魔都の紅鬼‐イスという少年
第一の鐘が、鳴り止んだか。
思えば、第一の鐘以降は、聞いたことが無い。
それほど私は追い詰められていないと取るか、どうか、分からない。
「この世界には分からない事だらけだ」
神話に沿って進めば。
この身の生で他人に殺される、という事を繰り返すごとに、より私は歪になっていく。
「なん、だ? と、、」
どうせ私がぶっ殺されて、異形に、魔女の形に、強制覚醒→超絶無双→完全勝利。
とまあ、そういう展開に成るのは分かっていた、
味方に死者が出るのは、心情的にも、大局的に見た場合の、様々な戦闘効率的にも分かりきっていたのだ。
だから私は、色々と準備をしていた、そう本当に色々な準備を。
…確か、この場合、既に私は服を着ていたはず、なのに今は全裸、、、。
「あわわわ、、、はわっ」
何をいってるのか分からないと思うが、状況からして誰かに脱がされて陵辱の限りを尽くされた、、、、わけではなさそうだ。
私は、トラックで引かれたようにグチャグチャにされて、して。
ううむ血を失ったからか、体の感覚が十二分に回復したからか、微妙に寒い?
でも、病いのように身体は火照ってもいて、丁度よくもある。
自室院のベッドにいるはずの私は、寝ぼけ眼でシーツがなければ、愛用の抱き枕を、、、と思ったのだがね、こいつ誰?
じゃなくて……これは、誰? はあ?
イス?
まさかね、はっはっは、やめろよ悪い冗談だ、内心でだけ「ふえーんっ」と萌えキャラのような脳内ボイス。
「軽傷がいいか?」
「うみゃうみゃ、ううん、おはよう、、、だった?」
「いや、あのなんだ、出血多量と、体の感覚がなくなるまで殴られるの。
あとお前を含めて全てをなかった事にするのと、、、を考えると、どれがいいかな?」
「それはあり得ない問答だよ。
ちなみに君は…もうずっと数年間もずっと、眠っていたんだよ?」
「よくわからないが、お前を私と同じ年単位で植物人間にして、全裸で放置してやる」
「ああ怖い、冗談だよ。
で、目が覚めたみたいだね、なんか身体に不備とかなかった?」
「おまえ。
色々と私にとって嫌な事態が多々、ただいま起こっているんだが。
万が一の可能性が思いつくんだが、まあ見ればわかるんだ。
それでもと、ゆっくり聞いてやる、目をかっぽじて良く開け。
おまえが、わたしを全裸で此処に横たえたんだよなぁ?」
「ここ、はぇ?
…え、なに、何?
いや、状況的に当たり前でしょ?」
「あああ!!どこだよここ! わたしは誰!!」
「病院を呼ぶ?」
「ああは!?え? ああ建物ごと持ってこいぃ!!」
「何そのこの声面白いね」
少女私はパニックに陥っている自覚がある。
たいへんだ。
目を開いて最初に目に入ったのは、全裸の少年だ!
意外と巨大なぞうさんは、あれだ、なんか形とかがアレ、うんコレは絵画だ、そういう事にしておこぅ!。
白っぽい髪の毛に、銀が混じった髪。
それと私と同じ赤い目を持ち、私と同じゴスロリ衣装(幻)。
間違いなくイスである。
とにかく全裸がヤバイというのだろう?
ああ薔薇が散らされて刺繍として施された官能的なベッド、黒い照明の部屋。
ドレスすら着ずに男女がいるぜ、何かを着たとしても事前か事後だぜ。
美しい少女が全裸でいるから、ジッとこちらを見ている奴のあの絵も大きくなっているようなぁ? いないようなあああ!!
自然目線を下に、その絵画のちょっと下には、なんか白っぽい、、、。
金細工が複雑に彩られた鎌が、私の最高にして最大の得物、オートで中空に出現されていた。
「ちがう違う、これはホニャラカです本当にありがとう御座います、じゃないよ」
「ああん、精子じゃないなら何なんだ!」
「カルピスですだよ! ほら! あそこに小さいコップがあるでしょ? 零しちゃったんだよ!」
指が指し示した、ベッド横手に設置された棚。
確かにロゴが施された原液ボトルがある。
しかし豪奢な造りのコップが小さすぎる、アレを入れて、ちょっと零したとかじゃないのか?
「ちょっと飲んで確かめるから、動くな」
巨大な鎌を念力で動かし向けて、両手でコップを掴む。
一応白い原液を開き匂いを嗅いでみる、偶にカルピスビターがあるのだ、うむ疑心暗鬼が過ぎた。
そしてここから、一線越えるかどうかの扉があり、わたしは扉を開くことにした。
飲んだ、苦い、はい処刑決定。
赤いカーペットと同じくらい奴を流血沙汰にしようと思ったのだが。
奴が真っ直ぐ全裸でこちらへ堂々と仁王立ちしているので、っと、続いて何もできない私がいる。
「次に? 何か辺りを見回すといいよ」
「はぁ?」
その言葉にピンとをきて、辺りを見回すと。
なんと真後ろの豪華絢爛な装飾棚に、カルピスビターの内装ボトル。
しかもそれは幅広ボトルで、とてもアレが詰め込まれているとは思えない。
でも一応匂いを嗅ぐ、匂いフェチっぽいなっと思った。
そして、一秒後に言葉を失った。
イカ臭すぎる、以下省略。
百人くらい同時に殺せそうなほど、殺意をぶつけた。
と、そこで惨殺が展開される前に、微妙な目線のナナメ動で気づいた、気づけた。
彼の手元から落ちたであろう位置に、生々しいイカ丸々一匹が居たのだ。
大鎌を中空で旋回させて、円形の日の輪が展開される中で、最新武装の副次機能、円形の魔法陣が描画される中で、
必殺必中の攻撃が放たれる前に、全てをキャンセル。
「な、なんだ、イカ味だったのか?」
「あ、、、ああ、そう、イカ味にしてあげたんだ、君はイカが好きだろう?」
すっとぼけ顔、ニヤニヤしたクソみたいな顔が、全てを物語っているのだが、
これでは私は、真にキレれない、キレて、ぷっつんして、全てを破壊するには至らない、至れない。
私のキャラ的に、その程度で人を殺す、なんてしないのだ。
悔しい、凄く悔しい、だが、ここは刃をおろして、少しプンプンする程度でしか、私という存在は在れない。
自分を客観視して、すごくチョロいクソみたいなラノベヒロインみたいだと、感想を持った、ただそれだけ。




