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ディアーとレイル‐イルミナード宇宙の合間に閃く、悠久なる永久★▲

 

  

 大気を揺らす、震える旋律を感じる。


 同時に、降り注ぐ日差しにも、何かしらの反応を計測した。

 星の光も、微細ながら、追いかける。


 輪廻がずっと回り続けている。

 世界がただ在る事を、私は限りなく肥大化された生の感触で実感し、生きている事を感動的に確信していた。


「何をしているの?」


「アロマテラピー的な、なにか」


 振り返ると、そこには茶髪の麗人がいた。


挿絵(By みてみん)


 特殊な手法で意識を拡張し、世界に対する感応力を高めていたので、ずっと前から接近には気づいていたけれどもね


 そして、鋭敏になって敏感な、私の全観測機で、改めて捉えた彼女は、やはり何時にも増して、酷く新鮮に素晴らしく思えた。


「ディア、貴方は今まで、どれだけの不幸を積み重ねてきたの?」


 私が真に感じる根源的な美しさは、どれほど陰を抱えているかで決定されていると思う。

 つまり、今までどれだけ苦しみ、不幸だったかに由来する、ある意味、醜さと表裏一体に近く、紙一重の真成る魅力だ。


「詮方無きこと、不幸と幸福の総量は、長期的には必ず均衡する、人間とは、そういうものだ」


「でしょうね。

 でも、だからこそ、膨大な不幸を抱えた存在は、長期的に必ず膨大な幸福を掴み取る。

 たとえ仮に、掴み取れなくても、掴み取ろうと、抱えた不幸の総量の分だけ、必然的に、絶対に頑張れる」


「人間性の真理だな、だが、逆に考えてみて、膨大な幸福を抱える存在は、果たして、どのように生きるのだろうか?」


「私のように、生きるんじゃない?」


 彼女は、ウインクする私を、ハッとしたように見て、口の端を笑みに歪めて。


「で、あろうな」


 私の顔を挑戦的に見て、そのように答えた。



「さて、敵もさるもの、最終決戦に、集まる艦隊、艦艇群は、私たちの予測よりも、遥かに多いわ」


 幾つも映し出される図表、その中でも中央の一際大きい、今回の敵味方の予想艦隊決戦時の初期配置図を、指揮杖で指し示しながら言う。


「十倍以上、、、これは、どのように見たものか、、、」


 沈痛な面持ちで、総軍の総参謀長を務める、まだ若輩ながら、類稀に過ぎる才覚を所持する金髪の少女は呟く。


「リディ、この期に及んで、そのような推察は、無用であろう。

 とにかく、今は、この絶対的窮地、危機をとりあえず乗り越えること、それだけを考えるべきであろう?

 どのみち、此処を乗り越えやり過ごせねば、その謎を解く意味も薄弱であろうし」


 ディアが、ただ当然の事実を告げるように言った。

 ソレに対して、リディは深い溜息を付いてから、疲れているような調子で言う。


「わかっている、わかっているが、不可思議に感じてしまうのは、よもや反射の域なのだ。

 知生体の好奇心は、どうやっても抑えがたい本能に類するもの、であろうしさ」


「本能か、確かに。

 だが、その本能を、今回は別の事象に向けてくれると良い。

 闘争でも勉学でも何でも、磨きに磨きぬいたソナタの事だ、今回の難事も、その絶対の力とも言える、見える本能での、解決を期待する」


「ディア、貴方も、もちろん一緒に考え協力するの、ちゃんとわかっているわね?」


 一応確認の念押しをしておく、よもや、はなから諦めているとは思っていないが、多少彼女の今の語り口には不安を覚える。


「当然だな、私は常に私の最善を尽くす。

 そして、その最善とは、この場で、ディアとリディにもひけを取らないモノだと、自負している」


「ならば良し。

 だったら、みんなで、この、現在不可能ごととも言える、我々総体の、致命的な危機を、絶対に回避できる、宇宙に浮かぶ針の穴に、地球から精密に精確に糸を通すような、絶対難事を、どうにかこうにか、する方法を考えましょう」


 どう見ても、絶望的な事態、その有様を明確にあらわす図表をテンテンタップしながら、もう一度似たような事を言う。


「だがしかし」


 リディが図表を見ながら、何かを語りだす前段階、動作のように重々しくそれだけ言う。


「見れば見るほど、不可能である、という確信が強くなる、一方なわけだが、お二方はどうかな?」


 私とディアを、交互に一回づつ見て、独り言のような単調さで、そのように感想する。

 その後はまた、注意深く図表全体を凝視する作業に戻った。


 私はそんな台詞に、何を上手い何か返そうか、考えている内に、ディアの方が先に口を開いた。   


「不可能、、か。

 だがリディ、お前は、そんなこの世に数多溢れる、不可能と呼ばれる事象や現象や存在を、打ち破るためだけに、今まで天才をやってきたのだろう?

