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イルミナード十三方位陣‐俺にとって仮の世界の物語☆

イルミナード十三方位陣の有機的運営の記録


 イルミナードは方位によって、その戦線のレベルが段違いだ。

 

 中心に女王が絶対統治する、城がある中心点を除いて、全部がジリ貧のクソ戦場と化している。

 俺はここに所属し、全ての戦線を円滑に維持する役目を持っている。

 イルミナート女王直属の近衛の一。


 俺の目的は、生きることだ。

 そして生きる為には、力が必要だと痛感している。

 ただ生きるだけでは、駄目だと痛感している、

 愛するモノを豚の死骸よりも醜く殺されて、無上に不幸な拷問の末に、果ては凌辱されて殺されたのだから当然だ。

 俺は究極的に究極の、最高にして最強の、王の力を求めているのだ。

 

 この世界の力の根源、運命力、あるいは情報粒子強度。

 俗にネットワークエントロピー力、簡単に言えば意志力のみで任意の意図したサイコロの目を出すだけの、動力。

 

 俺はイルミナード宇宙軍に、そうそうに見切りをつけた。

 あんなクソ戦場で働いていては、命がいくつあっても足りない、運命力が少な過ぎるのだ。

 

 城の遥か上に、透明の迷彩を着て、SFファンタジーの設定厨しか読まないだろう仕組みによって成り立つ、軌道エレベーターを降りて、今ここに居る。



 次の日。


 「屑だ屑だと思っていたが、ここまで屑だとは思わなかったわ」


 宇宙軍の制服を着た二人、俺の専属ストーカーとも言うべきビキニアーマーっぽい宇宙服で、俺を追ってきてる奴らだ。

 どうやら、俺が今日付けで宇宙軍を退役した事を知り、追ってきたと見る。


 さて、イルミナート王立宇宙軍。

 この城の直上にて、宇宙艦隊線を正体不明のエネミーと年がら年中飽きずに、最高にハイなテンションでやりまくってるゴミ共だ。

 普通なら、この場は陥没する、宇宙からの熱量攻撃に耐えられない。

 だが城を起点として、この平面、二次元の地表世界に全体的に、戦域統合エネルギー中和フィールドを張っているので大丈夫らしい。

 言うに、このフィールドのエネルギーを、このイルミナート十三方位の戦線から発生する運命力で賄ってるとか、賄ってないとかって話。


 俺は掛け回り、そろそろ宇宙軍の上役が奴らを捉えてくれるだろうと高を括り、逃げ回っていたのだ。


「女王様、ちょっと頼みたいことがある」


「なんだ? 

 黒野の方から、私に関わってくるなど、初めての事じゃないのか?」


「確かにな、まあ、そんな事はどうでもいい。

 話がある、ついて来い」


「ふっ、一国の女王に対して、その不遜で不敵で、どうしようもなく若く子供っぽい態度、気に入った、いいだろう、ついて行ってやる」


 女王はニヒルな笑みを湛えて、俺の後に付いてくる。

 王立学園の城壁を抜けて、何時もの行き付けのカフェに入り込む。


挿絵(By みてみん)


「何か頼むか?」


「ああ、黒野のお勧めはあるか?」


「ないな、この世界の飲み物は元居た場所に比べて低廉に過ぎる。

 俺は、口が寂しい時にしか、嗜んでいない」


「なるほど、やはり興味深いな、お前は。

 一度王宮に来るが良い、この世界での最高級品を振舞ってやる、そして元居た世界とどちらが美味か、感想を聞いてみたいものだ」


 俺は、機会があったらなっと適当に流し、本題に移る。


「俺が頼みたい事は他でもない、最近学園に来たあの貴族様についてだ」


「ほお、あやつが何かしたか?」


「俺の主アルジにちょっかい出そうとしてるでね、なんやかんやで、決闘することになったんだ。

 向こうの従者と、俺とアイリ二対ニだ。

 まあ普通に考えて負けはありえないが、先方のこちらの実力を知っている癖に自信満々なのが気に触る。

 だから、女王様を使って、上手く情報収集しようと思っているんだ、協力してもらえないか?」


「ふむ、私に何か見返りはあるのか?」


「言える立場か? 命を救ってやっただろう?」


「冗談だ、しかたない、手短に済ませろよ、私も暇人ではないのだ」


「いつも俺を尾行ストーカーしてるのに?」


「ばか者がぁ! この戯けぇ!」


 露骨に錯乱した女王を宥めすかして手懐けて、今は件の貴族様の実家に赴いている、頬を膨らませた女王様と。


「それで、奴の家に乗り込んで、どうするつもりだ?」


「女王様は何も知らなくていいさ、適当に合わせてくれ」


「ふむ、まあよかろう」


 それにしても半端で無くデカイ家だな、目の前の豪邸としか言えない建築を見て思う。

 広大な敷地に見合った壮大なソレ、驚くべきは庭や細かな装飾もしっかりしている所だろうか?

