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物語をこよなく愛する話とバッドエンド


 

 愛というモノに殉じるならば、俺の場合は物語の執筆において、己の全てを投じたいと、ずっと前から確信していたのに。


「小説を書くことに、現実的な可能性を感じられない件について。

 言ってしまえば、商業ガンガンレベルじゃないと、楽しくないのだ。

 つまりは天上人、超一流の小説家クラスじゃないと、小説執筆は楽しくない、クソ無理ゲーじゃないですかね?

 つまらんし、下らん、こんな面白くない事も珍しいほどに面白くないのだ。」


 俺は一人の少女の、首つり死体の前で、そんな小説を音読していた、ただそれだけの情景を、夢に観ていたのだろうか?



 ある日の日曜日、今日も毎度の音程の外れた嬉しげな声が響いていた。


「わあ、最近面白い小説が溢れてて、本当に嬉しいなぁ~♪」


「小説っていうより、マティが見てるの、ライトノベルだけって感じだけどな」


「そお! 特にこのぉ!

 ”最近のライトノベルが凄くてヤバくて面白すぎる件についてぇ!

 マジ宇宙的規模でビックバンが起こってるぅぅぅ!ヤバイぃ!って彼女が言っている件について”ってラノベお勧めぇだよぉ♪」


「なんだそりゃ、そんなタイトルのが出版されてる、その事実の方が興味深くて、ビックリするね」


 今日は、てか今日も、本屋に来ている。

 そして、毎度おなじみラノベコーナで、宝石を見るかのように目を輝かせる少女が隣にいる。


「うぅぅ、全部欲しいなぁ~、買っちゃおうかなぁ~」


 全部かぁ、、、。

 目の前にある本棚にある、それはほとんど最近出版された新刊物である。

 ちなみに既刊は、普通店頭には置かれていない。


「結局、全部買ったのな」


「買った買った、帰ったら全部読むんだぁ~♪」


 彼女は手ぶらだ、持ちきれない量なので自宅まで配達だ。


「毎日幸せが溢れすぎててぇ、怖いよぉ!

 SFの宇宙妖精シリーズが第七部まで一気に出てるし、もうヤバイよねぇえ! これ!

 ああぁ、なんて幸せ過ぎる時代に生きているんだろおぉ!

 うぅぅっっ!!しあわせすぎるよぉ~うれしいょぉ~~!うわぁああ!!生きてて良かったぁ!! 人生さいこぉお!~♪!


 右手を上げて太陽に宣言するようにする彼女、尋常な喜びようではない。


「よっ良かったな、マティが嬉しそうで、俺も嬉しいというか、幸せだよ」

「うぅ? 本当?」


「ああ、本当ほんとう、俺はマティの幸せの為なら、掛け値なしに死ねるくらいだ。

 お前をこよなく愛しているんだよぉ。

 お前の幸せをダイレクトに共感し同情し、そのように常に在る、愛の絶対の奴隷だぜ」


 コイツのペースに巻き込まれ過ぎるのもアレなので、俺はちょっと掻き乱すことにした。


「ならオスカー、わたしの為に、ライトノベル作家になってよぉ!

 もちろん、わたしは一流、超一流の作品じゃぁ~ぜっんぜっん!満足しないよ!

 連邦作家人口10兆人の頂点レベル、十倍、百倍くらい? の超超一流の! 素晴らしい作品書いてよぉ! 

 それ以上でも、もちろんいいよぉ! 

 読んだ瞬間に発狂して死んでしまうくらいの、狂った作品を頂戴よぉ! 

 オスカー自らが執筆すれば、発禁モノの禁書や魔本のレベルの類でも、わたしは読めるしねぇ~!」


「おお、やったるやったる、いけるいける。

 俺なら、楽々いけるっしょぉ?

 マティを感嘆させて、俺無しじゃ、いられないようにしてあげるぜ」


「うん、がんばってぇ!でも、わたしの舌は肥えてるよぉ! 

 誰よりも不幸を知って、恵まれない状況環境下もたくさん知った。

 もちろん、その逆の幸福と、あらゆる恵まれた全てという全てもね! 

