蒼の戦乙女編‐ノーデッド&ノーライフ
エピソード‐第零話-プロローグエピローグ
無限に等しく破綻して破滅的に荒廃した崩壊世界でしか、
自らの命の危機によってでしか、
わたしは真の生を実感できない、できなかっただろうと、今思う。
第一話‐血鼠塗れの超絶美女と黄金に薄汚れた男
本当に苦しい時に優しくされると、本当に嬉しい。
これは、追い詰められればられる程、嬉しさの次元も天上知らずで上がるのだろう。
だから、こういう世界で生きるのも、ある意味、悪くないのかもしれないって、ちょっとだけ思った。
私にとっては、人生とは掛け値なしで、常在戦場状態だ、休まる時も、緊張を抜くこともままならない。
少なくとも、私はそのレベルで日々を生きている自覚がある。
個人的に、主観的には最高難度と思える、ギリギリすら生温い、常に余裕も余力もない、カツカツの戦闘を捌きまくって、今日まで奇跡的に生存している。
「クズが、死ねよ」
ザックリと、胸板にぶっ刺した長剣を引き抜き、”敵”に向かって唾を吐き捨てる。
荒れていた、ドウシヨウモナイホドニ。
頭が可笑しくなる。
自らの不運で不遇、ありとあらゆるモノに対する、恨みの念で壊れてしまいそうだ。
精神崩壊、発狂して狂人に、いっその事なってしまった方が、楽なのかもしれない。
でも、どうしても生に縛られる、死にたくない、そんな思いだけが、私をどこまでも理性的を突き詰めた行動に駆り立て、このように効率的な殲滅戦を演じ、遂に達成した。
ここは、背徳の都、ゾディアク。
誰も彼もが犯罪者、冗談でなくだ。
だからこそ、私のような人間に対する捜索や、情報の共有も組織的に行われないとか、考えが浅かったな、クソ。
私は常に、世界に対して狙われる対象だ、この身に宿った呪わしき運命により。
セルフィッシュと呼ばれる種族なのだ。
これは一言で言えば、純潔を奪ってあーだこーだすれば、略奪者に巨万の富を与えるとか、そういう事に生まれたときから成っていた、私にとっては当たり前の、だが認めがたい現実であり事実だ。
両親は死んだ、私を庇って死んだのだ、その後どうなったかは知らない、私だけが命からがら、その場から逃げ出したのだから。
おめおめと生き残り、意味すら何も感じられない、無駄な人生、余生とすら感じられる人生を生きる事に、なんの意味があるんだ。
眼に映る全てが恨めしい、全員奈落の底に、この手で落としてやりたい、そんな特大に醜いだけの感情が溢れ続ける。
でも、そんな好き放題を考え無しに行えば、直ぐに殺されるのは分かりきってる。
だから我慢、死ぬほど感情が暴風を醸し、我が身を焼き焦がしても、我慢せねばならない、、、。
己の命の危機は、やはりどんな時でも、私を最大限理性的にしてくれる、この感覚と感情だけが、ある意味救いだった。
自分がまだ、血の通った暖かい人間である事を、他の何にもまして実感できて、全身がゾクゾクするほどの快楽と共に知らせてくれるのだ。
ああ、血気と狂騒、血に飢えすぎて、そして狂気に犯されながらも、生存本能に最大限従う。
そんな理性的な戦闘狂、それこそが今の私、なのだろうと、なんとなく自覚を再認識した。
そんな、醜いだけの私、他人の為に何にもならない、害悪以外の何物でもない、そんな自分は認められない。
はあぁ、なんとか出来ないだろうか、脱却の方法は、心に余裕があり、且つ暇な時という、私にとって希少な状況下でしか考える事すらできない。
それ以外は鬱々と前向きな事は何も考えられないのだ、只管に堕落と怠惰の渦にあるのだから。
今日も今日とで、何か街中を巡り、何かないか、探している途中で、新たな刺客と出くわした。
だが今回は全員雑魚、前回の大殲滅で、尻尾を残したつもりはないから、これからはこんな手合い程度で楽ができそうだな。
運命のように巡る、私の剣筋が、敵の致命な箇所を分断、みるみる内に辺りが鮮血に塗れる。
ちなみに、この町は殺人など日常茶飯事、それも、私にとっては”魅力的な要素”なので、住む分にはプラスポイントである。
一応、死体を漁り、金目の物でもないかと漁る。
だが大して期待できない、こういう輩は常時金に困っているのは当然、ほら、何も持っていなかった。
ストレスを発散する為に、わざわざ亡骸を蹴り飛ばし、最大限の侮辱を、もう死んでいる相手にする。
それだけで、何となく胸がすいた。
優越感と、何か良く分からない、何に対してかも良く分からない、曖昧然とした感じだが、世界に対して勝ったみたいな?
