トランプの幻想‐大深度幻想世界について、の話、物語
虫けらのように89人の仲間達を皆殺しにしたハートのクイーンを、俺は絶対に許さない。
「はぁ、また寿命が減ったかぁ」
腕輪端末に記された数字が”132”になっている、昨日は133だったのだ。
これは昨日深夜の戦闘で、生命力を消費して”異常強化向上活性化”を行使した結果だ。
一定期間、というよりかは一時的に、基本能力パラメータあるいは、特定特異ステータスを引き上げる技だ。
この数字の総量、これが下がれば下がるほど、基本能力は次第に低下し衰える。
最終的に0になれば、かなり個人差はあるが生命力が枯渇する。
ので、女王が圏内に送り込み、そこでの生活を許可する、というより勧める、ことになる、分かり易くつまりは余生だ。
更に言うなら、ゼロ以下になると死ぬ、ゼロにならなくても、敵に殺されれば全てを奪われて死ぬことになる。
逆に言えば、敵を殺せば、全ての生命力を総取りして奪うことができるとも言えるのだが。
この世界は、大きく分けて四つの勢力が存在する。
最大のハート、大分離されてスペード、次点でクローバー、そして最小のダイヤ。
世界の構造は複雑な、非常に入り組んだ、例えるなら迷路や迷宮のような、階層構造になっている。
最大勢力であるハートが、この階層構造世界において、中心点、ゼロ階層に本拠をおいている。
そして上層・下層の大フロアである100階に、防衛線と大規模な城壁を築くのがスペードとクローバー。
ダイヤは、かなり少数精鋭に傾き、拠点を頻繁に転々としている感じだ、俺は此処に所属している。
それぞれの勢力には、定期的に新規プレイヤーが加わる。
現実世界から、ある特殊な方式によって、いうならネットを通じて、この世界に強制召喚、転移される。
ちなみに、初期生命力は、現実での魂の階層に比例するという。
だいたいのプレイヤーは勢力に属さずに、この世界で生きていくことは難しい。
どこの女王にも従わず、ネットゲームで言うところのソロプレイをするには、約三桁の生命力が必要といわれる。
それでも階層を放浪し、命を消費、というより浪費するような生活に堕ちるかもしれない、厳しい現実だ。
だから、基本的に女王の勢力に属して、プレイヤーはあるていど安定した生活をするのがスタンダードとなる。
更に俺は、長いプレイニング生活の中で様々な特異ステータス、突然変異特殊能力を有する。
一つは虚弱補正、これによって、ただ生活しているだけで辛い感じだ。
まあ、俺は日々最大限節制して、さらに鍛錬しているので、プラス補正によって今現在は余り気にならない程度になっている。
二つ目は暴食過食。
これは後の苦痛と引き換えに、生命力消費に比するレベルの補正を得る技だ。
しかし、その苦痛は、一言に死ぬ方がマシなレベルなので、微妙な能力だ。
掛け値なしで塗炭にのた打ち回る嵌めになる、正直に自殺したくなるので、生死を彷徨うことになる。
精神状態等の運が悪ければ、普通に俺が死ぬ可能性が現実問題ある。
ので、生命力を消費するのと同等の天秤で考える必要がある、と思っている。
「拓海」
「ああ、彩子か」
俺には親しい仲間がいる、例えば目の前にいる彩子だ。
ダイヤの勢力の中でも、俺と同程度の初期生命力のステータスで、適度に気が合う仲だ。
頻繁にここ、NPCが営む喫茶店(あまり美味しくないコーヒーしかない、が、雰囲気はいい)で会っている。
ちなみに、NPCは勢力争いに関与しない、だいたい決められた行動、台詞しか発さない。
まあ、中には作画がよく、明らかにエロイ目的でプレイヤーを楽しませてくれそうな奴もいたり、、。
まあつまり、中にはNPCに止まらない奴もいたり、色々、いやまあ、今じゃなくても俺にはアンマリ関係ない感じ。
「拓海、生命力が減ってるじゃないのぉ」
「ああ、昨日の深夜の戦闘で使った」
「そっそお、で、でも、死んでなくて、ほんと、良かった、、、。
かなり、きわどい感じの戦闘だったの?」
「ああ、露骨に死にかけた、たぶん、強化を使わなかったら危なかった」
「はぁ、、戦いなんて、したくないわねぇ」
「もちろんだ、でも、しなければいけない場合もあるって感じだよなぁ、、、」
俺は話しながら、腕輪端末から投影した立体映像を見つつ、同時に投影展開されるホログラム式キーボードを扱っている。
昨日の戦闘結果の報告、あと予測される敵の現在位置情報、さらに予測ともいえない内容等々、も一応。
と、いうような内容をWIKIに書き込む。
勢力下のプレイヤーが情報を共有する為の、汎用ネットワーク的なWIKIデータベースにだ。
かなり都合主義的に不自然な話なのだが、この世界でもネットワークが、現実世界と限定的にリンクする形で存在する。
実際不可思議な感じで最初は戸惑ったが、在るものは在る物として、今は普通にゲームの一部としてプレイニングしている。
俺は勢力下のプレイヤーとしての義務、自己の実体験を含めた内容を、頻繁に此処に書き込んでいる。
ローカルな内容を扱った掲示板もある。
また、現実世界の人間が、偶にここを閲覧したりもしているようでもある。
「うぅ、、死にたくないよぉ、、怖いよぉお、ぐぅすぅ」
「彩子、泣くなよ、一応、大人だろ?」
「大人だよ、一応でもないし、それでも泣きたいときは泣くことにしてるだけだしぃ」
「そうか」
「ぅぅ、、頭撫でてよ、拓海ぃ」
「この、甘えん坊がぁ」
「ダメ?」
「別に、ダメじゃないが、本当に撫でて欲しいのかぁ?」
「撫でてよぉ」
「しゃーないなぁ」
ありふれた感じの黒髪を撫でる、彩子は猫みたいになっているので、猫を撫でている感覚、感触だ。
「拓海は、死ぬの怖くない? こんな感じになってる、わたしの感情って理解できない?」
「すげぇー共感してるが、そうは見えないか?」
「なんか、平気そう、淡白にクールだから」
「だったら、彩子と同じに泣いた方がいいか?」
「どうだろう、私が頼れなく甘えられなくなる。
でも、泣きたいなら泣いていいよ? 胸貸すよ?」
「ふん、俺は大丈夫だ、強い男だからな」
「カッコつけないでよ」
その後も、二人で暫く過ごして、各々の宿舎に別々の路で帰った。




