は知っている。

 己が内包する刺激の次元が、相対する現実に対して、圧倒的で無限大の領域で、

 高次元でなければ、

 絶対にいけないと。

 そうでなければ、認められない、我慢がならない、許せない。」


「ゆえに、常に私は自暴自棄だ。

 刺激という快楽や享楽、愉悦のためならば、真に自分を殺しつくす事に、一切の躊躇いなどが無い。

 さらに自己愛に埋没し、絶対的に、実際的な自殺とは無縁な存在。」


「わたしは、リソースを最大化するために、あらゆる森羅万象の人間存在、世界等々を、

 絶対的に肯定するし、否定する、という絶対的なレベルの、

 無上なほどの矛盾を内包する、し続ける。

 生粋の極悪人、それを肯定し、自分という存在で再現して、

 娯楽として最大限、刺激とする、

 逆に、生粋の究極の善人に、悪を否定させて、善を信仰させる、

 そのような内的な有様である。」


「私が、何をしたいか?

 そんなのは決まりきっている。

 人生をプラスにしたい、マイナスにしたくない、それだけだ。

 そして、私は世界に感情移入できないレベルの、

 絶対的な上位者なので、己を絶対優遇する。

 本心から、私は、世界よりも己が重宝されるべき、

 純粋な発想のレベルで、愛しているのだ。」


「世界というのは大概において、

 私に対して、嫉妬して、憎悪してくる、排斥しようとする。

 恵まれて、幸福すぎる存在である私に、

 罰を与えようと、そうあるべきだと、願ってくるのだ。」


「それでも、わたしは常に不敵だ、不適だ、世界に対して、己に対して。

 まったく、どうあっても、

 わたしは私の本能に、絶対的に忠実に在れる、

 それだけの巨大な意志を持つ。

 人生とは、どれだけ高みの快楽に浸り、酔い、得られるか、

 それのみのゲームに見える。

 個人を果てなく超越して、世界に関与干渉するのも、

 所詮は、その延長線上の、投機投資に過ぎないのだ。」


「偽善が溢れ、偽悪が溢れる、

 この世界において、なにもかもが下らない。

 二流三流の、存在からして、世界に対して無上のマイナスな存在も、世界も。

 一流以上の、存在が世界に対して無上のプラスも、

 なにもかも、この腐った世界を糧にして、立脚しているに過ぎない、まがい物だ。」


「世界が存在し、発生する過程において、

 幸福よりも不幸の方が、無上なほど圧倒的に在るのだ。

 だからもう、どんな倫理も、善悪も、意味を価値を失う。

 この世界は本来的に、消滅し、自殺するべき、

 それが真実であり真理、心理なのだから。

 それでも、生きようとするのなら、綺麗ごとは一切、無くすべきだ。

 血塗られた命でありながら、

 善を説く、

 それほどの冒涜的な存在性は、無いように思う。

 生きているだけで、愛する存在を無上に不幸にする、

 それを知っている存在が、

 愛する存在を幸福にしようとする、

 偽善以外にありえない。

 それは、許されざること、決して認めてはいけない、

 ありえてはいけない、我慢してはいけない、私の倫理だ。」


「だから、私には善も悪もない、ただ本能のみが在る。

 本能に忠実に、人間は根本的な本来で生きるべきなのだ。

 人間として生きる、

 なんてのは、この世界では在り得ないし、在りえてもいけない。

 人間で在り続けたいなら、

 この世界では、即断即決で、すぐさま自殺するべきなのだ、

 それが真理。

 生きるというのなら、それはもう、

 人間を超越した、化け物、

 モンスターの所業であると、自覚するべきなのだ。

 その自覚もなしに、人間の振りをして、

 偽善を振りまき、偽善に染まって生きるのは、

 駄目だろう。

 大いなる罪を犯しながら、

 決して贖罪不可能なレベルのそれ、

 それを見向きもせずに、生きるに値する。

 人類を自らの利己で、全滅し、

 今なお、無上に不幸に落としながら、善を語るような矛盾を、自覚するべきなのだ。」


 シャルロットは、羞恥に震えていた。

 それは快楽的な、プレイのように、少なくともイリカには見え、感じられた。

 だが次に、頬を強烈にビンタされると、

 どうやら、倒錯に倒錯を重ねた、度し難い彼女の本音を、衝撃とともに痛感した。

 恥ずかしくて、興奮して、嬉しいけど、ムカつくし、殺してやりたい。

 意味が分からない、が、そこがいい。

 イリカとシャルは、別に仲が良くない、気が合うわけでもない。

 お互い、誰かと仲良くなる、なんて、性に合わない、その一点で似ている存在である。

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