 ドンだけの金があれば、こんな家を作ろうと思えるのかね、まあ帝国の四大貴族だけはあるのか。


「ようこそ、女王殿下」


 俺はスルーか、例の貴族、その父親の顔と一致。

 やはり息子と同じで、きな臭い野心を感じさせる胸糞悪い顔をしている。

 隣の女王は突然の来訪に何も言わず、ただ頷いているだけだ。

 向こうはこちらの意図をさし測ろうとしたのか、いや既に予測できていたのか。


「女王様、学園に入学した私の息子とは、もう合えましたかな?

 そしてその息子は、今は家にいませんが?」


 これは知っている、奴は今、アイリが学園に引き止めているはずだ。

 物理的に、そして時間的に、当分此処には絶対に戻ってこない。


「ああいいのだ、今日はソナタと話をする用なのだ」


「そうでしたか、でしたら、とりあえず中へ」


 恐らく一番広いだろう客間に通されたのだろう、無駄に広大な机越しに向き合う。


「それで、どのようなご用件で」


「すみません」


 そこで初めて口を開く。


「貴方は?」


 訝しげな瞳、そうか、俺の事は知らなかったか、それとも知らない振りか? まあどっちでもいいか。


「俺は女王の懐刀、いえ護衛のようなモノです。

 今回の来訪の説明は、僭越ながら私がさせていただきます」


 突然話し出した正体の怪しい男に、目の前の男は若干警戒を込めた眼差しで見つめてきた。

 だが隣の女王がただ頷く機械と化していたので、ひとまず納得して、とりあえずは俺の話を聞くようだ。


「話は、貴方の息子さんの事です」


「ほお、私の息子が、学園で何かやらかしたのですか?」


 そんな事は端から思ってなさそうな、多分に冗談を交えた口調。

 仮にあったとしても、四大貴族の突き抜けた一、軽く揉み消せると高でも括っていそうだ。


「いえ、むしろその逆です、ご子息様は類稀なほどの勇気を見せてくださった、そのはずです」


「確かに、勇気がなければ、化け物討伐には向かいませんな」


「それで、ちょっと困ったことがあり、貴方様を頼ることになったのです」


「それは如何な事かな? 