そのような充実感が胸を満たし、それが悲しいほどに心地よい、それこそ涙が出てしまいそうになるほど、感動的に甘美的に、私を熱くさせてくれる。
ああ、本当にいい気分だ、これがなきゃ、わざわざ競争してまで、他人を蹴落としてまで、生きたいとは思わないだろう。
この瞬間、私は相手の全てを奪い、その運命全てを私のモノにしたのだ、歪な征服欲、支配欲だろうか。
ちなみに罪悪感は薄い、楽しむのを邪魔する、その要素は、相手からの挑戦という前提条件によって、私の中で亡き物にされる、もちろん完全ではないけど。
そんな自分に、また最大限の嫌悪感とかを持ちつつ、かなり意図的に色々なことを思考、高速で感情を増大、増幅させ続ける。
このように、ありとあらゆる事に最大限の感情を向けて、少しでも生きる活力に変換するのだ、娯楽にも似た作業である。
そんな風に、人間らしい精神を意図的に破綻させ、邪道と異能に堕ちて、何でもやらなければ、どうしても生きられないのだから、しかたない。
いや別に生きられるかもしれないが、ただ生きるだけでは、絶対にココまで生きてこれなかった、どこかで必ず死んでいた。
私にとって必要なのは、常に最善を100%尽くす事、それ以外では、精神が異常活性化しない、継続的に強化された自己の全てを保てない、私の力を延命させる事ができないのだ。
だってそうであろう、100%を全力全開、最善最良、最適を突き詰めたのに、己が死ぬなんて、絶対に認められない、だから、力が無上に無限に沸くような、そのような活力の根源が、この方法でだけ手に入るのだ。
現状の話に戻る、お金がない。
そう、生きる為の金銭がないのだ。
いつもは、私を襲いに来る輩から、それらを得られるのだが、生憎それら不確定、ランダムで得られる乱数の引きが悪かったらしい、もう既に一文無しに近い状況である。
悪い事をすれば、金など容易く手に入るが、、、私はしたくない、そういう汚らわしい事を、しかも自分からは、絶対に嫌だ。
なんとかして、生きるに最低限の方法で、容易く金銭を得る方法はないだろうか?
ギルドに入るのは難しいし、労働も同様に難しいし、、ああ、一体これからどうすれば、、、。
効率と効果性、安定性と、安定的な供給性を考慮して、良く良く考えて、出した答えがこれか、くだらない、本当に死んでしまいたい。
何もかも嫌になる、目に映る人々みんな、心底、根本的に嫌いになってしまうほど、世界に対して嫌悪感が溢れ出てきた。
「あ、あのぉ」
私が出した答えは、人の良さそう(この町での基準なので、相当に低レベルだ)な人間を見つけて、媚びて何かしら金銭を得る、それに尽きて収束した。
娼婦として、何事かする事はできない、別に生きる為に必要ならばするが、私は種族的に、それをするのはある意味致命なので、それは最終の最終手段とする事にしている。
だから、上手くこういう女を、性を売る方向性で行こう、行く事にした。
幸い、私は、というより、私の種族は見目が麗しい事が多く、私もその例に漏れていないように思う。
長身痩躯、結構鍛えているので、若干肩筋はしっかりしているが、十分に女性として理想的なプロポーションを保持している自負がある。
また、形質としても悪くないと思う。
大き過ぎないが、それなりに胸もあるし、長い青髪や、ルビー色の瞳も、綺麗だと個人的には思っていたりする。
ああ、声を掛けて、ちょっと緊張している自分に気づいた。
別に、この程度の事で心乱すような、そんな脆弱な人間であるつもりはない。
だが、声を掛けた主、その人によって、多少ばかり緊張が加速されたのだ。
選別の最中、もしかしたら、私は私好みの人を選んでいたのかも、とか今更ながら思う。
相手は、別に人相が良いわけではない、だが、私から見て、なんだか温かみのようなモノが感じられたのだ。
長身でガッシリとした体型、恐らく腰に剣を挿してる事から、戦士だという事が分かる、それも相当上位に来るレベルだ、私の仕合ってきた中での話。
そして、多少くすんでしまっているが、けぶるように輝きを放ち靡く金髪を携え、同じような黒耀の瞳を、何処へでもなく向けている姿。
正直、胸がキュンとならないと言えば、嘘になる、女性として、なんだか放っておけない男性なのである。
いやはや、これほど良い男が、平然と誰にも声を掛けられないのは、若干不自然、だがそれもしかたがない。
なぜなら、彼の纏う、なんというか危険な雰囲気、オーラとでも言うべきものは、立ち入るものを、即座に死に追いやるような、負の臭気に満ちているのだから。
でも、私は声を掛けた、なぜか?
