博物館勢力と博物学‐中間管理職な観測端末存在-大図書館の三人娘と天球城と
「はぁ~だりぃ。」
俺は今日も、派遣した幾千の観測端末の情報を処理する事務に追われていた。
昼飯も掻っ込む勢いの慌しさ、これが平常だからやってられない、まじ苦行。
「ちょっと、外出るか」
事務机から立ち上がり、薄手のコートを着て外に。
昼時であって、お天道様も頂上で輝いている、うららかな感じで、気分が多少なりとも優れた。
「それにしても、改めて此処、図書館しかないな」
ここは矛盾領域の都市だ。
博物学で最先端を行くのなら、特化して此処、矛盾第二の都市アーヘン。
(はくぶつがく、Natural history,とは
場合によっては直訳的に:自然史)、自然に存在するものについて研究する学問。
広義には自然科学のすべて。
狭義には動物・植物・鉱物(岩石)など
博物学における「界」は動物界・植物界・鉱物界の「3界」である。出典ウィキペディア)
俺が受け持つ専攻は全部だ、専攻とは真逆の形容矛盾するくらいに大変なんだが、
動物界とはさまざまな見方があるが、まあ究極的な物質生命として、
深淵の樹から昇ってくる”恐るべきモノ達”が、学問的な系統付けて学び研究する価値がある分野だろう。
植物界ならアストラル以上の生命、精霊や神的な存在群。
鉱物界は分かりやすい、四大鉱物種に代表される、黄金・銀・青銅・鉄だ。
そんな学問の権威が群生するのが此処、それも図書館が無駄に密集している、ある意味暑苦しく堅苦しい場所だ。
両隣を重厚やら珍妙やら、多彩な彩りや趣を持って俺を重圧してくる図書館っぽい建物が一杯であるのだ。
そういえば、あの雲よりも下にある空中城は、いつの間に戻ってきたんだ?
「やあ、イルドじゃないか」
「クロエか」
目の前ちょっと下に、ちんまりした全体的に黒っぽいの。
瞳だけ吸血鬼のように赤い少女、つーか幼女チックな奴がいる。
挑戦的というか不敵というか静謐というか分からん目をしてる。
「観測者として、哲学者として、矛盾した姿が、やはり君らしい」
観測者が、世界をより良く見る為に運営するならば、博物館勢力のトモガラ、哲学者は、
世界をより良く考える、思索する為に、運営・管理・維持することを主眼とする。
主に高度知生体の維持、絶滅危惧種の保護、アカシックレコードの保護・複製などなど、
博物館の成すべき事は多岐にわたり、観測者と二分して世界を裏から操る黒幕的なポジションを不動としている。
「私もいますよ?」
幼女の後ろにいる、背の高い美女としかいえん美女が、目に痛い対極の純白なる白の姿でいた。
いやしかし、なんかモノクロで案外目に優しいか?
「そら、お前らは大抵三人組で現れるモンスターだからな、ホワイト」
「む、なんだイルド、モンスターとは失礼だな、私達は乙女なのだぞ?」
「はいはい、あとカリンもな」
カリンは前面に躍り出た二人に対して、控えめに後ろからこっちを見てる。
なんかこの二人に比べると地味っぽいが、客観的に見れば燐とした真面目系少女、つまり一番好感度が高い、俺の。
「図書館の三人娘が、こんなところでどうした?」
「お前、アレが見えるか?」
アレと言って、頭上を指差す、といったら、先ほど気づいたアレの事だろう。
「そりゃ見える事には見えるな」
「あれはな、天球城といって、青銅の吸血鬼なる神々っぽい奴らが乗ってるようだ」
「ほお、トレビアだな、それで?」
「これから行くのだ」
「そうか、元気でな」
「お前も来るのだよ、イルド」
「そうだったな、俺はお前の部下だったな」
そういって、俺も三人組に混ざり歩く。
「それでイルド、どのくらい本は出来た?」
「千冊だ、一日のノルマは終わったところだ」
「そうか、休日を得る為に、お前も大変そうだな」
「このやろう、、」
「まてまて、私がノルマを設定しているわけでもあるまいてぇ」
「だったな、うん、この恨みをどこに向ければいいと思う?」
「ねえねえ、それじゃ私にぶちまけてみるぅ?」
ここぞとばかりにボケをかますホワイトは無視し、スルーした。
「イルドの管轄は、確か、、今はどこなのだ?」
「アリスワールドとムーンレインボウだ」
「少女の夢と、虹の掛かる月か、具体的には何をしているのだ?」
「夢の方は、派閥闘争の介入。
月の方は、虹の構造解析、内部のジェネレターの位置特定に、技術解析等々、諜報等々だ。
夢は遊び感覚だが、月の方は危険な任務だ、人員の8割を割いている」
「あの衛星は、確かルナルティアのだろう?
