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幸福論者と不幸論者と矛盾論者



 世界を完全消滅させる泥の波、俗に言う「ロプスの波動」、

 その世界における第289回目の危機を引き受け、完全に乗り越えて、

 なんでも可能にする奇跡の力、この場合に語るのなら完全上位の「真なるエーテル」としてのリソースを消費して、

 アウルベーンと名乗る彼女は、もっとも弱い状態に陥っていた。


「やあ、アウル」


 そんな場所に、コトンと軽い靴音と共に降り立つ影があった。

 

「アルドですか、矛盾領域を捨てて、未知なる外で、貴方は何を見たのですか?」


 彼女は全てを超越する第Ⅶ天の世界の方向性による力によって、その超感覚によって、この時点で彼に関する事態の全てを察していた。


「いや、案外変わらんかったよ、少なくとも、俺が見た規定基底現実は、俺を変えるほどの強度は無かったようだ」


「それは何より、ならば、守ってください、そう、そろそろ来ます、彼女のほうが」


 その台詞の一秒と少し後、彼女が黒い翼を纏わせて、どこからともなく、空と呼べる地点から降ってきた。


「やあやあ、幸福論者の諸君、私の不幸論者としての観点から言って、君たちは掛け値なしに邪魔だ、死んでもらうよ、消滅しなさい」


 それだけ言って、ハイヒールの音を鳴らし、彼女は設えられたかのような円卓の椅子に座る。

 三人が揃って卓に着く。


「これより、私たちは己の主張を競います、よろしいですか?」


「ハッキリ言って、俺は意味のない事だと考えるが、君がしたいならばするがいいさ」


「はっは、面白いから良いよ、結論は変わらない、不幸の存在しない世界など、絶対に認められないのだからねえぇ」


 三人の絶対者、世界の方向性を背負い立つ、意識の頂上に位置する存在、それらがお互いを見合う。

 しかし実際は少々違う、

 アウルベーンは言うに及ばず、アルドも何を隠し持っているか知れない、

 さらに真なる暗黒、ナルディアである事を世界に認めさせ続ける彼女、

 混沌の盟主、世界の方向性すらも優越してある確固たる存在感、彼女は己の意識すらも世界に刻み、固定させる、

 つまり、この三人は世界を統べる力、真なるエーテルを所持しながらも、なお過剰に存在の積載量を余らしている、

 だからこそ意識を所持しているかのように振る舞えるのだが、

 それはつまる所、この場合の客観的な原理的に言うなら、

 この三人は世界に拘束されないレベルの、絶対的な上位世界の存在であることの、はたして証明に成りえるのだろう、か?


「あっはっは、睨めっこしてても、しょうかたないねえ、

 そうだ、私は君、アウルベーンを良く知らないのだが、何をしているのかな?」


「不幸論者、貴方を消滅させる、黒の騎士、

 貴方を殺しつくすために、私は超魔術的な儀式、生命の樹としてのソーシャルネットワークゲーム機構を運営し続けている、

 確かに、今の頂上に位置する円卓の騎士たち、総勢十のプレイヤーでも、貴方に何もできないように見えるでしょう、

 ですが、いつかは到達するのです、貴方を超える力を手にするのです」


「彼女は、多層プラットフォームの頂上、彼女は己の存在意義を思索し続けている。

 実際問題、彼女が己で成す事など、ほとんどがソレだけなのだ。

 新領域、未開拓の未知なる果ての先の問題、彼女が考える全ての真髄はソレを見通すに特化している。

 つまり、彼女が考える全てが、世界の未知、世界が求める真理、頂上を極める為に絶対必須なリソース、真なるエーテルなのだ。


 淡々と語る言葉には、只管に意志のみが在った、ただまあそれだけの事実だけが衝突もせずに存在するだけなのだが。


「なるほどなるほど、君はアレかな?

 真髄に特化して存在し、己の存在意義をソレと認めるなら、君はただ只管に君、彼女らしく有ればよいのだ。

 ハッキリ言って、くだらないねえ。

 そんなに幸福に成りたいのかい?

 意味ないよソレ、この世界には不幸があって幸福があって、全てが在って、無限に破綻・破滅・崩壊的に在るだけなんだよ」


「ほお、ならば、ディア、お前はなぜ世界を不幸で満たそうとするんだ?」


「当然きまってる、存在の崩壊しつくして、絶望が世界を満たす時、真理としての何かが生まれると、固く信じているからだよ」


「語るに及びませんね、貴方は私と同じ、ただ対極なだけですね」


 アウルベーンは見切りをつけて、立ち上がる。


「あれ? まだ戯言が足りないかな? 

 いいよいいよ、ただ殺したいだけなんだ、眼前の競いあうべき強敵に、殺意を向けて真に闘争する、

 そう、それだけが存在の根底に在る、世界の根底にある、真理真髄と言えるくらいに頂上を目指し続ける欲望なんだからねえ」


 ナルディアは見通した、アウルベーンも対極で相手を見通したのだが、

 只管に己と等価、それ以外の根底・根源は何もわからなかった。

 お互いにアンノウンとしてのお互いを、ただ障害として認識しているだけなのだ。

 

「アルドさん、行きましょう、こいつを殺して、世界を幸福に満ちた場所に導くのです」


「いや、俺は、守りに来ただけだ、矛盾の盟主として、幸福と不幸を語る君たちを、維持しに来ただけだ」


「あっはっは、そうだろうよねえ」


 三人は、ただ只管に膠着していた。


「そもそもだ、超観測者たちに、俺たちは維持される事が既定路線で決まっているんだよ」


 真理としての言葉を残して、その場は解散となった、ただそれだけ。

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