 物語の登場人物に無上に共感し同情し感情移入するために、自ら塗炭の日々も経験したんだよぉ!

 およそ人間が感じれる限り、限界の全て、この世に存在する数多の真理を感じて、神の領域に至ったのぉ!

 そんな気になっているわたしを! 感動させるのは並大抵の事業じゃないんだよぉ!!」


「はっは、なら、なおさら腕がなるぜ。

 俺の超絶テクで、マティをメロメロにしてやるよ」


 多少無茶な会話を展開しながら、俺たちはそのように帰路を歩いていた。

 さて、先ほどは冗談程度で言っていたが、マジでマティの為に自ら小説を書かなければいけないかもしれない。


 彼女は昔、とある事情で、絶対英才化教育を受けている。

 強化人間を大量生産する東側に対抗し、講じた、それが西側の、というより連邦が実際に過去行った闇の事業、その一つである。

 そのとき行われた、生まれたばかりの真っ白な脳に対する、圧倒的な詰め込み教育。

 生体ストレスの限界擦れ擦れ、実際に生死の境を彷徨いながら、直接情報入出力システムの限界で情報を仕込まれたのだ。


 その後遺症が、そろそろ致命的に、彼女の命を奪うレベルに達している。


 その後遺症によって、彼女は見るもの、その粗方が、全て詰まらない。

 情報処理、演算能力を人知を超えて上げる為に、すでに知っている事を限界まで知り、既知の領域を超えて味わい尽くす事が必要だ。

 感情的に、その情報に対して何も感じない、無我の領域に至ることが、情報処理を省略化し高速化させる方法論だった。

 つまり彼女は、日々どうしようもなく退屈な毎日を送っている、はずだ。

 人生というモノが一切の変わり映えしない、まったく目新しくないので、感情を動かすのが困難なのだ。

 そのように、掛け値なしの全てが下らないと思えて、そう見えてしまうほどに、彼女の精神年齢というモノは極端に上がっている。


「だから、俺が限界まで頑張らないとな」


 あの時、あの場所で落ちこぼれの俺が、考えたくもない方式で処理される時。

 身を呈して助けてくれた彼女の為に、俺はその為のみに生きようと思った。

 何も感じれなくなってしまうほどに、情報処理の速度を上げて、ハッキングプログラムを生成した彼女。

 そして、共にあの場所を抜け出し、不正を暴き、首謀者たちを裁きの場に幾らか突き出した、逃げおおせた奴もいた。

 そんな過去がある。

 あの場所で、地獄のような苦しみを味わったが、それ以上の絶対の地獄を味わずにすみ、抜け出せたのは全部彼女のお陰なのだ。

 俺は彼女に、絶対で無上の忠誠を誓いたいと思う。

 それでだ、今現在彼女の為に在る為には、限りなく彼女に近づき、それでも限界まで理性を保たなくてはいけない。

 俺は彼女が傍にいれば、ただ生きて、できれば幸せにいてくれれば、どんなに退屈でも死ぬことはない、そのはずだ。

 どんな人生でも、どんな場所に至っても、彼女の為に生きたい、俺はそう想えると確信している。


 俺は直接情報入出力システムの強度を最大限に、それでも、加速度的に上がる情報の波に意識を浚われないようにする。

 一度でも計算ミスをすれば、意識が根こそぎ浚い奪われ、一瞬で廃人同然になってしまうだろう。

 だが今の俺には、絶対の神の加護のような力が、確かにある、だから精神力だけは誰よりも自信がある。

 脳波で描きつつ、同時に手元のキーボードも叩く、言霊で魂を込める、さまざまな情報の入力方式を最適に平行進行させ続ける。

 俺は己の全てを使い、その為に身を尽くし捧げ投げ捨ててでも、構わない。

 だから彼女の為に、己の領分を越えた力を、自分の境界を越えて、世界という広大無辺な力を借り受けたいと願う。

 命をどの程度か全く分からない、知ったことじゃないし知らないが、削っている自覚はある、むしろそれだからこそいい。

 彼女の命を延命させる事、それを可能にする為の、その絶対レベルの、そんな俺にとっての命の物語を紡いでいる、紡げているのだから。 


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