 女王直率の頼みならば、幾らかの妥協は辞さないつもりだが」


 男は先程から女王を気にしている。

 そりゃそうか、何時かは手に掛けるかもしれない、敵になりえる存在だ。

 どのような人物で才覚はどれほどか、降って沸いた敵情視察の好機に、気になってしょうがないのだろう。


「貴方の息子さんの、神器の全性能をお教え願いたい」


「、、、それは、なぜかな?」


 流石に警戒するよな、まあ予想通りだから、返す返答もスムーズだ。


「簡潔に言えば、迷宮遺跡の異能持ちの化け物討伐に、突如加わった彼と連携を取るためです」


「ならば、本人から直接聞くのが道理ではないのかな?」


「お父上様なら、お察し頂けると思いますが?」


「ふむ、特に隠し立てするようなモノでもあるまい、知ってる範囲でよければ、いや恐らく全てだが、教えてもよい。

 だが、見返りがあるなら、越したことは無い、そうだろう?」


 見返りね、女王の手前タダで寄越せばいいものを抜け目が無い奴だ、大貴族の党首張ってんだから当然だがな。


「確か、これは風の噂で聞いたのですが、貴方は大陸における絶対の脅威に、立ち向かう決意があると」


「当然だね。

 わたしは帝国の貴族、その尖兵だ、帝国の危機にもなりえる、この事態に立ち上がるのは当然であろう」


 どの口が言うのか。

 大陸における絶対の脅威、つまり神話クラスの竜ドラゴンの討伐、それが成った暁には、見返りに帝国軍の全権を求めた癖にな。


「その討伐軍には、私も加わって、ご子息様を全力でサポートするのを確約します」


「、、、」


 男は考えるような仕草を見せる。


「先程は知らない振りをしたが、明かそう、君はアイリ=ラザフォードの召喚した人型召喚獣であるな?」


「そうですが」


「ふっは、はっは、そうか、そうかそうか、彼の神話通りではないか。

 ”帝国に危機が訪れたとき、異世界からの勇者現れ、それを討伐す”、まさか御伽噺が現実で起きるとはな、これほど愉快な出来事は久しぶりだ」


 男はひとしきり笑った後、真剣な表情に戻り当然の疑問を尋ねてくる。


「しかし、君が”そう”であるとは限らない、約束を果たす確たる証明はできるのかな?」


「召喚師様が死ねば、私もどうなるか分からない、そういう事です。

 ちなみに、貴方のご子息様が万が一、のばあい、私の召喚師に加えて、女王様の身も危なくなります。

 実のところ、貴方様が今回の討伐に名乗りを上げていただかなければ、両者が能力的にみて討伐隊を率いていたはずですし、その点でも感謝を形にするという感じです」


 ここで、今まで突然の事態に処理が追いつかず、済ました顔で必死に考えめぐらせていただろう、女王が口を挟む。


「そういうわけだ、ニコラス殿。

 貴方は討伐隊に対する、国の援助、つまり私の助力が少ないとごねていたな。

 それでだ、コイツを提供する、存分に使い潰してくれてよいぞ」


「遺憾ながら女王様、わたしが口約束を信じるとお思いですか?」


「知っている、そういうのは貴族と皇族の取引の手順に従ってもよいぞ」


「そうですか、ならば確約されたも同じなのでしょうな、期待しておりますぞクロノ君」


 まあ、これは悪くない流れだ。

 神話級の竜も、俺じゃなくても対処しなくちゃならない問題の一つだ、それを討伐する為なら、こいつ等のサポートもやむなしだ。

 と、その前に、コイツの息子との決闘とかの流れを清算して、流血沙汰の果てに最悪に不味い事態にならなければって注釈が付くがな。


「では、ご子息様の神器の説明を」


「ちょっと待てクロノ、先程言っただろう、口約束は信用できない。

 まずは私達なりの流儀に基づく手続きを済ませてからにしたほうがいい、ちょっと外で空気でも吸って待っておれ」


「”具体的に”、なにをするつもりだ?」


「知りたいか? まあ恩もあるし、手取り足取り教えてやるか」


 偉そうに言うところによると。

 貴族と皇族のシステム、国家の根底に今だに息づく法を持ちうるようだ。

 それによって、俺はコイツの討伐隊の支援、客観的査察人もつけるようだ、に同意し、相手方は神器の一切の嘘偽りの無い能力詳細をこの場で公開すること。

 あと、現代の個人情報保護法っぽい注釈も長々とあった、もちろんこちらがソレに了承しないと始まらない流れだった、いやいや了承した。

 てか、こんなん中世ファンタジー世界に合わないなっとか、てかこんな未発達の時代からあったんならなぜうんたら、無駄な思考をしつつも荘厳な手続きは終了した。


「それでは、女王様クロノ君、また、討伐隊の本格的組織に折りまして、合間見えましょう」


 恭しくも玄関まで見送りに来た貴族の党首、俺も一応礼儀に頭を下げておく。


「ああ、今から再開が待ち遠しい、さらばだ」


 女王が適当に思ってもないだろう事を言って、その場で別れ帰路に着く。


「それでだ、黒野、奴の神器の性能を知れて、決闘には勝てそうか?」


「正直分からん、不確定要素が多すぎる。

 だが確かなのは、知らなければ確実に近く負けていた、それだけだ」


「ほかには、なにかないのか?」


 コイツ、物欲しそうな顔しやがって、危うく可愛いとか愛らしいとか思いかけた。

 まあ俺の役に立ってくれたんだ、多少は礼をしたり甘やかしてもバチは当たらんか、調子には乗りそうなのが嫌だが。


「ありがとうな、助かったよ」


「ふふ、そうか、私は役に立ったか」


 本当に嬉しそうに微笑むな。

 お前を駒として見れなくなったら、どうしてくれる。



 学生寮に帰宅した。


「おお、アイリ、お役目ご苦労、何かエロイ悪戯でも奴にされなかったか?」


「されるはずがないでしょう」


 見るからに怒った目、立腹なのだろう、やれやれ疲れそうな展開だ。


「どうして、一人で何もかもするんですか?

