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帝国のコロニー譚‐歪な愛の箱



「やあやあ、元気かい? レイル?」


「うっさい話しかけんなぁ、シャル! ダボハゼがぁ!」


 ここは退屈だ、ってより、人生って奴は、一瞬気を抜けば簡単に自殺してしまいたくなって、実際してしまう位には詰まらん。

 私という人間は常に、一瞬でも気を抜けば即死亡、そういう奴だという自覚がある。


「なんだよぉ、随分な言い草だね。

 友達の一人だっていない貴方に、せっかく話しかけてあげたのにさあ」


「おい聞けよシャル。

 こんな詰まらな過ぎる世界ではな、どんな時でも勝ち続け、超絶勝ち組じゃないと、生きている意味も価値も絶無に無いってな」


 そう、こうやって周りを攻撃して、憂さ晴らししないとやってられんな。


「はあ? そんなの当たり前じゃん、

 無限大の不幸が存在する以上、前提として、絶対的な力が無いのに、生きるって選択肢が無くなるってね」


「ああ、だったらてめえは、なんでアホらしくアホ面ひっさげて、生きてんだ?」


 特異能力、ただ単に異能力と呼ばれる、神速の動作で銃を抜く、もちろん標的は眼前の憎いのだ。


「きゃっはは、どうしたの? てかさ、その能力って、どう考えても釣り合わない代償だよね」


 訳知り顔、プラス拗ねたような、からかっているような微妙な声色。


「何度も何度も自殺を決意して、なぜかアンタはロシアンルーレットで拳銃自殺を試みた、

 だけど、その自殺はいつまで経っても遂行されない、

 おそらく、天文学的な偶然だったんだろうね」


「だからどうした、頭がイカレテいる過程、あるいは世界が歪みネジリ切れる、単なる異能発生の必然過程、だろ?」


 眼前の憎い形は、妙に嫉妬深く感じられるような、そういう瞳をしていた。


「アタシは羨ましいんだよ、あんたのような後天的に能力に覚醒した奴がね。

 うん、心底から羨ましい、本物の化け物に成って、開き直って世界を生きれるなら、どれほどの素晴らしさが手に入るんだろうね?」


「はあ? 俺様を化け物と認知しているなら、間違っていると訂正しといてやるよ」


「じゃあ、本人から聞かせて欲しいわね。

 アンタは、世界には絶対に存在しえない、運命を経たのよ。 

 でも、世界はそのような事実を認めない、

 およそ、知的生命体が不自然と感じる全て、世界の有るべき姿という、漠然としながらも確固として存在するイデオロギー、

 その絶対の秩序を維持する為に、あんたは化け物である必要があったんでしょうよ?」


 多少変な癖のついた肩口ほどの茶髪を自ら撫でつつ、つり目で見つめてくる。


「ありがとうよ、余計な節介だから、金輪際かかわるな」


「嫌だよ、にゃっはは、あたし天邪鬼だからね、毎日でも付きまとうよ」


「くそストーカーが、死にさらせよ、くたばれ」


 なんとなく辟易した気分になりつつ、足を組んで上を見上げる。

 金髪の女がいた。 


「あら、ばれてしまいましたか」


「おいコラ、リディ、気配も挨拶もなく、俺様の後ろに立つんじゃねぇ気持ち悪い」


「わたしく一流の芸ですわ、楽しんでいただけましてぇ?」


 意味不明な台詞の後、対面に移動する。


「にゃはあー、何時もの三人そろったねぇー」


「まったく、忌々しいな、なんでこんな奴ら程度しか、俺様の周りにはいないんだか、悲しくなるぜ」


「それは、わたくしの台詞でしてよ」


 三人が三人とも、お互いを敵視しているような、ようなじゃないが、剣呑で殺伐とした空気が漂う。


「わたくし、今ここで、即刻の間もおかず、お二人を殺せるのですけど、それについてどう思います?」


 沈黙を切り裂き、早速とばかりに毒を吐くリディ、その瞳には当たり前のように殺意、尋常じゃない女だ。


「にゃっははぁ、面白いねぇその事実は。

 だけど、実際問題、そんな事はできないんだし、なんの意味も無いよ」


「ああ、そうだな、むしろ能力パラメーターをそんな無駄なところに振ってる、己の無能を晒してる事に気づけよ」


「ふっふ、弱い犬ほどよく吠える、面白いほど型に嵌った典型例ですわね」


 奴、リディは歪に微笑む。

 己の力量を熟知しているからこそ、一面において優位に立っていると自覚して、気持ちよくなって善がってんだろ。


「おいてめぇー、いい気になってんじゃねぇーぞ、俺様よりも格段に無能なくせに、粋がってんじゃねぇーぞ」


「そうだね、私もそれには賛成。

 リディが一番、この中じゃ、純粋に馬鹿じゃん? にゃっはっはぁ!」


「弱者の戯言ですわね。

