ノースラストの鉄道世界
「はあ、タクミ、この景色は素晴らしいと思いませんか? はい、断然素晴らしいです、素敵です」
さて、世界の東の果ての領域、場所だ。
致命傷で末期な、頑固な昭和の思考回路が腐って凍結しているような、鉄道オタクの彼女を、持った俺だ。
だが後悔は無い、
彼女は絶世の、、、美少女だ、黒髪ロングの、多少低身長の、
「ああそうだ、お前はアレだな、最近じゃないが、けっこう前に販売された、鉄道エロゲーのメインヒロインに激似なんだ」
「はあ、あの素晴らしいゲームですか、ですがダメです、リアルには絶対値で勝てません、
この黄金の鉄の塊のようなシルエットを鑑が観てください、
明らかに確定的に形容するなら、どう考えても黄金と同価値の、そうです、これは黄金の鉄の塊としか、私の中では表現できないのですね」
「クソ電波だな、まあ可愛いから俺は許してやってるんだ、ありがたく思え」
そうだ、此処は世界の東の果て、
蒸気と機械の支配する技術水準の時代、に固定されている、
この領域を絶対支配する、大観測者、東の果ての防衛を一任されている、彼女、
恐るべきモノ達、ロプスに対抗する為に、世界を円形に守る為の概念世界の一つ。
「まあいい、リアルで、あの鉄道エロゲーのような世界観で、お前と暮らせるんだ、
俺的には、クソ下らん、と一蹴できるようなオタク全開の、クソ非生産的なクソ趣味にも、付き合ってやるってもんだ」
「酷いです、タクミは、この光景を観ても、まだそんな事が言えるのですか?」
彼女は映像を中空に投影する。
ノースラストは、転移技術が実用化されるまでは、幾百以上の交通網を持っていた。
だが今は、いや少し前までは、転移が実用化され、交通網は廃止、廃墟のような、それこそ鉄オタの彼女が発狂するような事態だったのだ。
そして現代に蘇るは、ひたすらに彼女の趣味に沿った、鉄道世界観が広がっているのだ、実に下らん、吐き気がするような世界観なのだ。
「それに、私は馬鹿の一つ覚えで、鉄道オタクをやっている訳では、絶対的にありえません。
基底規定現実、つまりは貴方、タクミ、作者の現実世界、という意味と価値です、において、
狂気的な鉄道オタクが沢山、ありえない数量で存在しているのです、
故に、このような世界を構築する事は、概念世界のレイアー的に、アストラルから非常に多くのエーテルを吸い上げるのに、役立つのですね。
集合的な無意識において、この世界の魅力は高く、必然的に多くの価値と意味を、人類知生体から得られ観測してもらえるのです、とてもやりがいのある事業なのです」
「言っている意味は、なんとなく分かるが、己が言葉をもっと、学者のように整然とした理論的な話法で、紐解いてから、お前は話せないのか?」
「話せるのなら、そのように話しているのでありますよ、
だいたい、トークは勢いが大事で、タクミと話すのを最大限楽しみたいですし、いいじゃないですが、
自由気ままに電波っぽっく、美少女がお喋りしているのは、観ているだけでも楽しくないですが? 少なくとも、私は楽しくて発狂死しそうなんですがね」
「そうか、なら良いが、勝手にしていてくれよん」
さて、そんな世界がある。
そして俺は、そんな世界で、一人の少女と出会う所から、ルマン的な物語を始めて行くのが最適解だと、今は思っているのだ。
「マティ、まいどまいど、ご苦労な事だな」
「はい、これが小生の仕事ですので」
普通に現代的な世界観、ちょっと昔の感じで創造してくれると分かりやすい、別に似ているのは否定できないので、重ねてくれれば良い。
「それでは、出発進行であります」
乗り込むのは少数、ノースラストに設置されている防御施設、冒険者のような身なりの奴らが、転移ができなくなったので、しょうがなく使っている感じだ。
「おい、マティ、楽しいか?」
「それは、仕事が、という事でしょうか?」
「そうだ」
「はい、小生は、この仕事に多く生き甲斐を感じております故に」
「ふーむ、そういえば、マティは趣味はあるか? 鉄道関係以外で」
「ないであります」
「いやいや、どう考えても、最近のゲームや漫画やアニメとかの方が、こんな仕事、鉄道趣味より、娯楽の強度は高いだろ?」
「小生は、無限の選択肢の中から、選び取ったのですよ」
「うん? どういう事だ?」
「つまり、この道のみで、一本道を歩み続ける人生を志した時から、脇目や誘惑の類に成るモノは、前提から除外しようと日々、心掛けておりますので」
その横顔には、誇りのようなモノが垣間見えたのは、俺の錯覚だったのだろうか?