 どうして、私に何も言ってくれないのですか?」


「別に説明しなくても、今回は事態が進む感じだったからだよ、拗ねんな」


「拗ねてません。

 だけど、次からは全部説明して。

 約束してください」


「はぁ、分かった、約束するよ」


 ”口約束”だけどな。


「それじゃ、今回に限り、許してあげます。

 では、さっそく今日なにがあったのか、嘘偽らずに教えてください」


「その前に、腹が減った、何か料理でも作ってくれ」


「私に飯を作れと言うんですか?」


「そうだが、何時ものことだろ」


「なに馬鹿な、いえ貴方はバカだから、それでいいのでしょうが、付き合う私の身にもなってください」


「いいから、アイリ、料理できただろ、授業中見てたぞ」


「それでどうして、私が貴方の為に料理をする、しなくてはならないに繋がるの?

 理路整然と説明できれば言う事を聞きます」


 挑戦的な瞳、言い負かせると思っているのだろう。


「お前は、俺をこの世界に召喚しただろう?」


「、、、待っていてください、出来るだけ早く済む料理を作ってきます」


 いやいやな目をしながら、トテトテと併設の調理スペースに向かう。

 俺は得も言えない勝利の余韻に浸りつつ、その背後に近づき、肩を揉むようにする。


「なんですか? 

 だいたい、気づいてないかもしれませんが、コレはセクハラと言うモノです。

 ちゃんと自覚はありますか?」


 直前の悔しさも相俟って剣呑な瞳だ。


「何時も俺の世話してくれるアイリに、偶には俺も何かしたいと思ってな」


「へーこれが、貴方にとっての奉仕ですか、、、。

 多分に疑わしい部分もありますが、まあいいです、悪くはありません。

 しかし気をつけてください、それ以上のこと、変なことをしたら、、、命の保障はできませんから」


 最大限の警戒心の瞳を向けられる、背中を向けてもそのオーラは一切引かずに、むしろ増大していた。


「アイリは苦労人だな、肩が凝ってるぞ」


 凝ってる部分を行き成り少々異常に強く揉むと、ビックリしたのか、アイリは「あっん」と控えめながら良い声を出した。

 自分のその声に恥ずかしかったのか、暫し肩を震わせるように押し黙る今。


「アイリは打てばどこまでも響く楽器みたいだな、凄く可愛いよ。

 もっと可愛い声出してくれないか? いや、出させていいかな?」


 耳元で声を出すと、震えは跳ねるに変わり、俺は思いっきり張り手で飛ばされた、尻餅をつく。


「いててぇっうげぇ!」


「貴方という人は! あなたという人は!!」


 上から怒鳴りながら、鳩尾を正確に狙ったヤクザ蹴りの連打、尋常じゃない。


「はぁ、はぁ、はぁ、、、」


「気は、済んだか?」


 俺は何事もないように立ち上がる。


「ち、近づかないでください! やはり貴方はケダモノです! 嫌いです!」


 俺という存在に怯えたのか、身を抱き締めて睨みつけてくる。

 いやはや本当に怖がってるように見える。


「別に、アイリを不快にさせるつもりはなかったんだ、ごめん」


「安い謝罪ですね、貴方はもう信用できる人間じゃありません!」


 断じるように言われて、ちょっと焦ってきた。


「ごっごめんよアイリ、俺が調子に乗った、全面的に悪かった、謝るから許してくれ」


「いやです! もう貴方は性悪な人と、私の中で完全に断定されました!

 そうやって下手に出れば、どうせ許してくれる、そう、思っているんでしょう?

