クラリスとリリーと俺
クラリスとリリーと俺
「やっぱり、家で寝っ転がりながら、配信見てるのが、至高ですわぁ~」
「、、なんで、俺の家で?」
彼女は、堕落していると思う、どうしようもなく。
毎日お菓子を食べまくり、パソコン一つで娯楽を貪っているのだ。
観測者特権の限りを尽くし、何もしていないのだ。
この場合は、”掛け値なし”で何もしていない。
食べ物を買出しもしないし、その他何もしない、ただ貪り遊び笑うだけである。
「この動画面白いよぉ~、一緒にみよぉ~」
のくせに、超絶に健康的な天使の微笑ができる、何か可笑しい存在。
「クラリスは、何時も楽しそうだな」
「うん! 遊んでれば、何時も楽しいよ!
遊んでれば、直ぐに人生は終わるかな?終わらないかな?分からないけど、遊ぶの大好き!」
にっこり笑う。
「なんか面白いこと言ってぇぇ!!」
めっちゃ無茶振りを、何時も一切の穢れない笑顔でしてくれるのが彼女だ。
「無理」
「あっはっは、そりゃそうだよねぇ、ごめんねぇ」
その時、突然インターホンが鳴り響いた。
「やあ」
「やあじゃねえ、冴えない顔して俺様に馴れ馴れしい挨拶スンナ、ボケ粕」
いきなりの酷い暴言だ。
彼女は断りなく家に上がりこみ、クラリスを見つけて近づく。
「わっはっは! リリーちゃん、突然の暴言毒舌あざぁーす!」
「うぜぇーぞクラリス、こんばんはだ」
俺は自分の家で一時棒立ちしていたが、とりあえず二人の対面に座った。
「えっと、こんばんはリリー」
控えめに挨拶すると、ギロリとリリーは強い眼光でこちらを見る。
「はぁ、とりあえず、イツキ、てめぇーは見た目からして毎度ゴミだな。
人は見た目が九割つぅーが、見る目がある俺様の審美眼は確実だ、つかえねぇーデグノボウが、生き恥晒してんじゃねーぞ。
言い訳スンナよ? 見りゃ分かるんだよ、だいたいな。
99%以上は、見た目や放つ雰囲気等諸情報で分かるつわけだ。
それを総合して観測すると、お前は一言でつまらねー、無限相対世界において低廉で低俗な奴なんだよ、おら」
「ちょっとちょっと、リリーちゃん、酷いよ」
マシンガンのように俺を罵倒するリリーに対して、クラリスが反駁してくれる。
「あぁ? こいつを擁護する気かよ?」
「うん、だってイツキは、優しいよ?」
「くだんねぇーな、優しい? そんなの大して価値じゃねーだろが?
俺様の判断基準・価値基準は、”俺様にとって面白いか”とか”俺様に利益があるかないか”とかだぜ?
それに本質的にだ、こんな奴、難易度の高いゲームじゃ、簡単に落第して、怠惰に迷走して堕落する、てんで弱者、低レベルな観測者に変わりないしな」
「ううん、そこが、いいんじゃないのかな? 人間ぽくて。
弱いけど、必死に頑張って、不完全で未完全な精神で最善を尽くして生きる、わたしは凄くイツキが好きだよ」
「見解の相違だな、俺様は俺様から見て一流や超一流以上の奴しか認める気はねー。
所詮は二流・三流レベルの奴なんて、そこら辺の石ころくらいの事象価値しかねーわけだからな。
本当に助けが必要な時に、俺様を救ってくれる、そんな希望じゃなきゃ、無限に意味もなければ価値もない。
むしろ、世界のリソースを無駄に浪費するんだから、俺様の領分が通じる時空間ならば、全て無に帰したいくらいだぜ」
「酷いよ、それは、ううん、凄く酷いよ。
私はそういう考えは駄目だよ、認められないし、絶対に許容して許せないよ。
全てを秩序的に愛して、世界全体に対してマイナス価値でも、存在したい、そこに明確なる意思があるなら、保護するべきだし、援護してあげるべきだと思うの」
「ご立派な、存在理由だな。
いいんじゃねーの、俺様は否定はしない、しないだけで許すつもりは端からないが。
まあ、そういう存在理由のもと、高次に存在してくれるなら、俺様的にも悪くない話だしな。
この、ある意味、無限に破綻破滅崩壊した世界において、そういう無限に成り立たない理想が必須なのは痛いほど分かるし、身に染みて知ってるしな」
「無限の、知的情報生命体、不完全超高次生命を成り立たせる為に、ね、かな?」
「はん、果てなく続く理、上位概念を見出し続ける為、だな。
どうしようもなく俺様から見て、下らなく、つまらなく、しょうもないが、クラリスの観測価値に免じて、許してやんよ」
二人は流れるように、一切の淀みもなく会話して、満足したように一息つく。
すこしして、またリリーが口を開く。
「はぁー退屈だな、おいクラリス、ついでにイツキ、何か面白いことないかよ?」
「あるよ! 最近の小説が面白いのぉ! 書くのも面白いの!」
「ほお、この世界の情報になんて興味ないが、お前の発信する情報価値には興味がある、見せてみろ」
「いやいやぁ!、まずは、この世界起源の情報を見てよ、まだまだ捨てたもんじゃないよ?」
「捨てろよ、いらねーだろが、全部」
「そう言わずに、だまされたと思って、みてみてよぉ!」
「やめろ、てめぇーの趣味に付き合う気はねー、毎度言ってんだろが。
さっきも言ったが、クラリス、てめぇーと俺様じゃ、観測理由に存在理由、ありとあらゆるもんが根底からちげーんだ。
物事楽しむ思考回路・技術体系とかが異なるんだから、お前の面白いと感じるモノが、必ずしも俺様に適うとはおもわねーこったな」
「うぅ、残念だよ、リリーと共感したり、語ったり、いろいろしたかったのにぃ、、」
「わりーな、だが、俺様はこんな下位世界の、無限に価値が無い、か、マイナス、低次元な情報を愛でる趣味はねーわけよ。
そんなゴミのような情報で、頭の中を無駄に浪費するくらいなら、愛玩動物と戯れた方がまだマシだ、僅差な話だがな」
「リリーちゃんにとって、私って愛玩動物?」
「突然なんだ? まあ、そんな事もないわけじゃないが? それがどうした?」
「なんとなく、そんな気がしたの」
「そうか、ご名答だ、クラリスは愛玩動物っぽい、そんな存在だなぁ」
「イツキは?」
「ああ? こいつ? ゴミゴミ、いらねーだろ、世が世なら間引くレベル」
「酷いよ」
「だろうな、俺様は酷い奴だ、それゆえに、最善を尽くせもするんだ、許せよ」
「しょうがないよね、うん。
それじゃ、気分を切り替えて、さっき言った小説見せるよ」
「おうおう、辛気臭くも面白いトークもいいが、娯楽と享楽が俺様の生きる醍醐味だ」
二人は隣り合って、一つのパソコンを見つめだした。
俺は何とはなしに視界の片隅で、そんな光景を見ていた。




