SFネット小説神話伝説譚‐何かの因縁話
ネットの最奥の底に、そのサイトはある。
現存、掛け値なしに最高レベルの娯楽小説が、そこには掲載されている。
内容はスペースファンタジー。
物語の舞台は、光速の壁を突破して、移住圏を全宇宙に拡大した世界。
概要は、そこで巻き起こる、壮絶で凄惨、涙も枯れ果てるような戦役の時代を生きる、少年少女とその周りの人間達の成長とドラマである。
現在、本編は13部まで更新されている。
全17部が予定されており、プロットは既に完成している、と公表されてもいる。
現に、作中世界の架空歴史年表等々、幅広い意味での設定資料は、事細かにサイト内で閲覧することもできる。
文書量は13部の本編だけで、文庫本260冊分である。
さらに、キャラクターや、作中世界の様々な、戦争・経済・社会・学園生活・過去・IF・未来等々を描いた、外編・外伝等々も存在する。
それは(無駄に多いので)全890部が(大幅に変更の可能性大とされている)予定されており、現在560部まで完成している。
付け加えると、物語世界における、事象・現象・存在・世界等々の一般に公開されている設定資料集は、上記文章量の十倍以上である。
これらは分量はもちろん、内容も様々な意味で、相対的に絶対的に超一流の内容である。
この、全てからして規格外のようなその、ネット小説あるいはサイトは、ある意味での”現代の神話”と呼ばれている。
そして、それらの実態は、およそ総勢十数人、ネット上での創作者達による合作だったりする。
目的は、”一生を尽くし掛かっても味わいつくせない、読みつくせない物語の創造”。
または、”世界の至高位存在たちが退屈して、破滅・破綻・崩壊的な娯楽に走らないようにする為の、深遠なる娯楽の創造”とかである。
俺は、その小説の敬虔で熱心な信者である。
さらに言えば、設定資料を創作する、準創作者の一人でもあったりする。
今目の前には、本編を執筆することができる、類稀な能力と権力を有する存在が、偶然でなくいたりもするわけだが。
「おいシャル、早く続き書けよ」
「いや、最近書いてても、面白くなくなってきたから、スランプってやつぅ?」
俺が死ぬほど望んでる事柄に対して、本人は酷くどうでも良さそうに言う。
ムカつくが、それよりも今は、目の前のコイツのショーツ一枚のあられもない脚線美と、薄地のネグリジェに浮かぶ胸の膨らみを凝視しておこうか。
まったく、なんてソソル身体してやがる、けしからん。
グラマラスな体系というわけではない、が、細身ながら付くべき所にはしっかり肉がつき、黄金のような比率で絶対に比する美を体現しているのだ。
俺は、自分を自分で卑下しない程度には、人間としての格が高い自覚がある。
しかし、これほどの圧倒的で絶対的な”美少女”という存在に、勝てているかどうか、、。
俺は率直に、彼女、シャルに負けたくない。
俺を負かしていいのは、俺の信奉する小説だけだ、それ以外の一切の事象に平伏するつもりはない。
だから、、、どうするのか?
余りにも可愛くて、綺麗で、美しくて、どうしようもない、はっきりとそう言ってしまえる。
目に映るだけで、胸が一杯になって、ドキドキして張り裂けそうで、あるのだ。
俺は俺の認めた、許した、それ以外の彼女、シャルという存在を絶対に否定する、例え何がなんでも、あっても。
いまこの瞬間も、俺の絶対に譲れないアイデンティティ、それと他にも絶対死守するべき何かを圧し折っている。
絶対に耐え難いほどの劣等感、コンプレックスや羞恥心が湧き上がり、内心で爆発しながら、常時俺を責め立てるようにあるのだ。
「うん?」
今も、横目で彼女がチラッとこちらを見てきた、ただそれだけで、ときめきが大変だ。
そして言葉で攻められたら、俺はどうしようもないだろう。
なにせ、あの物語を創作する人物なのだ、その言葉は俺を衝天させるほどのモノでも、なんら不思議はない。
だが、俺は認めないのだ。
俺は彼女と物語を完全に分離し、分けて考えている。
彼女は物語を創造する再現装置で、信仰の対象ではない。
信仰する神と、聖書を創作した人物とをイコールで結ばないような、そんなモノなのだろう。
とにかく、俺は絶対に彼女に屈しない、俺の信愛する物語に誓って絶対にだ。




