ローゼクラウンソフト‐粗製乱造されるゲーム創作秘話☆
ある世界の宇宙時間的に深夜も回ろうか。
そんな深夜も過ぎ行く時刻でも、活気を一切失わない人種は存在する。
ディスプレイ越しに、各々の趣味を語る彼女達は、とても楽しそうではある。
しかしどこか目は虚ろ、多少の睡魔は回っているようだ。
「そうなのよ、あの絶妙に均衡の取れた戦力バランス!
再現し、更に放置しても史実通りには進まず、奇跡的采配でのみクリアできる様にする!
でもクリアできるかどうかは知らない!
そもそもクリアを前提に作ること自体間違ってるのよ!
そんなんで!実際の絶望に塗れた戦場を再現できると思ってるのぉ!!」
バン!と何かを叩く音。
彼女の名はローゼ。
そろそろ妙齢に差し掛かりそうな、だが見た目的には全く瑞々しさを欠片も失わない。
若干風格がただよりはじめた今日この頃だ、年齢の話は禁句である。
その女性は今、酒でも呷っているかの様な啖呵で、嘆くように叫ぶのだった。
「うんうん、わかるわかるぅ!
絶対的絶望を再現するのに、初めからクリアする抜け道を想定して作るのって難しいよね♪」
明るく弾むような、声優さんが演技でもしていない限り、まるで初々しい中学生が喋っているかのような、幼くも覇気に富んだソプラノの美声。
それでも生物学的になんら問題ない、立派な成人女性なのだ、所謂子供っぽい大人と分類できるであろう。
そんな見た目的には少女だか大人だか分からない、クラリスという女性は今、
現在目の前の、画面越しの女性の悲嘆を聞き、感じるところの全てはもちろん理解してあげられないが、その艱難辛苦を、多少なりとも理解し、なお且つ実感として知っているつもりなので、
若干軽いノリながらも、実感を伴った声で同意しているのだった。
「確かにそうですねー、作り込むのにも限界や限度がありますし、どこかで妥協しなくてはならないのは、職人としては認めがたいのかもしれません」
こちらの女性は多少、見た目や態度でも全く示さないが、内心すこしだけ、ホンのちょっとだけ辟易しなくもない、微妙な心境でこの会議(?)に参加する。
対彼女達に関しては苦労することの多い、なんだかそういうポジションに最近なりつつある、ラウディア。
こちらはクラリスとほぼ同年代なのに、なんだかやつれた老女のよう、それはこの場における限定の話なのであろうか。
だがしかし、この中では一番鋭利で知的で、更に真面目な印象という、不安定な人間関係の上で、今のこの場のみの、アンバランスなキャラクターなのか(?)真相は計り知れない。
「妥協なんてし尽くしてるのよ!その上で絶対に引けない一線を!どうしようかって話してるのよ!ラウ!あなた私の話を聞いてましたか?!」
と、長い黒茶髪を暴れさせながら激昂するように諭すという、高度なテクニックを使い、鋭い切れ長の睫毛の、黒曜石の瞳を画面越しにぶつけてくる。
「っ!?ごっごめんなさい、すこし、もうすこし注意して聴くことにいたします!」
ローゼの発言に、露骨に怯えたような過剰な反応で返す、
ロングの青髪が揺れに揺れ、青目も微妙に揺れている、
透き通った美貌も心情を反映してか、心なしか心許ない、全体的に頼りない感じになってしまっている。
「まあまあ♪そこまで言わなくてもいいんじゃないかなぁ!
ラウちゃんも肩筋張って聞かなくても良いんだよ?楽しく時折つっ込んでくれればいいのだよ!」
さすがいつでも楽しくがモットーの彼女らしい、
その場の空気を一切気にせず、気遣いすぎのないフォローを入れて、場を和やかにさせる。
そんな彼女は見た目も実際和やかで、金髪碧眼というハンデを背負いながらも、全く親しみ易さがなくならない、
柔和で自愛に満ちた微笑を浮かべている。
なお顔つきも欧米人的なモノと言うより、どこか日本人よりだ、
また彼女はある遺伝的形質により瞳の色だけ深緑色だったりして、実はかなり様々な意味でのハーフな血統だったりする。
「まあ、そうね、多少言い過ぎたところも、無きにしも非ず、と言えば、なかった事になるわけでもなし、忘れなさいな」
「はい、出来る限り善処します、、」
「っま、まあ一件落着ってことでぇ!
さっきの話の続きだけど、
史実どおりに作ると、本当に無理難題の戦況を想定して、文字通り歴史的奇跡をゲーム内で再現しないと、クリアできなくなるって問題だけど、
あれはね~、どうすればいいんだろうね?
いっそ難易度を多段階に設定して、史実モードでのみ、現役将校の上位何百人かが、確実にクリアできる難易度にするとかってどう?