あの位置にジェネレターというなら、恐らく主星を守る防衛障壁を発生させるエネルギーを、補助的に供給するシステムなのだろうな」
「ああ、あんな星まるごとテーマパークみたいな成りして、隠し場所としては上出来って奴か」
「ねえねえ、イルド、肩もんであげるわ」
「別にいい、、、はぁ好きにしろ」
ホワイトが肩を揉んでくれる、思いのほか気持ちよくて、なんだか負けた気がするぜ。
「往来船が出てるって事は、別に敵対勢力のなんかじゃなかったのか?」
船着場で俺達は船に乗り、ゆるく天球城を目指す。
「此処に対しては、な。
あそこは支配できる所では強硬な姿勢だが、無理なら商業主義的に交易だけする」
「イルド、そこに寝て、全身くまなくマッサージしてあげるぅ」
「ありがとうな、ちなみに聞きたいんだが、どうして今日はそんなに気を使う?」
「そら、貴方顔色悪いわよ?
せっかく可愛い美少女フェイスが、台無しって、悲しいことだと思わない?
ねえカリンも、そう思うでしょ?」
「え、、、知らないっ」
「おい、俺は男だ」
「だから? ふふ。
凄く可愛いんだから、それが事実なの、もっと可愛い服着てみてよ」
「断る、不愉快だ」
「えぇ~ごめんごめん、謝るから許してぇ~イルド~」
「我もイルドの女装には興味があるぞ」
「知らん、もう着くだろ、準備しろってんだぁ」
天球城に辿り着き、船から降り立つ、思いのほか人が多い感じだ。
「クロイ、ここでは何するんだ?」
「情報収集だ」
「非効率だ、使いをやれば良かった」
「我の休暇なのだ、文句はいわせん」
「くぅ、この自己中幼女がぁ、、」
「おい、私を幼女というなぁ」
「ふん、だったら俺の事も、変な風に言うんじゃないってのぉ」
「ちょっとちょっと二人とも、口喧嘩はちょっとあっちに行ってからにしましょうね?」
確かに、ここは悪目立ちするな。
だが移動したら、熱は醒めるもので、もう何事も無かったかのように話し出す。
「それで、何処行く?」
「何処行くホワイト?」
「何処か行きたいところある? カリン?」
「、、、ちょっと、お腹すいたかも」
その台詞で思い出した、俺は昼飯を掻っくって来たことを。
しかしこの状況、まあいいかと、その事実は伏せることにした。
「そうだな、イルドはどうだ?」
「俺も異論はない」
「それでは行くか」
適当に歩きつつ食い物屋を探すことになった。
俺はさっきから影が薄すぎる、カリン、司書見習いっぽい少女に話かけてやることにした。
「カリン」
「ああ、イルドさん」
「腹減ったな」
何も思い浮かばんかったので、適当なことを言った。
「あ、だったら、、これを」
カリンはポーチっぽいフクロから、何か巾着袋を取り出し、その口を俺に向けた。
「これは?」
「金平糖です、よかったらどうぞ」
なんだか可愛い奴だな。
「ありがとよ」
俺は手を口に差し込み、少女の瞳を見つめる。
そうすると、なぜか知らんが、どうやら悪戯心が出てしまったようだ、摑めるだけ最大で取ってみた。
「あ、、、」
「ああ、なんか中身ほぼ無くなったな、なんかすまん」
天然を装い、一口に金平糖の塊を平らげ、ばりぼり音が暫し場を満たす。
「いいえ、、大丈夫です」
「、、、怒っても、いいんだぞ、、、。
いやすまん、ちょっとした冗談で場を和ませようとしたんだが、失敗した、まじごめん」
するとカリンは一旦きょとんとして、噴くように笑った。
「あはっ、、う、うんっ、いいんです、お気遣いありがとうございます」
「ねえねえ、此処とかどうかな?」
ホワイトが機を測ったようなタイミングで割って入り、向こうの方を指差す。
「いいではないか、ではあそこに決めるぞ」
洒落た喫茶店風の軽食屋である。
店内にて、なんか見るからに凄い蒼髪の美女がいた。
「ああ、奴が、天球城の姫、女王だ」
抑えた声音で、クロイが呟く。
「なるほど」
俺達は何事も無いように、少し離れた四人席に腰掛ける。
横目で観察する、ホワイトが射線に入ってくる、邪険にするのもどうか、ちょっと手でどいてくれと促す。
派手な表情ではない、長い鮮烈な蒼の髪ではあるが、どうしてこんな場所で食事してるんだ?