 まさか、今回の不可能に対する、対抗策を用意できていませんでした、なんて、言うつもりでは、なかろうな?」


 何か、二人の間だけに存在し、通じるような類の、因縁めいた、ディアの語り調だと、私は感じた。


「なんか、、何時にも増して、君は手厳しいね、まあ私に対しては、それが常だったかな、忘れてしまったよ。

 で、答えだけど、、、。

 正直言って、こんな事態は、こんな難易度の高い、言ってしまえば、駆け引きも交渉も、戦術や戦略の介入する余地が少ないと、私が感じる、不可能的事態は、想像していなかった、ってのが、そうだよ、私の限界だったよ」


 リディが、今まで、一度も見た事がないほど、苦々しい顔をして言った。


「そうか、使えないな」


 挑発するように、吐き捨て、道端に唾棄するような声色で、ディアがリディを見下すような格好で、そんな事を言った。


「使えない、、、だと? この、わたしを?」


「そうだ、使えん。

 お前は、こういう事態の為だけに、むしろ、今、この時の運命を左右する為だけに、特化したような生き方をしてきた癖に、だ。

 お前がお前で、今まで在り、在り続けて、世界に居ただけで、どれほどの幸運を、莫大に消費したと思っているのだ?

 もし、今回の危機で、多少なりともお前が活かされなければ、全てが浪費だったと確定されるのだよ」


「好き放題、言ってくれるね、ふっふ、何が目的だい? 私を、やる気にさせてくれてるのかな? だったら歓迎だよ、続けて、、、いいよ」


 余裕を装っているが、リディの唇は限界まで震えていた、目は密かに充血して、内心は火山の如く流麗しているのが分かった。

 普段から、氷のような、絶対零度の理性で、溢れ出る激情を完璧に抑えつくすリディの、こんな様は滅多に見れないレアなものだ。


「日々、お前は自己を天才だ天才だと言い、跳ねっ返りの餓鬼のようだと、私は思っていたと、ここに告白しよう」


 ディアは壁際にもたれ立って、図表を眺めていた訳だが、ふと背を離し、リディの方にツカツカ、ゆっくりと歩む。


「それで、だ、私も散々、お前にこれ見よがしに、そういうアレコレに、今まですき放題されて、被爆していたんだ、いたわけだが、、、」


 自己の背に完全に立った、ディアに当然ながらリディは気づいたようで、後ろを見上げるようにする。  

 私からは、キツイ眼光でリディを見下す、ディアの姿があり、対抗するように、リディもキッと理性的に相手を見上げていた。


「まったく天才とは、名ばかりだな、状況を左右できないのだ、今のお前は、そこらの凡俗、凡百の無能と、変わりないように見える」


「ああ、そう。

 それで、貴方は、私に、何を求めているのか?

 どうせ、期待しているんでしょう? だから、煽るような事を言う、なにか間違いでも?」


「分かっているではないか、そうだ、その通りだ、存分に励め」


 不躾に、頭をくしゃっとやって、リディは我慢するように変な顔をして、やめろと言いつつ睨むだけだった。


「なんか、和むってか、微笑ましい光景をありがとう」


 適当に言いつつ、二人の戯れを眺める私は、仕切りなおすつもりで言う。


「それで、実際問題、どうにかできそう? 率直な意見、回答を求めるわ」


 自然と縋るような声と目を向けてしまう、しまった、自分自身に対して、そんな客観的な自覚があった。


「三分の一程度なら、なんとかできそうな、そんな曖昧な算段なら、ギリギリ、立てられると言っておく」


 リディが、むすっとした感じで言う。


「私もだ、三分の一なら、その程度は、なんとしても達成したいと思える、それだけは提示しておこう」


「役立たずが」


「なんだとぉ?」


「役立たずがって、言ったんだよ、面白くないとも、同時に言ったっと解釈していいよ。

 お前は、私と比較してだが、使えない奴みたいだ」


「こらこら、喧嘩しないの」


「喧嘩ではない、ただの挑発だ。

 ときに、闘争競争本能を刺激するのは、良いという、わたし私見の傾向法則がある」


「似てて同じような事でしょう、それ。 挑発系女子ね、あなた」


「毒舌評論家と、言ってくれて構わない」


「言わないわよ、別に、誰彼構わず、TPOも弁えず、毒を撒き散らすわけじゃないでしょう」


「そうだね、私は私の見込んだ相手にしか、毒も吐かなければ、無為な挑発もしない」


 リディは座ったまま、ディアの方を見て言った。


「いま、無為な挑発と言わなかったか?」


「それが、なにか?」


「無為とは、どういう事だ? 思慮や思惑がないのか?」


「当然あるよ、言葉上で、無為な挑発って言う挑発だから、そこら辺は気にしないで」


 お互いが剣呑で殺伐、私からは好き者にしか見えないが、そんな遣り取りを、まだまだ続けたいみたいに見える。


「それでだけど。

 二人が三分の二を担当してくれるなら、多少なりとも気が楽になるわね」


「そうだね、それは私も同じだよ」


「ああ、そうだとも、死力を尽くすしか、あるまい」


 私達は、その後も、”そのように”話し続けた。

 時間はだいぶ過分にあるから、恐らく、戦意を高揚させる為に、今回は集まったと言ってもよかった、それが今日の会合だった。

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