 ほとんど無意味な能力を過信して、尊大になっている、可愛そうなほど愚かなこと」


 二人で反撃されても、涼しい顔だ、こいつに一泡吹かせてやらねーとな。


「リディ、お前所詮は、自警団の幹部だろが、調子こいてると潰すぞ、いやなら、今すぐ俺様に跪けよ」


「にゃあ、そうだそうだ、私の統括する議会も黙ってないよぉー。

 謝るなら、今のうちかもぉ? にゃはぁ! もう手遅れかもしれないかもねぇ!」


 脅迫まがいの台詞に、さすがの奴も目を開いて睨み返して来る。


「ふっ、いい度胸ですね。

 ならば、わたしの全戦力をもって、全てを闇に始末するまでです」


 奴直属の暗殺部隊”ラーズグリーズ”、その命令端末の画面を見せ付けるようにして告げる。


「馬鹿がよ、本部にパイプを持つ、この俺様に逆らって、生き残れると思ってんのかよ、おめでたい奴だな」


「そんな暴力的で安直に過ぎる手段は、論外だよ、分かってるはずでしょう?

 何か他にはないの? ネタ切れなの?」


 リディは、ふぅ、と溜息を付いて、ふっと余裕の笑み。


「なんとでも言ってなさい、この場での主導権はわたくしのモノです。

 なぜなら、単純戦力で、命を握ってるのはわたくしなのですから」


 言葉共に、ひどく挑戦的な瞳を向けやがる。


「はぁ、まぬけが、だったら能力最強の俺様が一番だろうが」


「にゃっはっは、それって冗談? 面白くないね」


 隣の茶髪がふざけた事抜かす。


「ボケか? シャル、お前は宝の持ち腐れた、無能だろうが黙ってろ」


「黙るのはお前だよ、レイル、何時までもそんな態度でいると、痛い目みるよ?」


「はん、やってみろよ、俺様のお情けで生き残って、現在進行形で生き恥晒してる奴が、偉そうに言ってんなよ」


 視線で火花が散っている時空に、一人の少年がおずおずと近づいてきた。


「こんちには」


「「「死ね」」」


 全員の声がシンクロした。


「いきなりそれは、ないんじゃないかぁ、、、」


 弱気そうな、おろおろした声と表情で少年。


「よく言うぜ、この三股やろうが」


「あたしの純情弄んどいてぇ、よく言えるね」


「俗物が、、消えなさいな」


 私を含めた三人が、ぷいとソッポを向く。

 ちらっと少年を見ると、どうしようもない顔色で硬直していた。


「まあいい、か。

 それで、誰が一番好みなんだ? オスカー?」


「はぁ、、?」


「はぁじゃないだろが、さっさと本命決めろ、俺様にな、さもなければ死ね殺す」


 少年の歪む顔を、私はいじめっ子に酷似した、いやまんまな顔で見ている。


「ちょっと待ちなよ」


「あぁ?」


「そうですわ、話を自分の都合の良いように進ませないでくださいます?」


 まあ、当然この二人が邪魔してくるのは折込済みだ。


「彼の顔、よく見てみなよ。

 普通に困り顔、つまり迷惑がられてるの、レイル、君は予選落ちだよ」


「知るか、どうでもいい。

 俺様はただ欲望のまま、相手の意すら汲まずに無視して貪るだけだ」


「ひどい啖呵ですわ、度し難い、勝手気ままも大概にするべきです」


 そんな女三人の醜い争いを見かねたか、オスカーは諭すように言う。


「えっと、三人とも仲良くぅ、、、」


「無理だな」


 私はきっぱりと言う。


「この二人と俺様は、完全なる敵対関係だからな。

 宿敵であり恋敵、もうお互い全てを持って、相手を殺しあうしか、道は残されてねーのさ。

 ふっふ、そろそろそれくらい分かってくれよ、オスカー」


「なんだよ、、それ、そんなの嫌だよ」


 はっは、そんな風に見つめられると、多少困るな。


「ふーん、あたしも、止めるつもり無いけど、、、リディは?」


「言うまでもありませんわね。

 貴方がた二人を抹消するということ、これは、わたしくにとって絶対必須、確定事項ですわ」


 涙目に近いオスカーを見やりながら、私と性悪二人は、共ににやにやニタニタ笑う。


「とっまあ、そういうわけだ。

 オスカーは、勝者の優勝商品として、悠然と構えてりゃいいのさ。

 とうぜん、俺様が奪ってやるから、安心してくれよ」


「違うね、彼はあたしのモノだよ」


「まったく、他人の物に対して、、、。

 欲しがられる事自体、腹立たしく苛立たしいのに、しょうがありませんね」


 三人は、何時もどおり席を立ち、彼を賭けたゲームをする。


「さあ、オスカー、ゲームを決めてくれ」


「なっ、、なんで! いつもいつもそうなるぅ!」


 少年は理不尽で不条理、不合理の集合のような現実に、目を回して頭を抱えるのだった。魔都の紅鬼‐

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