「何にする? イルド?」
「お前は何にするんだ?」
「うむ、笑うな、お子様ランチが食べたくなった、無性に懐かしくなっての。
だがしかし、これは大人が頼むと、なんだか年齢制限で引っかかるらしい、どうしよぉ」
なんて可愛い奴だ、、、とは、間違っても思ってやらん。
あざといあざとい、身の程を知れと言いたい。
「お前は見た目がアレだから、大丈夫だろう」
「そ、そうか? なら安心だ、、、って何を言う!!」
「騒ぐな、他の客に迷惑だ」
そんな俺達の掛け合いは正面の二人はもちろん、向こうの蒼髪にもしっかり拝聴されたらしい。
なんか凄くこちらをガン見してくるんですがぁ、、、。
ああ、なんか手をあげて、合図らしき事してんぞ。
「久しい顔だな、久しぶり」
「ああ、久しぶりだ、アオイ」
案の定、こいつの知り合いだったようだ。
「で、どういう関係だ?」
何事か話し合い、城の図書館に招かれる話になった。
注文した食べ物が来て、彼女の方は先に店を出て行ってしまった。
「名前から連想したまえ」
「クロイとアオイって事か?」
「ノン、私のフルネームはなんだ?」
「知らん、最初からクロイとしか聞いて無いぞ」
「そうだったな、つまりは遠く近い親戚なのだよ、彼女とは」
「おお、そうか、それとお望みのランチがきたぞ」
「あやぁ! あ、あああ、うぅ、、」
なんだ胸を抑えて、苦しみだしながら瞳をキラキラさせるとは、変な病気か。
「ふっふ、館長、喜びすぎですよ」
「いやしかしな、これほど見事な、、この旗や彩りを見よ。
これは理想の、いや、更にその至高に位置する」
「さて食べるか、いただきます」
無駄に味わいながら食べるクロイを横目に、俺はタラコパスタを貪る。
ホワイトとカリンも、ミネストローネ&トマトソースのパスタを食べる。
「イルドさん、パスタって、こうやってフォークでクルクル巻いて、ぐるってやって食べるんですよ?」
得意げに言い実演してみせて、パスタに齧り付いてニッコリ、美女がやると何でも絵にもんだ。
「面倒だ、だから俺はやらん、俺にとって食べ易い食べ方で食べる」
「そう? それじゃカリンちゃんは、こうやって食べようねぇ? ねぇ?」
「うん、やってみる」
ホワイトにそうせっつかれ、俺と似たように食べてたはずのカリンは、不慣れな感じでパスタを巻き始めた。
「はぁ、、クロイ、上手いか?」
「うむ! これは上手い、毎日でも食べたいくらいだ、はむはむ」
「よかったな」
はしゃぎ過ぎな気もしたが、こいつはそれが不恰好にならず、様になる、見た目的にも、場合によっては性格的にもな。
「それでは、行くか」
食べ終えて、勘定を済ませて外に出る。
「今すぐ行くのか?」
「いや、食べた後、直ぐに仕事はしたくない、でなく、しない主義なのだ」
「言い換えても、特に意味変わってないぞ」
「とにかく! 少し時間を潰してから、向うことにしよう! 意義はないな! 皆の衆」
「はいはーい、さんせーいぃ」
「あたしも、ちょっとは町を見て回ってからでも、いいと思います」
「遊ぶって事か? それとも何か目的があったり、ぶらつくだけか?」
「そうだな、風任せだな」
「どういうことだぁ」
「とにかく歩きながら話そうか」
俺達は四人そろって、メインストリート思しき街道を歩き始めた。