「マティは、それでいいのか?
それってアレだろ、鉄道を愛し、鉄道に殉じるように、鉄道を己の伴侶として、その愛の閾値を高め続けるような生き方だろ?
普通に言って、詰らなくねえか? やめたくならないか?」
「いまさら、この生き方は変えられません故に、
そもそも、小生が、この仕事を務められるのも、小生が、このような生き方をしているからだと、愚考しております、
過分な身分なのです、本来であれば、小生などは家事手伝いをしたり、、、つまり、今よりもより良い人生など、およそ考え付かないのです」
「なるほどね、そういうことか、納得が言ったよ」
「そうですか、ならば大変よろこばしいことなのです」
確かに詰らない人生だ、だが、これ以上が彼女にあったのだろうか?
少なくとも、俺には判断が今のところはつかなかったのだった。
それから数十日くらい、経った、日にちの感覚は希薄なのだ、知らんがな。
この鉄道世界の矛盾点と、リアルの無さ、
について、最近の俺は言及したいと、切に思い始めていた。
「俺は最近、鉄道関連の物語を読んでいるんだ」
ある日の昼休み、ちなみに俺は、上の命令で、この世界の観測を頼まれている。
彼女はストラテジー、戦略的に、この世界を俯瞰的に観測し、運営しているので、
今の俺のように、戦術的に、世界を肌で感じる機会が無いらしく、つまり、彼氏の俺に一任している、そんな形だ。
「ほお、どんな内容なのですか? 大きなタイトルなら、小生も読んでおるかもしれません」
「ああいや、某ネット小説投稿サイトの、無名の作家の、無名の作品の話だ」
それによると、マティの仕事ぶりは、明らかに綺麗な面しか、およそリアルとしてありえない。
確か、強化人間らしい背景設定が、このマティという人物には、あったはずだ。
「だが、それでも、肉体労働に汗を流さないのは良い、そして、退屈な仕事に嫌な顔しないのも、まあ及第点だ、
それでも、どう考えても可笑しい点がある」
「はい、なんでしょうか?」
「そう、ソレ、なんとなく、違和感がある、この世界の、マティというキャラクターには、圧倒的なリアリティーが無いのだ」
「そ、、、そんなこと言われても、小生には、なにごとも如何ともし難いのですが、、、」
そうだ、なんとなく、何かが足りない気がするのだ、
あいつらが、現実世界で、鉄道に発狂している、鉄道に人生をささげて、殉じているような奴らが感じる、
それはロマンのようなモノだろう、それがまだまだ全然感じられない、
そのように他人が強烈に影響を受けて、知っている世界観を、俺も感じてみたいと、最近は切に思うのだ。
その日の仕事が終わり、俺は帰宅した。
「鉄道世界は、言ってしまえば、有限大なんだよ、無限大じゃない、決して幅広い要素を持っていない、選択肢が限られているんだよ」
「ふっふ、シンプルだから、良いんじゃないの、
最近の異世界転生的な情報過多な幻想の究極、お伽噺の神話体系の構築理論なんて、複雑すぎて、私はやっていられないわね」
「確かにシンプルだ、この世界は魔法も無い、科学も鉄道がボーだラインとして機能するから、一定以上の発達も先進も無い、詰らん世界だ」
「詰らないから、安定して、一定の出力を長期的に、娯楽として提供し続ける事もできる、言ってしまえば、この世界は波が少ないのね。
東の防衛においては、常に一定の拠出できる戦力を求められているのだし、あまり波がある世界観ではダメでしょう?」
「なるほど、安定した世界観、固有の情報力場か、そういう視点ならば、この場所の観測存在価値も、最低限で証明できるってところなのだろうか?」