一般の人はそれを見て楽しむ形にする、クリア動画とか、上手くいけば面白くなると思うんだけどぉー」
「それ!採用だわ!
つまりこういうことよね!?
わたしがクリアできるレベルだったら、ゲームとしては認定される!
もう鬼畜とか謂われない中傷はご免だわぁ!
私がクリアできるって事が何よりの免罪符よね!そうよね!ね!」
「はい!私もそう思いますっ、
製作者がクリアできる事が、何よりもの基準になると、恐れながら具申させていただきます」
「うんうん♪よかったよかった、、、。
でもそれだと、本当に現役将校の、、更に難易度が上がって上位数人くらいしか、確実にはクリアできなくなるよ?」
「、、、いいの、いいんだからぁ!
私が作るゲームなんだからわ・た・しっが!基準でしょうが!
私が一番楽しめるゲームを私が作る、それの何がいけないって言うの!誰よりもゲームを上手く動かせるのは私なのよ!」
「うーん、それもいいんだけどね、
実際わたしなんかはその鬼畜難易度、
だけど奇跡的天才的手腕でクリアできる、
極限までバランスの取れたゲームに惚れ込んでる性質だから、あまりそれ自体変えたくないんだけどね、
でもだよ?全編そういう形にしようとしたら、販売するソフトとして成り立たないんだよ?
売り上げが出なければスポンサーも撤退するし、そうしたら今でも市販ゲームソフトとしては、常軌を逸した膨大な制作費を誇ってるのにどうにもならなくなるよ?
クオリティーを下げるなんて論外だろうし、ゲームを彩るCGや細部を詰めるプログラマー、他にも超一流声優や楽曲製作陣の協力、その他もろもろ、
全部お金がないと成り立たないよ?」
「うぅっぅ、
それくらい重々承知しているわ、
でも駄目なのよ!それじゃぁ!
この宇宙の歴史に一生残るような、どの時代にも等しく評価される物は何か知ってる?
それはその当時の歴史を再現した創作物よ!?
私は私のゲームがまさにその歴史の生き証人に等しい、
まさに時代を後世に焼き移し再現させる装置にしたいの、、、
でも駄目なのかもしれないわね、
こういうことばっかり考えて、今の人たちをないがしろにしちゃ、
やっぱりエンターテイメント、娯楽を語る上で、万人に共通した価値を提供することが絶対の正義、
私のやり方じゃ、今の人たちはおろか、後世の人達にも自己満足でゲームを作り、莫大な予算を棒に振った愚か者として、歴史の影で嘲笑われるのが落ちね」
「そんなことは、、
そんなことは絶対にないです!!
貴方のしている事に一切の間違いも誤認もありえはしないんです!
、、だってそうなんですから!
貴方は誰よりも感情を震わせることができる!そんな人が出した答えが、本質として人間的に間違っているはずがない!
いいんです!誰に何を言われようと!、
貴方が出した答えならみな同意するでしょう、少なくとも私はそう思いますし、きっとユーザーも分かってくれると思います!
資本主義がなんですか!
常に正しい働きをしない事くらい、今の時代なら既に一般大衆すら周知するところ、
もし本当に貴方がしたい事を、その社会のシステムが妨害するなら、そんなシステムの方が間違っている、
少なくても私はそう確信します、
そして私は貴方に持てる全ての力を貸すでしょう、
できる限り成功に近づけるための善処はなんだってします、だから、、どうか信念を貫き通してください、貴方が諦めては、貴方の元に集うもの達全てが、道を閉ざされたも同じなのですよ?」
「、、、どうやら、
瞳が曇っていたようね、そう、基本的で本質的で根本的なところを見ていなかったようよ」
「それは一体どういうことなのかなぁ♪」
「私のやることは全て上手く行くという確信よ!、
誰よりも優秀で誰よりも正しい行いをするんですもの!
誰に恥じる必要も遠慮する必要もあるかって話よ!
うふふ、そうよ、あれとあれをああやって、そうすれば、、、
ほら簡単、使える手を全て使えば簡単じゃない、、、
公共の福祉のためなら、大抵のことは許されるんだから、、、、ぶつぶつぶつ、、、」
「あはは、変なスイッチ入れちゃったみたいだね!♪」
「、、、、、うんそうですよ、いいんですよ、、、あまりに取り返しのつかない無茶な事態にだけならなければ、、、、、」
そうして今日も、初めから、おそらくは決まっていた一人の女性の結論を、周囲の面々が後押しするだけの、あんまり生産性があるのかないのか、甚だ疑問が尽きない、
文字通り押し問答にしかならない会話、おそらくこれからも、深夜の誰もが聞き耳立てられぬこの時間帯に、定期的に行われるのであろう。