 だから、わたしを何度も何度も何度も何度もカラかって遊ぶ、そんな最悪な思考が出来上がったのです」


 ごもっともです。 


「それは、アイリが可愛いからで、、。


 アイリだって! 俺のこと苛めて悦びそうだ!」


「なんですか! その勝手な推論は! 憶測で物事語らないでください!」


 まじめ優等生、しかも美少女に、威風堂々と正論で攻められると、ちょっとキツイものがある。


「貴方とは、金輪際必要なこと意外では関わらないので、貴方もそれを承知しておいてくださいね」


 見下げ果てた人間を見る目で言って、料理に戻っていく。


「アイリ、ごめんって」


「、、、、」


「アイリ「うざったいです、静かにしてください」」


「ゆるし「黙っててください」」


 俺の発言を封殺するように、絶対の拒絶の意志とともに被せられる。

 マジで機嫌を損ねた。


「アイリ、俺を苛めてもいいからさ、お相子って事にしない?」


 アイリは料理の手を一旦止めて振り向くと、屹然と言った。


「変態ヘンタイ」


「はぁ」


「ヘンタイ、変態、へんたい、変態、編隊、変態」


 ツカツカ歩み寄って、至近距離でキッと下から見下ろすように言ってくるので、俺は堪らずたたら踏みつつ後退する。

 肩が壁にぶつかって、強烈なプレッシャーを浴びつつ、顔を付き合わせる距離で言われる。


「ド変態、、最低」


 本気でそう思っているのが、ダイレクトに伝わった、俺はお遊びでやってたって言うのに。


「私は貴方を軽蔑します。

 貴方は女性を見下して貶めて、それを悦楽として、糧にしなければ生きていけない、最悪な男です」


「、、、ごめん」


「ふん、どうせ口だけです」


「口だけじゃないよ」


「だったら、証明して見せてください」


「なにすればいいの?」


「女性を敬う。

 なにも難しいことは言いません、そんな誰でも出来る、当たり前の事をすればいいのです」


 子供に言い含めるように、だが何か違う、相手を暗示にかけるかのような妖艶な声音。


「貴方は、本当は、それをしたいと思っている、」


「はっ」


「うん?」


 俺はその場を引く、ヤバかった、なんかヤバかった。


「どうしたのですか?」


「どうしたのじゃない、今、洗脳しようとしてただろ」


「なに言ってるんですか、バカですか?」


 呆れたように、ジト目で見てくる。


「さっきの台詞をそのまま返すが、アイリ、お前だって男を、いや俺を見下して貶めて、良い気分に浸りたいと思ってるんだろ、そうだろが!??」


「なにを馬鹿なことを、下らないですよ、やめてください」


「クールぶって、内心じゃ俺を上手く手篭めにして従えて、気持ちよくなりたいって思ってるんだろ!」


 その俺の台詞に、彼女はちょっとだけ、そのクールな表情を引きつらせた。

 図星じゃないだろうが、彼女自身、自身の深層心理に”そういうの”を感じているのかもしれない。


「ばっバカです、ホント馬鹿です、付き合ってられません!」


「おい、逃げるな」


 途端顔をらしくないくらい紅潮させて、可愛く撤退しようとしたアイリの手を掴む。


「離しなさい!この!」


 もみくちゃには、ならない、俺が力技で手首を掴む形になる。

 でもそれだと、必死に離れようと力を込める彼女の力で、この細い手首が壊れてしまいそうだったので、しかたなく開放する。

 アイリは手首を摩りながら、傷つけられた少女のような瞳で見つめてくる。


「言葉もありませんね、女性に乱暴するなんて、、、」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! アイリさん! ソレ違う! 誤解!」


「なにが誤解ですか、この手首の痛さはなんですか?」


 なんか微妙に瞳を湿らせて(わざとだ!)、切ない裏切られたような目をする。

 俺は切ないが過ぎて、錯乱気味に言った。


「ごめん!! ホントごめんって! アイリ様!神様!女神様!なんでもするから許してぇ!!」


 土下座も厭わない勢いで捲くし立てると、途端、アイリは表情を戻して、笑い出した。


「あっはは、はっはっはっは、」


「ちょ、アイリさん、何で笑ってるんすか、さっきまで怒ってたでしょ」


「あはっはっはっはっは」


 俺に構わず好きなように笑い続けるアイリを見る視る観る。

 なんだかあれだ、この笑顔守ってやりたい的な台詞、イメージが浮かんだ。


「はっは、、、可笑しい人です、どうしてこうも、、、わたしを、、」


 さっきよりも涙目だ、それを指でさすりつつ、もう片手でお腹を擦っている姿。


「楽しかったのか?」


「バカですね、、、でも、、悪い人じゃないです。

 だけど、私は、貴方の変態は嫌いです」


「、、、、」


「だから、もし、、変態じゃなければ、、好きに」


 そこで爆発が起きた。

 それは運命だったのかもしれない、そう一瞬の刹那、直感的に思った。

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