彼は、私と同種なのだ、似たような存在だから、むしろそうじゃないと分からない、確信的なシンパシーが、彼には感じれたのだ。
「なんだ? おお、これはこれは」
声に気づき、というより、その前から気づいていただろう彼はこちらを向き、大袈裟にジェスチャーと共に声をあげる。
「あのですね、」
話を切り出そうとした矢先、彼が剣を抜いた。
その時、交差した瞳だけで、言葉なく意志が直接伝達されるような、確信的な疎通が行われた。
そして私の顔横を、駆け抜ける銀線。
迫っていた、恐らくは暗殺者が貫かれる音。
これには、実は先程から気づいていた、だがこの手の奴は身が軽い、騙まし討ちに近い形で、一撃で仕留められて良かった。
何日も警戒状態で、多少疲弊せずに済んで、ちょっとばかし助かった。
「物騒な客を連れたお嬢さんだな、、だが俺は好きだな、棘の無い花なぞ詰まらん」
「そうでしょう、貴方も恐らくは、同様の人なのでしょう」
そう言って、背中を向け合う。
どういう訳か知らないが、辺りを包囲されている、十数人、それも結構使える奴とみた。
先日、私が殲滅した仲間? か?、、、ではないようだ、微妙な差異を複合して、その結論に確信を持つ、つまりは彼の関係者だ。
「すまんが、俺の客だ、全員相当の使い手だ、見捨てて逃げてくれても構わん」
「いえ、先程のお礼です、付き合います、、、それに、、そんなには苦労はしないでしょう、、二人ならば」
「ふっふっ、そうだな、ならば即席のチームだが、頼りにする、純粋に半円、加えて適宜の対処を求む」
「ええ、了解しました、、来ます」
まずは切り込んできた敵、交差の一瞬、相手にとっては眼にも留まらない速度で、首を跳ね飛ばす。
相手の出方次第で、背中合わせから、縦横無尽に跳躍し散開したりと、敵を翻弄しながら戦闘を続ける。
死角を彼に任せることにより、安定的な戦闘が可能になる、ホント私にとっては心強い事この上ない。
仲間が居るのが心強い、わけではないだろう、他ならない強い彼が仲間だから、今までの何よりも心強いのだ。
殺戮が終わり、返り血で汚れたお互いを見やる。
彼は、そんな有り様でも気高く美しい。
ならば、もしかしたら自分も、なんて、愚かな考えが浮かんだ。
いつもの、私にとっては儀式とも言うべき、死体を辱める行為、したくないな、、、。
彼に良い眼で見られたい、ただただその一心で、私は我慢ができた。
だがしかし、その我慢はある意味無駄になった、彼自身が死体を辱めたからだ。
「どうした? こういう風にするのは、趣味ではないか?」
なんでもないように、聞いてくる。
彼は、恐らく分かっているのだろう、鬱屈した人間が、行うだろう行動を、私が我慢している事も。
それだけ醜い瞳をしているのだろうからな、私は。
「ふっはっ、趣味じゃ、なくなったんだよ」
「なぜだ? やれば良いではないか? はっはぁっ、存外やってみるとっ、案外心地よいものだぞ?」
死体を盛大に、肉が弾け飛ぶほどの威力で蹴り飛ばしながら告げてくる。
「貴方のお陰だ、私は、それよりも大きな感情を知ったんだ」
「ふん、そうか、だが飽きるだろう、時期にな、愛情よりも、憎悪の方が持ちが良いのだからな」
そう言って、死体から離れて、こちらに近寄ってくる。
「その見目、シルフィッシュだな」
「そうです、分かりますか?」
男は頷き、悲しげな瞳を向けてきた。
本来、同情など、殺意しか返せない、そういうのが根源的な性根の私だが、男のそれには、なぜか涙が溢れるくらいの、可笑しな感情、嬉しさみたいなモノが溢れてきた。
「ああ分かる、ただ分かるだけだがな」
「それだけで、なんで、うっくぅ、こんなに嬉しくなるのでしょうか?」
「知らん、自分で考えろ」
見っとも無く、今まで一度も壊れたことがない、そんな理性が、易々決壊してしまい、大粒の涙が溢れて、眼を拭っても拭っても溢れてくる。
ちくしょおぉ、なんでこんなに惨めなんだ、私は、言いようのない悔しさと怒りも、この感情を大きくする一因である。
自己の感情、今までの人生を、真に理解してもらう、辛ければ辛いほど、同情、シンパシーしてもらう事による効能、効果は大きいのだろう。
重荷を下せたわけではない、現状は何も変わってない。
でも、この今感じる痛みも苦しみも、何もかも、出来る限り、共有してくれる、共有したいと思ってくれる、そんな存在が傍にいる、それだけで、どれだけ救われるのだろうか、と、考えた。
ああ多分、彼の中で息づく、私の感情が、愛おしいとか、そういう自己保存的感情かどうか、そういう事なのだろうけど。
でもどうでもいい、私は最大限の理性と共に、最善を尽くすと決めた身、人間の醜さも美しさも、全て利用するだけだ、それで何も問題はないのだ。
もう全てがどうでもいいし、どうでもよくない、ただそれだけだ。
その中で彼だけが、特別で特異な地位につく、そういう例外がわたしの中で生まれた、そういう話なだけだろう。
「来るか? どうせそのつもりで、俺に声を掛けたのだろう?」
「いいのですか?」
「かまやしない、俺は綺麗なモノと、頼れる存在を傍に置かないほど、倒錯してないんでね」
これから、ちょっと何かがどうにか変わりそうだ、変わる為の、絶対の要素を、私は手に入れたのだから。




